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Ethereum Blob取引とEIP-4844|L2手数料激減の仕組みを解説

イーサリアムのレイヤー2(L2)を使ったことがある方なら、2024年3月を境に取引手数料が劇的に下がったことに気づいたかもしれません。それまで数ドル〜数十ドルかかっていたL2の取引手数料が、数セント、場合によっては1セント未満にまで下がったのです。この変化をもたらしたのが、EIP-4844(Proto-Danksharding、プロトダンクシャーディング)と呼ばれるイーサリアムのアップグレードです。

EIP-4844は、「Blob(ブロブ)」と呼ばれる新しいデータ構造をイーサリアムに導入しました。Blobは大容量のデータを一時的にイーサリアムに格納するための仕組みで、L2がデータをイーサリアムに投稿するコストを大幅に削減します。技術的には複雑ですが、その影響は非常にシンプルです。L2の利用者が支払う手数料が激減し、イーサリアムのスケーラビリティが大きく前進したということです。

しかし、EIP-4844は完成形ではありません。「Proto-Danksharding」の名が示すとおり、これは将来の「Full Danksharding(完全なダンクシャーディング)」に向けた前段階の実装です。イーサリアムのスケーラビリティロードマップにおいて、EIP-4844はどのような位置を占め、この先どのような進化が予定されているのでしょうか。

この記事では、EIP-4844の技術的な仕組みから、L2手数料への実際の影響、そしてイーサリアムのスケーラビリティの将来像まで、7つの章に分けて詳しく解説していきます。


目次

  • イーサリアムのスケーラビリティ問題とL2の役割
  • EIP-4844とは何か——Blobの基本概念
  • Blob取引の技術的な仕組み
  • L2手数料への実際の影響
  • KZGコミットメントとデータ可用性
  • Blob手数料市場の仕組み
  • Full Dankshardingへの道——EIP-4844の先にあるもの

  • 1. イーサリアムのスケーラビリティ問題とL2の役割

    1-1. ブロックチェーンのトリレンマ

    イーサリアムのスケーラビリティ問題を理解するためには、まず「ブロックチェーンのトリレンマ」について知っておく必要があります。

    ブロックチェーンのトリレンマとは、イーサリアムの共同創設者であるヴィタリック・ブテリンが提唱した概念で、ブロックチェーンが同時に達成することが困難な3つの特性を指します。

    • 分散性(Decentralization): ネットワークの制御が特定の主体に集中せず、多数の参加者によって分散的に運営されること
    • セキュリティ(Security): 悪意ある攻撃に対する耐性が高く、取引の正当性が保証されること
    • スケーラビリティ(Scalability): 大量のトランザクションを高速かつ低コストで処理できること

    一般的に、これら3つの特性を同時に最大化することは難しく、いずれか2つを優先すると残りの1つが犠牲になるとされています。イーサリアム(レイヤー1)は分散性とセキュリティを優先しているため、スケーラビリティに制約があり、ネットワークが混雑するとガス代が高騰するという問題を抱えてきました。

    1-2. レイヤー2のアプローチ

    イーサリアムのスケーラビリティ問題に対する現在の主要なアプローチは、「ロールアップ中心のロードマップ(Rollup-centric roadmap)」です。

    ロールアップとは、取引の実行をイーサリアムのメインチェーン(L1)の外で行い、取引データまたはその証明のみをL1に記録するという技術です。これにより、L1の処理能力を超える量のトランザクションを処理しながら、L1のセキュリティを継承することができます。

    ロールアップは大きく2つの種類に分けられます。

    Optimistic Rollup(楽観的ロールアップ): 取引は「正しい」と仮定して処理し、不正があった場合にのみ異議申し立て(フロードプルーフ)を行う方式。Optimism、Arbitrum、Baseなどが代表的なプロジェクトです。

    ZK Rollup(ゼロ知識ロールアップ): 取引の正当性を数学的な証明(有効性証明、Validity Proof)で検証する方式。zkSync、StarkNet、Scroll、Polygonzkなどが代表的なプロジェクトです。

    1-3. L2がL1にデータを記録する理由と課題

    ロールアップがL1のセキュリティを継承するためには、取引データ(またはその圧縮版)をL1に記録する必要があります。なぜなら、L1にデータが記録されていなければ、ユーザーが自分の資産を独立して検証し、必要に応じてL1から引き出すことができないからです。

