税金・確定申告

仮想通貨の損益計算にFIFO(先入先出法)は使えない|日本のルールと海外ツールの落とし穴

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海外の解説記事や損益計算ツールを見ていると、FIFO(先入先出法)やLIFO、HIFOといった計算方式が当たり前のように登場します。ところが、日本に住む個人が確定申告のために行う暗号資産(仮想通貨)の損益計算では、これらの方式は使いません。所得税の計算で選べるのは総平均法か移動平均法の2つだけです。本記事では、FIFOが日本の申告で使えない制度上の理由、海外ツールをFIFO設定のまま使ったときに起きる「ズレ」の正体、同じ取引でも計算方式によって単年の所得がどれだけ変わるかの具体例、そして移動平均法を選ぶための届出まで、順を追って解説します。

FIFO・LIFO・HIFOとは:海外の記事やツールに登場する計算方式

まず、海外の情報でよく見かける計算方式を整理しておきます。いずれも「売却した暗号資産を、いくらで取得したものとみなすか(譲渡原価の割り当て方)」についての考え方です。

  • FIFO(First In, First Out/先入先出法):先に取得したものから順に売却したとみなす方式です。
  • LIFO(Last In, First Out/後入先出法):後から取得したものから順に売却したとみなす方式です。
  • HIFO(Highest In, First Out):取得単価が高いものから順に売却したとみなす方式です。売却益を小さく見せやすいため、海外では節税手法の文脈で紹介されることがあります。

これらが海外の記事やツールに登場するのは、米国の税制がこうした「ロット単位」の考え方を採用しているためです。米国では、売却したユニットを特定しない場合はFIFOで計算する取り扱いが基本とされ、取得記録などの要件を満たして売却対象を個別に指定すれば、結果的にHIFOのような売却順序を選ぶことも可能とされています。米国向けに開発された損益計算ツールの設定画面にFIFO・LIFO・HIFOといった選択肢が並んでいるのは、この制度を反映したものです。

一方で、こうしたロット単位の方式が世界標準というわけでもありません。たとえば英国では同一銘柄をひとまとめにして平均取得単価を計算するプーリングと呼ばれる仕組みが採られており、カナダでも平均取得原価をベースにした計算が用いられています。つまり「どの計算方式を使うか」は国ごとの税制で決まっており、居住している国のルールに従って計算するのが大前提です。日本の居住者であれば、日本の所得税のルールが適用されます。

日本の所得税では総平均法か移動平均法の2択

それでは日本のルールを見ていきます。個人の所得税では、暗号資産を売却したときの譲渡原価の計算方法(評価方法)として、所得税法施行令第119条の2に総平均法と移動平均法の2つが定められています。条文上、選定できる評価方法はこの2つとされており、FIFO(先入先出法)もLIFOもHIFOも含まれていません。

興味深いのは、先入先出法という考え方自体は日本の税制に存在する点です。事業者の棚卸資産の評価方法(所得税法施行令第99条)には先入先出法が選択肢として挙げられています。しかし暗号資産の譲渡原価については、棚卸資産とは別枠の規定(所得税法第48条の2、同施行令第119条の2以下)が2019年分以後の所得税に適用される形で整備され、そこで認められたのは総平均法と移動平均法の2方式だけでした。「日本の税法にFIFOという概念がないから使えない」のではなく、「暗号資産にはこの2方式を使うと定められているから、FIFOの出る幕がない」というのが正確な理解です。

実際、国税庁が公開している暗号資産のFAQや損益計算用のExcel様式(暗号資産の計算書)も、総平均法用と移動平均法用の2種類だけが用意されています。詳しくは「暗号資産等に関する税務上の取扱い及び計算書について(国税庁)」で確認できます。ここまでの内容を表に整理します。

計算方式 考え方 日本の個人の所得税で使えるか
総平均法 1年間の購入金額合計÷購入数量合計で年間の平均単価を出す 使える(届出がない場合の法定評価方法)
移動平均法 購入のたびに保有分の平均単価を計算し直す 使える(事前の届出が必要)
FIFO(先入先出法) 先に買ったものから売ったとみなす 使えない
LIFO(後入先出法) 後に買ったものから売ったとみなす 使えない
HIFO 取得単価が高いものから売ったとみなす 使えない

2つの方式のうちどちらが適用されるかは届出の有無で決まり、届出をしていない個人は総平均法で計算することになります(届出については後述します)。総平均法と移動平均法それぞれの計算手順や向き不向きは、「総平均法と移動平均法の違いの解説記事」で詳しく整理しています。

