DeFi(分散型金融)は2020年の「DeFiサマー」をきっかけに急速な成長を遂げましたが、その過程で多くの構造的な課題も浮き彫りになりました。高利回りに依存したインセンティブ設計、流動性の持続性の欠如、そしてプロトコルが抱える「傭兵的資本」の問題は、DeFi 1.0の限界として広く認識されるようになっています。
こうした課題を解決するために登場したのが「DeFi 2.0」と呼ばれる新しいプロトコル群です。DeFi 2.0は、プロトコル自身が流動性を所有する「プロトコル所有流動性(POL)」という概念を中心に、より持続可能な仕組みの構築を目指しています。OlympusDAOのボンディングメカニズム、Tokemakのリアクター型流動性、Frax Financeのアルゴリズミックステーブルコインなど、DeFi 2.0には多様なアプローチが存在します。
本記事では、DeFi 1.0が抱えていた問題点からDeFi 2.0の主要なプロトコルの仕組み、そして2026年時点での進化と課題まで、体系的に解説していきます。DeFiの流動性モデルがどのように進化してきたのかを理解することで、今後の暗号資産エコシステムの方向性を見極める一助となれば幸いです。
目次
1. DeFi 1.0の構造的な課題
1-1. 流動性マイニングの功罪
DeFi 1.0の成長を牽引した最大のエンジンは「流動性マイニング」でした。これは、DEX(分散型取引所)やレンディングプロトコルに流動性を提供するユーザーに対して、プロトコルのガバナンストークンを報酬として配布する仕組みです。
Compoundが2020年6月にCOMPトークンの流動性マイニングを開始したことをきっかけに、SushiSwap、Yearn Finance、Curve Financeなど多くのプロトコルが同様の仕組みを導入しました。ユーザーは高いAPY(年利)を求めて資金を投入し、DeFiプロトコルのTVL(Total Value Locked:預かり資産総額)は急速に増加していきました。
しかし、この仕組みにはいくつかの根本的な問題が内在していました。
まず、流動性マイニングの報酬は本質的にはトークンのインフレーションによって賄われています。プロトコルが新たにトークンを発行して流動性提供者に配布するため、トークンの供給量は継続的に増加し、長期的にはトークン価格の下落圧力となります。初期の参加者は高い利回りを享受できますが、時間の経過とともにAPYは低下し、トークン価格も下がるという構造的な問題を抱えていました。
次に、この仕組みは「傭兵的資本(Mercenary Capital)」と呼ばれる問題を生み出しました。流動性提供者の多くは、プロトコルへの忠誠心や長期的なコミットメントではなく、純粋に利回りだけを追求する資本でした。より高い利回りを提供するプロトコルが登場すると、資金は即座にそちらに移動し、元のプロトコルの流動性は急速に枯渇するという現象が繰り返されました。
1-2. 流動性の持続可能性の問題
DeFi 1.0の流動性モデルが抱える最大の問題は、その持続可能性にありました。
流動性マイニングによって集められた資金は、プロトコルが「借りている」ものであり、「所有している」ものではありません。流動性提供者はいつでも自由に資金を引き出すことができ、プロトコル側にはそれを引き止める手段がほとんどありませんでした。
この問題は数値にも表れていました。多くのDeFiプロトコルでは、流動性マイニングの報酬率が引き下げられると、数日から数週間のうちにTVLが大幅に減少するケースが頻発しました。プロトコルが自らの収益からインセンティブを賄えるほどの手数料収入を生み出せていなかったため、トークン報酬の減少は直接的に流動性の流出につながっていたのです。
さらに、流動性マイニングで配布されたトークンの多くは、受け取った直後に市場で売却されました。これがトークン価格の下落を加速させ、残存する流動性提供者の実質的な利回りをさらに低下させるという悪循環を生み出していました。
1-3. インパーマネントロスとプロトコルの脆弱性
DeFi 1.0が抱えていたもう一つの重要な課題は、インパーマネントロス(IL:Impermanent Loss)の問題です。
AMM(自動マーケットメイカー)型のDEXに流動性を提供する際、プール内の2つのトークンの価格比率が変動すると、単にトークンを保有していた場合と比較して損失が発生する可能性があります。これがインパーマネントロスです。価格変動が大きいトークンペアほどこの損失は大きくなり、流動性マイニングの報酬がインパーマネントロスを補えないケースも少なくありませんでした。
また、DeFi 1.0の多くのプロトコルでは、スマートコントラクトの脆弱性やフラッシュローン攻撃による被害も発生していました。流動性が集中していたプロトコルが攻撃を受けると、その影響は広範囲に波及し、DeFiエコシステム全体の信頼性に傷をつけることになりました。
