イーサリアム - ETH

StarkNetの仕組みと特徴:Cairo言語とSTARK証明が切り拓くLayer2の未来

ブロックチェーンのスケーラビリティ問題に対するアプローチは複数存在しますが、StarkNetはその中でも最も暗号学的に厳密な基盤を持つとされるプロジェクトの一つです。イスラエルのスタートアップStarkWareが開発し、zkSTARKという証明システムを採用しています。

zkSTARKはトラステッドセットアップ(信頼できる第三者による初期設定)を必要とせず、量子コンピューターに対しても安全であるとされる性質を持ちます。この特性はZK-Rollupの長期的な安全性という観点から注目されています。

ただし、StarkNetはEVM(イーサリアムバーチャルマシン)との互換性を持たず、独自の言語「Cairo」でスマートコントラクトを記述する必要があります。このことはエコシステムへの参入障壁になる一方、設計の自由度と効率性という点での優位性を生んでいます。本記事でStarkNetの技術的な全体像を詳しく見ていきましょう。

zkSTARKの基本原理

トラステッドセットアップ不要の意味

ZK-Rollupで広く使われるzkSNARKの一部の実装では、セキュリティパラメーターを生成するための初期設定(トラステッドセットアップ)が必要です。この初期設定に使われたランダム値(「有毒廃棄物」と呼ばれることがあります)が漏洩すると、偽の証明を作成される可能性があります。

zkSTARKはハッシュ関数のみを使用してセキュリティを構築するため、このようなトラステッドセットアップを必要としません。セキュリティ仮定がシンプルであることは、長期的な信頼性の面で重要です。

さらに、zkSTARKが依拠するハッシュ関数のセキュリティは量子コンピューターに対しても比較的強固とされています。一方、zkSNARKの多くが依拠する楕円曲線暗号は量子コンピューターの一定水準の発達によって危殆化するリスクがあると指摘されています。

FRI(Fast Reed-Solomon IOP)プロトコル

zkSTARKの核となる技術がFRI(Fast Reed-Solomon Interactive Oracle Proof)プロトコルです。多項式に対して効率的な近似証明を可能にするもので、証明サイズは対数的に増加するという特性があります。

zkSNARKと比べると証明サイズが大きくなる傾向がある(数十KBから数百KB程度)ため、Layer1に記録するコストは高くなります。StarkWareはこの課題に対して、再帰的証明(SHARP:Shared Prover)によって多数のトランザクションの証明を一つにまとめる手法を採用しています。

Cairoプログラミング言語

STARK証明フレンドリーな言語設計

StarkNetのスマートコントラクトはCairoという独自言語で記述します。Cairoは「CPU Algebraic Intermediate Representation(代数中間表現)」を生成するために設計された言語で、STARK証明に最適化されています。

当初のCairo 0はRustに似た低レベルな言語でしたが、Cairo 1.0(Sierra)から大幅に改善され、Rustのような表現力豊かな高レベル言語として再設計されました。Cairo 1.0はRustの型システム、パターンマッチング、トレイトベースの多態性などの概念を取り入れており、以前よりも習得しやすくなっています。

EVM互換がないためSolidityの既存コードはそのまま動作しませんが、Cairoを学ぶことでSTARKの最大限の性能を活かした効率的なスマートコントラクトを書けるという利点があります。

Sierraと安全な実行モデル

Cairo 1.0はまずSierra(Safe Intermediate Representation)という中間表現にコンパイルされ、さらにCASM(Cairo Assembly)に変換されます。この二段階コンパイルの仕組みは、Denial-of-Service攻撃(特定のトランザクションでシーケンサーを停止させる攻撃)への対策として導入されました。

Sierraは「プログラムが必ず停止する(ハルト問題に対して安全)」ことを静的に証明できる特性を持ちます。これにより、シーケンサーはトランザクションが必ず何らかの結果を返すことを保証でき、無限ループによる悪用を防ぎます。

StarkNetのアーキテクチャ

Sequencer・Prover・Verifierの役割

StarkNetの処理フローは主に三つのコンポーネントで構成されます。

Sequencer(シーケンサー)はユーザーからのトランザクションを受け取り、順序を決定して実行します。現在はStarkWareが運営する中央集権的なシーケンサーが動いていますが、分散化に向けたロードマップが公開されています。

Prover(プルーバー)はシーケンサーが実行したトランザクションバッチに対してSTARK証明を生成します。StarkWareはSHARP(Shared Prover)と呼ばれる共有プルーバーを運用しており、StarkNetだけでなくStarkExも同じプルーバーを使います。

Verifier(ベリファイアー)はEthereumにデプロイされたスマートコントラクトで、提出された証明を検証します。証明が正当であればEthereum上の状態が更新されます。