海外ツールを「FIFO設定のまま」使うと申告用の数字がずれる

制度の話を押さえたところで、実務上の注意点に移ります。海外取引所やDeFiを利用している方の中には、海外製の損益計算ツールで年間損益を集計している方が少なくありません。ここで問題になるのが、計算方式(Cost Basis Method)の設定がFIFOのままになっているケースです。

海外製ツールの多くは米国ユーザーを主な対象としているため、初期設定がFIFOになっていることがあります。この設定のまま集計した年間損益は、FIFOで割り当てた譲渡原価に基づく数字です。日本の申告で使う総平均法とも移動平均法とも計算ロジックが異なるため、算出された所得金額はどちらの方式の結果とも一致しない可能性があります。取引パターンによっては移動平均法と同じ金額になることもありますが、それはたまたま一致しただけで、方式として認められたことを意味しません。

さらに厄介なのは、ズレが単年で終わらないことです。評価方法の違いは「今年の譲渡原価をいくらにするか」と同時に「翌年へ繰り越す残高の取得価額をいくらにするか」を左右します。FIFOで計算した繰越額を翌年の計算の起点にしてしまうと、翌年以降の損益計算にもズレが引き継がれていきます。後から正しい方式で計算し直そうとすると、過去の取引履歴まで遡って再計算することになり、手間は年数分だけ膨らみます。

海外製ツールの中には国設定で日本を選ぶと総平均法に対応するものもありますが、対応範囲や円換算レートの扱いはツールごとに差があります。日本の申告に使う前提であれば、最初から総平均法・移動平均法の両方に対応した国産ツールで集計するほうが、設定の選び間違いという入口のつまずきを避けられます。たとえばクリプタクトは日本の税制を前提に設計されており、取引履歴を取り込むと2方式それぞれで損益を計算できます。クリプタクト公式サイトで対応取引所・対応コインの一覧を確認すると、自分の取引環境で使えるかどうかがすぐに判断できます。なお、海外取引所の取引履歴の入手方法や円換算の考え方は「海外取引所の税金計算の解説記事」で詳しく解説しています。

同じ取引でも計算方式で単年の所得はこう変わる

「方式が違うと言っても、結果は大差ないのでは」と思われるかもしれません。そこで、同じ取引履歴をFIFO・移動平均法・総平均法の3通りで計算した場合の違いを、2つのシンプルなケースで見てみます。

ケースA(売却した後に買い増しした年):2月に1BTCを300万円で購入、6月に1BTCを500万円で売却、11月に1BTCを700万円で購入。

ケースB(買い増しした後に一部売却した年):1月に1BTCを300万円で購入、3月に1BTCを500万円で購入、5月に1BTCを600万円で売却。

計算方式 ケースAの譲渡原価と所得 ケースBの譲渡原価と所得
FIFO(参考:日本では使えない) 原価300万円 → 所得200万円 原価300万円 → 所得300万円
移動平均法 原価300万円 → 所得200万円 原価400万円 → 所得200万円
総平均法 原価500万円 → 所得0円 原価400万円 → 所得200万円

ケースAでは、売却時点より後の11月の購入が年間平均単価に取り込まれるため、総平均法だけ所得が0円になります。FIFOと移動平均法は同じ200万円ですが、これは売却時点で保有していたロットが1つだけだったための偶然の一致です。ケースBでは逆に、移動平均法と総平均法が同じ200万円になる一方、FIFOだけが300万円と大きくなります。

このように、同じ取引でも方式によって単年の所得は数百万円単位で変わり得ます。もっとも、評価方法の違いは所得を計上するタイミングの違いであり、保有分を売り切るまでの通算損益はどの方式でも一致します。それでも日本の所得税は累進課税で、雑所得となる暗号資産の利益はその年の税率を直接左右するため、「今年いくらの所得になるか」は方式次第で税額に効いてきます。より多くの取引パターンでの比較や、どちらの方式が有利になりやすいかの傾向は「総平均法と移動平均法の比較記事」で実例を挙げて解説しています。

移動平均法を使いたい場合は届出書(A1-20)の提出が要る

日本で認められた2方式のうち、どちらを使うかはあらかじめ決まっています。ポイントは次の3つです。

  1. 届出をしなければ総平均法:評価方法の届出をしていない個人は、法定評価方法である総平均法で計算します。多くの個人投資家はこのパターンに該当します。
  2. 移動平均法を使うには届出書の提出が要る:「所得税の暗号資産の評価方法の届出書」(国税庁の手続名でいうと手続番号A1-20)を、その暗号資産を初めて取得した年分の確定申告期限までに税務署へ提出します。評価方法は暗号資産の種類ごとに選定する仕組みです。
  3. 一度選んだ方式は継続が原則:評価方法を変更したい場合は、変更しようとする年の3月15日までに変更承認申請書を提出して承認を受ける流れになります。採用から相当期間(一般に3年程度が目安とされます)を経過していない場合、変更が認められないことがあります。

