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国税庁の公表資料では、暗号資産の売却や交換によって生じた利益は、原則として雑所得に区分するとされています。一方、外国為替証拠金取引や日経225先物などから生じた利益は「先物取引に係る雑所得等」として、税率20.315パーセントの申告分離課税の対象になります。同じ「雑所得」という名前が付いていても、この二つは課税方式がまったく異なります。
この違いが実務で問題になるのが、損益の合算です。暗号資産の現物取引で50万円の利益、暗号資産の証拠金取引で30万円の損失が出た年に、差し引き20万円で申告してよいのか。あるいは通貨の証拠金取引で出た損失を暗号資産の利益から引けるのか。答えは一方が可、もう一方が不可となる場合が多く、ここを取り違えると申告額が大きくずれます。
本記事では、暗号資産FXと現物取引の損益をどこまで合算できるのか、雑所得の内部でどのようなグループ分けがされているのかを、表で整理しながら解説します。以下の内容は2026年8月時点の一般的な取扱いを前提としており、最新の情報は国税庁の公表情報で確認してください。
暗号資産の所得は原則として雑所得に区分される
所得税では、所得を給与所得や事業所得など10種類に区分して計算します。暗号資産を売却して日本円に換えたとき、他の暗号資産と交換したとき、商品やサービスの決済に使ったときに生じた利益は、いずれもその時点で所得として認識され、原則として雑所得に区分されるとされています。含み益のまま保有しているだけであれば、原則として課税は生じません。
例外として、暗号資産取引が事業所得を生ずべき事業に付随して行われている場合や、その収入で生計を立てていると社会通念上認められる規模で継続している場合には、事業所得に区分される場合があります。ただし事業所得として申告するには帳簿書類の備付けなど実態が伴う必要があり、単に取引回数が多いというだけで認められるものではないとされています。
暗号資産の課税全体の流れは仮想通貨の税金ガイドでまとめています。本記事はそのうち、損益の合算という一点に絞って詳しく見ていきます。
国内の暗号資産FXも総合課税の雑所得
ここが最大の分かれ目です。租税特別措置法が定める「先物取引に係る雑所得等」の申告分離課税は、金融商品取引法などに定める一定の取引を対象としており、暗号資産の証拠金取引はその範囲に含まれていないとされています。そのため、GMOコインなどの国内取引所で行う暗号資産FXの利益は、現物取引と同じ総合課税の雑所得として、給与所得などと合算した課税所得に対する累進税率で課税されるのが原則です。
海外業者を通じた暗号資産の証拠金取引についても同様に、申告分離課税の対象外として総合課税の雑所得に区分されるという整理が一般的です。業者の所在地によって課税方式が変わるわけではない点に注意してください。なお暗号資産の課税方式については制度改正の議論が続いており、将来的に取扱いが変わる可能性があります。
「損益通算」と「内部通算」はまったく別の制度
言葉が似ているため混同されがちですが、税法上の損益通算は、不動産所得、事業所得、山林所得、譲渡所得の四つに生じた損失を、他の所得の黒字から差し引く制度を指します。雑所得はこの四つに含まれていないため、雑所得の赤字を給与所得や年金から差し引くことはできません。
一方で内部通算は、同じ所得区分かつ同じ課税方式のなかで、プラスとマイナスを合算する計算のことです。暗号資産の現物で出た利益と暗号資産FXで出た損失は、どちらも総合課税の雑所得なので、この内部通算によって差し引きした後の金額が課税対象になります。冒頭の例であれば、20万円で計算するのが原則的な扱いです。
さらに注意したいのは、雑所得のなかに総合課税のグループと申告分離課税のグループが同居している点です。通貨の証拠金取引や商品先物の損益は申告分離課税の雑所得等であり、総合課税のグループとは別枠で計算するため、暗号資産の利益と相殺することはできないとされています。
通算できる組み合わせ・できない組み合わせ一覧
2026年8月時点で一般的とされる整理を表にまとめます。個別の取引の性質によって判断が変わる場合があるため、判断に迷う取引は税務署や税理士に確認してください。
| 組み合わせ | 通算の可否 | 理由 |
|---|---|---|
| 暗号資産の現物と暗号資産の証拠金取引 | できる | どちらも総合課税の雑所得 |
| 国内取引所と海外業者の暗号資産取引 | できる | 所在地では課税方式が変わらない |
| 暗号資産とマイニング・ステーキング報酬 | できる | いずれも同じ雑所得のグループ |
| 暗号資産と副業の原稿料や広告収入 | できる | 同じ総合課税の雑所得 |
| 暗号資産と通貨の証拠金取引 | できない | 相手方が申告分離課税の雑所得等 |
| 暗号資産と商品先物・指数先物 | できない | 同上 |
| 暗号資産と上場株式の売却損 | できない | 株式は申告分離課税の譲渡所得等 |
| 暗号資産の赤字と給与所得 | できない | 雑所得は損益通算の対象外 |
表のとおり、暗号資産の損益は「暗号資産を含む総合課税の雑所得どうし」でしか相殺できないと考えておくと、判断を誤りにくくなります。
暗号資産FXで損失が出た年の申告手順
損失が出た年こそ、集計を省略せずに全体を合算する必要があります。現物側に利益が残っていれば、その利益から差し引ける可能性があるためです。おおまかな流れは次のとおりです。
