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暗号資産を金融商品取引法の対象にするという議論は、3つの層に分けると整理しやすくなります。第1層が発行者や取扱業者に情報開示を求める開示規制、第2層が内部者取引や相場操縦を禁じる不公正取引規制、第3層が売買で生じた所得をどの区分で課税するかという課税方式です。
この3層はまとめて語られることが多いのですが、根拠となる条文も、決定の状況も、影響を受ける人の範囲も同じではありません。開示規制と不公正取引規制は金融商品取引法の話であり、課税方式は所得税法や租税特別措置法の話です。前者が変わったからといって、後者が自動的に変わるわけではありません。
2026年8月時点で確定しているのは、暗号資産の現物取引が資金決済法に基づく規制の対象であるという現行の枠組みです。以下では層ごとに、現行の条文がどうなっていて、何が議論の対象で、何が決まっていないのかを分けて整理します。
現行制度における暗号資産の位置づけ
暗号資産は資金決済に関する法律の第2条で定義され、暗号資産の売買や交換、これらの媒介などを業として行うには、同法に基づく暗号資産交換業の登録が必要とされています。登録を受けた事業者には、利用者財産の分別管理、利用者への情報提供、広告と勧誘に関する規制、取引時確認などの義務が課されます。監督は金融庁と各財務局が行い、自主規制は認定資金決済事業者協会である日本暗号資産取引業協会が担っています。
一方で、暗号資産に関するすべての取引が金融商品取引法の外にあるわけではありません。いわゆるセキュリティトークンにあたる電子記録移転権利は、金融商品取引法第2条第3項によって有価証券として扱われます。また、暗号資産を原資産とするデリバティブ取引についても、2020年施行の改正によって金融商品取引法の規制対象となっています。つまり現行の枠組みは、対象と対象外がすでに入り組んでいる状態です。
議論されているのは、この入り組んだ状態のうち、現物の暗号資産そのものをどちらの法律の枠組みで扱うかという部分です。取引を始める前提となる仕組みの基礎については仮想通貨の始め方ガイドも参考になります。
第1層 開示規制をめぐる論点
金融商品取引法の開示制度の前提
金融商品取引法の開示制度は、発行者が存在し、その発行者が継続的に情報を出すことを前提に組み立てられています。募集や売出しの際には第4条に基づく有価証券届出書が必要となり、その後は第24条に基づく有価証券報告書によって定期的な開示が続きます。虚偽の記載があった場合の責任も、発行者と関係者を名指しする形で定められています。
暗号資産に当てはめる場合の難点
暗号資産の中には、発行者が存在しないもの、発行者を特定できないもの、開発主体が分散していて誰が責任を負うのか定まらないものがあります。この場合、届出書や報告書を誰が作成し、誰が責任を負うのかという入口の部分から設計が必要になります。既存の銘柄に遡って義務を課すのか、新規のものだけを対象にするのかという線引きも論点です。
現行では、この空白を交換業者側の義務と自主規制で埋める形になっています。資金決済法に基づいて交換業者は取り扱う暗号資産の内容について利用者へ情報を提供する義務を負い、新規に取り扱う銘柄については自主規制規則に基づく審査と届出の手続が定められています。開示の主体が発行者ではなく取扱業者に置かれている点が、金融商品取引法の枠組みとの構造的な違いです。
第2層 不公正取引規制をめぐる論点
金融商品取引法には、不公正な取引を禁じる規定が複数あります。第157条の不正行為の禁止、第158条の風説の流布や偽計の禁止、第159条の相場操縦の禁止、そして第166条の会社関係者による内部者取引の禁止です。このうち、暗号資産に当てはめるときに議論が集中するのが第166条です。
第166条は、上場会社等の会社関係者が、その会社の業務等に関する重要事実を職務に関して知った場合に、公表前の売買を禁じる構造になっています。ここでの重要事実は、決算の内容や合併の決定など、発行体の存在を前提とした事項です。発行体が存在しない暗号資産では、何を重要事実とみなすのかという定義そのものを新たに設ける必要があります。
実務上、価格に影響する情報として指摘されることが多いのは、取引所が新規の取扱いを開始するという情報や、上場を廃止するという情報です。これらは発行体ではなく取扱業者の側で生じる情報であり、既存の条文の枠組みにそのまま収まりません。誰を規制対象者とし、どの情報を公表前情報とするのかは、条文を新設または改正しなければ確定しない部分です。
なお、現行制度で何の歯止めもないわけではありません。詐欺的な行為は刑法や他の法令の対象となり、交換業者には自主規制規則に基づく内部管理体制の整備が求められています。ただしこれらは、金融商品取引法の不公正取引規制と同じ範囲や同じ罰則を備えたものではありません。
第3層 課税方式は自動的には連動しない
3層のうち、最も誤解が多いのがこの部分です。金融商品取引法の対象になれば税率も自動的に変わる、という説明は正確ではありません。金融商品取引法は行為規制と開示の法律であり、課税方式は所得税法と租税特別措置法という別の法律で定まるためです。
