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暗号資産(仮想通貨)を保有・取引している方にとって、2025年12月19日に与党が決定した「2026年度税制改正大綱」は、ここ数年で最も大きな転換点になるかもしれません。現行の最大55%という高い税率が、分離課税20%へと引き下げられる方向性が明確に打ち出されたのです。
この改正が実現すれば、暗号資産投資家の手残り額は大幅に変わることになります。ただし、適用開始は金融商品取引法(金商法)の施行後となるため、実際に恩恵を受けられるのは2028年1月以降と見込まれています。「いつから適用されるのか」「具体的にどのくらい税負担が軽くなるのか」「施行前に売買するべきなのか」など、気になるポイントは多いのではないでしょうか。
本記事では、2026年度税制改正大綱における暗号資産関連の変更点を、分離課税の仕組みから損失繰越制度、海外との比較、投資家への影響シミュレーションまで、できるだけ網羅的に解説していきます。税制の変更は投資戦略に直結するテーマですので、ぜひ最後まで目を通してみてください。
目次
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1-1. 税制改正大綱とは何か
税制改正大綱とは、翌年度以降の税制の方向性を示す政府・与党の基本方針のことです。毎年12月頃に自由民主党と公明党の税制調査会が議論を重ね、与党としての合意内容を取りまとめます。これをもとに翌年の通常国会で関連法案が提出・審議される流れとなっています。
2025年12月19日に決定された2026年度の税制改正大綱は、暗号資産に関する課税の枠組みを根本から見直す内容を含んでおり、業界関係者や投資家の間で大きな注目を集めました。
1-2. 暗号資産関連の主な改正ポイント
2026年度税制改正大綱において、暗号資産に関連する主要な変更点は以下の通りです。
課税方式の変更
現行の「雑所得」として総合課税される方式から、「申告分離課税」へと移行する方針が示されました。税率は一律20%(所得税15%+住民税5%)となる見通しです。なお、2037年までは復興特別所得税(所得税額の2.1%)が上乗せされるため、実質的な税率は約20.315%となります。
損失の繰越控除
暗号資産取引で生じた損失を、翌年以降3年間にわたって繰り越し、将来の利益と相殺できる制度が導入される方針です。
金商法施行が前提条件
これらの税制変更は、暗号資産が金融商品取引法の規制対象に移行することを前提としています。金商法の改正・施行が先に行われ、その翌年1月1日から新しい税制が適用される段取りとなっています。
1-3. 改正の背景にある問題意識
なぜこのタイミングで暗号資産の税制改正が進んだのでしょうか。その背景には、いくつかの問題意識があったと考えられます。
第一に、国際競争力の問題です。日本の暗号資産税制は主要国の中でも特に税負担が重く、最大55%という税率は投資家や事業者の海外流出を招いていると長年指摘されてきました。Web3やブロックチェーン関連のスタートアップが日本を避けてシンガポールやドバイに拠点を構えるケースも少なくありませんでした。
第二に、業界団体の継続的な要望活動があります。日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)や日本暗号資産取引業協会(JVCEA)は、毎年のように税制改正要望を提出してきました。分離課税の実現は、業界が長年求め続けてきた最重要課題の一つです。
第三に、暗号資産市場の成熟があります。2024年にはビットコインの現物ETFが米国で承認され、2025年には機関投資家の参入がさらに進みました。暗号資産が「投機的な資産」から「金融商品の一つ」へと位置づけが変化する中で、税制も実態に合わせて整備する必要性が高まっていたといえるでしょう。
1-4. 法制化までのプロセス
税制改正大綱はあくまで与党の方針であり、法律として確定するまでにはいくつかのステップがあります。通常のプロセスは以下の通りです。
このように、実際の適用までにはまだ時間がかかる見通しです。ただし、大綱に明記された以上、大きな方向転換がない限り実現する可能性は高いと考えられています。

2. 分離課税20%の詳細 ── 現行最大55%からの大転換
2-1. 現行制度の問題点を振り返る
現行の税制では、暗号資産の売却益は「雑所得」として分類され、給与所得などの他の所得と合算して課税される「総合課税」方式が適用されています。