    ここに問題がありました。EIP-4844以前、L2はデータをイーサリアムの「calldata(コールデータ)」として記録していました。calldataはイーサリアムのトランザクションに含まれる任意のデータ領域ですが、永続的にブロックチェーンに保存され、すべてのノードがダウンロードする必要があります。

    L2がL1に投稿するデータ量は膨大であり、calldataのコストはL2のトランザクション手数料の大部分を占めていました。ある調査では、Optimistic Rollupの手数料の約80〜90%がL1へのデータ投稿コストだったとされています。

    つまり、L2の手数料を劇的に下げるためには、L1へのデータ投稿コストを大幅に削減する仕組みが必要だったのです。


    2. EIP-4844とは何か——Blobの基本概念

    2-1. EIP-4844の概要

    EIP-4844(Proto-Danksharding)は、イーサリアムの「Dencun(デンクン)」アップグレードの一部として2024年3月13日に実施されました。Dencunは「Deneb」(コンセンサスレイヤーの変更)と「Cancun」(実行レイヤーの変更)を組み合わせた名称です。

    EIP-4844の核心は、「Blob(Binary Large Object:ブロブ)」と呼ばれる新しいデータ構造と、それを格納する「Blob取引(Type 3 Transaction)」を導入したことにあります。

    Blobの特徴を端的にまとめると、以下のようになります。

    • 約128KBの大容量データ(calldataと比較して大幅に大容量)
    • EVMからはアクセスできない(スマートコントラクトがBlobのデータを読み取ることはできない)
    • 一定期間(約18日間)経過後にプルーニング(削除)される
    • calldataとは別の独立した手数料市場を持つ

    2-2. なぜBlobが必要だったのか

    calldataを使ったデータ投稿には、いくつかの根本的な問題がありました。

    永続的な保存の無駄: calldataはイーサリアムのブロックチェーンに永久に保存されます。しかし、L2がL1に投稿するデータは、一定期間後にはもはやリアルタイムで必要ではなくなります。L2の状態が確定した後は、過去のデータを永久にすべてのノードが保持し続ける必然性は薄いと考えられます。

    手数料の競合: calldataは通常のイーサリアムのトランザクションと同じガス市場で競合します。DeFiの取引やNFTのミントなどでネットワークが混雑すると、L2のデータ投稿のコストも連動して上昇します。L2のデータ投稿は一般的な取引とは性質が異なるにもかかわらず、同じ市場で価格が決まっていたのです。

    スケーラビリティの限界: calldataの容量にはブロックガスリミットによる制約があり、L2が投稿できるデータ量に上限がありました。

    Blobは、これらの問題を一挙に解決するために設計されました。一時的なデータ保存、独立した手数料市場、大容量——これらの特性により、L2のデータ投稿を本質的に効率化したのです。

    2-3. 「Proto-Danksharding」という名前の意味

    EIP-4844の正式名称は「Proto-Danksharding」です。この名前は2つの要素から成り立っています。

    Danksharding: イーサリアム研究者のダンクラッド・ファイスト(Dankrad Feist)が提案したシャーディング方式の名称です。完全な「Danksharding」が実現されれば、イーサリアムのデータ可用性が飛躍的に向上し、L2のスループット(処理能力)がさらに桁違いに向上するとされています。

    Proto(プロト): 「原型」や「初期版」を意味する接頭語です。EIP-4844はFull Dankshardingの前段階の実装であり、Blobの概念や手数料市場など、将来のDankshardingに必要な基盤を先行して導入するという位置づけです。

    つまり、EIP-4844は完成形ではなく、イーサリアムの長期的なスケーラビリティロードマップにおける重要な中間ステップという意味合いが名前に込められています。


    3. Blob取引の技術的な仕組み

    3-1. Type 3 Transaction(EIP-4844トランザクション)

    EIP-4844では、新しいトランザクションタイプ「Type 3 Transaction」が導入されました。イーサリアムにはこれまでType 0(レガシー)、Type 1(EIP-2930、アクセスリスト付き)、Type 2(EIP-1559)のトランザクションタイプがありましたが、Blob取引はType 3として追加されました。

    Type 3トランザクションの構造は、通常のトランザクションと類似していますが、以下の新しいフィールドが追加されています。

    • max_fee_per_blob_gas: Blobの1ガスあたりに支払う最大手数料
    • blob_versioned_hashes: Blobデータに対するKZGコミットメント(後述)のバージョン付きハッシュのリスト

    Blobのデータ自体はトランザクション本体には含まれません。トランザクションにはBlobのハッシュ(KZGコミットメント)のみが含まれ、実際のBlobデータはコンセンサスレイヤーのサイドカーとして伝播されます。

