分散型取引所(DEX)の代名詞とも言えるUniswapが、バージョン4で大きな進化を遂げました。その中核にあるのが「Hooks(フック)」と呼ばれる新しい仕組みです。Hooksは、流動性プールの動作をカスタマイズするためのプラグインのような機能で、開発者がスワップや流動性の追加・削除のタイミングで独自のロジックを差し込めるようになります。
Uniswap v1が「誰でもトークンを交換できる」という概念を実証し、v2がERC-20同士のペアとフラッシュスワップを導入し、v3が集中流動性という革新的な資本効率の改善を実現してきました。そしてv4は、DEXそのものをプラットフォーム化するという、さらに野心的な方向に踏み出しています。
動的手数料の調整、オンチェーンの指値注文、時間加重平均マーケットメイキング(TWAMM)、カスタムオラクル——Hooksによって実現可能になる機能は多岐にわたります。さらに、Singleton(シングルトン)と呼ばれる新しいアーキテクチャの採用により、ガスコストの大幅な削減も見込まれています。
この記事では、Uniswap v4の技術的な革新点を一つひとつ紐解きながら、Hooksが分散型取引所の未来をどのように変え得るのかを、8つの視点から詳しく解説していきます。DeFiの技術的な進化に関心のある方にとって、Uniswap v4は見逃せないプロジェクトと言えるのではないでしょうか。
目次
1. Uniswapの進化の歴史——v1からv3までの振り返り
1-1. Uniswap v1(2018年)——自動マーケットメイカーの原点
Uniswapの物語は、2018年11月にイーサリアムメインネットにデプロイされたv1から始まります。
当時のDEXは、オーダーブック型(注文板方式)が主流でした。ユーザーが買い注文と売り注文を出し、価格が一致したときに取引が成立するという、従来の取引所と同じ仕組みをオンチェーンで再現しようとしたものです。しかし、イーサリアムの処理速度とガスコストの制約から、オンチェーンのオーダーブックは実用的ではありませんでした。
Uniswap v1は、この問題に対してまったく異なるアプローチを採用しました。AMM(Automated Market Maker:自動マーケットメイカー)と呼ばれる仕組みで、定積公式(Constant Product Formula)「x * y = k」に基づいて自動的に価格を決定するというものでした。
この公式の意味はシンプルです。流動性プールに預けられた2つのトークンの量(xとy)の積(k)を常に一定に保つという制約の下で、一方のトークンを投入すれば、もう一方のトークンが自動的に算出されるという仕組みです。注文板もマッチングエンジンも必要なく、スマートコントラクトが自動的に取引を処理します。
v1にはいくつかの制約がありました。ETHとERC-20トークンのペアしか作成できず、ERC-20同士の直接交換はできませんでした。また、資本効率は低く、流動性提供者のインパーマネントロス(変動損失)も大きいものでした。
1-2. Uniswap v2(2020年)——機能拡張と安定性の向上
2020年5月にリリースされたv2では、v1の制約を解消する複数の改良が加えられました。
最も重要な変更は、ERC-20同士の直接ペアの作成が可能になったことです。v1ではETH/DAIとETH/USDCのペアを経由する必要があったERC-20同士の交換が、DAI/USDCのような直接ペアで実行できるようになりました。
v2ではまた、フラッシュスワップという機能が導入されました。これは、1トランザクション内で一時的にトークンを借り受け、トランザクション終了までに返済(またはトークンの支払い)を完了させるという仕組みです。フラッシュローンと類似の機能で、アービトラージやリクイデーション(清算)など、さまざまなDeFi戦略に活用されています。
価格オラクルの改善も重要な変更でした。v2では、ブロックごとの累積価格を記録する仕組み(TWAP:時間加重平均価格)が導入され、他のDeFiプロトコルがUniswapの価格データを外部参照として利用しやすくなりました。
1-3. Uniswap v3(2021年)——集中流動性の革命
2021年5月にリリースされたv3は、「集中流動性(Concentrated Liquidity)」という画期的な概念を導入しました。
v2までのAMMでは、流動性はゼロから無限大までの全価格帯に均等に分散されていました。しかし、実際の取引の大部分は現在の市場価格の周辺で行われるため、大半の流動性は使われていないことになります。
v3では、流動性提供者(LP)が自分の流動性を特定の価格帯に集中させることができるようになりました。たとえば、ETH/USDCのペアで「ETHが3,000〜3,500ドルの範囲でのみ流動性を提供する」といった設定が可能です。
