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トークン化された国債・株式|金融商品のオンチェーン化が進む理由


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リード文

2025年から2026年にかけて、従来の金融市場で取引されてきた国債や株式などの金融商品を、ブロックチェーン上のトークンとして発行・管理する「トークン化(Tokenization)」の動きが急速に広がっています。BlackRockが米国債のトークン化ファンド「BUIDL」を立ち上げ、Franklin Templetonのオンチェーンマネーマーケットファンドが数十億ドル規模に成長するなど、世界最大級の資産運用会社がこの分野に本格参入を果たしました。トークン化とは、不動産・国債・株式・コモディティといった現実世界の資産(RWA: Real World Assets)をブロックチェーン上のデジタルトークンとして表現する技術を指します。これにより、24時間365日の取引、決済時間の短縮、小口分割による投資アクセスの民主化、そして透明性の向上といったメリットが期待されています。一方で、法規制の整備状況やカストディ(資産保管)の信頼性、スマートコントラクトのリスクなど、解決すべき課題も少なくありません。本記事では、金融商品のオンチェーン化がなぜ今加速しているのか、その技術的な仕組みから主要プレイヤーの動向、規制環境、投資家にとっての実用的な意味合いまでを、体系的に解説していきます。


目次

  • トークン化とは何か——RWAオンチェーン化の基本概念
  • なぜ今トークン化が加速しているのか——背景にある構造的要因
  • トークン化された国債——米国債を中心とした最前線
  • トークン化された株式・証券——エクイティのオンチェーン化
  • 不動産・コモディティ・その他資産のトークン化
  • 技術基盤——どのブロックチェーンが使われているのか
  • 規制環境と法的課題——各国の対応状況
  • トークン化の未来と投資家が知っておくべきリスク
  • まとめ
  • よくある質問(FAQ)
  • 免責事項

  • 1. トークン化とは何か——RWAオンチェーン化の基本概念

    1-1. トークン化の定義と仕組み

    トークン化(Tokenization)とは、現実世界に存在する資産の所有権や権利をブロックチェーン上のデジタルトークンとして表現することを意味します。たとえば、1億円の国債を1万個のトークンに分割すれば、1トークンあたり1万円分の国債の持分を表すことになります。このトークンはブロックチェーン上で発行・移転・管理されるため、従来の紙ベースや中央集権的なデータベースによる管理と比べて、取引の効率性や透明性が大幅に向上する可能性を持っています。

    トークン化のプロセスは、一般に次のような流れで進みます。まず、トークン化する原資産(国債、株式、不動産など)を特定し、その資産の法的な裏付けを確保します。次に、信頼できるカストディアン(資産保管者)が原資産を保管し、その保管を証明する仕組みを整えます。そして、ブロックチェーン上にスマートコントラクトを展開し、原資産に連動するトークンを発行します。最後に、そのトークンが市場で取引可能になるよう、流通の仕組みを構築します。

    ここで重要なのは、トークンそのものが資産ではないという点です。トークンはあくまで「原資産に対する権利の表現」であり、その価値は原資産の裏付けと法的な枠組みによって担保されます。この点が、ビットコインやイーサリアムのようなネイティブ暗号資産とは根本的に異なります。

    1-2. RWA(Real World Assets)の概念

    RWA(Real World Assets=現実世界の資産)とは、暗号資産業界で広く使われるようになった用語で、ブロックチェーンのネイティブ資産(BTCやETHなど)以外の、現実世界に存在する資産全般を指します。具体的には、国債・社債などの債券、株式、不動産、コモディティ(金・原油など)、美術品、知的財産権などが含まれます。

    RWAのトークン化が注目される理由は、現実世界の資産市場の規模が暗号資産市場と比較して桁違いに大きいことにあります。世界の債券市場は約130兆ドル、不動産市場は約300兆ドル以上とされ、暗号資産市場全体の時価総額(2026年3月時点で約3兆ドル前後)をはるかに上回ります。この巨大な資産プールの一部でもオンチェーンに移行すれば、ブロックチェーン経済圏は飛躍的に拡大することになります。