    3-2. Blobのサイズと制限

    各Blobは約128KB(正確には4096個の32バイトフィールド要素)のデータを格納できます。1つのトランザクションには最大6個のBlobを添付できます。

    ブロックあたりのBlob数には、ターゲット値と最大値が設定されています。

    • ターゲット値: 1ブロックあたり3個のBlob(当初の設定、後に6に引き上げ)
    • 最大値: 1ブロックあたり6個のBlob(当初の設定、後に9に引き上げ)

    ターゲット値は、Blob手数料の基準価格を調整するためのパラメータです。実際のBlob使用量がターゲット値を上回ると手数料が上昇し、下回ると低下する仕組みになっています(詳しくは後述)。

    3-3. コンセンサスレイヤーでのBlobの扱い

    Blobデータの扱いは、実行レイヤーとコンセンサスレイヤーで異なります。

    実行レイヤー: Type 3トランザクションを処理しますが、Blobの中身は見えません。トランザクションに含まれるのはBlobのKZGコミットメント(ハッシュ)のみです。EVMからBlobデータに直接アクセスすることはできません。

    コンセンサスレイヤー: Blobデータはビーコンブロックの「サイドカー」として格納されます。バリデーターはBlobデータをダウンロードし、KZGコミットメントとの整合性を検証します。一定期間(約18日間、正確には4096エポック)経過後、Blobデータはプルーニング(削除)されます。

    この分離設計が重要です。実行レイヤーはBlobの中身を処理する必要がないため、EVM の負荷は増加しません。Blobデータはコンセンサスレイヤーで一時的に保持されるだけで、永久にブロックチェーンに残るわけではありません。これにより、ノードのストレージ要件の増大を抑えながら、大容量のデータをイーサリアムに一時的に格納することが可能になっています。


    4. L2手数料への実際の影響

    4-1. 手数料削減の実績

    EIP-4844の導入は、L2の手数料に劇的な影響をもたらしました。

    Dencunアップグレード(2024年3月13日)の前後で、主要なL2の取引手数料は以下のように変化しました(概算値)。

    • Arbitrum: 約0.25ドル → 約0.01ドル(約96%削減)
    • Optimism: 約0.30ドル → 約0.01ドル(約97%削減)
    • Base: 約0.20ドル → 約0.005ドル(約97%削減)
    • zkSync Era: 約0.30ドル → 約0.02ドル(約93%削減)
    • Starknet: 約0.50ドル → 約0.02ドル(約96%削減)

    これらの数字は、EIP-4844がいかに大きなインパクトをもたらしたかを如実に示しています。特にBase(Coinbaseが運営するL2)では、一時的にトランザクション手数料が0.001ドル以下にまで低下し、「ほぼ無料」と呼べる水準に達しました。

    4-2. L2のアクティビティへの影響

    手数料の劇的な低下は、L2上のアクティビティ(取引量やユーザー数)に明確な影響を与えました。

    Dencun以降、主要なL2の日次トランザクション数は大幅に増加しました。特にBaseは2024年後半にかけてトランザクション数が急増し、L1のイーサリアムを上回る日次トランザクション数を記録するようになりました。

    L2全体のTVL(Total Value Locked:預かり資産総額)もDencun以降に増加傾向を示しています。手数料の低下がより多くのユーザーとアプリケーションをL2に引きつけ、エコシステムの成長を加速させているとも考えられます。

    ただし、L2のアクティビティの増加には、手数料の低下以外にもさまざまな要因(トークンのエアドロップ期待、新しいアプリケーションの登場、市場全体の動向など)が影響しているため、すべてをEIP-4844の効果と断定することはできません。

    4-3. L1収益への影響と議論

    EIP-4844の導入は、イーサリアムL1の収益構造にも影響を与えています。

    L2がcalldataからBlobに移行したことで、L1で消費されるガスが減少し、イーサリアムのバーン量(EIP-1559により焼却されるETHの量)が低下しました。これは、ETHのインフレ率の上昇につながる可能性があります。

    実際に、Dencun以降のETHのバーンレートは大幅に低下し、一部の期間ではETHの新規発行量がバーン量を上回る「ネットインフレーション」の状態になりました。これはEIP-1559導入後に「超音波マネー(Ultra Sound Money)」として期待されていたETHのデフレ傾向に逆行するものであり、イーサリアムコミュニティ内で議論を呼んでいます。