この仕組みにより、同じ量の資金でもv2と比較して最大4,000倍の資本効率を実現できるとされました。ただし、集中流動性は流動性提供者にとって管理の複雑さが増すという側面もあり、最適な価格帯の設定やリバランスにはある程度の知識と労力が必要です。
v3ではまた、手数料が3段階(0.05%、0.3%、1%)から選択できるようになり、安定通貨ペアには低手数料、ボラティリティの高いペアには高手数料といった柔軟な設定が可能になりました。
2. Hooks(フック)とは何か——v4の中核機能を理解する
2-1. Hooksの基本概念
Hooks(フック)は、Uniswap v4の中核となる新機能であり、v4のアーキテクチャ全体を特徴づける存在です。
Hooksとは、流動性プールのライフサイクルにおける特定のタイミングで自動的に実行される、外部のスマートコントラクトのことです。プログラミングにおける「コールバック関数」に近い概念と言えるでしょう。
具体的には、以下のタイミングでHookを差し込むことができます。
- beforeInitialize / afterInitialize: プールの初期化の前後
- beforeAddLiquidity / afterAddLiquidity: 流動性の追加の前後
- beforeRemoveLiquidity / afterRemoveLiquidity: 流動性の削除の前後
- beforeSwap / afterSwap: スワップ(トークン交換)の前後
- beforeDonate / afterDonate: 寄付(流動性プールへの手数料の追加)の前後
Hookコントラクトのアドレスが、どのフックポイントが有効であるかを示すフラグを含む仕組みになっています。これはアドレスの先頭ビットを利用した巧妙な設計で、プール作成時にどのHookが使用されるかが明確になります。
2-2. Hooksがもたらすパラダイムシフト
v3までのUniswapでは、プロトコルのコアロジックは変更できませんでした。すべてのプールが同じルールで動作し、カスタマイズの余地は手数料率の選択程度に限られていました。
v4のHooksは、この制約を根本的に取り払います。開発者は、Uniswapの流動性とスワップのインフラをベースとして活用しながら、独自のロジックを追加することができるようになります。
これは、Uniswapが「プロトコル」から「プラットフォーム」へと進化したことを意味しています。イメージとしては、スマートフォンのアプリストアに近い構造です。Uniswap v4がOS(オペレーティングシステム)のような基盤を提供し、Hooksがアプリのように個々の機能を追加するという関係です。
2-3. Hookの実装例——概念的な理解
Hookの動作を概念的に理解するために、シンプルな例を考えてみましょう。
たとえば「大口取引に対して追加手数料を課す」というHookを考えます。このHookは beforeSwap のタイミングで呼び出され、スワップの金額をチェックします。一定のしきい値を超える大口取引であれば、追加の手数料を徴収するロジックを実行します。
このような機能は、v3までのUniswapでは実現できませんでした。手数料はプール作成時に固定されており、取引の大きさに応じて動的に変更することはできなかったためです。
Hooksの柔軟性は、DEXの設計空間を劇的に拡大するものであり、今後どのような創造的なHookが開発されるかは、エコシステム全体の発展にとって大きなポイントとなるでしょう。
3. Singletonアーキテクチャとフラッシュアカウンティング
3-1. ファクトリーモデルからSingletonモデルへ
v3までのUniswapでは、新しい流動性プールを作成するたびに、新しいスマートコントラクトがデプロイされていました(ファクトリーモデル)。v3では約17,000以上のプールコントラクトが存在しており、マルチホップスワップ(複数のプールを経由するスワップ)では、各プールコントラクトとの間でトークンの転送が必要でした。
v4では、すべてのプールが一つのスマートコントラクト(Singleton)内に格納されるようになりました。これにより、以下のメリットが生まれます。
- ガスコストの削減: 新しいプールの作成コストが大幅に低下する(新しいコントラクトをデプロイする必要がないため)
- マルチホップスワップの効率化: 複数のプールを経由するスワップでも、コントラクト間のトークン転送が不要になる
- 状態管理の簡素化: すべてのプールの状態が一つのコントラクト内で管理されるため、アトミック(不可分)な操作が容易になる
Uniswap Labsの試算によると、Singletonアーキテクチャにより、プール作成のガスコストが約99%削減されるとされています。マルチホップスワップのガスコストも大幅に削減される見込みです。
3-2. フラッシュアカウンティング——「最終的な差額だけを決済」