    1-3. トークン化と証券トークン(STO)の違い

    トークン化という概念を理解する上で、2018年頃に注目された「STO(Security Token Offering)」との違いを整理しておく必要があります。STOは、トークンを有価証券として発行し、資金調達を行う手法でした。ICO(Initial Coin Offering)ブームの反省から、規制に準拠した形でのトークン発行を目指す動きとして登場しましたが、当時はインフラの未成熟やコストの高さから普及には至りませんでした。

    2025年以降のトークン化の動きは、STOの延長線上にありつつも、いくつかの重要な点で異なります。第一に、BlackRockやFranklin Templetonといった伝統的金融大手が主導している点。第二に、既存の金融商品をそのままオンチェーンで再現することに重点が置かれている点。第三に、技術インフラの成熟により実用的なコストと速度が実現できるようになった点。これらの変化により、トークン化はかつてのSTOブームとは異なる次元で進展しています。


    2. なぜ今トークン化が加速しているのか——背景にある構造的要因

    2-1. 伝統的金融機関の本格参入

    トークン化が「今」加速している最大の要因は、世界最大級の金融機関がこの分野に本格的に参入していることにあります。2024年3月、世界最大の資産運用会社であるBlackRock(運用資産10兆ドル超)がイーサリアムブロックチェーン上で米国債トークン化ファンド「BUIDL(BlackRock USD Institutional Digital Liquidity Fund)」を立ち上げました。BUIDLは発行から数か月で数億ドル規模に成長し、トークン化国債市場で最大級のファンドとなりました。

    BlackRock以外にも、Franklin Templetonの「BENJI」(Stellarブロックチェーン上で展開)、JPMorganの「Onyx」プラットフォーム、Citigroupのトークン化預金の実験、HSBCの「Orion」プラットフォームなど、名だたる金融機関がトークン化への取り組みを進めています。Goldman SachsはデジタルアセットプラットフォームGS DAPを通じてトークン化債券の発行を手がけ、UBSやSociete Generaleもオンチェーンでの債券発行を実施しました。

    こうした大手金融機関の参入は、トークン化に対する市場の信頼性を大幅に引き上げるとともに、規制当局との対話を推進する力にもなっています。かつて暗号資産に懐疑的だった機関投資家も、BlackRockのような企業が先頭に立つことで、トークン化資産への投資を検討しやすくなっているといえるでしょう。

    2-2. 金利上昇環境がもたらした追い風

    2022年から2024年にかけての世界的な金利上昇は、トークン化国債に大きな追い風をもたらしました。米国の政策金利がゼロ近辺から5%超に引き上げられたことで、米国債の利回りが大幅に上昇し、「安全資産で年利4〜5%の利回りが得られる」という状況が生まれたのです。

    DeFi(分散型金融)の世界では、ステーブルコイン(米ドルに連動する暗号資産)を保有しているだけでは利回りを得られません。しかし、トークン化された米国債を購入すれば、DeFiエコシステム内にいながら米国債の利回りを享受できます。この「オンチェーンで米国債利回りを得る」というユースケースが、トークン化国債の急速な成長を牽引しました。

    Ondo Financeの「USDY」やMatrixdockの「STBT」といったプロダクトは、まさにこの需要に応える形で登場し、急速に残高を拡大させました。DeFiユーザーにとっては、ステーブルコインを遊ばせておくよりも、トークン化国債に置き換えることで追加の利回りを得られるため、合理的な選択肢として受け入れられています。

    2-3. 技術インフラの成熟

    トークン化が実用的な段階に入った背景には、ブロックチェーン技術そのものの成熟も大きく寄与しています。2020年頃のイーサリアムは、ガス代(取引手数料)の高騰や処理速度の遅さが課題でしたが、2024年のDencunアップグレード以降、レイヤー2ソリューション(Arbitrum、Optimism、Baseなど)の活用によりコストと速度の問題が大幅に改善されました。

    また、Ethereum以外にも、Stellar、Polygon、Avalanche、Solanaなど、トークン化に適した特性を持つブロックチェーンが成熟し、発行者の選択肢が広がっています。特にAvalancheのサブネット機能やPolygonのCDK(Chain Development Kit)は、金融機関が独自のプライベートチェーンを構築しつつ、パブリックチェーンとの相互運用性を確保するためのツールとして注目されています。

