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ZK-Rollupのデータアベイラビリティ問題:Volition・Validiumとオンチェーン記録の比較

ZK-Rollupの技術を語る上で避けて通れないのが「データアベイラビリティ(Data Availability:DA)」の問題です。ZK-Rollupがどこにどのようにデータを保存するかは、セキュリティとコストの根本的なトレードオフに直結しています。

ゼロ知識証明によってトランザクションの正当性は数学的に保証されますが、ユーザーが自身の残高を独自に検証したり、緊急時に資産を引き出したりするためには、トランザクションデータそのものにアクセスできる必要があります。このデータをどこに置くかという設計が、ZK-Rollupのセキュリティモデルを大きく左右します。

本記事では、完全なオンチェーン記録(フルRollup)から、Validium、Volitionという設計パターンの違いを整理し、EIP-4844(Proto-Danksharding)がZK-Rollupのコスト構造に与える影響についても詳しく見ていきます。

データアベイラビリティとは何か

なぜデータアクセスが必要なのか

ブロックチェーンシステムで「データアベイラビリティ」と言うとき、それは「データが実際に存在し、誰でもアクセスできる状態にある」という保証を指します。

ZK-Rollupでは、シーケンサー(トランザクションを処理するオペレーター)がバッチ処理を実行して状態ルート(State Root)とゼロ知識証明をLayer1に提出します。しかし、証明が正当であることが保証されていても、個々のトランザクションの詳細データが失われると、ユーザーは自分の残高を独自に再計算できなくなります。

極端な例を考えてみましょう。シーケンサーが悪意を持ち、正当な証明を提出しながらも、実際にどのトランザクションが含まれているかのデータを隠匿したとします。この場合、ユーザーは「自分の資産が正しく反映されているか」を外部から確認できません。これがデータアベイラビリティ問題の本質です。

ZK-RollupとPlasmaのDA設計の違い

データアベイラビリティ問題はZK-Rollup以前にも存在しました。Plasma(イーサリアムの初期Layer2提案)は計算コストを下げるためにすべてのデータをLayer1に記録しない設計でしたが、この設計がデータアベイラビリティ問題(Plasma Exit問題)を引き起こし、実用化が難しくなった原因の一つです。

ZK-Rollupのフル実装では、トランザクションデータ(calldata)をEthereumに記録することで、このPlasmaの問題を回避しています。Ethereumに記録されれば、シーケンサーが消えてもユーザーはそのデータを使って自力で状態を再構築し、資産を引き出す(強制Exit)ことができます。

フルRollup(オンチェーンDA)の仕組みとコスト

calldataとblob(EIP-4844)の違い

EIP-4844(Proto-Danksharding)以前は、ZK-Rollupのデータ記録はEthereumのcalldata領域を使っていました。calldataはEVM実行中に参照できるデータ領域で、永続的にブロックチェーンに記録されます。

2024年3月にEthereumに導入されたEIP-4844では、「blob(バイナリラージオブジェクト)」という新しいデータ領域が追加されました。blobはEVMから直接参照できませんが、Layer2のDAとして使うのには十分です。calldataより大幅に安価(設計上の目標は1/10以下)であり、一定期間(約18日間)後には削除されるため、フルノードのストレージ増大を抑えられます。

EIP-4844の導入後、zkSync Era、StarkNet、Polygonなど主要なZK-Rollupがblobを使ったDA記録に移行し、ガス代が大幅に削減されました。この変更はZK-Rollupの普及加速に大きく貢献しています。

フルRollupのセキュリティ保証

フルRollup(オンチェーンDA)ではすべてのデータがEthereumに公開されます。そのため、シーケンサーが不正・停止しても、任意のユーザーがデータを取得して状態を再計算できます。これはEthereumと同等のデータ可用性保証と言えます。

フルRollupは最も安全な設計ですが、トランザクション量が増えるほどDA記録のコストが増加します。EIP-4844によってこのコストは大幅に改善されましたが、将来的には完全なDanksharding(シャーディングによるDAのさらなる拡張)によってさらなるコスト削減が期待されています。

Validium:オフチェーンDAとセキュリティのトレードオフ

Validiumの設計思想

ValidiumはZK-Rollupのゼロ知識証明を使いながら、トランザクションデータをEthereumではなく外部のデータアベイラビリティ委員会(DAC: Data Availability Committee)やDAレイヤーに保存する設計です。ImmutableXやAztecの一部機能がValidiumに近い設計を採用していました。

オフチェーンにデータを置くことでEthereumへの記録コストをほぼゼロにできます。NFTゲームや高頻度の小口取引のように、コストを最優先したい用途では有効な選択肢です。

Validiumのリスクと信頼仮定

Validiumの課題は、DAC(データ可用性委員会)を信頼しなければならない点です。DACのメンバーが結託してデータを隠匿したり、DACのシステムが停止したりすると、ユーザーは最新状態を独自に再構築できなくなる可能性があります。