こうした課題の蓄積が、より持続可能な流動性モデルへの需要を高め、DeFi 2.0という新たなムーブメントの誕生につながっていきました。
2. DeFi 2.0とは何か
2-1. DeFi 2.0の基本概念
DeFi 2.0とは、DeFi 1.0の構造的な課題を解決するために設計された次世代のDeFiプロトコル群を指す概念です。この用語は2021年後半頃から暗号資産コミュニティで使われ始め、特にOlympusDAOの登場がその象徴となりました。
DeFi 2.0の核心となる考え方は、「プロトコルが流動性を借りるのではなく、所有する」というパラダイムシフトです。DeFi 1.0では、プロトコルは流動性マイニングの報酬を通じて外部から流動性を「レンタル」していましたが、DeFi 2.0では、プロトコル自身がLP(Liquidity Provider)ポジションを保有することで、流動性の持続性を確保しようとしています。
この「プロトコル所有流動性(Protocol Owned Liquidity:POL)」という概念は、DeFi 2.0を理解するうえで最も重要なキーワードの一つです。プロトコルが自ら流動性を所有することで、外部の流動性提供者に依存せずとも最低限の流動性を確保でき、市場環境の悪化時にも流動性が急速に枯渇するリスクを軽減できるとされています。
2-2. DeFi 2.0の主要な特徴
DeFi 2.0には、いくつかの共通する特徴があります。
プロトコル所有流動性(POL): 前述の通り、プロトコル自身がLPトークンを保有し、流動性の基盤を自ら管理します。これにより、傭兵的資本への依存度を低下させ、流動性の安定性を高めることができます。
ボンディングメカニズム: ユーザーがLPトークンや特定の資産をプロトコルに提供する代わりに、プロトコルのネイティブトークンを割引価格で購入できる仕組みです。OlympusDAOがこの手法を広く普及させました。ボンディングによってプロトコルはLPトークンを直接取得し、POLを増加させることができます。
投票エスクロー型ガバナンス(veTokenomics): トークンを一定期間ロックすることで議決権や追加の報酬を得られる仕組みです。Curve Financeが先駆けとなったveCRVモデルは、多くのプロトコルに採用されています。トークンのロックアップにより売り圧力が軽減され、長期的なトークン保有者の利益が優先される設計となっています。
リアルイールド(Real Yield): トークンのインフレーションではなく、プロトコルが実際に生み出す手数料収入から報酬を分配する仕組みです。これにより、持続可能な利回り構造を実現することを目指しています。
2-3. DeFi 1.0からDeFi 2.0への移行の背景
DeFi 2.0への移行が進んだ背景には、市場環境の変化もあります。
2021年後半から2022年にかけての暗号資産市場の下落局面では、多くのDeFi 1.0プロトコルが流動性の急速な流出に直面しました。トークン価格の下落、TVLの減少、利回りの低下が連鎖的に進行し、いわゆる「DeFiの冬」を迎えることになりました。
この経験は、持続可能な流動性モデルの重要性を暗号資産コミュニティに強く印象づけました。単に高いAPYを提供するだけでは持続的な成長は実現できず、プロトコルの収益構造、トークノミクスの設計、そしてガバナンスの仕組みまでを包括的に考慮する必要があるという認識が広がったのです。
また、DeFi利用者の成熟も移行を後押しした要因の一つです。初期のDeFiユーザーの多くは高利回りだけを追求していましたが、市場の荒波を経験したことで、プロトコルの持続可能性やリスク管理を重視するユーザーが増加していきました。
3. プロトコル所有流動性(POL)の仕組み
3-1. POLの基本的な考え方
プロトコル所有流動性(POL)は、DeFi 2.0の中核をなす概念です。その基本的な考え方は非常にシンプルで、「プロトコルのトレジャリー(金庫)がAMMのLPトークンを直接保有する」というものです。
従来のDeFi 1.0モデルでは、流動性の構造は以下のようになっていました。
この構造では、プロトコルは流動性を維持するために常にトークンを発行し続ける必要があり、トークンの希薄化が避けられませんでした。
POLモデルでは、この構造が根本的に変わります。
この仕組みにより、プロトコルは外部の流動性提供者に依存せずとも、最低限の流動性を確保できるようになります。市場が下落してもプロトコル自身がLPポジションを維持するため、流動性の急激な枯渇を防ぐことができます。
3-2. POLの利点と具体的な効果
POLモデルには、いくつかの重要な利点があります。
流動性の安定性: プロトコルが自ら流動性を所有しているため、市場環境の変化に伴う流動性の急速な流出リスクが軽減されます。DeFi 1.0のように、利回りが低下した途端に資金が逃げ出すという現象が起きにくくなります。