StarkExとStarkNetの違い

StarkWareには二つの製品があります。StarkExはdYdX、Sorare、ImmutableXなどが採用してきたアプリケーション特化型のScalability Engine(スケーリングエンジン)です。特定のアプリケーションロジックに最適化されており、汎用スマートコントラクトは動作しません。

StarkNetはパーミッションレスな汎用スマートコントラクトプラットフォームです。誰でもCairoでコントラクトをデプロイし、dAppsを構築できます。より開放的なエコシステムを志向しており、2023〜2024年に本格的な開発が加速しました。

STRKトークンとエコシステム

STRKトークンの役割

StarkNetのネイティブトークン「STRK」は2024年2月に大規模なエアドロップとともに流通を開始しました。STRKはガス代の支払い(ETHまたはSTRKで支払い可能)、ガバナンス参加、将来的なプルーバー・シーケンサーのステーキングに活用されることが想定されています。

STRKによるガス代支払いが可能になったことで、ETHを保有していないユーザーでもStarkNetを利用できるようになりました。これはユーザーのオンボーディングを容易にする重要なステップです。

主要エコシステムの動向

StarkNetのエコシステムはEVM互換がない制約から、zkSyncやOptimismに比べると初期は規模が小さかったですが、Cairo 1.0の登場以後、開発者コミュニティが活発化しています。

Ekubo(集中流動性DEX)、Nostra(レンディング)、Fibrous(DEXアグリゲーター)などのDeFiプロトコルが稼働しています。またNFTやゲーム分野でも開発が進んでおり、Realms(オンチェーンゲーム)などがStarkNetの特性を活かした取り組みを行っています。

StarkNetの技術的優位性と課題

スケーラビリティの理論的上限

STARK証明の再帰的集約(再帰的証明)によって、StarkNetのスループット上限はZK-Rollupの中でも高い水準にあるとされています。将来的にはイーサリアムのシャーディング(データアベイラビリティサンプリング)と組み合わせることで、さらに高いスループットが期待されます。

StarkWareは長期的なビジョンとして「Fractal Scaling」を提唱しており、StarkNetの上にさらにStarkNetを重ねる(L3)構造によって事実上無限のスケールを目指しています。これはまだ理論段階ですが、アーキテクチャとしての方向性を示しています。

EVM非互換がもたらす制約

最大の課題はCairo習得コストと既存Solidityプロジェクトとのエコシステムの断絶です。優秀なCairo開発者の絶対数はSolidity開発者より少なく、既存のDeFiプロトコルの移植も相当な工数が必要です。

この課題に対してStarkWareはCairo言語の改善(Cairo 1.0はRustライクで学びやすい)や、開発者教育への投資を続けています。長期的な視点では、Cairoによる「STARK最適化されたdApps」が登場することで、EVMの制約を超えた新たなユースケースが生まれる可能性があります。

まとめ

StarkNetはトラステッドセットアップ不要・量子耐性を持つzkSTARKを基盤とし、Cairo言語による高効率なスマートコントラクト実行環境を提供するLayer2プラットフォームです。EVM非互換というトレードオフを抱えながらも、暗号学的な純粋性と長期的なスケーラビリティという点では他に類を見ない設計思想を持ちます。

STRK配布後のガバナンス参加、シーケンサーの分散化、Cairo言語コミュニティの成長がエコシステム発展の鍵となります。ZK-Rollupの競争の中で独自の技術哲学を持つStarkNetの動向は、ブロックチェーンの未来を考える上で注視に値すると言えるでしょう。

よくある質問(FAQ)

Q. StarkNetを使うためにCairoを学ぶ必要がありますか?

A. ユーザーとして利用する場合(DEXでのスワップ、NFTの購入など)はCairoの知識は不要です。Cairoが必要なのはStarkNet上でスマートコントラクトを開発・デプロイする開発者の場合です。

Q. StarkNetとzkSyncはどちらが優れていますか?

A. 一概にどちらが優れているとは言えません。zkSyncはEVM互換を重視し既存Solidityエコシステムとの連携を優先しています。StarkNetはSTARKの純粋なセキュリティと長期的なスケーラビリティを優先しています。用途や優先事項によって評価が異なります。

Q. StarkNetからEthereumへの引き出しはどのくらい時間がかかりますか?

A. ZK-Rollupの特性上、理論的には証明の検証後すぐに引き出しが可能です。ただし、実際にはプルーバーの処理時間やEthereumのブロック確認に数時間かかることがあります。Optimistic Rollupの7日間と比べると大幅に短い最終性が特徴です。

※本記事は情報提供を目的としており、投資を推奨するものではありません。暗号資産への投資は元本割れのリスクがあります。投資判断はご自身の責任で行ってください。

Bitcoin Analyze 編集部

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