Singletonアーキテクチャと密接に関連するもう一つの重要な機能が、フラッシュアカウンティング(Flash Accounting)です。
v3までのUniswapでは、スワップのたびに実際のトークンの転送が行われていました。AトークンをBトークンに交換する場合、AトークンをプールのコントラクトにA入金し、Bトークンをプールのコントラクトから出金するという2回の転送が必要でした。
v4のフラッシュアカウンティングでは、各操作(スワップ、流動性の追加・削除)を内部的な「借方・貸方」として記録し、一連の操作が完了した時点で、最終的な差額のみを実際のトークン転送で決済します。
たとえば、A→B→Cというマルチホップスワップの場合、v3ではA→B、B→Cの各ステップでトークン転送が発生しますが、v4では最終的に「Aを入金し、Cを出金する」という差額のみが転送されます。中間トークンBの転送は発生しません。
この仕組みにより、特に複雑なルーティング(経路選択)を含むスワップでのガスコストが大幅に削減されます。
3-3. EIP-1153(Transient Storage)の活用
v4のフラッシュアカウンティングは、EIP-1153で導入された「Transient Storage」を活用しています。
Transient Storageは、トランザクション実行中のみ有効で、トランザクション終了後に自動的に消去されるストレージ領域です。従来のStorage(永続的なデータ保存)と比較して、ガスコストが大幅に低くなっています。
フラッシュアカウンティングの「借方・貸方の一時的な記録」は、まさにTransient Storageに適したユースケースです。トランザクション内でのみ必要な一時的なデータを低コストで管理できるため、v4のアーキテクチャの効率性をさらに高めています。
4. Hooksで実現できる具体的な機能
4-1. 動的手数料の調整
v3までのUniswapでは、手数料率はプール作成時に固定されていました。v4のHooksを使えば、市場の状況に応じて手数料率を動的に調整することが可能になります。
ボラティリティ連動型手数料: 市場のボラティリティが高いときは手数料を引き上げ、低いときは引き下げるという仕組みが考えられます。ボラティリティが高い局面では、流動性提供者はインパーマネントロスのリスクが大きくなります。手数料を動的に調整することで、リスクに見合った報酬を確保し、流動性の安定的な提供を促進できる可能性があります。
時間帯別手数料: 取引量が少ない時間帯には手数料を下げて取引を促進し、取引量が多い時間帯には手数料を上げるという設計も可能です。
段階的手数料: 取引量の大きさに応じて手数料率を変えることもできます。大口取引には低い手数料を適用して流動性を呼び込み、小口取引には標準的な手数料を適用するといった戦略が考えられます。
4-2. オンチェーン指値注文
従来のDEXでは「成行注文」(現在の市場価格で即座に取引を実行する注文)が基本でした。指値注文(特定の価格に達したときにのみ取引を実行する注文)を実現するには、オフチェーンのシステムや外部サービスが必要でした。
v4のHooksを使えば、完全にオンチェーンで指値注文を実装できます。afterSwap Hookを利用して、プールの価格が指定された水準に達したかどうかをチェックし、条件を満たした場合に注文を実行するという仕組みです。
中央集権型取引所のユーザーにとって当たり前だった「指値注文」がDEXでもネイティブに利用可能になることは、ユーザー体験の大きな向上につながると期待されています。
4-3. TWAMM(時間加重平均マーケットメイキング)
TWAMM(Time-Weighted Average Market Maker)は、大口注文を時間をかけて少量ずつ実行する仕組みです。
大口注文を一度に実行すると、プールの価格に大きなインパクトを与え、不利な価格での取引を強いられる「プライスインパクト」が発生します。TWAMMは、注文を仮想的に無限に小さな部分に分割し、一定期間にわたって連続的に実行することで、価格への影響を最小化します。
v4のHooksとしてTWAMMを実装すれば、大口の暗号資産取引を行う機関投資家やDAO(分散型自律組織)の財務運営にとって、有用なツールになり得るでしょう。
4-4. カスタムオラクルとMEV対策
カスタムオラクル: v3では固定的なTWAPオラクルが組み込まれていましたが、v4ではHooksを通じてカスタムオラクルを実装できます。Geomean(幾何平均)オラクルやボラティリティオラクルなど、用途に応じた独自のオラクル設計が可能になります。
MEV対策: MEV(Maximal Extractable Value)は、ブロック生成者やサーチャーが取引の順序を操作することで利益を得る行為です。フロントランニング(他者の取引の前に自分の取引を挿入する)やサンドイッチ攻撃(他者の取引を自分の取引で挟む)がその代表例です。
