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海外から帰国した後の暗号資産の税金は、三つの層が重なって決まる構造になっています。第一層が「いつから日本の居住者になったか」、第二層が「保有しているコインの取得価額をいくらとして引き継ぐか」、第三層が「総平均法と移動平均法のどちらで計算するか」です。この三つが決まれば、申告すべき金額はおおむね機械的に導けます。
このうち帰国者がもっとも見落としやすいのが第二層です。海外に住んでいた期間に取得したコインであっても、帰国後に売却したときの利益は、日本の居住者になった日の時価ではなく、実際に取得したときの価額を起点に計算されるのが原則とされています。つまり非居住者期間中に積み上がった含み益が、帰国後の売却によってまとめて日本の課税対象になる場合があります。
第三層の計算方法は届出の有無で自動的に決まってしまうため、帰国後最初の確定申告のタイミングが実質的な選択の期限になります。ここでは三つの層それぞれについて、何を確認し、どの資料を残しておくべきかを順に整理します。
第一層 いつから日本の居住者になるのか
所得税法では、国内に住所を有する個人、または現在まで引き続いて一年以上居所を有する個人を居住者と定めています。海外赴任からの帰国や海外生活の終了によって日本に生活の本拠を戻した場合、帰国した日から居住者として扱われるのが一般的とされています。
ここで押さえておきたいのが、日本国籍を持つ人には非永住者という区分が適用されないという点です。非永住者は日本国籍を有しないことが要件のひとつとされているため、日本人が帰国した場合は最初から居住者(永住者)となり、国内外で生じたすべての所得が課税対象になります。海外の取引所で得た利益についても、帰国後に生じたものであれば日本での申告対象になるとされています。
なお、その年の途中で帰国した場合、帰国日より前の非居住者期間に生じた暗号資産の利益は、国内源泉所得に該当しない限り日本の課税対象にならない場合があります。同じ一年のなかで課税範囲が切り替わるため、取引がいつ行われたかを日付単位で整理しておく必要があります。
第二層 取得価額は帰国日ではなく取得日で決まります
非居住者期間中に取得したコインの扱い
日本の所得税では、暗号資産を売却したときの所得は、売却価額から取得価額と譲渡に要した費用を差し引いて計算されます。この取得価額は実際に取得したときの支払額を基礎とするのが原則で、居住者になった時点の時価に置き換える仕組みは設けられていないとされています。
たとえば海外滞在中に一枚あたり四百万円相当で取得したビットコインを、帰国後に一千万円で売却した場合、課税対象となる所得の計算には四百万円が取得価額として使われることになります。帰国時の時価が八百万円だったとしても、その差額分が切り離されるわけではありません。海外での保有期間が長いほど、この差は大きくなります。
帰国前に一度売却して利益を確定させ、あらためて買い直すという選択肢を検討する人もいますが、その判断は非居住者期間中の売却が現地でどう扱われるかによって変わります。滞在国の制度を確認したうえで判断する必要がある部分です。
外貨建てで取得した場合の円換算
海外の取引所で米ドルや現地通貨を使って取得した場合、取得価額は取得した日の為替相場で円に換算するとされています。換算に用いる相場は、取引を行った日の電信売買相場の仲値によることが一般的とされていますが、継続適用を条件に他の相場を用いる方法が認められる場合もあります。
実務上つまずきやすいのは、日本円を経由せずに米ドル建てのステーブルコインで売買を繰り返していたケースです。この場合も各取引時点での円換算が必要になるため、取引日と数量が分かる履歴の保存が前提になります。
取得価額が分からない場合の取り扱い
取得価額を明らかにする資料がどうしても見つからない場合、売却価額の五パーセント相当額を取得価額として計算する方法が認められる場合があるとされています。ただしこれは資料がそろわない場合の取り扱いであり、実際の取得価額のほうが高ければ課税所得が過大になります。適用の可否や条件については、最新の情報を国税庁の公表情報で確認してください。
第三層 総平均法と移動平均法の選択
暗号資産の取得価額の評価方法には二つの選択肢があり、銘柄ごとに選ぶことができるとされています。どちらを選んでも生涯を通じた損益の合計は一致しますが、年ごとの所得の出方が変わるため、帰国した年の他の所得の状況によって有利不利が分かれる場合があります。
| 評価方法 | 計算の考え方 | 届出の要否 | 向いていると考えられるケース |
|---|---|---|---|
| 総平均法 | その年の取得総額を取得総数で割った平均単価で、年単位にまとめて計算する | 届出をしない場合に適用される法定の評価方法 | 取引回数が多く、年末にまとめて集計したい場合 |
| 移動平均法 | 取得のたびに平均単価を計算し直し、売却の都度その単価で損益を出す | 評価方法の届出書の提出が必要 | 取引ごとの損益を随時把握し、期中に納税額を見積もりたい場合 |
届出の期限に注意が必要です
移動平均法を選ぶ場合は、その暗号資産を取得した年分の確定申告期限までに評価方法の届出書を提出する必要があるとされています。提出しなければ総平均法が自動的に適用されるため、帰国後はじめて暗号資産を取得した年の申告時期が、実質的な選択の締切になります。
いったん選んだ評価方法を変更する場合は、変更しようとする年の三月十五日までに変更承認申請書を提出する必要があり、相当期間の継続適用がない場合は承認されないことがあるとされています。思いつきで年ごとに切り替えることはできないため、最初の選択が長く影響します。
帰国後最初の確定申告で確認する手順
