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暴落した日のチェーンを追うと、平常時なら数十円から数百円で収まっていたイーサリアムの送金手数料が、数千円規模まで跳ね上がる時間帯が現れます。同じ時間帯にレンディングプロトコルの清算件数が平常時から大きく膨らみ、主要なステーブルコインの分散型取引所での価格が1ドルからわずかに外れる場面も観測されます。
これらはばらばらの事故ではなく、ひとつの引き金から連鎖する一続きの現象です。価格が急落する、担保割れしたポジションの清算取引が殺到する、ブロックの取り合いで手数料が跳ね上がる、その手数料が高すぎて自分の担保追加が通らない、そして清算される。暴落日の損失の多くは、判断を誤ったからではなく、動かしたいのに動かせなかったことから生まれます。
この記事では、暴落日にDeFiで実際に何が起きるのかを、ガス代・清算・オラクル・ステーブルコイン・ブリッジ・接続画面の6つの層に分けて説明し、そのうえで平常時に済ませておく準備を整理します。読み終えるころには、暴落の当日に慌てて調べる項目がほとんど残っていないはずです。過去の急落局面で各プロトコルが公開した事後報告や、当時のチェーンの混雑に関する一般的な記録を突き合わせて構成しました。順に見ていきましょう。
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1. ガス代の高騰
イーサリアムの手数料は、ブロックの混み具合に応じて自動で調整される基本手数料と、処理を急がせるために自分で上乗せする優先手数料に分かれます。混雑が続くと基本手数料はブロックごとに切り上がり、そこへ清算ボット、裁定ボット、慌てて売る一般の利用者が同時に殺到して、優先手数料の入札競争が起きます。
結果として、平常時なら気にもならない小口の操作が手数料負けして実行できなくなります。数万円分の担保追加に数千円の手数料がかかる状況では、動かすこと自体が損になるという判断を迫られます。
2. 清算の連鎖
レンディングプロトコルでは、担保の価値に対する借入額の比率が閾値を割ると、第三者が割引価格で担保を買い取る清算が発動します。清算した側は取得した担保をすぐに市場で売るのが一般的で、その売りが価格をさらに押し下げ、次のポジションが閾値を割ります。
この反射的な連鎖が、下落を短時間で増幅させます。担保にしている資産と借りている資産が同じ方向に動く組み合わせでは、余裕がなくなる速度が想像よりずっと速くなります。
3. オラクル価格の遅延と乖離
オラクルとは、チェーンの外にある価格をブロックチェーン上に書き込む仕組みのことです。多くは「一定の変動幅を超えたとき」または「一定時間ごと」に更新する設計で、急変時には市場価格に少し遅れて追随します。
この遅れは両方向に効きます。市場ではもう戻っているのに遅れてきた価格で清算されることもあれば、実際には割れているのに清算がまだ来ないこともあります。自分の画面に出ている価格と、プロトコルが参照している価格は別物だと理解しておいてください。
4. ステーブルコインのデペッグ
デペッグとは、1ドルなどの目標価格から実際の取引価格が外れることです。分散型取引所のプールで一方的に売られると、プール内の比率が偏って価格が下振れします。裏付け資産を持つタイプは発行体での償還によって理論上は戻りますが、償還には営業時間、本人確認、最低金額といった現実的な制約があります。
2023年3月には、発行体が預金を置いていた米銀行の破綻を受けて大手ステーブルコインが一時的に1ドルを大きく下回る場面がありました。裏付けを持たないアルゴリズム型が2022年に崩壊した事例もあります。ステーブルコインは価格が動かない資産ではなく、動きにくいように設計された資産だと考えるのが現実的です。
5. ブリッジとレイヤー2の詰まり
混雑時にはブリッジの処理も遅れます。とくにオプティミスティック・ロールアップと呼ばれる方式のレイヤー2からメインチェーンへ資産を戻す場合、異議申立期間として一般に1週間程度の待ち時間が設けられているとされます。急いで逃がしたいときに限って、この待ち時間が効いてきます。
6. 接続先と操作画面の障害
ウォレットがブロックチェーンと通信するための接続先は、多くの利用者が同じ提供元を共有しています。アクセスが集中すると、残高が表示されない、送信ボタンを押しても反応しないといった症状が出ます。プロトコルの操作画面そのものが落ちることもあります。契約は動いているのに画面に触れない、という状況が起こり得るということです。
| 層 | 当日に出る症状 | 事前の備え |
|---|---|---|
| ガス代 | 手数料が跳ね上がり小口の操作が割に合わない | 各チェーンにガス用の残高を常備する |
| 清算 | 連鎖的に清算され下落が加速する | 担保が半減しても耐える水準に置く |
| オラクル | 市場価格とずれたタイミングで清算される | 参照価格の更新条件を先に確認する |
| ステーブルコイン | 1ドルから乖離し交換レートが悪化する | 銘柄と保管先を分散しておく |
