ZK-Rollupの代表的なプロジェクトの一つであるzkSyncは、Matter Labs(マター・ラボ)が開発を主導するLayer2ソリューションです。2020年にzkSync 1.0(Lite)が公開されて以来、継続的な技術進化を遂げ、2023年にはEVM互換のzkSync Era(zkSync 2.0)がメインネットを開始しました。
zkSyncが他のZK-Rollupプロジェクトと異なる点は、イーサリアムのEVMをそのまま証明するのではなく、独自のバーチャルマシンを設計してEVM互換性を実現するアプローチをとっている点です。この設計判断には深い理由があり、スケーラビリティと開発者体験の両立を目指す思想が反映されています。
本記事では、zkSyncの技術的な仕組み、zkSync LiteとEraの違い、アカウント抽象化やPaymasterといった独自機能、そしてエコシステムの現状について詳しく見ていきます。
zkSync LiteとzkSync Eraの違い
zkSync Liteの概要と特徴
zkSync Lite(旧称zkSync 1.0)は2020年6月にメインネットを開始した最初のバージョンです。ETHや主要ERC-20トークンの転送とスワップに特化した、機能を絞り込んだ設計です。
Liteはスマートコントラクトの実行には対応していません。あくまでトークン移転に特化したことで証明システムをシンプルに保ち、高速かつ低コストな処理を実現しています。送金コストはLayer1の数十〜数百分の一程度に抑えられており、高頻度の小口決済やゲームアイテムの転送などに適していました。
現在もLiteは稼働していますが、開発の主軸はEVM対応のzkSync Eraへ移行しています。
zkSync Eraの設計思想
zkSync Era(zkSync 2.0)は2023年3月にメインネットのアルファ版が公開されました。最大の特徴はEVM互換のスマートコントラクト実行環境を備えた点です。
ただし、zkSync EraのEVM互換性は「EVMをそのまま証明する」のではなく、SolidityやVyperのコードを独自のバイトコード(EraVM bytecode)にコンパイルして実行するアプローチをとっています。コンパイラとして独自のzkvmコンパイラ(solc-zkとzksolc)を使用します。
この設計により、大多数のSolidityコードはほぼそのままzkSync Eraにデプロイできますが、EVMの低レベルな操作(インラインアセンブリの一部)が動作しないケースがあります。既存のDeFiプロトコルの移植に際しては互換性確認が必要です。
EraVMのアーキテクチャ
レジスタベースVMの設計
EraVM(zkSync Eraの仮想マシン)はEVMとは異なり、スタックベースではなくレジスタベースの設計を採用しています。これはゼロ知識証明回路の実装効率を考慮した選択です。
EVMはスタックマシンであり、すべての演算をスタックへのプッシュ・ポップで処理します。この設計は証明回路に変換する際に制約数が増大しやすく、コストが高くなります。レジスタベースのVMは演算数を削減でき、より効率的な証明生成が可能になります。
EraVMには256ビット幅のレジスタが16個あり、ストレージアクセス、コール処理、ガスの計算なども独自の方式で実装されています。この独自性がEVM完全互換との乖離を生む一方で、証明コスト削減に貢献しています。
システムコントラクトによる機能実装
zkSync Eraでは、EVMの一部の組み込み機能がシステムコントラクトとして実装されています。例えば、アカウント管理、コントラクトのデプロイ、イーサリアムL1とのブリッジ処理などがシステムコントラクトとして提供されています。
このアプローチにより、機能の柔軟なアップグレードが可能になります。ただし、システムコントラクトのアドレスは予約されており、一般のコントラクトとは扱いが異なります。開発者はこの仕様を把握した上でdAppsを設計する必要があります。
アカウント抽象化(Account Abstraction)
ネイティブアカウント抽象化とは
zkSync Eraの重要な差別化機能の一つが、ネイティブレベルのアカウント抽象化(AA)です。イーサリアムメインネットではEOA(外部所有アカウント)とコントラクトアカウントが厳密に区別されており、ERC-4337によってアカウント抽象化を後付けで実現しようとしています。
一方、zkSync EraはプロトコルレベルでAAを組み込んでいます。すべてのアカウントがスマートコントラクトのように振る舞うことができ、トランザクションの署名検証ロジックをカスタマイズできます。これにより、マルチシグウォレット、ソーシャルリカバリー、バッチトランザクションなどが標準的な機能として使えます。
Paymasterによるガス代の柔軟化