また、シーケンサーがデータを隠した状態で不正な状態ルートを提出しようとしても、ZK証明が存在するため不正な残高変更は防げます。しかし「データが存在するか否か」の確認ができないため、ユーザーはDACを実質的に信頼することになります。この信頼仮定がフルRollupとの根本的な違いです。

Volition:ユーザーがDAを選べるハイブリッド設計

Volitionの概念

VolitionはStarkWareが提唱したハイブリッドなDA設計です。同じLayer2ネットワーク内で、トランザクションごとにオンチェーンDA(Rollupモード)とオフチェーンDA(Validiumモード)を選択できる仕組みです。

高額な資産の移転やDeFiポジションの変更にはRollupモードを使い、コストを重視するゲームアイテムの移転にはValidiumモードを使う、という使い分けができます。ユーザーが自分のリスク許容度に応じてDAを選べるため、柔軟性が高い設計です。

Volitionの実装状況

Volitionはまだ広く普及した設計ではありませんが、StarkNetの長期ロードマップに含まれています。理論的にはzk-Porterとも呼ばれる類似の概念をzkSync Eraも検討しています(2024年時点では未実装)。

実装には複雑な状態管理が必要であり、オンチェーンとオフチェーンの残高が混在するユーザーの状態を整合的に管理する仕組みが求められます。技術的な成熟度が向上するにつれて、Volitionの実用実装が増えていく可能性があります。

外部DAレイヤー:Celestia・EigenDAとの連携

モジュラーブロックチェーンとDAの分離

近年、ブロックチェーンを「実行層・合意層・データ可用性層」に分離するモジュラーアーキテクチャの考え方が広まっています。この文脈で登場したのが、DAに特化したブロックチェーンであるCelestia(セレスティア)やEigenDA(EigenLayerのDAサービス)です。

ZK-RollupがEthereumではなくCelestiaにDAを記録することで、コストをさらに削減できる可能性があります。EthereumのblobよりもCelestiaのほうが安価な時期もあり、特定のLayer2やLayer3プロジェクトが外部DAレイヤーを採用する事例が出てきています。

外部DAを使う場合のセキュリティ考慮

外部DAレイヤーを使う場合、セキュリティ保証はEthereumよりもそのDAレイヤーの信頼性に依存することになります。Celestiaは独自のコンセンサスを持ちますが、Ethereumほどの経済的なセキュリティ(バリデーターのステーク量)を持っているわけではありません。

Layer2プロジェクトが外部DAを採用する場合、そのDAレイヤーのセキュリティモデルをユーザーが理解した上で利用判断する必要があります。ユーザー体験の観点では透明性の確保が重要な課題です。

まとめ

データアベイラビリティはZK-Rollupのセキュリティと経済性を直接左右する設計の核心部分です。フルRollup(オンチェーンDA)は最も安全ですが、EIP-4844以前はコストが課題でした。EIP-4844によってblobが導入されたことで、フルRollupのコストは大幅に改善されています。

Validiumはコスト最小化を目指す選択肢ですが、DAC信頼という追加の仮定が伴います。Volitionはこのトレードオフをユーザーに委ねるハイブリッド設計です。外部DAレイヤーとの連携はモジュラーアーキテクチャの観点から注目されますが、セキュリティの独立した評価が必要です。

Layer2の設計を評価する際は、「どのゼロ知識証明を使っているか」だけでなく「データをどこに記録しているか」も重要なチェックポイントです。

よくある質問(FAQ)

Q. EIP-4844(blob)はZK-Rollupのガス代にどのくらい影響しましたか?

A. EIP-4844導入後の2024年3月以降、主要Layer2のガス代は数分の一から十数分の一に低下したケースが報告されています。ただし、ネットワーク混雑状況によって変動があり、blob需要が高まると費用が上昇することもあります。

Q. ValidiumはZK-Rollupとどう違いますか?

A. ValidiumはZK-Rollupの一種であり、ゼロ知識証明を使っている点は同じです。違いはデータをEthereumではなく外部(DAC等)に保存する点にあります。ZK-Rollupのセキュリティモデルを部分的に緩めてコストを下げた設計と理解できます。

Q. 将来のDankshardingはZK-Rollupにどう影響しますか?

A. Danksharding(EIP-4844の後継・完全版)が実現すると、Ethereumのblob容量が大幅に拡大し、ZK-RollupのDAコストがさらに低下します。Ethereumのロードマップ上では数年単位のスパンで実装が進む予定です。

※本記事は情報提供を目的としており、投資を推奨するものではありません。暗号資産への投資は元本割れのリスクがあります。投資判断はご自身の責任で行ってください。

Bitcoin Analyze 編集部

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