手数料収入の内部化: AMM上で発生する取引手数料は、従来は外部の流動性提供者に分配されていましたが、POLモデルではプロトコルのトレジャリーに蓄積されます。この手数料収入は、プロトコルの運営費用やさらなる流動性の拡充、あるいはトークン保有者への還元に充てることができます。
トークンの売り圧力の軽減: 流動性マイニングの報酬としてトークンを大量に配布する必要がないため、トークンのインフレーション率を抑えることができます。これにより、長期的なトークン価格の安定に寄与する可能性があります。
プロトコルの財務基盤の強化: トレジャリーにLPトークンやその他の資産が蓄積されることで、プロトコルの財務基盤が強化されます。これは、将来の開発資金の確保や、市場の下落局面でのバッファーとして機能することが期待されます。
3-3. POLの課題とリスク
一方で、POLモデルにも固有の課題やリスクが存在します。
インパーマネントロスの負担: プロトコルがLPポジションを保有するということは、インパーマネントロスのリスクもプロトコルが負担するということを意味します。自社トークンの価格が大きく変動した場合、トレジャリーの価値が目減りする可能性があります。
中央集権化の懸念: プロトコルのトレジャリーに大量のLPトークンが集中することで、流動性の管理がDAO(分散型自律組織)の意思決定に大きく依存するようになります。DAOのガバナンスが適切に機能しない場合、流動性の管理が不適切になるリスクがあります。
初期の流動性確保の困難さ: POLモデルは、プロトコルがある程度の規模に成長してからこそ有効に機能しますが、ローンチ直後の段階では十分なPOLを確保することが困難です。そのため、多くのプロトコルは初期段階では従来型の流動性マイニングとPOLのハイブリッドモデルを採用しています。
4. OlympusDAOとボンディングメカニズム
4-1. OlympusDAOの基本設計
OlympusDAOは、DeFi 2.0の象徴的なプロトコルとして2021年に大きな注目を集めました。OHMトークンを中心としたそのエコシステムは、従来のDeFiプロトコルとは根本的に異なるアプローチで流動性の問題に取り組んでいます。
OlympusDAOの基本的な設計思想は、「アルゴリズミックな通貨政策に基づく準備通貨」の創出でした。OHMトークンは、トレジャリーに蓄積された資産(DAI、FRAX、ETHなどのLPトークンを含む)によって裏付けられており、1 OHM = 1 DAI以上のバッキング(裏付け)が保証される設計となっています。
重要なのは、OHMは「1 DAI にペッグされる」のではなく、「1 DAI 以上の価値で裏付けられる」という点です。OHMの市場価格はバッキング価格を大きく上回ることもあれば、バッキング価格に近づくこともありますが、理論上はバッキング価格を下回ることはないとされていました。
4-2. ボンディングの仕組み
OlympusDAOが普及させたボンディングメカニズムは、POLを構築するための具体的な手段です。
ボンディングとは、ユーザーがLPトークンや特定の資産(DAI、wETHなど)をプロトコルのトレジャリーに預ける代わりに、OHMトークンを割引価格で購入できる仕組みです。ただし、購入したOHMは即座に全額受け取れるわけではなく、通常5日間程度のベスティング(権利確定)期間が設定されています。
具体的な流れは以下の通りです。
このメカニズムにより、プロトコルはLPトークンを直接取得してPOLを構築でき、ユーザーは市場価格よりも安くOHMを入手できるという、双方にメリットのある仕組みが実現されます。
ボンディングの割引率は、市場の需要と供給に基づいて動的に調整されます。ボンドの需要が高い場合は割引率が低下し、需要が低い場合は割引率が上昇するようになっています。
4-3. ステーキングと(3,3)のゲーム理論
OlympusDAOのもう一つの重要な要素は、ステーキングメカニズムです。ユーザーはOHMをステーキングすることで、sOHM(staked OHM)を受け取り、プロトコルの収益から定期的にリベース報酬を得ることができます。
ここで有名になったのが「(3,3)」というゲーム理論的なナラティブです。これは、参加者がステーキング(協力)、ボンディング(部分的協力)、売却(裏切り)のいずれかの行動を取る場合に、全員がステーキングする状態((3,3))が最も望ましい均衡であるという考え方です。
- (3,3):全員がステーキング → OHM価格上昇 → 全員が恩恵を受ける
- (1,1):全員がボンディング → プロトコルにとってはプラスだが、価格上昇は限定的
- (-3,-3):全員が売却 → OHM価格下落 → 全員が損失
このナラティブは、コミュニティの結束力を高め、OHMのステーキング率を非常に高い水準に維持する効果がありました。最盛期にはOHMの90%以上がステーキングされていたとされています。
