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上場株式を売って損失が出た場合、確定申告をしておけば、その損失は翌年以降3年間にわたって繰り越し、将来の利益と相殺できます。一方でビットコインをはじめとする暗号資産の売却損には、この繰越控除の制度が用意されていません。
大きく下げた年の損失を、翌年の利益にぶつけて取り返す。株式やFXの感覚に慣れているほど自然に思える発想ですが、現行の課税ルールではその道は基本的に閉じています。違いを生んでいるのは、暗号資産の利益が原則として雑所得に区分される、という一点です。
この記事では、どこまで損益を通算でき、どこから先が通算できないのかを株式やFXと並べて線引きし、そのうえで年内にできる現実的な対策と、その効果の限界までを整理します。読み終えれば、実現しない期待に時間を使わずに、12月までの動き方を決められるはずです。国税庁が公開している暗号資産の取り扱いに関する資料と、主要な取引所が発行する年間取引報告書の様式を突き合わせ、誤解の多い点を中心にまとめました。順に見ていきましょう。
繰り越せない理由は「所得の区分」にある
暗号資産の売買で生じた利益は、原則として雑所得に区分され、給与などほかの所得と合算して総合課税で計算されるとされています。そして雑所得の赤字は、その年で切り捨てられるのが原則です。翌年に持ち越す仕組みが用意されていないため、「去年の損を今年に使う」ことができません。
株式やFXと並べると違いが見える
| 区分 | 課税方法 | 損益通算の範囲 | 繰越 |
|---|---|---|---|
| 暗号資産(現物) | 総合課税の雑所得 | 同じ年の雑所得の内部のみ | できない |
| 上場株式 | 申告分離課税 | 上場株式等の譲渡益や配当など | 3年間 |
| 店頭・取引所のFX | 申告分離課税の雑所得等 | 先物取引に係る雑所得等の内部 | 3年間 |
株式やFXの税率がおよそ20パーセント(復興特別所得税を含む)で固定されているのに対し、暗号資産は所得が増えるほど税率が上がる累進構造です。利益が出た年の負担は重く、損が出た年の救済は乏しい、という非対称な形になっている点が、この制度のいちばんの特徴だといえます。制度や税率は改正されることがあるため、申告前に公式情報をご確認ください。
通算できる範囲と、できない範囲
「繰り越せない」ことと「まったく相殺できない」ことは別の話です。同じ年の中であれば、次のように通算できます。
- 同じ年に生じた暗号資産の利益と損失は相殺できる(取引所をまたいでも合算する)
- 暗号資産の損失は、原稿料や一部の副業収入などほかの雑所得の黒字とも相殺できる
- 給与所得、事業所得、不動産所得、上場株式の譲渡益とは相殺できない
- 相殺しきれなかった赤字は、その年で切り捨てられる
つまり打ち手があるのは「同じ年の中」だけです。年が変わった瞬間に選択肢がひとつ消えると考えると、12月までの動き方の重要性が見えてきます。計算の基本的な流れは仮想通貨の税金ガイドで確認できます。
年内にできる現実的な対策
含み損を実現させる、いわゆる損出し
その年に利益が出ていて、別の銘柄に含み損を抱えているなら、年内に売却して損失を実現させれば利益と相殺できます。ただし効果は見た目ほど単純ではありません。暗号資産の取得原価は総平均法または移動平均法で計算するのが一般的とされており、売った直後に同じ通貨を買い戻すと平均取得単価が下がり、翌年以降に売却したときの利益が増えます。負担をなくすというより、先送りしているだけという結果になりやすい点は理解しておいてください。
利益確定のタイミングを年で分ける
総合課税は、所得が大きい年ほど税率が上がる仕組みです。年をまたいで利益確定を分散すれば、一年に集中させるより税率の区分が下がる場合があります。とはいえ相場の判断が優先されるべき場面も多いので、税金だけで売買を決めない前提で検討してください。中長期の組み立て方は投資戦略のカテゴリが参考になります。
