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雑所得のうち業務に係るものについては、前々年分の収入金額が300万円を超える場合に現金預金取引等関係書類の保存が求められ、1,000万円を超える場合には確定申告書に収支内訳書を添付することとされています。この取扱いは令和4年分以後の所得税について適用されており、300万円以下であれば現金主義による所得計算の特例を選択できる仕組みもあわせて設けられています。
この基準は所得の金額ではなく収入金額で判定します。必要経費を差し引く前の総額であり、しかも判定に使うのは前々年の数字です。今年の取引が少なかったとしても、2年前の収入が基準を超えていれば対応が求められる、という構造になっています。
もうひとつ重要なのは、この義務が雑所得のすべてにかかるわけではない点です。対象は業務に係る雑所得であり、それに当たらないものは直接の対象になりません。暗号資産の取引がどちらに当たるかの判断が、実は最初の分岐になります。以下では水準ごとの整理、区分の考え方、残すべき書類の範囲、保存期間の順に見ていきます。制度は改正されることがあるため、最新の情報は国税庁の公表情報で確認してください。
収入金額の水準で三段階に分かれる
業務に係る雑所得については、前々年分の収入金額を基準に、求められる対応が段階的に変わります。境目を先に把握しておくと、自分がどの段階にいるのかを毎年判定できます。
| 前々年分の収入金額 | 求められる対応 | 現金主義の特例 |
|---|---|---|
| 300万円以下 | 書類の保存義務は課されないとされています | 選択できるとされています |
| 300万円超1,000万円以下 | 現金預金取引等関係書類の保存が求められます | 選択できないとされています |
| 1,000万円超 | 上記に加えて収支内訳書の添付が求められます | 選択できないとされています |
現金預金取引等関係書類とは、現金や預金のやりとりに関して受け取った、または作成した書類を指します。領収書、請求書、預金通帳といったものが該当し、これらをその年の翌年3月15日の翌日から5年間保存することとされています。
注意したいのは、判定に前々年の数字を使うことです。取引を始めて2年目までは前々年の実績がないため、その意味では初年度から重い義務がかかる構造にはなっていません。ただし3年目以降は、過去の収入が現在の義務を決めます。取引が活発だった年の収入金額は、その年の申告が終わった後も控えておく必要があります。
業務に係る雑所得に当たるかどうか
上の義務がかかるのは業務に係る雑所得です。雑所得はこのほかに、公的年金等に係るもの、そしてそのいずれにも当たらないその他の雑所得に区分されます。暗号資産の取引によって生じた損益は、事業所得に該当する場合を除き、原則として雑所得のうちその他の雑所得に区分されるという整理が示されています。
この整理に立つと、暗号資産の売買だけを行っている個人は、記帳と書類保存の義務が直接かかる対象ではない、という結論になり得ます。ただしこれは、義務がないから記録が不要という意味ではありません。申告した金額の根拠を説明できる状態にしておく責任は残ります。
区分が変わり得る場面
一方で、暗号資産に関わる収入がすべてその他の雑所得になるわけではありません。マイニングによる報酬、暗号資産を貸し付けたことによる収益、役務提供の対価として暗号資産を受け取っている場合などは、その活動が営利を目的として継続的に行われているかどうかによって、業務に係る雑所得に当たると判断される余地があります。
さらに、規模と継続性が備わっていれば事業所得と判断される場合もあり、この場合は記帳と帳簿書類の保存が明確に求められる立場になります。つまり、書類の話に入る前に、自分の収入がどの区分に立つのかを決める必要があります。区分の判断材料は、取引の目的、継続性、投下した資金と労力、その所得が生計に占める割合といった要素です。
何を残すのか:書類の範囲
取引所から取得できるもの
まず土台になるのが、取引所が提供する記録です。年間の損益をまとめた報告書、個別の取引を時系列で並べた履歴、入出金の記録、入出庫の記録が基本の四点になります。コインチェックをはじめ多くの事業者が管理画面から取得できる形にしていますが、提供される項目や過去にさかのぼれる期間は事業者ごとに異なります。取引所を解約したりサービスが終了したりすると取得できなくなるため、その年のうちに手元へ落としておくのが確実です。
海外の事業者や自分で管理する口座を使っている場合、報告書に相当するものが提供されないことがあります。この場合は取引の記録を自分で組み立てることになり、作業量が大きく変わります。
自分で作る必要があるもの
取引所の記録だけでは足りない部分があります。取得価額の計算過程、複数の取引所や口座をまたいだ通算の過程、暗号資産どうしの交換や決済への使用といった取引の記録、必要経費として計上したものの根拠です。特に取得価額は、総平均法と移動平均法のどちらで計算したかによって金額が変わるため、採用した方法と計算過程を残しておかないと、後から同じ数字を再現できません。