しかし、このゲーム理論的な分析には批判もありました。実際の市場では参加者は無限ではなく、新規参加者の流入が止まると既存参加者の利益が減少するポンジ的な構造を指摘する声もありました。
4-4. OlympusDAOの教訓と「Olympus Pro」
OlympusDAOの市場価格は、2021年後半のピーク時から大幅に下落しました。(3,3)の均衡が崩れ、多くのステーカーが売却に転じたことで、OHMの価格は急速に低下しました。
この経験から得られた教訓は重要です。
- ゲーム理論的なナラティブだけでは長期的な価値の維持は困難であること
- 過度に高いAPYは持続不可能であり、新規参加者の減少とともに崩壊するリスクがあること
- POLそのものの概念は有効だが、トークノミクスの設計全体が持続可能である必要があること
一方で、OlympusDAOが開発した「Olympus Pro」(現在は「Bond Protocol」として独立)は、ボンディングの仕組みを他のプロトコルにも提供するBonds-as-a-Service(BaaS)プラットフォームとして発展しました。多くのDeFiプロトコルがこのサービスを活用してPOLの構築に取り組んでおり、ボンディングメカニズム自体はDeFiの標準的なツールの一つとして定着しつつあります。
5. 主要なDeFi 2.0プロトコルの比較
5-1. Tokemak:リアクター型の流動性誘導
Tokemakは、DeFi 2.0の文脈で注目されたもう一つのプロトコルです。Tokemakのアプローチは「流動性の誘導(Liquidity Direction)」と呼ばれ、OlympusDAOとはまた異なる角度から流動性の問題に取り組んでいます。
Tokemakの仕組みでは、ユーザーは特定のトークンを「リアクター」と呼ばれるプールに預けます。リアクターに預けられた資産は、TOKEトークンの保有者(リクイディティ・ディレクター)の投票によって、様々なDEXに流動性として配分されます。
つまり、Tokemakは流動性の「ルーター」のような役割を果たし、市場の需要に応じて流動性を最適な場所に誘導することを目指しています。流動性提供者は単一のトークンを預けるだけでよく、ペアを組む必要がないため、インパーマネントロスのリスクから解放されるという利点があります。
ただし、Tokemakのモデルにも課題はありました。TOKEトークンの価格が下落した場合、リアクターへのインセンティブが低下し、流動性の確保が困難になるという循環的な問題が指摘されていました。また、プロトコルの複雑さゆえに、一般のDeFiユーザーにとっては理解のハードルが高いという点も普及の障壁となっていました。
5-2. Frax Finance:アルゴリズミックステーブルコインとPOL
Frax Financeは、部分的にアルゴリズミックな設計を持つステーブルコインFRAXを中心としたプロトコルです。FRAXは当初、USDC(担保部分)とFXS(アルゴリズム部分)のハイブリッドモデルで1ドルへのペグを維持する設計でした。
DeFi 2.0の文脈でFrax Financeが注目される理由は、そのPOL戦略にあります。Fraxはプロトコルのトレジャリーで大量のCurve LPトークンやConvex CVXトークンを保有し、Curveの「Gauge Wars(ゲージ戦争)」において大きな影響力を持っていました。
Curve Financeのゲージシステムでは、veCRV(ロックされたCRVトークン)の保有者がCRVの排出先を投票で決めることができます。Fraxは大量のCVXを通じてCurveのゲージに影響力を持ち、FRAXプールへのCRV報酬を確保するという戦略を取っていました。
これは「Curve Wars(カーブウォーズ)」とも呼ばれる現象で、複数のプロトコルがCurve上での流動性インセンティブを巡って競争する状況を生み出しました。Frax Financeはこの競争において非常に戦略的なポジションを確立し、POLの活用事例として注目を集めました。
2023年以降、FraxはFRAX v3としてモデルを進化させ、完全担保型への移行を進めています。市場環境の変化やTerraUSDの崩壊を受けて、アルゴリズミック部分への依存度を下げ、より安定した設計へとシフトしています。
5-3. Liquity:ガバナンスフリーのレンディング
Liquityは、厳密にはDeFi 2.0として分類されるプロトコルではありませんが、DeFi 1.0の課題を独自のアプローチで解決している点で注目に値します。
Liquityの最大の特徴は、ガバナンストークンが存在しない(ガバナンスフリー)という設計です。LUSDステーブルコインの発行にはETHの過剰担保が必要で、利息は発生せず、借入時に一度だけ手数料が課される仕組みとなっています。
また、Liquityはイミュータブル(不変)なスマートコントラクトとして設計されており、デプロイ後はアップグレードやパラメータの変更ができません。これにより、ガバナンス攻撃やパラメータの不適切な変更によるリスクが排除されています。