v4のHooksを使えば、MEVを緩和するための仕組みを実装できます。たとえば、beforeSwap Hookでオークションメカニズムを導入し、MEVの利益をプールの流動性提供者に還元するといった設計が考えられます。
5. ネイティブETHサポートとERC-6909
5-1. ネイティブETHの再導入
v2ではETHとの直接取引がサポートされていましたが、v3ではWETH(Wrapped ETH)のみがサポートされていました。ETHをWETHに変換する追加のステップとガスコストが必要だったのです。
v4では、ネイティブETH(ラップされていないETH)との直接取引が再びサポートされます。これにより、ETHの取引におけるガスコストが削減され、ユーザー体験が向上します。
EthereumのDeFiエコシステムにおいてETHは最も取引量の多い資産の一つであるため、ネイティブETHサポートによるコスト削減の効果は市場全体で見ると大きなものになる可能性があります。
5-2. ERC-6909——マルチトークン規格の採用
v4では、流動性ポジションや内部残高の管理にERC-6909というトークン規格が採用されています。
ERC-6909は、一つのコントラクトで複数種類のトークンを管理するための規格です。ERC-1155に似ていますが、よりガス効率が高く、シンプルな設計になっています。
v4のSingletonアーキテクチャでは、すべてのプールが一つのコントラクト内にあるため、ユーザーの残高もこのコントラクト内で管理する必要があります。ERC-6909を使うことで、各プールのLPトークンや内部残高を効率的に管理できるようになっています。
ユーザーにとっての具体的なメリットとしては、フラッシュアカウンティングで算出された差額を即座に決済せず、コントラクト内の内部残高として保持することができます。これにより、頻繁に取引を行うユーザーはトークン転送のガスコストを節約できます。
5-3. ドネーション機能
v4には「donate」という新しい関数が追加されています。これは、特定の価格帯に流動性を提供しているLPに対して、直接的にトークンを分配する機能です。
この機能は、Hooksと組み合わせることで威力を発揮します。たとえば、MEVから得られた利益をdonateを通じてLPに還元したり、プロジェクトが特定のプールのLPにインセンティブを提供したりといった使い方が考えられます。
6. Hooksのセキュリティリスクと対策
6-1. Hookの信頼性問題
Hooksは強力な機能である一方、セキュリティ上のリスクも伴います。
最も重要なリスクは、悪意のあるHookの存在です。Hookはスワップや流動性操作の前後で任意のコードを実行できるため、設計次第ではユーザーの資金を抜き取ったり、取引を不正に操作したりすることが技術的には可能です。
具体的なリスクシナリオとしては、以下のようなものが考えられます。
- 資金の抜き取り: `afterSwap` Hookで、スワップの出力トークンを別のアドレスにリダイレクトする
- フロントランニング: `beforeSwap` Hookで取引情報を取得し、有利な取引を先行実行する
- 流動性の操作: `beforeRemoveLiquidity` Hookで、LPの流動性引き出しをブロックまたは遅延させる
- ガス消費攻撃: 意図的にガスを大量消費するHookを設定し、取引コストを増大させる
6-2. セキュリティ対策のアプローチ
こうしたリスクに対して、いくつかの対策アプローチが検討されています。
Hookの監査とレビュー: 重要なHookは、セキュリティ監査を受けることが推奨されます。プールの利用者は、そのプールに設定されているHookのコードと監査結果を確認してからプールを利用するという慣行が定着することが望ましいでしょう。
Hookのパーミッション制限: v4のアーキテクチャでは、Hookがアクセスできるデータや実行できる操作に一定の制限が設けられています。Hookコントラクトのアドレスに埋め込まれたフラグにより、どのフックポイントが有効かが明確に示されます。
フロントエンドでのフィルタリング: Uniswapのフロントエンドでは、監査済みのHookのみを表示したり、リスクの高いHookに警告を表示したりする対応が考えられます。
コミュニティによる検証: オープンソースであるHookのコードは、コミュニティによるレビューと検証が可能です。広く使われ、時間の経過とともに安全性が確認されたHookは、事実上の「標準Hook」として信頼されるようになると予想されます。
6-3. ユーザーが取るべき対策
Hookのセキュリティリスクに対して、ユーザー側でも以下のような対策を取ることが推奨されます。
- 利用するプールのHookを確認する: どのHookが設定されているか、そのHookは監査を受けているかを確認する