総合課税の税率は、所得金額に応じて段階的に上がる累進課税制度(超過累進税率)が採用されており、所得税の最高税率は45%です。これに住民税10%を加えると、最高で55%の税率が課されることになります。
具体的な所得税の税率区分は以下の通りです(2026年3月時点)。
| 課税所得金額 | 所得税率 | 控除額 | 住民税を含めた合計税率 |
|---|---|---|---|
| 195万円以下 | 5% | 0円 | 15% |
| 195万円超〜330万円以下 | 10% | 97,500円 | 20% |
| 330万円超〜695万円以下 | 20% | 427,500円 | 30% |
| 695万円超〜900万円以下 | 23% | 636,000円 | 33% |
| 900万円超〜1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 | 43% |
| 1,800万円超〜4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 | 50% |
| 4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 | 55% |
この表を見ていただくとわかるように、暗号資産で大きな利益を得た場合、その半分以上を税金として納めなければならない可能性があったのです。
さらに、現行制度にはもう一つ大きな問題がありました。それは、損失の繰越ができないという点です。ある年に1,000万円の損失を出し、翌年に1,000万円の利益を出した場合、通算すればプラスマイナスゼロですが、現行制度では翌年の1,000万円に対して全額課税されてしまいます。
また、株式や投資信託の利益との損益通算もできないため、暗号資産の利益だけが突出して重い税負担を負う構造になっていました。
2-2. 申告分離課税20%の仕組み
新制度では、暗号資産の譲渡益に対して申告分離課税が適用されます。これは、他の所得とは切り離して、暗号資産の利益に対してのみ一律の税率で課税する方式です。
税率の内訳は以下のようになると見込まれています。
- 所得税: 15%
- 住民税: 5%
- 復興特別所得税: 所得税額の2.1%(2037年まで)
- 合計: 約20.315%
この税率は、現在の上場株式等の譲渡益に適用されている税率と同じです。つまり、暗号資産の利益が株式投資の利益と同等の税負担で済むようになるということです。
たとえば、暗号資産で500万円の利益を得た場合の税額を比較してみましょう。
現行制度(総合課税・給与所得500万円の会社員の場合)
- 給与所得500万円 + 暗号資産利益500万円 = 課税所得1,000万円
- 所得税率33%の区間に入り、暗号資産利益分の実効税率は概ね30〜33%程度
- 暗号資産利益に対する税額: 約150〜165万円(住民税含む)
新制度(申告分離課税)
- 暗号資産利益500万円 × 20.315% = 約101.6万円
この例では、新制度によって約50〜60万円の税負担軽減になる計算です。利益が大きくなるほど、この差はさらに広がっていきます。
2-3. 分離課税の対象となる取引
分離課税の対象となる具体的な取引について、現時点では大綱の記載をもとに以下のように整理されています。ただし、法案の詳細が確定するまで変更の可能性がある点にはご留意ください。
対象になると見込まれる取引
- 暗号資産の売却(円への換金)
- 暗号資産同士の交換
- 暗号資産による商品・サービスの購入(決済利用)
対象外または別途整理が必要と考えられる取引
- マイニング報酬(事業所得または雑所得として総合課税の可能性)
- ステーキング報酬(取得時の課税方式が別途検討される可能性)
- エアドロップで受け取った暗号資産(取得時の課税の取り扱い)
- NFT(非代替性トークン)の取引
- DeFi(分散型金融)での運用益
特にステーキングやDeFi関連の収益については、金融商品としての性質をどう整理するかによって課税方式が変わる可能性があり、今後の法案審議や通達で明確化されることが期待されています。
2-4. 取得価額の計算方法
分離課税に移行した後も、利益の計算には取得価額(暗号資産を購入した際のコスト)が必要です。現行制度と同様に、総平均法または移動平均法のいずれかを選択して取得価額を計算することになると考えられます。
- 総平均法: 1年間の購入総額 ÷ 1年間の購入総量で1単位あたりの取得価額を算出
- 移動平均法: 購入のたびに、保有量と取得総額から1単位あたりの取得価額を再計算