Liquity v2では、ユーザーが自ら金利を設定できる仕組みが導入されるなど、さらなる進化が予定されています。
5-4. Balancer:プログラマブルな流動性
Balancerは、柔軟なAMMプールの設計が可能なDEXプロトコルです。従来の50:50の固定比率プールに加え、任意の比率(例:80:20)で構成されるプールや、複数のトークンを含むプールの作成が可能です。
DeFi 2.0の文脈では、Balancerの「80/20プール」が注目されています。この設計では、プロトコルのネイティブトークン80%とETH 20%の比率でプールを構成することで、インパーマネントロスを軽減しながら流動性を提供することができます。
Balancerはまた、veBALモデル(Curve Financeのveモデルを参考にした投票エスクロー型ガバナンス)を導入し、長期的なトークン保有者がプロトコルのインセンティブ配分に影響力を持てる仕組みを構築しています。
6. veTokenomicsと投票エスクロー型ガバナンス
6-1. veTokenomicsの基本概念
veTokenomics(Vote-Escrowed Tokenomics)は、Curve Financeが先駆けとなって導入したトークン経済モデルで、DeFi 2.0の重要な構成要素の一つとなっています。
veモデルの基本的な仕組みは以下の通りです。
ロック期間が長いほど多くのveトークンを受け取れるため、プロトコルに長期的にコミットするインセンティブが生まれます。例えば、Curve Financeでは最大4年間のロックが可能で、4年ロックした場合に最大量のveCRVを受け取ることができます。
6-2. Curve Wars:veTokenomicsが生み出した競争
veTokenomicsの導入は、「Curve Wars」と呼ばれる壮大な競争を生み出しました。
Curve Financeのゲージシステムでは、veCRV保有者がCRVトークンの排出先(どのプールにCRV報酬を配分するか)を投票で決定します。より多くのCRV報酬を自分のプールに誘導できれば、流動性を引き付けやすくなるため、各プロトコルはveCRVの獲得を競い合うようになりました。
この競争で大きな役割を果たしたのがConvex Financeです。Convexは、CRVをステーキングしてcvxCRVを発行し、個別のユーザーがロックしなくてもveCRVの利益を享受できる仕組みを構築しました。さらに、CVXトークンの保有者は、Convexが保有するveCRVの投票権を間接的にコントロールすることができます。
その結果、「CRVを直接ロックするよりも、CVXを保有する方が効率的にCurveのインセンティブに影響力を持てる」という状況が生まれ、プロトコル間の競争はCVXの獲得戦にも拡大していきました。
この一連の動きは、DeFiにおけるメタガバナンス(ガバナンスのガバナンス)という概念を浮き彫りにし、トークン経済の複層的な構造を示す事例となりました。
6-3. veTokenomicsの進化と課題
veTokenomicsは多くのプロトコルに採用されましたが、同時にいくつかの課題も明らかになっています。
ロックの非流動性: veトークンのモデルでは、一度ロックした資産は期間中に引き出すことができません。これは流動性リスクを生み出し、特に市場が急落した場面では保有者にとって大きなストレスとなります。この問題に対処するため、ロックされたポジションをNFTとして取引できるようにする「ve(3,3)」モデル(Andre Cronjeが提唱)なども登場しています。
ガバナンスの偏り: 大量のveトークンを保有する「クジラ」(大口保有者)がガバナンスに過度な影響力を持つ可能性があります。veTokenomicsは長期保有を奨励する設計ですが、その結果としてガバナンスの分散性が損なわれるリスクもあります。
複雑性の増大: veTokenomics、Curve Wars、メタガバナンスといった仕組みが複層的に絡み合うことで、DeFiの構造はますます複雑になっています。一般のユーザーがこれらの仕組みを完全に理解することは困難であり、情報の非対称性が拡大しているという指摘もあります。
6-4. ve(3,3)モデル:OlympusDAOとCurveの融合
ve(3,3)モデルは、OlympusDAOの(3,3)ゲーム理論とCurveのveTokenomicsを融合させた新しいトークン経済モデルです。Andre Cronje(Yearn Financeの創設者)が提唱し、Solidly(現在はVelodrome、Aerodromeとして発展)によって実装されました。
ve(3,3)モデルの主要な特徴は以下の通りです。
- veNFT:ロックされたポジションがNFTとして表現され、二次市場での取引が可能になる
- 排出量の動的調整:veトークン保有者の比率に応じてインフレーション報酬が調整される