- 実績のあるHookを選ぶ: 長期間にわたって安全に運用されてきた実績のあるHookを利用する
- フロントエンドの選択: 信頼できるフロントエンドを利用し、不審なプールへの接続を避ける
- リスクの分散: 大きな資金を単一のプール(特に新しいHookが設定されたプール)に集中させない
7. 競合プロトコルとの比較——Uniswap v4の立ち位置
7-1. Curve Finance
Curve Financeは、安定通貨同士のスワップに特化したDEXです。StableSwapと呼ばれる独自のAMMアルゴリズムにより、安定通貨ペアのスワップにおいて非常に低いスリッページを実現しています。
Uniswap v4のHooksを使えば、Curveの StableSwapに類似したカスタムAMMロジックを実装することが可能です。安定通貨ペア専用のHookを作成し、ペッグ付近での取引に最適化されたカーブを適用するといった設計が考えられます。
ただし、Curveには長年の実績と、veCRV(投票権付きCRV)による強力なトークノミクスがあります。技術的に実装可能であることと、市場で競争力を持つことは別の問題であり、Uniswap v4がCurveの牙城を崩せるかどうかは今後の展開次第と言えるでしょう。
7-2. Balancer
Balancerは、加重プール(Weighted Pool)をサポートするDEXです。Uniswapの50:50のプール構成とは異なり、80:20や60:20:20など、任意の比率でトークンを含むプールを作成できます。
Uniswap v4のHooksは、Balancerの加重プールに類似した機能を実装できる可能性があります。beforeSwap Hookでカスタムの価格決定ロジックを適用し、加重AMMのような動作を実現するという設計が考えられます。
Balancerもまた、2024年にリリースされたv3で「Hooks」に類似したカスタマイズ機能を導入しています。DEXプロトコル間の「プラットフォーム化」競争が加速していると言えるでしょう。
7-3. 新興DEXとアグリゲーター
Uniswap v4の登場は、DEXアグリゲーター(1inch、ParaSwap、CowSwapなど)にも影響を与えると考えられます。
アグリゲーターは、複数のDEXの価格を比較して最も有利なルートで取引を実行するサービスです。v4のSingletonアーキテクチャによりガスコストが削減されれば、Uniswap内での取引がより有利になる場面が増え、アグリゲーターを経由せずに直接Uniswapで取引するユーザーが増える可能性があります。
一方で、Hooksの多様化により、同じトークンペアでも異なるHookが設定された複数のプールが存在するようになれば、最適なプールを選択するアグリゲーターの役割はむしろ増すかもしれません。
8. Uniswap v4がDEXの未来に与える影響
8-1. DEXの「アプリストア化」
Uniswap v4のHooksが広く普及すれば、DEXのあり方そのものが変わる可能性があります。
v3までのDEXは「一枚岩(モノリシック)」のプロトコルでした。プロトコルの設計者が決めたルールの中でのみ取引が行われ、カスタマイズの余地は限られていました。
v4のHooksモデルでは、DEXは「プラットフォーム」となり、その上にさまざまな「アプリケーション」(Hook)が構築されます。開発者はUniswapの巨大な流動性基盤を活用しながら、独自の取引ロジックを実装できるようになります。
このモデルが成功すれば、DeFiの開発者は新しいDEXをゼロから構築する必要がなくなり、Hookとして独自の機能を実装するだけで済むようになる可能性があります。これはDeFi全体のイノベーション速度を加速させる効果があるかもしれません。
8-2. 流動性の集約効果
Singletonアーキテクチャの採用により、v4ではすべてのプールが一つのコントラクトに集約されます。これは「流動性の断片化」という、DeFiが長年抱えてきた問題の部分的な解決策となる可能性があります。
現在のDeFiでは、同じトークンペアの流動性が複数のプロトコル、複数のチェーンに分散しています。この断片化は、スリッページの増大やガスコストの増加につながっています。
v4のSingletonモデルでは、Uniswap内の流動性は一つのコントラクトに集約されるため、少なくともUniswap内での流動性断片化は解消されます。Hooksの違いによって異なるプールが存在する場合でも、同一のSingletonコントラクト内にあるため、クロスプールのルーティングが効率的に行えます。
8-3. DeFiの「構成可能性」の新たな展開
DeFiの大きな強みの一つは「構成可能性(Composability)」——異なるプロトコルを組み合わせて新しいサービスを構築できるという特性です。v4のHooksは、この構成可能性をプロトコル内部にまで拡張するものと言えます。