アカウント抽象化と組み合わせることで、Paymasterという仕組みが使えます。Paymasterは第三者がユーザーのガス代を肩代わりできる仕組みで、ERC-20トークンでガスを支払うことも可能にします。
通常のイーサリアムではガス代を必ずETHで支払う必要があります。Paymasterを使えば、例えばUSDCやDAIなどのステーブルコインでガスを支払ったり、dAppsが完全にガス代を負担するガスレスモードを実現したりできます。これはWeb2ユーザーのオンボーディングを容易にする観点から非常に重要な機能と評価されています。
Boojum:zkSync独自の証明システム
SNARKからSTARKへの移行
zkSync EraはBoojumという独自の証明システムを使用しています。BoojumはzkSync 1.0で使われていたSNARKベースの証明システムから大きく転換し、STARK系の技術をベースにしています。
Boojumの主な特徴はRedshift(ポリノミアルコミットメントスキーム)を使用した証明生成の並列化です。証明生成ワークロードをGPUクラスターに分散することで、単一マシンでの処理に比べて大幅にスループットを向上させています。
Matter Labsによると、Boojumへの移行後、証明生成コストが以前のシステムと比べて数倍削減されたと報告されています(2023年時点)。この改善がzkSync Eraのガス代低減に寄与しています。
証明の再帰的な集約
Boojumはプルーフリカーシブ(証明の再帰的合成)をサポートしています。複数の証明をまとめて1つの証明にまとめること(アグリゲーション)により、Layer1に提出するデータ量をさらに削減できます。
将来的には、zkSync自体の動作をzkSyncで証明する「proof of proof」的な構造も視野に入れられており、スケーラビリティの限界をさらに押し広げる可能性があります。
zkSync のエコシステムと現状
主要DeFiプロトコルの動向
zkSync Eraのエコシステムは2023〜2024年にかけて急拡大しました。SyncSwap、Maverick Protocol、zkSwapなどのDEX(分散型取引所)、Eralend、RhoMarketsなどのレンディングプロトコルが稼働しています。
TVL(Total Value Locked)は一時期10億ドルを超える水準に達したことがあります。ただし市場環境や競合Layer2の動向によって変動が大きいため、最新の数値はDeFiLlamaなどのデータサイトで確認することをお勧めします。
ZKトークンの配布と今後
2024年6月、zkSyncはネイティブトークン「ZK」を発行し、大規模なエアドロップを実施しました。総供給量210億ZKのうち、コミュニティに向けて相当量が配布されました。
ZKトークンはガバナンスへの参加に利用されることが想定されており、将来的にはシーケンサーの分散化やエコシステムファンドの運用にも活用される予定とされています。トークン配布後のエコシステムの発展と分散化の進捗は、今後注目される点の一つです。
まとめ
zkSyncはZK-Rollupの中でも独自のアプローチで進化を続けているプロジェクトです。独自VMによるEVM互換、ネイティブアカウント抽象化、Paymasterによるガス代の柔軟化、Boojumによる高効率証明生成など、技術的な差別化要素は多岐にわたります。
EVM完全互換ではない点での制約はありますが、開発者体験の向上と証明コストの削減を優先した設計思想は一貫しています。エコシステムの成熟と分散化の進展が今後の課題であり、ZKトークンを軸にしたガバナンスがどう機能するかが長期的な発展の鍵になると考えられます。
よくある質問(FAQ)
Q. zkSync EraにMetaMaskで接続できますか?
A. はい、MetaMaskにzkSync Eraのネットワーク(Chain ID: 324)を追加することで接続できます。zkSync EraのブリッジサイトまたはChainlistから設定情報を取得できます。
Q. zkSync LiteとEraのどちらを使えばよいですか?
A. スマートコントラクトを使わない単純なトークン転送が目的であればLiteも使えますが、DeFiやdAppsの利用を想定するならEraを選択することになります。現在の開発リソースと流動性はEraに集中しています。
Q. zkSync EraのセキュリティはEthereumと同等ですか?
A. ゼロ知識証明によってトランザクションの正当性はEthereumで検証されるため、根本的なセキュリティはEthereumに依拠しています。ただし、現時点ではアップグレード権限が運営側に集中している点など、分散化が完全でない部分もあります。公式ロードマップで段階的な分散化が示されています。
※本記事は情報提供を目的としており、投資を推奨するものではありません。暗号資産への投資は元本割れのリスクがあります。投資判断はご自身の責任で行ってください。