ここで本記事のテーマに引き付けると、届出書の様式に記載できる評価方法も総平均法と移動平均法だけです。「FIFOを届け出る」という選択肢は制度上存在しません。海外の感覚で「申告時に有利な方式を選べばよい」と考えていると、届出期限を過ぎてから移動平均法を使いたくなっても選べない、という事態になりがちです。方式選択は取引を始めた年の申告期限までに一度検討しておく価値があります。暗号資産の税務上の取り扱い全般は「タックスアンサーNo.1524 暗号資産を使用することにより利益が生じた場合(国税庁)」も参考になります。

日本の計算方式に対応したツールを使う意味

ここまでの内容を踏まえると、日本の申告用の損益計算で使うツールに求められる条件が見えてきます。

  • 総平均法・移動平均法の両方に対応している:自分の適用方式で計算でき、方式ごとの結果を見比べられること。
  • 国内取引所の履歴フォーマットに対応している:年間取引報告書や国内各社のCSVをそのまま取り込めること。
  • 円建ての時価データを持っている:海外取引所やDeFiの取引を円換算して計算できること。
  • 年またぎの繰越を管理できる:翌年へ引き継ぐ残高の取得価額を方式に沿って自動計算できること。

国産の損益計算ツールはこれらを前提に作られています。たとえばクリプタクトは総平均法・移動平均法の両方に対応し、取引所の履歴ファイルを取り込むだけで年間損益と翌年への繰越額まで計算できます。無料プランでも取引履歴の保存は年間10万件まで、損益計算結果の表示は年間の取引が50件以内であれば利用できるとされているので、まずはクリプタクト公式サイトで無料プランの対応範囲を確認するところから始めると負担が小さく済みます。

ツールを使わず費用ゼロで計算したい方には、国税庁が配布している計算書Excelという選択肢もあります。使い方と限界は「国税庁の暗号資産計算書(Excel)の使い方記事」にまとめました。また、クリプタクト以外も含めた各ツールの機能や料金の比較は「損益計算ツールの選び方ガイド」で整理しています。取引件数が多い方や海外取引所・DeFiが絡む方は、クリプタクト公式サイトで料金プランの詳細を確認すると、自分の取引規模に見合ったプランの見当がつけやすくなります。

よくある質問

Q1. 海外ツールのFIFO設定で計算した結果で、すでに申告してしまいました。どうすればよいですか?

まず、同じ年の取引を総平均法(届出をして移動平均法を選んでいる場合は移動平均法)で計算し直し、申告した所得金額とどれだけ差があるかを確認するところから始めてください。差額の方向や金額によって、更正の請求や修正申告といった対応の選択肢が変わってきます。繰越取得価額のズレは翌年以降にも影響するため、放置せず早めに整理するのが得策です。具体的な手続きの要否は、税理士または所轄の税務署に相談することをおすすめします。

Q2. 米国のようにHIFOを使って売却益を圧縮する節税はできませんか?

日本の個人の所得税では、譲渡原価の評価方法として認められているのが総平均法と移動平均法の2つだけなので、HIFOやLIFOを使った売却順序の操作はできません。日本で方式選択が影響するのは、総平均法と移動平均法のどちらを使うかという一点です。この2方式でも単年の所得は変わり得ますが、通算損益は一致するため、期待できるのは節税というより「所得を計上する年の平準化」に近い効果です。

Q3. 法人ならFIFO(先入先出法)で計算できますか?

法人税でも、暗号資産の譲渡原価の計算方法として定められているのは移動平均法と総平均法の2つで、先入先出法は含まれていません。個人と異なるのは、届出をしなかった場合の法定算出方法が移動平均法とされている点です(個人は総平均法)。個人・法人のいずれでも、FIFOが選択肢にないという結論は同じです。

Q4. 海外ツールの国設定を「Japan」にすれば、そのまま日本の申告に使えますか?

国設定で日本を選ぶと総平均法ベースの計算に切り替わるツールはありますが、それだけで判断せず、いくつかの点を確認してください。具体的には、総平均法・移動平均法のどちらに対応しているか、円換算に使う時価データの出所、年をまたぐ繰越取得価額の扱い、国内取引所のフォーマット対応です。確認の結果に不安が残る場合は、日本の税制を前提に開発された国産ツールで計算し直すほうが、申告根拠の説明もしやすくなります。

書籍で体系的に押さえたい方は、Amazonで「仮想通貨 税金」の書籍を探すという方法もあります。

本記事は一般的な情報提供であり、個別の税務判断は税理士または所轄の税務署にご確認ください。投資判断はご自身の責任でお願いします。

Bitcoin Analyze 編集部