いずれの方法を選択するかによって利益額が変わるケースもあるため、自分の取引パターンに合った計算方法を選ぶことが重要です。なお、現行制度では一度選択した計算方法は原則として変更できない(届出が必要)ため、新制度でも同様の取り扱いになる可能性があります。
3. 3年間の繰越控除制度 ── 損失を翌年以降に活かす仕組み
3-1. 繰越控除制度とは
繰越控除制度とは、ある年に発生した損失を翌年以降の利益から差し引くことができる制度です。暗号資産市場はボラティリティ(価格変動の大きさ)が非常に高いため、ある年に大きな損失が出て翌年に大きな利益が出るといったケースは珍しくありません。
新制度では、暗号資産取引で生じた損失を翌年以降3年間にわたって繰り越すことが可能になります。これは、上場株式等の譲渡損失に適用されている繰越控除制度と同じ仕組みです。
3-2. 繰越控除の具体例
具体的にどのように機能するのか、シミュレーションで見ていきましょう。
ケース: 2028年に500万円の損失、2029〜2031年にそれぞれ利益が出た場合
| 年度 | 暗号資産の損益 | 繰越損失の残高 | 課税対象額 | 税額(20.315%) |
|---|---|---|---|---|
| 2028年 | ▲500万円 | 500万円 | 0円 | 0円 |
| 2029年 | +200万円 | 300万円 | 0円 | 0円 |
| 2030年 | +150万円 | 150万円 | 0円 | 0円 |
| 2031年 | +300万円 | 0円 | 150万円 | 約30.5万円 |
この例では、2028年の500万円の損失が2029年から2031年にかけて順次相殺され、2031年には繰越損失を超えた150万円分のみが課税対象となります。
もし繰越控除制度がなかった場合、2029年の200万円、2030年の150万円、2031年の300万円にそれぞれ課税され、合計約131.7万円の税額となります。繰越控除を活用することで、約101万円の節税効果が生まれる計算です。
3-3. 繰越控除の適用要件
繰越控除を利用するためには、一定の要件を満たす必要があると考えられます。上場株式等の繰越控除制度を参考にすると、以下のような条件が想定されます。
損失の繰越を開始するためには、損失が発生した年の確定申告が必要です。「利益が出ていないから申告不要」と考えて申告を怠ると、繰越控除が適用できなくなる可能性があります。
繰越損失を活用する年だけでなく、損失発生年から繰越控除を適用する年まで、途切れることなく毎年確定申告を行う必要があります。
取引履歴や損益計算の根拠となる書類は、確定申告期限から一定期間保管する義務があります。
これらの要件は法案の詳細が確定した段階で明確になりますが、「損失が出た年こそ確定申告が重要」という点は覚えておいていただきたいポイントです。
3-4. 損益通算の範囲
繰越控除と合わせて注目されるのが、損益通算の範囲です。現行制度では、暗号資産の損失を他の所得(給与所得や株式の利益など)と相殺することはできません。
新制度においても、暗号資産の損益通算の範囲については慎重な検討が行われています。現時点で想定されるパターンは以下の通りです。
暗号資産同士の損益通算
ビットコインの利益とイーサリアムの損失を相殺するなど、暗号資産取引内での損益通算は可能になると見込まれています。
株式等との損益通算
株式や投資信託の損益と暗号資産の損益を相殺できるかどうかは、大きな論点の一つです。金商法の枠組みに入ることで将来的に実現する可能性はありますが、初期段階では暗号資産は独立した区分として扱われ、株式等との通算は認められない可能性もあります。この点は法案の具体的な条文を確認する必要があるでしょう。
FX(外国為替証拠金取引)との損益通算
FXも申告分離課税20%が適用されていますが、「先物取引に係る雑所得等」という区分で課税されています。暗号資産がこの区分に含まれるかどうかによって、FXとの損益通算の可否が決まることになります。
4. 金融商品取引法への移行との関係 ── なぜ金商法が前提なのか
4-1. 現行の法的枠組み
現在、暗号資産は資金決済法(資金決済に関する法律)の規制対象として位置づけられています。暗号資産交換業者は資金決済法に基づいて金融庁に登録し、利用者保護のための各種規制に従っています。
資金決済法は、もともと電子マネーや資金移動業(送金サービス)を規制するために制定された法律であり、暗号資産の取引は2017年の法改正で後から追加されたものです。そのため、暗号資産を「金融商品」として十分に規制・保護するには限界があるという指摘が以前からありました。
4-2. 金商法移行の意義
暗号資産を金融商品取引法の規制対象に移行させることには、いくつかの重要な意義があります。