- 手数料とインセンティブの直接リンク:投票先のプールから発生する手数料が投票者に直接分配される
このモデルは特にOptimism上のVelodromeやBase上のAerodromeで実装され、各チェーンの主要なDEXとして成長しています。ve(3,3)はDeFi 2.0の進化形として、より洗練されたインセンティブ設計を実現しようとするものだと位置づけられています。
7. リアルイールドへの転換
7-1. リアルイールドとは何か
「リアルイールド(Real Yield)」は、DeFi 2.0の文脈で重要視されるようになった概念です。
DeFi 1.0の時代、多くのプロトコルが掲げていた高いAPY(数百%から数千%に及ぶものもありました)は、その多くがトークンのインフレーションに依存したものでした。つまり、新たに発行されたトークンを報酬として配布しているだけであり、プロトコルが実際に経済的な価値を生み出しているわけではなかったのです。
リアルイールドとは、プロトコルが実際のサービス提供を通じて稼いだ手数料収入から分配される利回りのことを指します。トークンのインフレーションではなく、プロトコルの経済活動から生まれる実質的な収益に基づいているため、より持続可能な利回り構造だと考えられています。
例えば、DEXの場合、取引手数料がリアルイールドの源泉となります。レンディングプロトコルの場合は、借入利息と貸出利息の差(スプレッド)がリアルイールドの源泉です。デリバティブプロトコルの場合は、取引手数料や清算手数料がこれに当たります。
7-2. リアルイールドを重視するプロトコルの台頭
2022年以降、リアルイールドを重視するプロトコルが増加してきました。
GMX: GMXは、Arbitrum上で稼働するパーペチュアル(無期限先物)取引プラットフォームです。GMXはリアルイールドの代表的な成功事例として広く認識されています。GLP(GMX Liquidity Provider)トークンの保有者は、プラットフォーム上の取引手数料の一部をETHまたはAVAXで受け取ることができます。トークンのインフレーションではなく、実際の取引手数料から報酬が支払われるため、プラットフォームの利用が増えるほど利回りが向上する持続可能な構造となっています。
dYdX: dYdXは、分散型のデリバティブ取引プラットフォームです。v4からは独自のアプリチェーン(dYdX Chain)に移行し、取引手数料がステーカーに直接分配される仕組みを採用しています。
Gains Network(gTrade): Gains Networkは、Polygon上で稼働するレバレッジ取引プラットフォームです。GNSトークンのステーカーに取引手数料の一部が分配される仕組みを採用しており、リアルイールドモデルの実装例として注目されています。
7-3. リアルイールドの持続可能性と限界
リアルイールドはDeFi 1.0の問題を解決する有力なアプローチですが、万能ではありません。
まず、リアルイールドの水準はプロトコルの利用状況に直接依存するため、市場の取引量が低下すると利回りも低下します。暗号資産市場の弱気相場では取引量が大幅に減少することが一般的であり、そのような環境ではリアルイールドも低水準にとどまる可能性があります。
また、リアルイールドの水準は、トークンのインフレーションに基づく利回りと比較すると、一般的にかなり低くなる傾向があります。DeFi 1.0時代に数百%のAPYに慣れたユーザーにとっては、数%から10%程度のリアルイールドは魅力に欠けると感じられるかもしれません。
しかし、この「低い」利回りこそが持続可能性の証であるともいえます。非現実的な高利回りではなく、プロトコルの実態に即した利回りを提供することで、長期的に安定した収益構造を実現できるという見方もあります。
7-4. リアルイールドとPOLの組み合わせ
DeFi 2.0の最も洗練された形態は、POLとリアルイールドの組み合わせだと考えられています。
プロトコルがPOLを保有することで安定した流動性を確保し、その流動性を活用したサービス(取引、レンディング、デリバティブなど)から手数料収入を得る。そして、その手数料収入をトークン保有者やステーカーにリアルイールドとして還元する。このサイクルが持続的に回ることで、トークンのインフレーションに依存しない自律的な経済圏が形成されるという構想です。
この理想的なモデルを完全に実現しているプロトコルはまだ多くありませんが、GMXやVelodromeなど、その方向に近いプロトコルは着実に増えてきています。
8. DeFi 2.0の課題と今後の展望
8-1. 2022年〜2023年の試練を経て
DeFi 2.0のプロトコル群も、2022年の暗号資産市場の大幅な下落(いわゆる「クリプトウィンター」)の影響を免れることはできませんでした。
