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12月に入り、含み損を抱えたコインを少しだけ買い増した。売却はもう8月で終えていて、そのあとは一度も売っていない。それなのに年明けに損益を計算してみると、把握していたはずの利益額が2倍近くに膨らんでいた。暗号資産の確定申告では、こうした一見矛盾した現象が実際に起こります。
原因は相場ではなく、取得価額の計算方法そのものにあります。個人の暗号資産の法定評価方法は総平均法とされており、税務署へ届出をしていない場合は自動的にこの方法で計算することになります。総平均法は1年分の購入をまとめて平均する仕組みのため、売却よりあとに行った購入までもが、その年の売却益の金額を左右します。
年末の買い増しは、多くの場合は押し目買いや翌年への仕込みが目的で、税金を意識して行うものではありません。だからこそ仕組みを知らないまま年をまたぐと、納税資金の見積もりが大きく狂います。この記事では、なぜ利益が増えるのかを具体的な数字で確認したうえで、移動平均法へ切り替えるための届出の期限と、どちらを選ぶかの判断軸を整理します。
総平均法と移動平均法は「いつ平均するか」が違う
暗号資産を売却したときの所得は、原則として売却価額から取得価額を差し引いて計算します。同じ銘柄を複数回に分けて購入している場合、1単位あたりいくらで取得したことにするのかを決める必要があり、そのルールが評価方法です。個人が選べるのは総平均法と移動平均法の2つとされています。
総平均法は、その年に取得した金額の合計を、その年に取得した数量の合計で割り、1年を通じて1つの平均単価を使う方法です。計算は年に1回で済むため事務負担は軽い一方、年末まで単価が確定しません。移動平均法は購入のつど平均単価を計算し直す方法で、その時点までに行った取引だけが単価に反映されます。
個人の法定評価方法は総平均法とされているため、何も手続きをしていなければ総平均法での計算になります。移動平均法を使いたい場合は、後述する届出書の提出が必要です。
| 比較項目 | 総平均法 | 移動平均法 |
|---|---|---|
| 単価を計算するタイミング | 年に1回、1年分をまとめて | 購入のつど |
| 届出の要否 | 不要(法定評価方法) | 届出書の提出が必要 |
| 売却後の買い増しの影響 | 受ける | 受けない |
| 年内に損益を把握できるか | 年末まで確定しない | 取引のつど確定する |
| 計算の手間 | 少ない | 多く、ツールの利用が現実的 |
年末の買い増しで利益が膨らむ仕組みを計算例で確認する
高値で買って売却したあと、年末に安く買い増したケース
わかりやすくするため、手数料を無視した単純な数字で見ていきます。3月に1BTCを800万円で購入し、8月に1BTCを1,000万円で売却しました。この時点での感覚的な利益は200万円です。その後相場が下落し、12月に1BTCを400万円で買い増しました。年末時点の保有は1BTC、含み損を抱えた状態です。
移動平均法であれば、売却時点の平均単価は800万円なので、売却益は1,000万円から800万円を引いた200万円です。感覚と一致します。
総平均法では、その年の取得価額の合計は800万円と400万円で1,200万円、取得数量の合計は2BTCなので、平均単価は600万円になります。売却益は1,000万円から600万円を引いた400万円となり、移動平均法より200万円多い利益が計上されます。12月の買い増しは売却より後の取引であるにもかかわらず、8月の売却益を押し上げているわけです。
翌年に取り戻せるが、単年の負担は戻らない
この200万円が消えてなくなるわけではありません。年末に残った1BTCの取得価額は600万円として翌年に引き継がれるため、翌年に売却すればその分だけ翌年の利益は小さくなります。生涯を通じた損益の合計は、どちらの方法でも一致するとされています。
ただし暗号資産の所得は原則として雑所得に区分され、総合課税の累進税率が適用されます。単年の所得が大きくなるほど適用される税率区分が上がるため、利益を2年に分けた場合と1年に集中させた場合とでは、納める税額の合計が変わる場合があります。所得に連動する住民税や国民健康保険料の負担も、同じ年に集中します。
さらに現実的な問題として、年末に買い増した分は含み損のまま手元に残っており、現金にはなっていません。帳簿の上では利益が増えているのに、納税資金は増えていないという状態が起こり得ます。
総平均法のデメリットが表面化しやすい人
次の条件に当てはまるほど、総平均法の計算結果と実感とのズレが大きくなりやすいと考えられます。
第一に、1年の中で価格が大きく動く銘柄を扱っている人です。平均単価が実際の売買タイミングから離れるため、ズレが金額として大きく出ます。第二に、下落局面で積極的に買い増す人です。売却より後の安い購入が平均単価を押し下げ、売却益を膨らませます。第三に、年の途中で納税額を見積もり、その前提で資金を動かす人です。総平均法では年末まで単価が確定しないため、途中経過の数字が最終的な数字と一致しません。
逆に、年に数回しか売買しない場合や、積立のように一定額で買い続けているだけの場合は、両者の差が小さくなる傾向があります。暗号資産の課税の全体像については仮想通貨の税金ガイドもあわせて確認してください。
移動平均法に変更する手順と提出期限
移動平均法を使うには、届出または変更の承認申請が必要です。手続きは、その暗号資産を初めて取得した年かどうかで分かれます。