    さらに、Chainlinkのプルーフ・オブ・リザーブ(PoR)のような、オンチェーンとオフチェーンのデータを安全に連携させるオラクル技術の発展も重要です。トークン化された資産が原資産に確実に裏付けられていることを検証可能にする仕組みが整いつつあることで、投資家の信頼性が向上しています。


    3. トークン化された国債——米国債を中心とした最前線

    3-1. トークン化国債市場の規模と成長

    2026年3月時点で、トークン化された国債(主に米国債)の市場規模は急速に拡大しています。RWA.xyzのデータによれば、トークン化された米国債の残高は数十億ドル規模に達しており、2023年初頭の数億ドルから大幅に成長しました。この成長速度は、暗号資産市場の中でも際立って高い水準にあります。

    トークン化国債市場を牽引しているのは、先述のBlackRock BUIDL、Franklin Templeton BENJI、Ondo FinanceのUSDY・OUSG、Matrixdock STBT、Hashnote USYCなどのプロダクトです。これらは米国債やその他の短期金融商品に投資するファンドをトークン化したもので、保有者は米国債の利回りをオンチェーンで受け取ることができます。

    特筆すべきは、これらのトークン化国債プロダクトの多くがDeFiプロトコルとの統合を進めていることです。たとえば、BUIDLトークンをDeFiレンディングプロトコルの担保として利用したり、DEX(分散型取引所)で取引したりすることが可能になりつつあります。これにより、伝統的金融の安全性とDeFiの効率性を両立する新たな金融の形が生まれています。

    3-2. 主要プロダクトの比較と特徴

    トークン化国債プロダクトを選ぶ際には、いくつかの重要な比較軸があります。

    まず「投資対象」については、ほとんどのプロダクトが米国短期国債(Tビル)を中心に投資していますが、一部はリバースレポ取引やマネーマーケットファンドも組み合わせています。Ondo FinanceのOUSGは短期米国債ETFに投資するファンドをトークン化したもので、USDYは米国債とリバースレポ取引に投資しています。BlackRockのBUIDLは、米国債、現金、レポ取引に投資する構成です。

    「利回り」については、各プロダクトとも米国の短期金利水準に連動するため、大きな差はありません。ただし、手数料構造や利回りの分配方法(トークン価格に反映されるか、追加トークンとして分配されるか)は異なります。BUIDLは日次で利回りを追加トークンとして分配する方式を採用しており、USDYはトークン価格自体に利回りが反映されるリベーストークン方式です。

    「最低投資額」は重要な差別化要因です。BUIDLの最低投資額は500万ドルと機関投資家向けの設定ですが、USDYやUSSCなどは比較的小口からアクセスできるプロダクトとなっています。投資家のタイプに応じて選択肢が異なることを理解しておく必要があります。

    「対応チェーン」も比較のポイントです。BUIDLはイーサリアムから始まり、その後複数チェーンに展開しています。Franklin TempletonのBENJIはStellarとPolygonに対応しています。マルチチェーン展開が進むことで、ユーザーは自分が利用しているチェーンでトークン化国債にアクセスしやすくなっています。

    3-3. DeFiとの統合——「利回りを生む担保」としての国債トークン

    トークン化された国債がDeFiの世界で果たす最も重要な役割は、「利回りを生む担保」としての機能です。従来のDeFiでは、ETHやステーブルコインを担保として預け入れることが一般的でしたが、これらの担保資産自体が利回りを生まない(あるいは変動リスクが高い)という課題がありました。

    トークン化国債を担保として利用できるようになれば、担保として預け入れている間も米国債の利回りを享受できます。これは資本効率の大幅な向上を意味し、DeFiの使い勝手を根本的に改善する可能性を持っています。

    MakerDAO(現Sky Protocol)は、RWA戦略の一環として数十億ドル規模の米国債をプロトコルのリザーブに組み入れました。DAIステーブルコインの裏付け資産として米国債の利回りが活用されることで、DAIの安定性と収益性が向上しています。これは、DeFiプロトコルがトークン化国債を大規模に活用する先駆的な事例として、業界から高い注目を集めています。