OlympusDAOのOHMトークンは、2021年11月のピークから90%以上の下落を経験しました。高いAPYを前提としたステーキングモデルは、市場のセンチメントが悪化すると急速に崩壊するリスクを内在していたことが明らかになりました。
Tokemakも同様に、TOKEトークンの価格下落とともにリアクターへの流入が減少し、当初のビジョンを完全に実現することは困難な状況に直面しました。
しかし、これらの試練は同時に、DeFi 2.0の概念のうち、何が有効で何が持続不可能であるかを選別する機能も果たしました。ボンディングメカニズムやPOLの概念は、より洗練された形で他のプロトコルに引き継がれ、veTokenomicsはCurve以外のプロトコルでも広く採用されるようになりました。
8-2. 規制環境の影響
DeFi 2.0の発展においては、規制環境の変化も重要な要因です。
2023年以降、世界各国でDeFiに対する規制の議論が本格化しています。特に米国では、SEC(証券取引委員会)がDeFiプロトコルのトークンを証券として扱う可能性について言及しており、トークン保有者への手数料の分配(リアルイールド)が「投資契約」に該当する可能性が議論されています。
一方で、2025年以降のトランプ政権下では暗号資産に対してより友好的な政策スタンスが取られており、DeFiの規制環境は依然として流動的な状況にあります。2026年3月時点では、DeFiに特化した包括的な規制フレームワークはまだ確立されていませんが、業界全体としてはコンプライアンスへの意識が高まっている傾向にあります。
8-3. L2とクロスチェーンの展開
DeFi 2.0の今後の発展において、レイヤー2(L2)ソリューションとクロスチェーン技術の進展は重要な要素です。
Arbitrum、Optimism、Base、zkSyncなどのL2チェーン上でのDeFi活動が拡大する中、流動性の分散(フラグメンテーション)が新たな課題として浮上しています。複数のチェーンに流動性が分散することで、各チェーン上での流動性が薄くなり、取引の効率性が低下するリスクがあります。
この課題に対して、クロスチェーンの流動性アグリゲーション(集約)やインテントベースのプロトコルなど、新たなアプローチが登場しています。Li.Fi、Socket、Across Protocolなどのクロスチェーンブリッジ・アグリゲーターは、異なるチェーン間での流動性の統合を目指しています。
8-4. DeFi 2.0の今後の展望
2026年以降のDeFi 2.0の展望として、いくつかの方向性が見えてきています。
RWA(Real World Assets)との統合: 現実世界の資産(国債、不動産、社債など)をトークン化してDeFiプロトコルに組み込む動きが加速しています。RWAは安定した利回りの源泉としてDeFiに新たな収益機会をもたらす可能性があり、リアルイールドの概念とも親和性が高いと考えられています。
AIとDeFiの融合: AI(人工知能)技術を活用した自動化された流動性管理、リスク評価、ポートフォリオ最適化などの分野で、新たなプロトコルの開発が進んでいます。
アカウント抽象化によるUXの改善: DeFiの普及を阻んできた要因の一つであるユーザー体験(UX)の問題に対して、アカウント抽象化(Account Abstraction)技術がソリューションを提供しようとしています。これにより、DeFi 2.0のプロトコルがより幅広いユーザーに利用されることが期待されます。
モジュラー型DeFi: 流動性提供、価格オラクル、リスク管理、ガバナンスなどの機能をモジュール化し、それぞれを独立したプロトコルとして組み合わせるアーキテクチャが注目されています。これにより、DeFiプロトコルの開発効率と柔軟性が向上する可能性があります。
まとめ
DeFi 2.0は、DeFi 1.0が直面した「流動性の持続可能性」という根本的な課題に対する解決策として登場しました。プロトコル所有流動性(POL)、ボンディングメカニズム、veTokenomics、リアルイールドといった革新的な概念は、DeFiの流動性モデルを根本的に変革しようとするものです。
OlympusDAOのボンディング、Curve FinanceのveTokenomics、GMXのリアルイールドモデルなど、DeFi 2.0を構成するプロトコル群はそれぞれ異なるアプローチで持続可能性の実現に取り組んでいます。2022年のクリプトウィンターという試練を経て、実用性のある概念とそうでないものの選別が進み、DeFi 2.0は次の段階へと進化を続けています。
2026年時点では、RWAとの統合、L2でのクロスチェーン展開、AI技術の活用など、新たなテーマとの融合によってDeFiの可能性はさらに広がりつつあります。DeFiの流動性モデルがどのように進化していくのかは、暗号資産エコシステム全体の発展にとって非常に重要なテーマであり、引き続き注目に値する分野だといえるでしょう。
よくある質問(FAQ)
Q1. DeFi 2.0とDeFi 1.0の最も大きな違いは何ですか?