| ブリッジ・レイヤー2 | 出金の遅延や一時停止が起きる | 同じチェーン内の逃がし先も用意する |
| 接続先・操作画面 | 画面が開かない、送信できない | 予備の接続先と直接操作の手段を確認する |
平常時に済ませておく準備
ガス用の残高を各チェーンに置く
使っているチェーンごとに、そのチェーンのネイティブトークンを数回分の操作に耐える量だけ残しておきます。全額を預け入れや流動性提供に回してガス代が手元にゼロという状態は、暴落日に何もできない状態と同じです。
担保が半分になっても割れない水準で借りる
健全度の数字は、いまの価格でしか意味を持ちません。担保資産が30パーセント下がったら、50パーセント下がったら、それぞれいくらで清算されるのかを平常時に逆算し、その価格を控えておきます。当日に計算しようとしても、たいてい落ち着いて計算できません。
手順書を先に書いておく
どのポジションから閉じるか、担保追加と一部返済のどちらを先に行うか、そのとき必要な資産がどこにあるか。この3点を書き出しておくだけで、当日の判断はかなり楽になります。手数料が高い局面では、担保を足すより借入を一部返すほうが少ない操作回数で健全度を戻せる場合があります。
利用許可の棚卸し
使わなくなったプロトコルへのトークン利用許可、とくに上限を設けない許可は、平常時のうちに取り消しておきます。暴落日は取り消しにもガス代がかかり、後回しにする理由が増えるだけです。この許可を悪用する手口については 詐欺の見分け方 にまとめています。
保管先と出口の分散
単一のステーブルコイン、単一のチェーン、単一のプロトコルに集中していると、そこが詰まった瞬間に選択肢がなくなります。円建てで逃がす出口として コインチェック のような国内取引所の口座を平常時に開いておくと、当日の選択肢が一つ増えます。長期保有分は取引所や常時接続のウォレットから切り離し、ハードウェアウォレット で保管しておくと、混乱時に慌てて触る対象そのものが減ります。選び方は ハードウェアウォレットの解説 を参考にしてください。
暴落当日の動き方
当日にまず開くのは価格チャートではなく、借入ポジションの健全度画面です。順番を間違えると、チャートを眺めているあいだに清算が来ます。
- 健全度を確認し、閾値までの距離を数字で把握する
- 手数料の相場を確認し、1回の操作にいくらかかるかを見てから操作回数を決める
- 送った取引が詰まったら、同じ順番号で手数料を上げた取引を送り、置き換える
- 画面が開かないときは予備の接続先に切り替える。それでも駄目ならブロックエクスプローラから契約を直接操作する
やらないことも決めておきます。手数料の上限を確かめずに送信を連打する、届いたメッセージやSNSで「救済」「補償」を名乗る案内をたどる。暴落の直後は、混乱に紛れたフィッシングが増える時期です。公式を名乗るリンクは踏まず、自分でブックマークしたURLからだけアクセスしてください。
清算されたあとにやること
清算された場合でも、その場で追加のリスクを取って取り返しにいかないことが最優先です。まず記録を残します。取引のハッシュ、日時、数量、そのときの価格。これらは後の税務処理で必要になります。
清算は、担保に入れていた資産が売却された取引として扱われる可能性があり、日本の税制では損益の計算対象になり得ます。損失が出た年の扱いには制約があるため、仮想通貨の税金ガイド で自分のケースを確認しておいてください。プロトコルの構造そのものについては DeFi・Web3のカテゴリ で扱っています。
よくある質問(FAQ)
暴落しそうなときは全部売っておくべきですか
それが正解になるかどうかは事前には分かりません。この記事で扱っているのは相場の予測ではなく、動かしたいときに動かせる状態を保つ準備です。借入の余裕、ガス代、逃がし先の3点が整っていれば、売る売らないの判断自体は落ち着いて下せます。
ガス代が高すぎて担保追加ができないときは
借入の一部返済で健全度が戻るなら、そちらのほうが操作回数を減らせることがあります。手数料が資産に対して大きすぎる小口のポジションは、そもそも暴落日には守れない可能性が高いと考え、平常時のうちに整理しておくのが現実的です。
ステーブルコインが1ドルを割ったら乗り換えるべきですか
乖離した瞬間は交換レート自体が悪化しているため、慌てた乗り換えは不利な価格を確定させるだけになることがあります。原則は平常時の分散で対処し、乖離の原因が裏付け資産に関わるものなのかどうかを、発行体の公式発表で確認してから判断してください。
レイヤー2に置いた資産は暴落日に取り出せますか
チェーンとブリッジの方式によります。オプティミスティック方式では異議申立期間の待ち時間があり、即時に出したい場合は第三者のブリッジを使うことになりますが、混雑時は手数料が上がったり一時停止したりします。取り出しに何日かかる設計なのかを、資金を置く前に確認してください。
免責事項:本記事は一般的な情報提供を目的としており、投資助言ではありません。最新の情報は公式情報をご確認ください。