    4. トークン化された株式・証券——エクイティのオンチェーン化

    4-1. 株式トークン化の現状と仕組み

    株式のトークン化は、国債のトークン化と比較するとまだ発展途上の段階にありますが、着実に進展しています。株式トークン化とは、上場企業の株式や未公開株式の所有権をブロックチェーン上のトークンとして表現するものです。

    株式トークン化のアプローチは大きく二つに分かれます。一つは「合成型(Synthetic)」で、実際の株式を保有せずに、株価に連動するデリバティブ的なトークンを作成するものです。かつてFTXやBinanceが提供していた「トークン化株式」はこの方式に近いものでした。もう一つは「裏付け型(Backed)」で、カストディアンが実際の株式を保管し、その株式に1対1で裏付けられたトークンを発行するものです。後者のほうが法的な信頼性が高く、規制当局からの受け入れも進みやすいと考えられています。

    2025年以降、Securitize、Polymath、tZERO、Dinari、Backedなどのプラットフォームが株式トークン化のインフラを提供しています。Securitizeは、BlackRockのBUIDLファンドのトークン化を手がけた実績を持ち、機関投資家向けのトークン化プラットフォームとしては最も実績のある企業の一つです。

    4-2. 株式トークン化のメリットと課題

    株式のトークン化がもたらすメリットは多岐にわたります。第一に「取引時間の拡大」があります。従来の株式市場は、ニューヨーク証券取引所であれば東部時間の午前9時30分から午後4時までという限られた時間内でしか取引ができません。トークン化された株式は、原理的には24時間365日取引が可能になります。

    第二に「決済の即時化」です。従来の株式取引では、約定から決済までT+1(翌営業日)の時間がかかります(米国では2024年にT+2からT+1に短縮されました)。トークン化された株式は、ブロックチェーン上でほぼリアルタイムに決済を完了できる可能性があります。これにより、カウンターパーティリスク(取引相手方の債務不履行リスク)が低減され、資本効率も向上します。

    第三に「小口分割」です。1株あたりの価格が高い株式(たとえばBerkshire Hathaway A株は1株約70万ドル)でも、トークン化することで小数点以下の単位で売買できるようになります。これは、資金が限られた個人投資家にとって投資アクセスを大幅に広げることにつながります。

    一方で、課題も山積しています。最大の課題は「規制上の位置づけ」です。トークン化された株式が有価証券として扱われる場合、証券法に基づく厳格な規制の対象となります。クロスボーダー取引の場合、各国の証券規制が異なるため、グローバルな流通は非常に複雑になります。また、議決権の扱い、配当の分配方法、インサイダー取引の監視など、従来の証券市場で確立されている仕組みをオンチェーンでどう再現するかという実務的な課題も残っています。

    4-3. プライベートエクイティとベンチャー投資のトークン化

    株式トークン化がより早く実用化される可能性が高い領域として、プライベートエクイティ(未公開株式)やベンチャー投資のトークン化があります。上場株式の場合、既存の証券取引所や証券決済機構が十分に機能しているため、トークン化によるメリットが相対的に小さいという議論がある一方、プライベートエクイティは流動性の低さが長年の課題とされてきました。

    プライベートエクイティファンドの投資家は通常、5年から10年の長期間にわたって資金がロックアップされ、途中で売却することが困難です。トークン化することで、セカンダリーマーケット(流通市場)での売買が容易になり、流動性の問題が部分的に解消される可能性があります。KKR、Apollo、Hamiltonlaneといった大手プライベートエクイティファンドが、ファンド持分のトークン化を試験的に実施しているのは、こうした流動性向上への期待からです。

    ベンチャー投資の分野でも、スタートアップの株式をトークン化して流通させる取り組みが進んでいます。Republic、AngelList、Seedrsといったプラットフォームがトークン化を活用した新しい投資モデルを模索しており、従来は機関投資家や富裕層に限られていたベンチャー投資へのアクセスが、広がりつつあります。


    5. 不動産・コモディティ・その他資産のトークン化

    5-1. 不動産トークン化の実例と仕組み

    不動産は、トークン化の対象として最も期待されている資産クラスの一つです。世界の不動産市場の規模は300兆ドルを超えるとされますが、その大部分は流動性が極めて低く、取引にはかなりの時間とコストがかかります。不動産のトークン化は、こうした課題を解決する手段として注目されています。