最も大きな違いは、流動性の確保方法にあります。DeFi 1.0では、プロトコルがトークンのインフレーション(流動性マイニング)を通じて外部から流動性を「借りている」状態でした。一方、DeFi 2.0では、プロトコル所有流動性(POL)やボンディングメカニズムを通じて、プロトコル自身が流動性を「所有する」アプローチを取っています。これにより、外部の流動性提供者への依存度が低下し、市場環境の悪化時にも流動性が安定する設計を目指しています。
Q2. OlympusDAOのOHMトークンが大幅に下落した原因は何ですか?
OHMの大幅な下落にはいくつかの要因が考えられます。まず、非常に高いAPY(最盛期には年率数千%に達していました)は、トークンのインフレーションによって賄われており、持続不可能な水準でした。新規参加者の流入が減速すると、既存のステーカーにとっての報酬の実質的な価値が低下し、(3,3)の均衡が崩れて売却が加速しました。また、2022年の暗号資産市場全体の下落もOHMの価格に大きな影響を与えました。ただし、OlympusDAOが開発したPOLやボンディングの概念自体は、他のプロトコルに広く採用されており、技術的な遺産としては高く評価されています。
Q3. veTokenomicsは一般的な投資家にとってどのようなメリットがありますか?
veTokenomicsの主なメリットは3つあります。第一に、トークンをロックすることで追加の報酬(手数料収入の分配やトークン報酬のブースト)を受け取れる可能性があります。第二に、ガバナンス投票権を得られるため、プロトコルの方向性に影響力を持つことができます。第三に、多くの参加者がトークンをロックすることで市場での流通量が減少し、トークン価格の安定化に寄与する可能性があります。一方で、ロック期間中は資産を引き出せないため、流動性リスクを負うことになる点には注意が必要です。
Q4. リアルイールドの水準はどのくらいですか?
リアルイールドの水準はプロトコルや市場環境によって大きく異なります。一般的な傾向としては、DEXの流動性提供では年率数%から20%程度、パーペチュアル取引プラットフォーム(GMXなど)では年率10%から30%程度の範囲で推移することが多いようです。ただし、これらの数値は市場の取引量に大きく依存するため、弱気相場では大幅に低下する可能性があります。DeFi 1.0時代の数百%から数千%のAPYと比較すると低い水準ですが、その分持続可能性は高いと考えられています。ただし、これらはあくまで過去の参考値であり、将来の利回りを保証するものではありません。
Q5. DeFi 2.0のプロトコルに参加する際のリスクは何ですか?
DeFi 2.0のプロトコルにも、いくつかの重要なリスクが存在します。まず、スマートコントラクトの脆弱性リスクは、どのDeFiプロトコルにも共通するリスクです。プロトコルがハッキングされた場合、預けた資産を失う可能性があります。次に、トークン価格の下落リスクがあります。POLやveTokenomicsの仕組みを理解していても、基盤となるトークンの価格が下落すれば損失が発生する可能性があります。また、流動性のロックに伴うリスクもあります。veTokenomicsでトークンをロックした場合、ロック期間中に市場が急落しても引き出すことができません。規制リスクも考慮する必要があり、各国の規制動向によってはDeFiプロトコルの利用が制限される可能性があります。これらのリスクを十分に理解した上で、余裕資金の範囲内で参加することが重要です。
Q6. DeFi 2.0は今後どのように発展していくと考えられますか?
DeFi 2.0の今後の発展方向としては、いくつかの有力なトレンドが見えてきています。RWA(現実世界の資産)のトークン化との統合により、従来の金融資産がDeFiのエコシステムに組み込まれる動きが加速すると考えられます。また、L2チェーンの普及に伴い、クロスチェーンの流動性管理がますます重要になるでしょう。AI技術を活用した自動化された流動性管理やリスク評価も、今後の注目テーマです。アカウント抽象化によるUXの改善は、DeFi 2.0のプロトコルをより幅広いユーザーに開放する可能性があります。ただし、これらはあくまで現時点で見えている方向性であり、暗号資産市場の急速な変化の中で、予想外の展開が生まれる可能性も十分にあります。
※本記事は2026年3月時点の情報に基づいて作成しており、情報提供を目的としたものです。暗号資産への投資を推奨するものではありません。暗号資産の価格は大きく変動し、元本割れのリスクがあります。投資判断はご自身の責任で行ってください。