    この問題は、Blob手数料が現時点ではまだ非常に低いことに起因しています。Blob市場の需要が増加し、手数料が上昇すれば、L1の収益も改善される可能性があります。イーサリアムのロードマップでは、L2の普及とともにBlob需要が増加し、長期的にはL1の収益が回復するというシナリオが想定されています。


    5. KZGコミットメントとデータ可用性

    5-1. KZGコミットメントとは

    KZGコミットメント(Kate-Zaverucha-Goldberg Commitment)は、Blobデータの整合性を効率的に検証するために使用される暗号学的な手法です。

    通常、大きなデータの整合性を検証するには、データ全体をダウンロードしてハッシュを計算する必要があります。しかし、KZGコミットメントを使えば、データの一部分(サンプル)だけを検証することで、全体のデータが正しいかどうかを高い確率で判定できます。

    これは将来のFull Dankshardingにおいて極めて重要な技術です。DAS(Data Availability Sampling:データ可用性サンプリング)と呼ばれる仕組みでは、各ノードがデータ全体をダウンロードすることなく、ランダムなサンプルのみを検証することでデータの可用性を確認します。KZGコミットメントは、このDASを暗号学的に可能にする基盤技術です。

    5-2. データ可用性の重要性

    「データ可用性(Data Availability:DA)」は、ロールアップのセキュリティにとって根本的に重要な概念です。

    ロールアップのセキュリティモデルは、「ユーザーがいつでもL2の状態を独立に検証し、必要に応じてL1から資産を引き出せること」に依存しています。これが可能であるためには、L2のトランザクションデータがどこかに公開されていて、誰でもアクセスできる状態でなければなりません。

    もしデータが利用可能でなければ、以下のような問題が発生します。

    • Optimistic Rollupの場合: フロードプルーフ(不正証明)を作成するために過去の取引データが必要だが、データがなければ不正を検出できない
    • ZK Rollupの場合: 有効性証明によりL2の状態遷移の正しさは保証されるが、個々のユーザーが自分の残高を確認するためにはデータが必要

    Blobは、このデータ可用性を効率的に提供するための仕組みです。Blobデータは約18日間利用可能であり、その間にL2の状態が確定し、必要なデータのアーカイブが完了することが想定されています。

    5-3. 信頼セレモニーとセットアップ

    KZGコミットメントの利用にあたっては、「信頼セレモニー(Trusted Setup Ceremony)」と呼ばれる初期設定が必要でした。

    2023年に実施されたイーサリアムのKZG信頼セレモニーには、14万人以上の参加者が貢献しました。このセレモニーでは、参加者がランダムな秘密の値を生成し、それを使ってKZGの初期パラメータ(SRS:Structured Reference String)を構築しました。

    このセレモニーのセキュリティ特性として、参加者のうち少なくとも1人が誠実であれば(生成した秘密を適切に破棄すれば)、全体のセキュリティが保証されるという「1-of-N仮定」があります。14万人以上が参加したことで、この仮定は実質的に非常に高い確率で満たされていると考えられています。


    6. Blob手数料市場の仕組み

    6-1. EIP-1559に類似した手数料メカニズム

    Blob取引の手数料は、通常のガス手数料とは独立した「Blob手数料市場」で決定されます。この仕組みは、EIP-1559で導入されたガス手数料のメカニズムに類似しています。

    EIP-1559では、ブロックあたりのガス使用量にターゲット値が設定されており、実際の使用量がターゲット値を上回るとベースフィー(基本手数料)が上昇し、下回ると低下するという仕組みが採用されています。

    Blob手数料市場でも同様の仕組みが採用されています。

    • ブロックあたりのBlobターゲット値を上回る: Blobの基本手数料が上昇
    • ブロックあたりのBlobターゲット値を下回る: Blobの基本手数料が低下

    この仕組みにより、Blobの需要が増加すると手数料が自動的に上昇し、需要が減少すると低下するという市場メカニズムが機能します。

    6-2. 現在の手数料水準と需給バランス

    2026年3月現在、Blob手数料は依然として非常に低い水準にあります。Blob市場の需要がまだターゲット値を大幅に下回っているためです。

    これは一見すると良いことのように思えますが、前述のとおり、L1の収益の低下やETHのバーンレートの減少といった副作用を引き起こしています。

    Blob需要がターゲット値に近づくにつれて、手数料は上昇していくことが予想されます。L2の数とアクティビティが増加すれば、限られたBlob容量をめぐる競争が生じ、自然と手数料は上昇する方向に向かうでしょう。