Hooksは他のDeFiプロトコルと連携することも可能です。たとえば、レンディングプロトコルの金利データをHookに取り込み、金利に応じて流動性の配分を動的に調整するといった「クロスプロトコル」のHookも考えられます。
こうした高度な構成可能性は、DeFiのイノベーションを加速させる一方で、システミックリスク(プロトコル間の連鎖的な障害のリスク)を増大させる可能性もあります。2022年のTerra/LUNA崩壊がDeFi全体に波及したように、高度に相互接続されたシステムは、一つのコンポーネントの障害が全体に伝播するリスクを内包しています。
まとめ
Uniswap v4は、Hooks、Singletonアーキテクチャ、フラッシュアカウンティングという3つの柱により、DEXの概念を大きく拡張するプロトコルです。
特にHooksは、DEXを「固定的なプロトコル」から「カスタマイズ可能なプラットフォーム」へと進化させる画期的な機能であり、動的手数料、オンチェーン指値注文、TWAMM、MEV対策など、これまで実現が難しかった機能をDEX上で直接実装できるようになります。
一方で、Hooksのセキュリティリスク、プロトコルの複雑性の増大、規制上の課題など、乗り越えるべき障壁も少なくありません。Hooksエコシステムが安全かつ健全に発展するためには、監査の標準化、ベストプラクティスの確立、コミュニティによる継続的な検証が不可欠です。
Uniswap v4は、DeFiの次の進化を象徴するプロジェクトと言えるでしょう。その成否は、技術的な優秀さだけでなく、エコシステムの参加者——開発者、流動性提供者、トレーダー——がどれだけ積極的にv4の可能性を活用するかにかかっているのではないでしょうか。
よくある質問(FAQ)
Q1. Uniswap v4はいつから利用できますか?
Uniswap v4は2025年にイーサリアムメインネットおよび複数のL2チェーンにデプロイされています。v3は引き続き利用可能であり、即座にv4への移行が必要というわけではありません。流動性の移行は段階的に進んでいく見通しです。
Q2. Hooksは誰でも作成できるのですか?
技術的には、Solidityのスマートコントラクトを開発できる人であればHookを作成できます。ただし、Hookは流動性プールの動作に直接影響を与えるため、セキュリティ監査を受けていないHookの利用には大きなリスクが伴います。利用者は、十分な検証とレビューを経たHookのみを利用することが推奨されます。
Q3. v4に移行するとガス代は安くなりますか?
Singletonアーキテクチャとフラッシュアカウンティングにより、特にプールの作成とマルチホップスワップにおいてガスコストの大幅な削減が期待されています。単純なスワップでもHookの有無やネイティブETHの利用によりガスコストが変わります。ただし、複雑なHookが設定されたプールでは、Hookの実行にかかるガスコストが追加される場合もあります。
Q4. v3の集中流動性はv4でも使えますか?
v4でもv3の集中流動性(Concentrated Liquidity)の仕組みは引き継がれています。さらに、Hooksを活用した動的な流動性管理が可能になるため、集中流動性の運用はより柔軟になると期待されています。
Q5. Uniswap v4のライセンスはどうなっていますか?
Uniswap v4のコードはBSL(Business Source License)1.1の下でリリースされました。これはv3と同様のアプローチです。一定期間経過後にGPLv2(オープンソースライセンス)に移行する予定です。BSL期間中は、Uniswap Labsの許可なくv4のコードを商業目的でフォーク(コピーして改変)することが制限されています。
Q6. Uniswap v4はビットコインのエコシステムとどう関係しますか?
Uniswap v4はイーサリアムおよびEVM互換チェーン上で動作するプロトコルであり、ビットコインのネットワーク上で直接動作するものではありません。ただし、WBTC(Wrapped Bitcoin)などのビットコインをERC-20トークン化した資産はv4のプールで取引可能です。また、v4で導入されたHooksやSingletonアーキテクチャなどの設計思想は、DEX全般の発展に影響を与える可能性があり、ビットコインのレイヤー2上のDEXにも間接的に影響を及ぼすかもしれません。
※本記事は情報提供を目的としており、特定の暗号資産やDeFiプロトコルの利用を推奨するものではありません。DeFiプロトコルの利用にはスマートコントラクトのリスク、インパーマネントロス、規制リスクなどが伴います。利用にあたってはご自身で十分な調査と検討を行い、リスクを理解したうえで自己責任において判断してください。本記事の内容は2026年3月時点の情報に基づいています。