取引の件数が多い場合、クリプタクトのような損益計算サービスで集計する方法があります。ただし、外部のサービスで計算した結果も、根拠として示すのは元の取引記録です。集計結果だけを保存して元データを消してしまうと、検証ができない状態になります。全体の計算の流れは仮想通貨の税金ガイドで整理しています。
保存期間と保存の方法
現金預金取引等関係書類の保存期間は、その年の翌年3月15日の翌日から5年間とされています。事業所得として青色申告をしている場合は、帳簿や一部の書類について7年間の保存が求められる区分があり、立場によって年数が異なります。自分がどの立場にいるかで、いつまで捨てられないかが変わります。
電子で受け取ったものの扱い
取引所の管理画面から取得した記録や、電子メールで受け取った請求書のように、やりとりが電子データで完結しているものは、電子取引として扱われます。所得税法上の保存義務がある者については、これらを電子データのまま一定の要件を満たして保存することが求められる仕組みになっており、印刷して紙で残すだけでは要件を満たさない場合があります。
逆に言えば、この電子取引の保存が求められるのは保存義務がある者です。書類の保存義務が課されない立場であれば、この要件の直接の対象にはならないという整理になり得ます。ここでも、最初の区分の判断が効いてきます。要件の詳細や猶予の取扱いは見直されることがあるため、該当する可能性がある場合は最新の内容を確認してください。
記録を整える手順
年が明けてから資料を集め始めると、取得できなくなっている記録が出てきます。次の順で年内に組み立てておくと、申告期の作業が確認だけで済みます。
- 自分の暗号資産に関する収入が、事業所得、業務に係る雑所得、その他の雑所得のどれに当たるかを整理する
- 前々年分の収入金額を確認し、300万円と1,000万円の基準に対してどの位置にいるかを判定する
- 使っているすべての取引所と口座を一覧にし、それぞれから取得できる記録の種類と期間を確認する
- 年間の取引記録と入出金記録を取得し、取得した日付がわかる形で保存する
- 取得価額の計算方法を確定し、計算過程を残したうえで年間の損益を算出する
- 必要経費として計上するものの領収書と、按分している場合はその根拠をあわせて保管する
- 保存期間の起算日を確認し、いつまで保管するかを資料の表紙などに記録しておく
よくある質問(FAQ)
売買だけなら帳簿はつけなくてよいのですか
暗号資産の売買による損益がその他の雑所得に区分される場合、業務に係る雑所得を対象とした保存義務が直接かかる立場ではないという整理になり得ます。ただし、申告した所得の計算根拠を示す必要は残ります。取引記録や取得価額の計算過程がなければ、金額が正しくてもその正しさを説明できません。義務の有無と、実務上必要かどうかは別の話として考える必要があります。
300万円の基準は利益の金額ですか
収入金額で判定します。必要経費を差し引く前の金額であり、利益ではありません。また判定に使うのは前々年分です。今年の収入で今年の義務が決まるわけではないため、過去の収入金額を控えておく必要があります。
確定申告が不要な範囲なら記録も不要ですか
給与所得者で給与以外の所得の合計が20万円以下であれば所得税の確定申告が不要とされる取扱いがありますが、この判定には必要経費を差し引いた後の所得金額を使うため、そもそも計算をしなければ判定できません。また、この基準は所得税についてのものであり、住民税は別に申告が求められるのが一般的です。基礎控除48万円や給与所得控除55万円との関係で申告の要否が変わる場合もあり、判定のために記録は必要になります。
取引所を解約したあとの記録はどうなりますか
解約後は管理画面にアクセスできなくなるため、過去の記録を取得できなくなる場合があります。事業者にサービスの終了や統合があった場合も同様です。保存期間は取引が終わった後も続くため、口座を閉じる前に必要な記録を取得しておくことが実務上の要点になります。取引所を移す場合は、移す前に旧口座の記録をそろえてください。取引所の選び方や口座管理の考え方は仮想通貨の始め方ガイドで触れています。
相談する前に整理しておきたい論点
記帳と保存については、判断が分かれる点が三つあります。第一に、自分の暗号資産に関する収入が業務に係る雑所得に当たるのか、その他の雑所得にとどまるのか。第二に、マイニングや貸付といった収入が混在している場合に、区分ごとにどう分けて記録するのか。第三に、電子で受け取った記録について、電子データのままの保存が求められる立場にあるのかどうか。
このうち第一の区分は、その後のすべての判断の前提になります。専門家に相談するときは、取引の目的と頻度、収入の種類の内訳、前々年分の収入金額、使っている取引所の一覧を先にまとめておくと、区分の判断まで一度で進められます。制度の位置づけを確認したい場合は金融庁の暗号資産関係ページを、税務の取扱いは国税庁の公表情報を確認してください。関連する記事は税金・確定申告カテゴリにまとめています。
免責事項:本記事は一般的な情報提供を目的としており、投資助言ではありません。最新の情報は公式情報をご確認ください。
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