    Ethereumのロードマップでは、将来的にBlob容量を段階的に拡大する計画があり(後述)、需要と供給の両面から手数料市場のバランスが調整されていく見通しです。

    6-3. Blobの使用状況の可視化

    Blobの使用状況は、さまざまなダッシュボードやエクスプローラーで確認できます。Blobscan(blobscan.com)は、Blob取引の詳細情報を提供する専門のエクスプローラーです。各ブロックのBlob数、Blob手数料の推移、L2ごとのBlob使用量などのデータを確認することができます。

    Dune Analyticsなどのオンチェーンデータ分析プラットフォームでも、Blobに関するさまざまなダッシュボードが公開されています。L2間のBlob使用量の比較、Blob手数料のトレンド、calldataからBlobへの移行状況などを視覚的に把握できます。


    7. Full Dankshardingへの道——EIP-4844の先にあるもの

    7-1. PeerDAS(EIP-7594)——次のステップ

    EIP-4844の次のステップとして計画されているのが、PeerDAS(Peer Data Availability Sampling、EIP-7594)です。

    PeerDASは、バリデーターがBlobデータの全体をダウンロードする代わりに、データのサンプルのみをダウンロードして検証する仕組みです。これにより、個々のバリデーターの帯域幅要件を増やすことなく、ブロックあたりのBlob数を大幅に増やすことが可能になります。

    PeerDASの導入により、Blobのターゲット値とMaxが引き上げられ、L2が利用できるデータ容量がさらに拡大する見込みです。具体的な数値はまだ確定していませんが、現在のターゲット6〜最大9から、数十〜数百のBlobに拡大する可能性があるとされています。

    7-2. Full Dankshardingの概要

    Full Danksharding(完全なダンクシャーディング)は、イーサリアムのスケーラビリティロードマップの最終目標の一つです。

    Full Dankshardingが実現されると、以下のような変化が予想されます。

    • 大幅なBlob容量の拡大: ブロックあたり数百個のBlobをサポートし、イーサリアムのデータ可用性が桁違いに向上する
    • DAS(Data Availability Sampling)の完全実装: すべてのノードがデータの一部分のみを検証することで、ノードのリソース要件を抑えながらデータ可用性を保証する
    • 2Dイレージャーコーディング: データを行と列の2次元に配置し、イレージャーコーディング(冗長化)を適用することで、データの一部が失われても全体を復元できる仕組みを実装する

    Full Dankshardingが実現されれば、イーサリアムのデータ可用性は現在の数百倍以上に向上し、L2のスループットもそれに応じて飛躍的に向上するとされています。

    ただし、Full Dankshardingの実現にはまだ多くの研究・開発が必要であり、実装のタイムラインは明確には定まっていません。EIP-4844(Proto-Danksharding)→ PeerDAS → Full Dankshardingという段階的なアプローチで進められています。

    7-3. 代替データ可用性レイヤー(Alt-DA)との関係

    EIP-4844の導入と並行して、イーサリアム以外のデータ可用性レイヤーを利用する「Alt-DA(Alternative Data Availability)」の動きも活発化しています。

    Celestia: データ可用性に特化したブロックチェーンで、L2がイーサリアムではなくCelestiaにデータを投稿するオプションを提供しています。イーサリアムのBlobよりも低コストなデータ投稿が可能ですが、セキュリティモデルが異なる(イーサリアムのセキュリティを直接継承しない)という特徴があります。

    EigenDA: EigenLayerのリステーキングインフラを活用したデータ可用性サービスです。イーサリアムのバリデーターのセキュリティを間接的に利用しながら、高スループットなデータ可用性を提供します。

    Avail: データ可用性に特化したブロックチェーンプロジェクトで、DASを実装しています。イーサリアムのL2だけでなく、さまざまなブロックチェーンのデータ可用性レイヤーとしての利用を想定しています。

    これらのAlt-DAの存在は、イーサリアムのBlob容量が不足した場合の「安全弁」として機能し得ます。一方で、「データ可用性をイーサリアム以外に依存するL2は、イーサリアムのセキュリティを完全には継承しない」という議論もあり、L2の分類(validium、volitionなど)をめぐる技術的・哲学的な議論が続いています。


    まとめ

    EIP-4844(Proto-Danksharding)は、イーサリアムのスケーラビリティロードマップにおける画期的なマイルストーンです。Blobという新しいデータ構造の導入により、L2の手数料は90%以上削減され、イーサリアムエコシステムの利用可能性は大幅に向上しました。