投資者保護の強化
金商法には、不公正取引の禁止(インサイダー取引規制、相場操縦の禁止など)、情報開示義務、適合性の原則など、投資者保護のための包括的な規制が整備されています。暗号資産にもこれらの規制が適用されることで、市場の健全性が向上すると期待されています。
税制改正の法的根拠
申告分離課税の適用は、暗号資産が金商法上の「金融商品」として位置づけられることが前提となっています。金商法の規制対象でなければ、株式や投資信託と同等の税制を適用する法的根拠が弱くなるためです。
機関投資家の参入促進
金商法の規制枠組みに入ることで、機関投資家にとっての法的な不確実性が低減されます。年金基金や保険会社などが暗号資産への投資を検討する際、金商法による規制・保護が整備されていることは大きな判断材料になると考えられます。
4-3. 金商法改正のスケジュール
金商法の改正は、暗号資産の税制改正より先に進める必要があります。2026年3月時点で想定されているスケジュールは以下の通りです。
金商法の改正法案は、金融庁の金融審議会での議論を経て取りまとめられます。2025年の段階で金融審議会のワーキンググループが暗号資産の規制のあり方について議論を進めており、法案化に向けた準備が着実に進んでいるとされています。
4-4. 金商法移行で変わること
金商法の規制対象になることで、暗号資産交換業者や投資家にはいくつかの変化が生じることが予想されます。
交換業者に対する影響
- インサイダー取引規制の適用(上場前情報の管理強化)
- 相場操縦行為の規制強化
- 金融商品取引業者としての登録要件への対応
- 自己売買規制の適用
- 情報開示義務の拡充
投資家に対する影響
- 分別管理の一層の強化による資産保護の向上
- 投資勧誘ルールの適用(適合性の原則、説明義務など)
- 苦情処理・紛争解決の仕組みの整備
- 税制上の優遇措置(分離課税・繰越控除)の適用
これらの変化は、短期的にはコンプライアンスコストの増加として業者に影響する可能性がありますが、中長期的には市場の信頼性向上につながると期待されています。

5. 海外の暗号資産税制との比較 ── 日本はようやく世界標準へ
5-1. 主要国の暗号資産税率一覧
暗号資産の税制は国によって大きく異なります。日本の新税制が国際的にどの程度の水準なのか、主要国との比較で確認してみましょう。
| 国・地域 | 課税方式 | 税率 | 損失繰越 | 特記事項 |
|---|---|---|---|---|
| 日本(現行) | 総合課税 | 最大55% | 不可 | 雑所得として合算 |
| 日本(改正後) | 分離課税 | 約20.315% | 3年間 | 2028年1月〜見込み |
| 米国 | キャピタルゲイン税 | 0〜20% | 無制限 | 保有1年超で長期税率 |
| 英国 | キャピタルゲイン税 | 10〜20% | 無制限 | 年間免税枠あり |
| ドイツ | 所得税 | 0〜45% | ― | 1年超保有で非課税 |
| フランス | 一律課税 | 30% | ― | 社会保障負担を含む |
| シンガポール | ― | 0% | ― | キャピタルゲイン非課税 |
| UAE(ドバイ) | ― | 0% | ― | 所得税自体が存在しない |
| ポルトガル | キャピタルゲイン税 | 28% | ― | 1年超保有で非課税 |
| 韓国 | 分離課税 | 20% | ― | 年間250万ウォン控除 |
| オーストラリア | キャピタルゲイン税 | 最大45% | 無制限 | 1年超保有で50%減額 |
この表から読み取れるように、日本の現行制度は主要国の中でも突出して税負担が重い部類に入ります。改正後の20.315%という税率は、国際的に見ても競争力のある水準に近づくことになります。
5-2. 米国の暗号資産税制
米国では、暗号資産はIRS(内国歳入庁)によって「財産(Property)」として分類されており、売却益にはキャピタルゲイン税が課されます。
最大の特徴は、保有期間による税率の違いです。
- 短期キャピタルゲイン(保有1年以下): 通常の所得税率(10〜37%)
- 長期キャピタルゲイン(保有1年超): 0%、15%、20%の3段階
長期保有の場合、所得水準によっては0%(非課税)になるケースもあり、長期投資を税制面で優遇する仕組みが整っています。また、損失の繰越は無期限で可能であり、年間3,000ドルまでは他の所得との相殺も認められています。
日本の新制度と比較すると、保有期間による税率の区別がない点(一律20%)では日本のほうがシンプルですが、損失繰越の期間(3年間 vs 無期限)では米国のほうが有利といえるでしょう。