帰国した年の申告は、非居住者期間と居住者期間が混在するぶん、通常より確認事項が多くなります。次の順序で進めると漏れを防ぎやすくなります。
- 帰国日を確定し、その年の取引を帰国日の前後に分ける
- 海外の取引所とウォレットから、滞在期間中の全取引履歴をダウンロードする
- 取得日ごとの為替相場を確認し、外貨建ての取得価額を円に換算する
- 銘柄ごとに保有数量と取得価額を集計し、帰国時点の残高と突き合わせる
- 総平均法と移動平均法のどちらを使うかを決め、必要なら届出書を提出する
- 帰国後に生じた売却、交換、決済利用の損益を計算する
- 所得税の申告に加え、住民税の申告が必要かどうかを自治体に確認する
この作業でとくに時間がかかるのが、複数の取引所とウォレットにまたがる履歴の統合です。クリプタクトのような損益計算ツールは海外取引所の履歴形式にも対応している場合が多く、手作業での突き合わせより現実的です。帰国後にあらためて国内で取引を始める場合は、コインチェックなど国内取引所の口座を用意しておくと履歴の管理も一本化しやすくなります。口座開設からの流れは仮想通貨の始め方ガイドでも解説しています。
住民税と一月一日の関係
住民税は、その年の一月一日時点で国内に住所がある人に課税されるのが原則です。年の途中に帰国した場合、その年の一月一日には国内に住所がなかったことになるため、その年度の住民税は課税されず、翌年度から課税が始まる場合があります。所得税の申告が必要な年と住民税が課税される年がずれるため、翌年の負担を見込んでおくと資金繰りで慌てずに済みます。
なお、給与を一か所から受けて年末調整を済ませている会社員は、給与以外の所得が二十万円以下であれば所得税の確定申告を省略できる場合がありますが、住民税には同じ基準がありません。二十万円以下でも住民税の申告が必要になる場合があります。給与所得控除の最低額五十五万円や基礎控除四十八万円といった金額は税制改正で見直される可能性があるため、最新の情報は国税庁の公表情報で確認してください。
資料が残っていない場合にできること
海外滞在中に利用していた取引所が閉鎖していたり、口座にアクセスできなくなっていたりするケースは珍しくありません。この場合でも、いくつかの経路から取得の事実を裏付けられる場合があります。
ひとつは、購入資金の出所を示す銀行口座やクレジットカードの明細です。入金額と入金日が分かれば、その時点の相場から取得価額を推定する材料になります。もうひとつは、ブロックチェーン上の取引記録です。自分のウォレットアドレスが分かれば、着金の日時と数量は公開情報として確認できる場合があります。
これらを組み合わせても取得価額が確定できない場合に、売却価額の五パーセントを取得価額とする方法の適用を検討することになります。ただし推定を含む計算を行う場合は、根拠とした資料と考え方を記録に残しておくことが重要です。関連する論点は税金・確定申告カテゴリでも継続的に整理しています。
よくある質問(FAQ)
帰国時点の時価を取得価額にすることはできませんか
日本の所得税では、居住者になった時点で保有資産の取得価額を時価に付け替える仕組みは設けられていないとされています。そのため、海外滞在中に取得したコインについても実際の取得価額が引き継がれるのが原則です。この点を知らずに帰国後に売却すると、想定より大きな所得が計上される場合があります。
海外滞在中に得たステーキング報酬はどう扱われますか
非居住者期間中に取得した報酬は、国内源泉所得に該当しない限り日本の課税対象にならない場合があります。ただしその報酬として受け取ったコインを帰国後に売却する場合、取得価額は受け取った時点の時価が基礎になるとされています。受領日と当時の価格が分かる記録を残しておくことが重要です。
帰国した年の申告で総平均法と移動平均法を選び直せますか
帰国後にはじめてその銘柄を取得した場合は、その年分の確定申告期限までに届出書を提出することで移動平均法を選択できるとされています。すでに過去に届出をしている場合は、変更しようとする年の三月十五日までに変更承認申請書を提出する必要があり、承認されない場合もあります。
海外の取引所に残した資産は日本の税務署に把握されますか
各国の税務当局間では金融口座情報の自動的な交換が行われており、海外に保有する口座の情報が共有される仕組みが整えられています。また一定額を超える国外財産を保有する居住者には国外財産調書の提出が求められる場合があります。把握されるかどうかにかかわらず、正しく申告することが前提になります。
まとめ
帰国後の暗号資産の課税は、居住者になる時期、取得価額の引き継ぎ、評価方法の選択という三層で決まります。とくに二層目については、帰国時点で含み益が切り離されるわけではなく、海外滞在中に積み上がった値上がり分が帰国後の売却でまとめて課税対象になる場合がある点を理解しておく必要があります。
対策として現実的なのは、帰国が決まった段階で海外の取引所から全履歴を取得し、取得日と取得価額を確定させておくことです。口座が閉鎖されてからでは復元が難しくなります。評価方法の届出期限は帰国後最初の確定申告期限であり、逃すと総平均法が自動的に適用される点も合わせて押さえておきましょう。判断に迷う場合は、国際税務を扱う税理士に早めに相談することをおすすめします。
免責事項:本記事は一般的な情報提供を目的としており、投資助言ではありません。最新の情報は公式情報をご確認ください。
判断に迷う論点は、先に確認したほうが早い
この記事で扱ったのは、公開されている情報から言える一般的な扱いです。実際の申告では、自分の取引履歴に当てはめたときに判断が要る場面が出てきます。区分の判定、過年度の修正、複数の論点が重なる場合などです。
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