- その年に初めてその種類の暗号資産を取得した場合は、「所得税の暗号資産の評価方法の届出書」を作成します。
- 届出書は、取得した年分の確定申告期限(原則として翌年3月15日)までに、納税地を所轄する税務署へ提出します。
- すでに総平均法で計算してきた暗号資産について方法を変えたい場合は、「所得税の暗号資産の評価方法の変更承認申請書」を用います。
- 変更承認申請書は、変更しようとする年の3月15日までに提出し、税務署長の承認を受ける必要があるとされています。
- 承認を受けたあとは、その年の取引を新しい評価方法ですべて計算し直し、期末に残る暗号資産の取得価額も新しい方法で引き継ぎます。
注意したいのは、いったん採用した評価方法は原則として一定期間(おおむね3年)継続することが求められ、毎年その年に有利なほうへ切り替えるといった使い方はできないとされている点です。また、評価方法は暗号資産の種類ごとに選定する扱いとされています。書式や期限の細部は税制改正で変わる可能性があるため、最新の情報は国税庁の公表情報で確認してください。
どちらを選ぶかの判断軸
判断の軸は3つに整理できます。1つ目は、年内に納税額を把握したいかどうかです。取引のたびに損益が確定する移動平均法であれば、年の途中でも納税資金を見積もりやすくなります。売却後の買い増しに損益が左右されない点も、資金計画を立てるうえでは扱いやすい特徴です。
2つ目は、計算の手間です。移動平均法は購入のつど単価を計算し直すため、取引回数が多いと手作業では現実的ではありません。クリプタクトのような損益計算ツールは両方の評価方法に対応しているものが多く、取引所からダウンロードした履歴を取り込めば、方法を切り替えて金額を比較できる場合があります。
3つ目は、履歴が揃っているかどうかです。移動平均法は取引の順序を正確に再現できることが前提になります。履歴が断片的なままでは計算そのものが成り立たないため、まず履歴の整備が先です。コインチェックやGMOコインなど国内の交換業者では年間取引報告書が用意されている運用が一般的で、履歴管理の負担は比較的軽くなります。口座の使い分けの考え方は仮想通貨の始め方ガイドも参考になります。
よくある質問(FAQ)
移動平均法に変えれば税金は必ず安くなりますか
必ず安くなるわけではありません。相場が上昇する局面で買い増している場合は、総平均法のほうが平均単価が高くなり、その年の利益が小さくなることもあります。生涯を通じた損益の合計はどちらでも一致するとされており、差が出るのはどの年にいくら計上するかという配分の部分です。累進税率のもとでは、年ごとの所得のばらつきを抑えられるかどうかが結果を左右する場合があります。
届出をしていない場合、これまでの申告は間違いになりますか
届出をしていない場合の法定評価方法が総平均法とされているため、総平均法で計算していたのであれば、方法の選択自体に誤りはないと考えられます。逆に、届出をしていないのに移動平均法で計算していた場合は、計算方法の見直しや修正申告が必要になる場合があります。心配な場合は所轄の税務署や税理士に相談してください。
会社員で利益が20万円以下でも関係ありますか
給与を1か所から受けていて年末調整が済んでいる方は、給与所得と退職所得以外の所得が20万円以下であれば、所得税の確定申告が不要とされる場合があります。ただし総平均法では年末まで金額が確定しないため、20万円前後だと思っていた利益が年末の買い増しで20万円を超えることがあります。また、この20万円の基準は所得税の取扱いであり、住民税については別途申告が必要とされている点にも注意してください。
扶養に入っている学生や配偶者はどこに気をつけるべきですか
暗号資産の所得は合計所得金額に含まれます。基礎控除48万円を超えれば所得税の課税対象となり、扶養控除や配偶者控除の判定にも影響します。19歳以上23歳未満の親族を対象とする特定扶養控除は所得税で63万円、住民税で45万円とされており、本人の所得が基準を超えると扶養する側の税額が増える場合があります。年末の買い増しで判定が動く点は同じなので、年末の取引まで含めて確認してください。控除額や基準は改正されることがあるため、最新の情報は国税庁の公表情報で確認してください。
まとめ
総平均法のデメリットは、税率が高いことではなく、売却より後の取引まで利益額に反映されてしまうという構造そのものにあります。年末に買い増す習慣がある人ほど、実感と申告額のズレが大きくなりやすいと考えられます。
対策は2つです。総平均法のまま続けるなら、年末の取引を終えてから最終的な損益を確定させ、その金額で納税資金を確保すること。移動平均法に切り替えるなら、変更しようとする年の3月15日という期限を逃さないことです。関連する手続きや制度の整理は税金・確定申告カテゴリもあわせて確認してください。
免責事項:本記事は一般的な情報提供を目的としており、投資助言ではありません。最新の情報は公式情報をご確認ください。
判断に迷う論点は、先に確認したほうが早い
この記事で扱ったのは、公開されている情報から言える一般的な扱いです。実際の申告では、自分の取引履歴に当てはめたときに判断が要る場面が出てきます。区分の判定、過年度の修正、複数の論点が重なる場合などです。
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自分のケースに当てはめたときに、判断がつかない論点がある場合だけ:
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