5-3. ドイツの暗号資産税制
ドイツの暗号資産税制は、投資家にとって非常に魅力的な特徴を持っています。1年以上保有した暗号資産の売却益は完全に非課税となるのです。
この制度は、暗号資産をドイツ民法上の「私的な売却取引(Privates Veräußerungsgeschäft)」として扱うことに基づいています。私的な売却取引では、取得から1年以内に売却した場合のみ課税対象となり、1年を超えて保有してから売却すれば非課税となります。
さらに、1年以内の売却であっても、年間600ユーロ(2024年時点)までの利益は免税です。
この仕組みは長期投資家にとって極めて有利ですが、1年以内の短期売却では最大45%の所得税率が適用されるため、トレーダーにとっては必ずしも有利とはいえません。
5-4. シンガポール・ドバイの非課税政策
シンガポールやUAE(ドバイ)では、暗号資産のキャピタルゲインに対して税金が課されません。これらの国・地域が暗号資産関連のスタートアップやファンドの集積地となっている背景には、こうした税制上の優位性があります。
ただし、非課税だからといって単純に「有利」とはいえない側面もあります。シンガポールやドバイは生活コストが高く、日本からの移住には相当な準備が必要です。また、税制以外の要因(言語、医療、教育、社会保障など)も総合的に考慮する必要があるでしょう。
日本の税率が20%に引き下げられれば、「節税のためだけに海外移住する」というインセンティブは大幅に減少すると考えられます。日本に住みながら暗号資産投資を行う環境が、大きく改善されることは間違いないでしょう。
5-5. 日本の新税制の国際的な位置づけ
改正後の日本の暗号資産税制を国際的に評価すると、以下のように整理できます。
日本が有利な点
- 一律20%のシンプルな税率(米国のような保有期間による区別がなく、短期トレードでも20%)
- 金商法による投資者保護の充実(インフラとしての信頼性)
日本がやや不利な点
- 損失繰越が3年間に限定(米国は無期限)
- 保有期間による税率軽減がない(ドイツは1年超で非課税)
- 年間免税枠がない(英国には年間免税枠がある)
総合的に見ると、現行の最大55%からの大幅な引き下げにより、日本の暗号資産税制は世界標準に近い水準に到達するといえます。ただし、最も税制が優遇されている国々(シンガポール、ドイツなど)と比べると、まだ差があるのも事実です。
6. 投資家への影響シミュレーション ── 税負担はどれだけ変わるのか
6-1. シミュレーションの前提条件
ここでは、いくつかの典型的なケースについて、現行制度と新制度での税負担を比較してみましょう。以下の前提条件でシミュレーションを行います。
- 投資家は会社員(給与所得のみ)
- 社会保険料控除、基礎控除は考慮するが、その他の控除は省略
- 復興特別所得税は簡略化のため省略(実際には上乗せされます)
- 住民税は一律10%として計算
- 新制度の税率は20%(所得税15%+住民税5%)として計算
6-2. ケース1: 給与500万円 + 暗号資産利益100万円
現行制度(総合課税)
- 合計所得: 600万円(給与所得346万円 + 暗号資産100万円の場合、課税所得は約398万円)
- 暗号資産利益がない場合の課税所得: 約298万円
- 暗号資産100万円にかかる限界税率: 所得税20%+住民税10% = 約30%
- 暗号資産利益に対する税額: 約30万円
新制度(分離課税)
- 暗号資産利益100万円 × 20% = 20万円
差額: 約10万円の節税
給与所得が500万円程度の方の場合、暗号資産利益が100万円程度であっても約10万円の差が出ます。「それほど大きくない」と感じるかもしれませんが、利益が増えるにつれてこの差は拡大していきます。
6-3. ケース2: 給与700万円 + 暗号資産利益500万円
現行制度(総合課税)
- 給与所得520万円 + 暗号資産500万円 = 合計所得約1,020万円
- 課税所得は約972万円(各種控除後)
- 暗号資産500万円にかかる限界税率: 所得税33%(一部23%区間含む)+住民税10%
- 暗号資産利益に対する税額: 約175〜195万円
新制度(分離課税)
- 暗号資産利益500万円 × 20% = 100万円
差額: 約75〜95万円の節税
このケースでは、年間で約80〜90万円もの差が生じます。暗号資産の利益が大きくなるほど、総合課税の累進税率の影響が強くなるため、分離課税の恩恵も大きくなります。
6-4. ケース3: 給与1,000万円 + 暗号資産利益2,000万円