この点は、すでに実例があります。暗号資産を原資産とするデリバティブ取引は、前述のとおり2020年施行の改正によって金融商品取引法の規制対象になりました。しかし、その取引で生じた所得は2026年8月時点でも雑所得として総合課税の対象であり、先物取引に係る雑所得等の申告分離課税の対象には含まれていません。株価指数先物や店頭の外国為替証拠金取引が20.315%の申告分離課税となっているのとは扱いが異なります。
つまり、金融商品取引法の対象になったという事実だけでは、税率も申告方法も変わりませんでした。現物の暗号資産についても同じ構造が当てはまり、課税方式を変えるには税法側の改正が別途必要です。2026年8月時点で、暗号資産の所得は原則として雑所得の総合課税であり、申告分離課税には移行していません。
課税方式が現行のままである以上、雑所得の損失は他の所得と損益通算できず、翌年以降への繰越控除も認められません。給与を1か所から受けていて年末調整が済んでいる場合に給与以外の所得が20万円以下であれば所得税の確定申告は不要という取扱い、基礎控除48万円、給与所得控除の最低額55万円といった数字も現行どおりです。詳細は仮想通貨の税金ガイドで整理しています。
決まっていること、議論されていること、決まっていないこと
| 区分 | 内容 | 確認できる資料 |
|---|---|---|
| 決まっていること | 現物の暗号資産は資金決済法に基づく交換業の登録制の対象。電子記録移転権利と暗号資産デリバティブ取引はすでに金融商品取引法の対象。暗号資産の所得は雑所得で総合課税 | 資金決済法および金融商品取引法の条文、国税庁の公表資料 |
| 議論されていること | 現物の暗号資産を金融商品取引法の枠組みへ移すこと、開示義務の主体と内容、内部者取引に相当する規制の新設、課税方式の見直し | 金融審議会の配布資料と議事録、金融庁の公表資料、業界団体の要望書 |
| 決まっていないこと | 対象となる銘柄の範囲、既存銘柄への遡及の有無、重要事実の定義、規制対象者の範囲、施行時期と経過措置、税制改正との前後関係 | 確定した公表資料は存在しない。改正法が成立していない事項は決定事項として扱えない |
一次資料で自分で追う手順
- 金融庁の暗号資産関係ページを開き、制度の見直しに関する公表資料や金融審議会の資料の有無と日付を確認します
- 資料が報告書なのか、事務局の説明資料なのか、法案の概要なのかを見分けます。報告書の取りまとめと法律の成立は別の段階です
- 日本暗号資産取引業協会の自主規制規則を確認し、現行制度のもとで実際に何が求められているかを把握します
- 課税方式については国税庁の公表資料を別途確認します。金融庁の資料に書かれている方向性と、現行の税務上の取扱いは一致しないことがあります
- 報道に触れた場合は、引用されている資料の名称と日付を探し、名称が示されていない情報は見通しとして扱います
制度は変わりうるため、最新の情報は各機関の公表情報で確認してください。
よくある質問(FAQ)
暗号資産はすでに金融商品取引法の対象になっているのですか
一部は対象になっています。電子記録移転権利は有価証券として、暗号資産を原資産とするデリバティブ取引は金融商品取引法の規制対象として扱われています。ただし現物の暗号資産そのものの売買や交換は、2026年8月時点では資金決済法に基づく枠組みの中にあります。
金融商品取引法の対象になれば税率は20%になりますか
自動的にはなりません。課税方式は所得税法と租税特別措置法で定まるため、税法側の改正が別途必要です。実例として、暗号資産デリバティブ取引は金融商品取引法の対象となった後も、所得の区分は雑所得の総合課税のままで、申告分離課税の対象には含まれていません。
今の暗号資産取引に内部者取引の規制は適用されますか
金融商品取引法第166条は上場会社等の会社関係者を対象とする構造のため、現物の暗号資産にそのままの形では適用されません。規制を設けるには、重要事実の定義や規制対象者の範囲を条文で新たに定める必要があり、その内容は2026年8月時点で確定していません。詐欺的な行為が他の法令の対象となる点は別の話です。
制度が変わったら、いま保有している暗号資産の扱いはどうなりますか
既存の保有分をどう扱うかという経過措置の内容は、決まっていない部分にあたります。既存銘柄への遡及の有無、取得価額の引継ぎ、施行日前後の取引の扱いなど、いずれも法律が成立して初めて確定します。現時点で確実に言えるのは、記録の保存が引き続き必要だということだけです。
条文の状態を追い続けるために
3層に分けて見ると、同じ議論の中でも決定の度合いが層ごとに異なることがわかります。第1層と第2層は金融商品取引法の改正が必要で、第3層は税法の改正が必要です。どれか1つが動いても、他が同時に動くとは限りません。
実務として今できるのは、層をまたいだ断定を避けること、そして課税方式が現行のままである以上、取引履歴と損益の記録を残し続けることです。記録の管理には交換業者が提供する年間の取引報告書が使え、たとえばコインチェックのような登録業者から取得できます。複数の場所に取引が分散している場合はクリプタクトのような損益計算ツールを併用する方法もあります。申告実務の情報は税金・確定申告カテゴリにまとめています。最新の情報は各機関の公表情報で確認してください。
免責事項:本記事は一般的な情報提供を目的としており、投資助言ではありません。最新の情報は公式情報をご確認ください。