必要経費を漏らさず拾う
雑所得の計算では、収入を得るために直接かかった費用を必要経費にできるとされています。取引手数料や送金手数料、損益計算ツールの利用料などが代表例です。パソコンやスマートフォン、資産を保管する機器のように私生活でも使うものは、業務に使った割合を合理的に按分するのが基本になります。保管専用の機器を検討する場合はハードウェアウォレットの選び方を読んだうえで、取り扱い製品の一覧から用途に合うものを選ぶとよいでしょう。購入時の領収書は必ず保管しておきます。
「法人化」「制度改正待ち」の現実
法人化すれば繰り越せるようになるのか
法人には欠損金を複数年にわたって繰り越せる仕組みがあり、これを目的に法人化を検討する声はあります。ただし法人の設立や維持には費用と事務負担がかかり、期末の評価方法など個人とは異なる論点も生じます。取引の規模や継続性によって損得が逆転するため、税理士に自分の数字を見てもらったうえで判断すべき領域です。改正が続いている分野でもあるので、最新の取り扱いは公式情報で確認してください。
ルールが変わるのを待つべきか
暗号資産の課税方法については、申告分離課税への移行や損失の繰越控除の導入を求める議論が続いているとされています。ただし、いま申告する分に適用されるのは、あくまでその年に有効なルールです。将来の改正を前提に今年の判断を組み立てるのは避け、現行制度の中でできることに集中するほうが安全です。
損を出した年こそ、記録を固める
繰り越せないからといって、損失の記録が無駄になるわけではありません。同じ年の利益との相殺に使いますし、保有を続ける通貨の取得原価は翌年以降の計算にそのまま影響します。ここを曖昧にしたまま年をまたぐと、利益が出た年に取得原価を過小に見積もり、必要以上の税負担を招くことにもなりかねません。
- 各取引所の年間取引報告書とCSVを、年末までにダウンロードして保存する
- ウォレット間の送金は売買ではないが、数量の移動として履歴を残す
- 取得原価の計算方法(総平均法か移動平均法か)を統一し、途中で変えない
履歴の出力形式は取引所ごとに違います。GMOコインやビットバンクのような国内取引所では年間の取引をまとめた資料が用意されているので、口座を複数持っている方は年末に一度、すべての口座分をそろえて保管しておくとよいでしょう。申告手続きの全体像は税金・確定申告のカテゴリにまとめています。
よくある質問(FAQ)
前年の損失を今年の利益から差し引けますか
原則としてできません。暗号資産の利益は雑所得に区分され、繰越控除の対象外とされているためです。相殺できるのは、同じ年に生じた損益に限られます。
A取引所の損失とB取引所の利益は相殺できますか
同じ年であれば合算して計算します。取引所ごとに別々に申告するのではなく、すべての口座の損益を合わせて年間の所得を算出するのが基本です。
損失しか出ていない年は、何もしなくてよいですか
暗号資産の所得がマイナスであれば、それ自体で税額が増えることはありません。ただし、ほかの雑所得の黒字と相殺できる場合や、住民税の申告が必要になる場合があります。取引履歴と取得原価の記録は、翌年以降の計算のために必ず残しておいてください。
損出しのために売って買い戻すのは問題ありませんか
売買そのものは自由に行えますが、平均法で取得原価を計算する以上、買い戻せば平均単価が下がり、節税の効果は限定的になります。売買のあいだの値動きのリスクも負うことになるため、減らせる税額と手数料やリスクを比べたうえで判断してください。
免責事項:本記事は一般的な情報提供を目的としており、投資助言ではありません。最新の情報は公式情報をご確認ください。
判断に迷う論点は、先に確認したほうが早い
この記事で扱ったのは、公開されている情報から言える一般的な扱いです。実際の申告では、自分の取引履歴に当てはめたときに判断が要る場面が出てきます。区分の判定、過年度の修正、複数の論点が重なる場合などです。
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