現行制度(総合課税)
- 給与所得805万円 + 暗号資産2,000万円 = 合計所得約2,805万円
- 課税所得は約2,757万円(各種控除後)
- 暗号資産2,000万円にかかる限界税率: 所得税40%+住民税10% = 50%
- 暗号資産利益に対する税額: 約850〜920万円
新制度(分離課税)
- 暗号資産利益2,000万円 × 20% = 400万円
差額: 約450〜520万円の節税
高所得者で暗号資産の利益が大きいケースでは、文字通り「数百万円単位」の税負担軽減となります。この差額は、投資に再投入できる資金が大幅に増えることを意味しています。
6-5. ケース4: 繰越控除を活用した3年間のシミュレーション
最後に、繰越控除の効果を含めた3年間のシミュレーションを見てみましょう。
前提: 給与所得500万円の会社員
| 年度 | 暗号資産損益 | 現行制度の税額 | 新制度の税額 |
|---|---|---|---|
| 1年目 | ▲300万円 | 0円(損失通算不可) | 0円(繰越損失300万円) |
| 2年目 | +400万円 | 約120万円 | 20万円(400万−300万=100万×20%) |
| 3年目 | +200万円 | 約60万円 | 40万円(200万×20%) |
| 合計 | +300万円 | 約180万円 | 60万円 |
3年間の合計で見ると、新制度では現行制度と比べて約120万円の税負担軽減となります。1年目の損失が2年目の利益から控除されることで、実質的な税負担が大きく減少しているのがわかります。
このシミュレーションは簡略化したものですが、分離課税と繰越控除の組み合わせが投資家にとっていかに大きなメリットをもたらすか、おおよそのイメージは掴んでいただけたのではないでしょうか。
7. 注意点と実務上の留意事項 ── 施行前の売却タイミングを考える
7-1. 適用開始時期に関する注意
新税制の適用は金商法の施行翌年の1月1日からとされています。2027年に金商法が施行された場合、2028年1月1日以降の取引から新税制が適用されることになります。
つまり、2027年12月31日までに行った取引は現行の総合課税が適用されるということです。この「境界線」は投資判断に影響を与える可能性があるため、正確な施行日が発表された際にはしっかりと確認しておく必要があります。
7-2. 施行前に売却すべきか、待つべきか
「新税制が適用される2028年まで売却を待ったほうが得なのか」という疑問を持つ方は多いのではないでしょうか。この判断は一概にはいえませんが、いくつかの視点から考えてみましょう。
売却を待つことが有利になりうるケース
- 含み益が大きく、現行制度では高い税率が適用される場合
- 短期的に大きな価格下落リスクが低いと判断している場合
- 暗号資産を長期保有する意向がある場合
早めに売却を検討すべきケース
- 暗号資産の価格が大きく上昇しており、利益確定のタイミングとして適切と判断した場合
- 金商法の施行が遅れるリスクを考慮したい場合
- 現行制度でも比較的低い税率区間に収まる所得水準の場合
重要なのは、税制の変更はあくまで投資判断の一要素に過ぎないということです。税率が下がるのを待っている間に暗号資産の価格が大幅に下落すれば、節税効果以上の損失を被る可能性もあります。税制と価格動向の両方を踏まえた総合的な判断が求められるでしょう。
7-3. 確定申告の準備
新税制の適用が始まると、確定申告の方法も変わることが予想されます。特に、繰越控除を利用するためには毎年の確定申告が必須となるため、以下の点に留意しておきましょう。
取引履歴の整理
暗号資産の取引履歴は、確定申告の基礎資料となります。複数の取引所を利用している場合は、それぞれの取引所から年間取引報告書や取引履歴のCSVデータをダウンロードし、保管しておくことをおすすめします。
損益計算ツールの活用
取引回数が多い場合、手作業での損益計算は困難です。暗号資産専用の損益計算ツール(Cryptact、Gtaxなど)を活用して、正確な損益額を算出することを検討してみてください。
税理士への相談
暗号資産の税務は複雑な側面があり、税制改正の過渡期には特に判断が難しいケースが出てくる可能性があります。利益額が大きい場合や取引内容が複雑な場合は、暗号資産の税務に詳しい税理士に相談することも選択肢の一つです。
7-4. 法人での暗号資産保有について
今回の税制改正は主に個人投資家を対象としていますが、法人で暗号資産を保有しているケースについても触れておきましょう。
