イーサリアムのスケーラビリティ問題を解決するZK-Rollupプロジェクトは、2026年現在、zkSync Era・StarkNet・Polygon zkEVM・Scrollを筆頭に複数のメインネットが稼働しています。それぞれ採用する証明システム・EVM互換性・エコシステムの規模・分散化の進捗が異なるため、どのプロジェクトを選ぶかはユーザーや開発者の目的によって変わってきます。
ZK-Rollupの選択は、利用できるdAppの種類、取引手数料、資産の引き出し時間、そして開発者であればSolidityやCairoなど対応プログラミング言語といった実用的な側面に直結します。DeFiプロトコルのTVLが急増し競争が激化する中、各プロジェクトの特徴を正確に把握することが重要です。
本記事では、主要4プロジェクトを多角的に比較分析し、それぞれの優位性・課題・適切なユースケースを整理していきます。
1. 比較の4軸:証明システム・EVM互換性・TVL・開発者体験
1-1. 証明システムの違い
各プロジェクトが採用する証明システムは技術的特性に大きく影響します。主要4プロジェクトの証明システムを整理します。
- zkSync Era: zkSNARK(Plonk系)+ Boojum(STARK要素を含む独自プルーバー)のハイブリッド。証明サイズが小さくオンチェーン検証コストを低減
- StarkNet: zk-STARK。信頼できるセットアップ不要で量子耐性あり。証明サイズはSNARKより大きいが再帰的証明で効率化
- Polygon zkEVM: zkSNARK(Plonk)。完全なEVMバイトコード互換を目指したタイプ2 ZK-EVM。証明生成は比較的重い
- Scroll: zkSNARK(Halo2ベース)。イーサリアムコミュニティと協力してボトムアップで開発した、タイプ1に近いタイプ2 ZK-EVM
1-2. EVM互換性の深さ
EVM互換性は開発者にとって既存のEthereumツールやコントラクトをどれだけ変更なしに使用できるかを意味します。Vitalik Buterinが定義したタイプ分類に基づき比較します。
Scrollはタイプ1(完全EVM互換)に最も近いタイプ2を目指して設計されており、既存のSolidityコントラクトやHardhat・Foundryといった開発ツールがほぼ変更なしに使用可能です。
Polygon zkEVMもタイプ2相当であり、既存のEVMツールチェーンとの高い互換性を持ちます。ただし、一部のプリコンパイル済みコントラクトに差異があります。
zkSync Eraはタイプ2ですが、独自のZK-EVM設計のためEVMバイトコードとの互換性に一部差異があります。SolidityはそのままコンパイルできますがEVMバイトコードを直接実行するケースでは注意が必要です。
StarkNetはタイプ4に相当し、EVM互換性を持ちません。独自言語Cairoで開発する必要があります。ただし、独自設計ゆえの証明効率の高さが特徴です。
2. zkSync Era詳細分析
2-1. 強みと市場ポジション
zkSync Eraの最大の強みは、ネイティブアカウント抽象化(AA)によるユーザー体験の向上です。ペイマスター機能によるETH以外でのガス代支払いや、セッションキーによるdAppへの限定アクセス付与など、Web2的な使いやすさをWeb3で実現する仕組みが整っています。
エコシステムの規模は主要ZK-Rollupの中でトップクラスで、DeFi・NFT・ゲームなど多様なカテゴリに渡るdAppが展開されています。ZK Stackを活用したHyperchain(独自L2/L3)エコシステムの拡張も進んでおり、zkSync Eraをハブとした多層的なスケーリングが実現しつつあります。
2-2. 課題と改善点
zkSync Eraの課題としては、分散化の遅れが挙げられます。現時点ではシーケンサーとプルーバーはMatter Labsが中央集権的に運営しており、完全な分散化の実現には時間がかかる見込みです。また、EVMバイトコードとの細かい互換性の差異が一部のdApp移植で問題になるケースがあります。
手数料については、EIP-4844以降は大幅に改善されており、一般的なDeFiトランザクションで数セント〜数十セント程度の範囲に収まるケースが増えています。
3. StarkNet詳細分析
3-1. 技術的独自性と強み
StarkNetの最大の強みは、STARK証明の技術的優位性です。信頼できるセットアップが不要であること、量子耐性があること、そして再帰的証明による理論上無制限のスケーラビリティは他のプロジェクトにはない特徴です。
Cairo言語はEVMの制約に縛られず、証明フレンドリーな計算を記述できる点で将来的なポテンシャルが高いです。また、Argent XやBraavosなどのスマートウォレットを通じたアカウント抽象化の実用化は、ユーザー体験の向上に大きく貢献しています。
3-2. Cairo学習コストという障壁
StarkNetの最大の課題はCairoプログラミング言語の学習コストです。Solidityの経験がある開発者でも、Cairo特有のメモリモデルや型システムに慣れるまで一定の時間が必要です。
ただし、Cairo 1.0からはRust由来の構文が採用され、書きやすさは大幅に改善されました。また、Cairo EVM(EVMコントラクトをCairoに変換するツール)やSolidity→Cairo自動変換ツールなどの開発も進んでおり、参入障壁の低下が期待されます。
4. Polygon zkEVM詳細分析
4-1. Polygonエコシステムとの統合
Polygon zkEVMはPolygon技術スタックの一部として位置付けられており、Polygon CDKを通じてカスタムzkEVMチェーン(CDKチェーン)の構築が可能です。すでにAstar zkEVM・OKX X Layer・Immutable zkEVMなど多数のプロジェクトがPolygon CDKを採用しており、大規模なエコシステムを形成しています。