    不動産トークン化の一般的な仕組みでは、まず不動産を保有するSPV(特別目的事業体)を設立し、そのSPVの持分をトークンとして発行します。トークン保有者は、不動産から得られる賃料収入の分配や、不動産の値上がりによるキャピタルゲインを受け取る権利を持ちます。

    RealT、Lofty AI、Parcl、RedSwan CREなどのプラットフォームが不動産トークン化を手がけています。RealTはデトロイトを中心とした米国の住宅物件をトークン化し、50ドル程度の少額から不動産投資が可能なサービスを提供しています。Parclは、特定の都市や地域の不動産価格指数に連動するデリバティブ的なトークンを提供するアプローチを取っており、実物不動産を直接トークン化するモデルとは異なる切り口を見せています。

    ただし、不動産トークン化には固有の課題も存在します。不動産は所在地の法律に強く縛られる資産であり、所有権の移転には登記や公証といった手続きが必要です。トークンの移転だけで法的な所有権が移転するわけではない場合が多く、オンチェーンとオフチェーンの法的整合性をどう確保するかが重要な論点となっています。

    5-2. コモディティ(金・原油など)のトークン化

    コモディティのトークン化は、金(ゴールド)を筆頭に比較的早くから実用化が進んだ分野です。Paxos Gold(PAXG)やTether Gold(XAUT)は、ロンドンの金庫に保管された金地金に裏付けられたトークンとして、既に数十億ドル規模の時価総額を持っています。

    金のトークン化は、従来の金投資と比較していくつかの優位性を持ちます。物理的な金の保管コストが不要であること、24時間取引が可能であること、小口(1トロイオンス未満の端数)での売買が容易であること、そしてDeFiプロトコルで担保として活用できることなどが挙げられます。地政学的リスクの高まりや通貨不安の局面で、デジタルゴールドとしてのトークン化金の需要が高まる傾向も見られます。

    金以外のコモディティでも、トークン化の取り組みが進んでいます。カーボンクレジット(炭素排出権)のトークン化は、気候変動対策の文脈で注目されており、Toucan Protocol、KlimaDAO、Verra(旧VCS)の連携などが知られています。農産物や希少金属のトークン化を手がけるプロジェクトも存在しますが、原資産の保管・検証の難しさから、実用化にはまだ時間がかかると見られています。

    5-3. 新興分野——知的財産・美術品・ファンド持分のトークン化

    国債・株式・不動産・コモディティといった伝統的な資産クラスに加え、より新しい分野でのトークン化も進んでいます。

    美術品のトークン化では、MasterworksやMaecenasなどのプラットフォームが、著名アーティストの作品を小口化して投資機会を提供しています。これまで超富裕層や美術品コレクターだけがアクセスできた市場が、トークン化によって一般投資家にも開放されつつあるという点で注目に値します。

    知的財産権(特許、著作権、商標権など)のトークン化も実験段階にあります。たとえば、楽曲の著作権収入をトークン化して、ファンが直接投資できるようにするモデル(Royal、Bolero、Auctoなど)が登場しています。音楽ストリーミングの再生回数に応じたロイヤリティ収入がトークン保有者に分配される仕組みは、アーティストにとっての新たな資金調達手段であると同時に、投資家にとっては新しいアセットクラスとなり得ます。

    ヘッジファンドや投資信託の持分のトークン化も進んでおり、KKRのヘルスケアファンドやHamilton LaneのプライベートエクイティファンドがSecuritizeを通じてトークン化されています。これにより、従来は最低投資額が数百万ドルだったファンドに、より小口から参加できる可能性が広がっています。


    6. 技術基盤——どのブロックチェーンが使われているのか

    6-1. イーサリアムとそのレイヤー2

    トークン化資産の発行プラットフォームとして、現時点で最も広く使われているのはイーサリアムです。BlackRockのBUIDL、Ondo FinanceのOUSG・USDY、MakerDAOのRWA戦略など、主要なトークン化プロダクトの多くがイーサリアム上で発行されています。