法人が保有する暗号資産については、2023年度の税制改正で「自社発行の暗号資産で継続保有するもの」について期末時価評価課税の対象外とする措置が講じられました。さらに2024年度の改正では、第三者が発行した暗号資産についても一定の条件下で期末時価評価課税の対象外とする措置が拡大されています。
今回の個人向け分離課税の導入により、「節税のために法人を設立して暗号資産を保有する」というインセンティブは低下すると考えられます。法人税の実効税率(約30%前後)と比較して、個人の分離課税20%のほうが低くなるケースが多いためです。
ただし、暗号資産以外の事業収入がある場合や、経費を計上したい場合など、法人格を活用するメリットが残るケースもあります。個人と法人のどちらで保有するのが有利かは、個々の状況によって異なるため、専門家に相談されることをおすすめします。
7-5. DeFi・ステーキング・NFTの課税はどうなるのか
分離課税の対象範囲については、前述の通りまだ不透明な部分があります。特に以下のような取引については、法案の詳細や国税庁の通達を注視する必要があるでしょう。
ステーキング報酬
ステーキング(暗号資産をネットワークに預けて報酬を得る仕組み)で得た報酬は、現行制度では「取得した時点の時価」で雑所得として課税されます。新制度でこの取り扱いがどう変わるのか、特に報酬取得時と売却時の課税の切り分けについて注目されています。
DeFiでの運用益
流動性マイニング、イールドファーミング、レンディングなどDeFiで得た収益の課税方式は、取引の性質によって異なる可能性があります。金商法の規制対象にDeFiプロトコルがどこまで含まれるのかという点とも密接に関わる論点です。
NFTの取引
NFT(非代替性トークン)は暗号資産とは異なる性質を持つデジタル資産であり、分離課税の対象に含まれるかどうかは現時点では不明確です。アート系NFTは「譲渡所得」として総合課税が適用される可能性もあり、今後の法整備を待つ必要があります。
7-6. 暗号資産の相続・贈与への影響
暗号資産の相続や贈与についても、金商法への移行に伴い何らかの影響が及ぶ可能性があります。
現行制度では、暗号資産を相続した場合、相続時の時価で評価され、相続税の課税対象となります。その後売却した場合は、相続時の時価を取得価額として譲渡益を計算します。
新制度においてもこの基本的な枠組みは維持されると考えられますが、分離課税の適用により、相続後の売却時の税負担が軽減される効果があります。
7-7. 経過措置の可能性
大規模な税制改正の際には、急激な変更を緩和するための経過措置が設けられることがあります。今回の改正でも、以下のような経過措置が検討される可能性が考えられます。
- 施行前に取得した暗号資産の取得価額の引き継ぎルール
- 施行年をまたぐ取引の取り扱い
- 確定申告方法の移行期間
これらの詳細は法案の確定を待つ必要がありますが、投資家としては経過措置の内容にも注意を払っておく必要があるでしょう。
まとめ
2026年度税制改正大綱に盛り込まれた暗号資産の分離課税20%と3年間の繰越控除制度は、日本の暗号資産投資環境を大きく改善するものと期待されています。
本記事の要点を振り返ってみましょう。
- 分離課税20%: 現行の最大55%から大幅に引き下げ。所得水準に関わらず一律の税率が適用される
- 3年間の繰越控除: 暗号資産取引の損失を翌年以降3年間繰り越し可能。ボラティリティの高い暗号資産市場において、投資家の税負担を平準化する効果が期待される
- 金商法施行が前提: 金融商品取引法の改正・施行が先行し、その翌年1月1日から新税制が適用。2028年1月開始が現時点での見通し
- 海外との比較: 改正後は国際的に見ても競争力のある税率水準に到達。ただし、ドイツの長期保有非課税やシンガポールの完全非課税と比べるとまだ差がある
- 影響シミュレーション: 給与所得700万円+暗号資産利益500万円のケースで、年間約80〜90万円の税負担軽減
ただし、いくつかの注意点も忘れてはなりません。適用開始が2028年1月の見込みであること、金商法の施行が前提であること、DeFi・ステーキング・NFTなどの新しい取引形態への適用範囲がまだ不明確であることなど、確定していない部分も少なくありません。
税制の変更は投資戦略に直結するテーマです。今後の国会審議や金融庁の動向を注視しながら、ご自身の投資方針を検討していただければと思います。大きな投資判断を行う際には、暗号資産の税務に詳しい税理士など専門家への相談もあわせて検討してみてください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 分離課税20%はいつから適用されますか?