Polygon CDKチェーンはAggLayerと呼ばれる統一流動性レイヤーを通じて相互接続されます。これにより、異なるCDKチェーン間で資産や状態の共有が可能になり、断片化した流動性の問題を解決することが期待されています。
4-2. EVM互換性の高さとトレードオフ
Polygon zkEVMの最大の特徴は、EVMバイトコード互換性を高度に維持している点です。既存のEthereumのスマートコントラクトが最小限の変更でデプロイ可能であることは、大きな開発者メリットです。一方で、完全なEVM互換を目指したことで証明生成が複雑になり、他のZK-EVMと比較してスループットの向上に課題があります。
Polygon Labsは証明生成の効率化に継続的に取り組んでおり、Type2-optimizedと呼ばれる最適化バージョンへの移行も進めています。
5. Scroll詳細分析
5-1. コミュニティ主導の開発アプローチ
ScrollはイーサリアムコミュニティおよびPSE(Privacy and Scaling Explorations)グループと緊密に連携して開発された、オープンソース重視のZK-EVMです。他のプロジェクトがVC資金を積極的に活用する中、Scrollは技術的純粋性とコミュニティへの貢献を重視した開発スタイルで知られています。
ScrollのZK-EVMはタイプ1に最も近いタイプ2として設計されており、イーサリアムのコンセンサスレイヤーとの親和性が高いです。長期的にはイーサリアム本体のZK化(zkEthereum)への移行を見据えた技術基盤として位置付けられています。
5-2. Euclidアップグレードと分散化
2024年のEuclidアップグレードによって、ScrollはPermissionless Proof Systemへの移行を完了しました。これにより誰でも証明生成者(Prover)として参加でき、プロトコルのアップグレードはガバナンス投票によって決定されるようになりました。
Scrollはシーケンサーの分散化についても、具体的なロードマップを示している数少ないZK-Rollupプロジェクトの一つです。分散化の段階的な実現を最優先課題として取り組んでいます。
6. 総合比較と選択指針
6-1. ユースケース別推奨プロジェクト
各プロジェクトの強みを踏まえたユースケース別の指針を以下に示します。ただし、最終的な選択はご自身の優先事項に基づいてください。
- ユーザーフレンドリーなDeFiを使いたい: zkSync Era(ペイマスター・AAによる使いやすさ)またはPolygon zkEVM(エコシステムの広さ)
- 技術的先進性を重視したい: StarkNet(STARK証明・Cairo・量子耐性)
- EVM完全互換を求める開発者: ScrollまたはPolygon zkEVM
- 大規模なアプリ固有チェーンを構築したい: ZK Stack(zkSync)またはPolygon CDK
6-2. 2026年時点のTVLと市場シェア動向
2026年時点のTVL(Total Value Locked)を見ると、zkSync EraとStarkNetが主要ZK-Rollupの中で比較的高いTVLを維持しています。Polygon zkEVMはCDKエコシステム全体のTVLを合算すると相当な規模になりますが、メインのzkEVMチェーン単体ではzkSync Eraに次ぐポジションです。Scrollは着実にエコシステムを拡大しており、分散化の進展とともにユーザー獲得を進めています。
市場シェアの動向はEIP-4844以降のガス代削減効果が均等に各プロジェクトに恩恵をもたらしており、単純な手数料競争よりもエコシステムの豊富さや使いやすさが差別化要因になりつつあります。
まとめ
ZK-Rollupの主要4プロジェクトはそれぞれ異なる設計哲学と強みを持っています。zkSync Eraはアカウント抽象化とエコシステムの豊富さ、StarkNetはSTARK証明の技術的優位性と長期的なスケーラビリティ、Polygon zkEVMは高いEVM互換性と大きなエコシステム統合、ScrollはEVM準拠とコミュニティ主導の分散化が特徴です。ZK-Rollupの技術は現在も急速に進化しており、プロジェクト間の競争が技術革新を加速しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. ZK-Rollupのエコシステムはまだ分断されていますか?
2026年時点でも各ZK-Rollup間の相互運用性は限定的で、資産の移動にはブリッジが必要です。ただし、Polygon AggLayerやzkSync Hyperbridge、LayerZeroなどのクロスチェーンプロトコルによって相互運用性の改善が進んでいます。
Q2. ZK-Rollupとのブリッジはセキュリティ的に安全ですか?
ZK-Rollupの公式ブリッジはスマートコントラクトのバグがない限り、数学的に安全な設計です。ただし、スマートコントラクトの脆弱性や実装上のリスクはゼロではありません。大きな金額を扱う際は、監査済みの公式ブリッジを利用することを推奨します。
Q3. ZK-Rollupのプロジェクトトークンへの投資はどうですか?
各プロジェクトのネイティブトークン(ZK・STRK・MATIC等)はガバナンスや手数料支払いに利用されます。ただし、トークン価格は市場の需給によって大きく変動するリスクがあります。プロトコルの技術的優位性がトークン価値に直結するとは限らないため、投資は慎重に判断してください。
※本記事は情報提供を目的としており、投資を推奨するものではありません。暗号資産への投資は元本割れのリスクがあります。投資判断はご自身の責任で行ってください。