    技術的な観点からは、Singletonデザイン(通常のガス市場とは独立したBlob手数料市場)、KZGコミットメント(データ可用性の効率的な検証)、一時的なデータ保存(ノードのストレージ要件の抑制)という、巧みな設計がEIP-4844の成功を支えています。

    しかし、EIP-4844は完成形ではなく、Full Dankshardingに向けた道のりの第一歩です。PeerDAS、2Dイレージャーコーディング、DASの完全実装など、今後のアップグレードによりイーサリアムのデータ可用性はさらに拡大していく計画です。

    L2エコシステムの急速な成長とともに、Blob容量の需要は今後増加していくと予想されます。イーサリアムのスケーラビリティロードマップがこの需要の増加にどう対応していくか——それは、イーサリアムが「世界のコンピューター」としての役割を果たせるかどうかを左右する重要な課題と言えるのではないでしょうか。


    よくある質問(FAQ)

    Q1. EIP-4844でL2の手数料はどのくらい下がりましたか?

    主要なL2の取引手数料は、EIP-4844導入前と比較して約90〜97%削減されました。たとえば、Arbitrumでは約0.25ドルから約0.01ドルに、Optimismでは約0.30ドルから約0.01ドルに低下しています。ただし、手数料はネットワークの混雑状況やBlob市場の需給バランスによって変動するため、常にこの水準が維持されるとは限りません。

    Q2. Blobデータが削除された後、L2の安全性は維持されますか?

    Blobデータは約18日間で削除されますが、L2の安全性には影響しないとされています。18日間という期間は、Optimistic Rollupの異議申し立て期間(通常7日間)を十分にカバーしています。また、L2のオペレーターやアーカイブサービスが過去のデータを保存しているため、必要に応じてデータにアクセスすることは可能です。ZK Rollupの場合は有効性証明により状態遷移の正しさが保証されているため、データ削除後もセキュリティ上の問題は生じないと考えられています。

    Q3. EIP-4844はビットコインにも関係がありますか?

    EIP-4844はイーサリアム固有のアップグレードであり、ビットコインのネットワークには直接的な影響はありません。ただし、データ可用性の効率化という概念は、ビットコインのレイヤー2(ライトニングネットワークなど)の発展にも間接的に関連し得るテーマです。また、L2の手数料低下によりイーサリアムエコシステムの競争力が高まることは、暗号資産市場全体のダイナミクスに影響を与える可能性があります。

    Q4. Full Dankshardingはいつ実装される予定ですか?

    Full Dankshardingの実装時期は、2026年3月時点では明確には定まっていません。次のステップであるPeerDAS(EIP-7594)の実装が先行して進められており、Full Dankshardingはその後の実装となる見通しです。イーサリアムの開発は段階的なアプローチを取っており、各ステップの検証と安全性確認を慎重に行いながら進められています。

    Q5. CelestiaなどのAlt-DAを使うL2は安全ですか?

    Alt-DAを使用するL2のセキュリティモデルは、イーサリアムのBlobを使用するL2とは異なります。イーサリアムにデータを投稿するL2はイーサリアムのセキュリティを直接継承しますが、Alt-DAを使用するL2はそのDAレイヤーのセキュリティに依存します。これが「安全でない」ということを意味するわけではありませんが、セキュリティの前提条件が異なることを理解しておく必要があります。自分が利用するL2がどのDAレイヤーを使用しているか、そのセキュリティモデルはどうなっているかを確認しておくことをお勧めします。

    Q6. 一般ユーザーがEIP-4844を意識する必要はありますか?

    一般ユーザーがEIP-4844の技術的な詳細を理解する必要は必ずしもありません。ユーザーにとって重要なのは、L2の手数料が大幅に下がったという結果です。ArbitrumやOptimism、Baseなどの主要なL2は自動的にBlobを活用しているため、ユーザー側で特別な操作は不要です。ただし、「なぜ手数料が下がったのか」「今後どう変わる可能性があるのか」を理解しておくことは、暗号資産のエコシステムを理解するうえで役立つのではないでしょうか。


    ※本記事は情報提供を目的としており、特定の暗号資産やL2プロトコルの利用を推奨するものではありません。暗号資産への投資やDeFiプロトコルの利用にはリスクが伴います。投資判断はご自身の責任において、十分な調査と検討のうえで行ってください。本記事の内容は2026年3月時点の情報に基づいており、イーサリアムのロードマップや技術仕様は今後変更される可能性があります。

    Bitcoin Analyze 編集部

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