金融商品取引法の改正・施行が前提となっており、金商法施行の翌年1月1日から適用される予定です。金商法が2027年に施行された場合、2028年1月1日以降の取引から新税制が適用される見通しです。ただし、金商法の施行時期によって前後する可能性があるため、正式な発表を確認することをおすすめします。
Q2. 分離課税が適用されるまでの間は、現行の総合課税のままですか?
はい、新税制の適用が開始されるまでは現行制度(雑所得・総合課税・最大55%)がそのまま適用されます。2027年中の取引は現行制度で課税される点にご注意ください。
Q3. 繰越控除を利用するために、特別な手続きは必要ですか?
繰越控除を利用するためには、損失が発生した年の確定申告が必要と考えられます。上場株式等の繰越控除制度と同様に、損失が発生した年から繰越控除を適用する年まで、毎年連続して確定申告を行う必要がある見込みです。損失が出た年こそ、確定申告を忘れずに行うことが重要です。
Q4. ビットコイン以外の暗号資産(イーサリアムやリップルなど)も分離課税の対象になりますか?
金商法の規制対象となる暗号資産であれば、ビットコイン以外の暗号資産も分離課税の対象になると考えられます。ただし、金商法の規制対象となる暗号資産の範囲は法案の詳細によって決まるため、すべての暗号資産が自動的に対象になるかどうかは現時点では確定していません。国内の暗号資産交換業者で取り扱われている主要な暗号資産については、基本的に対象になると見込まれています。
Q5. 暗号資産の利益と株式の利益を損益通算できるようになりますか?
現時点では、暗号資産と株式等の損益通算が認められるかどうかは確定していません。金商法の枠組みに入ることで将来的に実現する可能性はありますが、改正初期の段階では暗号資産は独立した区分として扱われ、株式等との損益通算は認められない可能性もあります。この点は法案の条文や国税庁の通達で明確化されることを待つ必要があるでしょう。
Q6. 海外の取引所で得た利益も分離課税の対象になりますか?
日本の居住者であれば、国内外を問わずすべての暗号資産取引が課税対象となります。海外の取引所で得た利益も同様に分離課税が適用されると考えられますが、海外取引所の利用に関する規制が金商法の改正でどう変わるかについても注視が必要です。なお、日本の居住者が海外取引所を利用する場合、取引履歴の管理や確定申告の際の損益計算は自己責任で行う必要がある点に変わりはありません。
Q7. 法人で暗号資産を保有している場合、分離課税は適用されますか?
今回の分離課税は個人の所得税に関する改正であり、法人が保有する暗号資産には適用されません。法人の場合は、引き続き法人税の枠組みで課税されます。ただし、個人の分離課税率20%が法人税の実効税率(約30%前後)より低くなるため、個人保有と法人保有のどちらが有利かの判断が変わる可能性があります。
※本記事は2026年3月時点の情報に基づいて作成しています。税制改正の詳細は今後の国会審議や法案の確定によって変更される可能性があります。
※本記事は情報提供を目的としており、投資を推奨するものではありません。暗号資産への投資は元本割れのリスクがあります。投資判断はご自身の責任で行ってください。
※税務に関する具体的な判断については、税理士など専門家にご相談ください。本記事の内容に基づいて行った投資・税務上の判断により生じた損害について、当サイトは一切の責任を負いません。
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