- 利用しているすべての取引所とウォレットについて、1月1日から12月31日までの取引履歴を取得する
- 現物取引は総平均法または移動平均法で取得価額を計算する。評価方法の届出をしていない場合は総平均法によるとされています
- 証拠金取引は決済したポジションの損益を集計し、スワップや資金調達に相当する費用も含める
- 現物と証拠金取引、ステーキング報酬などを合算して総合課税の雑所得の収入と経費を確定する
- 取引手数料、損益計算ツールの利用料、業務に必要な範囲で按分した通信費などを必要経費として差し引く
- 確定申告書の雑所得の欄に、収入金額と所得金額を記入する
- 計算根拠となった年間取引報告書や履歴データを保存しておく
取引所をまたいだ集計は手作業では負担が大きいため、クリプタクトのような損益計算サービスを使って一括で取り込む方法もあります。ツールを使う場合でも、対応していない取引種別が手入力になることがあるため、最終的な数字は自分で確認してください。
通算するときに間違えやすい四つのポイント
20万円の基準は所得ベースであり所得税だけの話
給与を1か所から受けている会社員で、給与以外の所得の合計が20万円以下であれば、所得税の確定申告は不要とされています。ここで見るのは売却代金ではなく、収入から取得価額と経費を引いた後の所得です。また、この基準は所得税の申告に関するものであり、住民税には同様の規定がないため、金額にかかわらず市区町村への住民税の申告が必要になる場合があります。
総合課税の雑所得の赤字は翌年に繰り越せない
申告分離課税の先物取引に係る雑所得等であれば、一定の要件のもとで損失を3年間繰り越せる制度があります。しかし総合課税の雑所得にはこの繰越制度がないため、暗号資産の損失は原則としてその年限りで切り捨てられます。年をまたいで損益を調整したい場合は、決済のタイミング自体を年内に検討する必要があります。
取得価額の計算方法は暗号資産の種類ごとに統一する
総平均法と移動平均法では計算結果が変わることがあります。年によって都合よく切り替えることは認められておらず、継続して同じ方法を用いるのが原則とされています。評価方法を変更したい場合には所定の手続が必要になる場合があります。
扶養に入っている人は48万円の基準に注意
通算した後の所得が黒字になると、扶養の判定に影響します。合計所得金額が基礎控除の48万円を超えると、原則として扶養控除の対象から外れます。19歳以上23歳未満の特定扶養親族であれば、扶養する側は所得税で63万円、住民税で45万円の控除を失うことになるため、学生やアルバイトの方は年末の売却判断に注意してください。
よくある質問(FAQ)
暗号資産FXの損失を通貨の証拠金取引の利益から引けますか
引けないとされています。通貨の証拠金取引の損益は申告分離課税の雑所得等に区分され、総合課税の雑所得である暗号資産の損益とは別の枠で計算するためです。どちらも「FX」と呼ばれるため混同しやすい部分ですが、課税方式が異なる以上、内部通算の対象にはならないと考えるのが原則です。
海外の取引所で出た損失も国内の利益と合算できますか
日本の居住者であれば、国内外を問わず生じた所得をまとめて申告するのが原則です。したがって、海外業者での暗号資産取引の損益も総合課税の雑所得として国内分と合算できる場合が多いとされています。ただし取引履歴の様式が国内と異なり、円換算のレート選定が必要になるため、根拠資料を残しておくことが重要です。
含み損を抱えたまま年をまたぐと通算できませんか
損益は原則として決済や売却などによって実現した時点で認識するため、保有し続けているだけの含み損はその年の計算に含まれないのが一般的です。年内に利益が出ている場合、含み損のあるポジションを年内に決済すれば通算の対象になり得ますが、相場判断を伴うため税務上の効果だけで決めない方がよいでしょう。
暗号資産の利益が赤字なら申告しなくてもよいですか
通算後の所得が赤字であれば、その年の暗号資産に関する納税額は生じない場合が多いといえます。ただし他に申告が必要な所得がある場合や、住民税の申告が必要な場合もあります。また将来の税務調査に備えて、赤字であっても計算根拠は保存しておくことが望ましいとされています。関連する記事は税金・確定申告カテゴリにまとめています。
まとめ
暗号資産の現物取引と暗号資産の証拠金取引は、どちらも総合課税の雑所得に区分されるため、内部通算によって差し引き計算ができるのが原則です。一方で、通貨の証拠金取引や先物、上場株式などの申告分離課税の損益とは通算できず、給与所得との損益通算や翌年への繰越しも認められていません。
通算の可否は「所得区分」と「課税方式」の二段階で判断するのが確実です。年内に損益を確認し、必要であれば決済時期を検討したうえで、根拠資料をそろえて申告に臨んでください。制度は改正によって変わる可能性があるため、最新の情報は国税庁の公表情報で確認してください。
免責事項:本記事は一般的な情報提供を目的としており、投資助言ではありません。最新の情報は公式情報をご確認ください。
判断に迷う論点は、先に確認したほうが早い
この記事で扱ったのは、公開されている情報から言える一般的な扱いです。実際の申告では、自分の取引履歴に当てはめたときに判断が要る場面が出てきます。区分の判定、過年度の修正、複数の論点が重なる場合などです。
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