    イーサリアムが選ばれる理由は、ネットワークの信頼性・安全性、開発者コミュニティの厚み、DeFiエコシステムとの親和性、そして規制当局や機関投資家からの認知度の高さにあります。ERC-20トークン規格に加え、ERC-1400やERC-3643といったセキュリティトークン向けの規格も整備されており、KYC/AMLに対応したトークンの発行が技術的に可能になっています。

    一方で、イーサリアムのメインネットはガス代の変動や処理速度の制約が課題となることがあります。そこで、レイヤー2ソリューション(Arbitrum、Optimism、Base、zkSyncなど)を活用する動きが活発化しています。特にCoinbaseが開発するBaseチェーンは、BlackRockのBUIDLを含む複数のトークン化プロダクトが展開先として選択しており、低コストかつ高速な取引環境を提供しています。

    6-2. パーミッションド・チェーンとハイブリッド・アプローチ

    金融機関がトークン化を推進する際、パブリックチェーン(誰でも参加できるオープンなブロックチェーン)だけでなく、パーミッションド・チェーン(許可制のブロックチェーン)やハイブリッド・アプローチを採用するケースも増えています。

    JPMorganのOnyxプラットフォームは、Quorumベースのプライベートチェーンを活用し、機関投資家間のトークン化された預金や国債のリアルタイム決済を実現しています。HSBCのOrionプラットフォームも同様に、機関投資家向けのトークン化債券の発行と取引をプライベートネットワーク上で行っています。

    ハイブリッド・アプローチとは、コンプライアンスや機密性が求められる部分はパーミッションド環境で処理しつつ、流動性やDeFiとの連携が必要な部分はパブリックチェーンと接続するというモデルです。AvalancheのEvergreenサブネットは、このハイブリッドモデルを実現するためのインフラとして注目されています。金融機関は独自のサブネットを構築してプライバシーとコンプライアンスを確保しつつ、必要に応じてAvalanche Cチェーン(パブリック)との相互運用が可能です。

    6-3. 相互運用性と標準化の課題

    トークン化資産が真にグローバルな金融インフラとして機能するためには、異なるブロックチェーン間での相互運用性が不可欠です。イーサリアム上で発行されたトークンとStellar上で発行されたトークンを、シームレスに取引できる環境が整わなければ、トークン化のメリットは限定的なものにとどまってしまいます。

    この課題に対応するため、Chainlink CCIP(Cross-Chain Interoperability Protocol)、LayerZero、Wormholeなどのクロスチェーンプロトコルが開発されています。特にChainlink CCIPは、金融機関向けのセキュリティと信頼性を重視した設計がなされており、Swift(国際銀行間通信協会)との連携実験も行われています。

    標準化の面では、ERC-3643(旧T-REX)がセキュリティトークンのためのイーサリアム規格として広く採用されつつあります。ERC-3643は、トークンの移転に際してKYC/AML準拠を強制するオンチェーン本人確認の仕組みを内蔵しており、規制対応が求められるトークン化資産に適した規格です。ただし、イーサリアム以外のチェーンとの互換性や、各国の規制要件の差異をどう吸収するかという点では、まだ標準化が完全に進んでいるとはいえません。


    7. 規制環境と法的課題——各国の対応状況

    7-1. 米国の規制動向——SECとCFTCの姿勢

    トークン化された金融商品の規制において、最も影響力が大きいのは米国の規制当局です。SEC(証券取引委員会)は、トークン化された証券を既存の証券法の枠組みで規制する姿勢を基本としています。つまり、トークン化された株式や国債が「有価証券」に該当する場合、証券法に基づく登録義務や開示義務が適用されるという立場です。

    2025年以降、SECの姿勢には変化の兆しも見られます。暗号資産に対する包括的な規制枠組みの議論が米国議会で進展し、トークン化された証券に関するガイダンスの明確化が進みつつあるとされています。特に、登録免除規定(Regulation D、Regulation S、Regulation A+など)を活用したトークン化証券の発行は、既に実務的に定着しつつあります。

    CFTC(商品先物取引委員会)は、トークン化されたコモディティやデリバティブに関する管轄を主張しており、SEC との管轄権の境界は長年にわたる議論の対象です。今後、包括的な連邦法の成立により、この曖昧さが解消されることが期待されています。

    7-2. 欧州——MiCAとDLT Pilot Regime

    欧州連合(EU)は、暗号資産規制の面で比較的先進的なアプローチを取っています。2024年に全面施行された MiCA(Markets in Crypto-Assets Regulation)は、暗号資産全般に対する包括的な規制枠組みを提供していますが、「セキュリティトークン」(金融商品に該当するトークン)はMiCAの対象外であり、既存の金融商品規制(MiFID IIなど)が適用される構造になっています。

    トークン化された金融商品の取引基盤として重要なのが、EU DLT Pilot Regime(分散型台帳技術パイロット制度)です。これは、ブロックチェーンを活用した金融商品の取引・決済を実験的に行うための規制サンドボックスとして機能しており、2023年から運用が開始されています。このパイロット制度の下で、複数の取引所やCSD(中央証券保管機関)がトークン化証券の取引・決済の実験を行っています。

    スイスは、独自のDLT法(2021年施行)により、「登録有価証券(Registerwertrecht)」としてトークン化された証券を法的に認める枠組みを整備しており、SIX Digital Exchange(SDX)がトークン化証券の取引プラットフォームとして稼働しています。

    7-3. アジア——シンガポール・香港・日本の動向

    アジアでは、シンガポールと香港がトークン化の先進地域として知られています。シンガポール金融管理局(MAS)は、「Project Guardian」を通じて、債券・外国為替・資産運用のトークン化に関する大規模な実験を金融機関と共同で推進しています。DBS Bank、JPMorgan、Standard Charteredなどが参加し、トークン化された国債のリアルタイム決済や、クロスカレンシー取引の効率化が検証されています。

    香港は、2023年にデジタルグリーンボンド(約8億ドル)をトークン化して発行し、政府自身がトークン化債券の発行体となった先駆的な事例を生みました。香港証券先物委員会(SFC)は、一定の条件の下でトークン化証券の取引を認めるガイダンスを発表しており、アジアにおけるトークン化のハブを目指す姿勢を明確にしています。

    日本においては、2023年の改正金融商品取引法により「電子記録移転権利」(いわゆるセキュリティトークン)の法的枠組みが整備され、野村證券、大和証券、SBI証券などがセキュリティトークンの発行・取引プラットフォームを開発しています。不動産セキュリティトークンの発行事例が複数報告されており、日本市場でもトークン化の実用化が進みつつあるといえます。


    8. トークン化の未来と投資家が知っておくべきリスク

    8-1. 市場規模の予測と成長シナリオ

    トークン化市場の将来規模については、さまざまな予測が出されています。Boston Consulting Group(BCG)は、2030年までにトークン化資産の市場規模が16兆ドルに達するとの予測を発表しています。Citigroupは、同じく2030年までに4〜5兆ドルという予測を出しており、予測の幅は大きいものの、いずれも現在の規模から数百倍以上の成長を見込んでいます。

    成長シナリオには、「段階的移行」と「急速な転換」の二つのパスが考えられます。段階的移行シナリオでは、まずは国債や短期金融商品のトークン化が定着し、次に社債・不動産・プライベートエクイティへと対象が広がり、最終的には株式を含むほぼすべての金融商品がオンチェーンで取引されるようになるという道筋です。急速な転換シナリオでは、規制環境の劇的な明確化や、大手金融機関によるインフラの統一が進むことで、予想よりも早くトークン化が主流化するという見方です。

    いずれのシナリオにおいても、2026年時点ではまだ初期段階にあり、インフラの整備、規制の明確化、市場参加者の拡大が今後の成長を左右する鍵となります。

    8-2. 投資家が理解すべきリスク

    トークン化された金融商品に投資する際には、従来の金融商品に存在するリスクに加え、トークン化特有のリスクを理解しておく必要があります。

    「スマートコントラクトリスク」は、トークンを管理するスマートコントラクトにバグや脆弱性が存在する可能性を指します。監査済みのスマートコントラクトであっても、未発見の脆弱性が後から発覚するケースは過去に何度も発生しています。トークン化国債のように大手金融機関が発行するプロダクトであっても、技術的なリスクがゼロになるわけではありません。

    「カストディリスク」は、原資産を保管するカストディアンの信頼性に関するリスクです。トークンが原資産に正しく裏付けられているかどうかは、カストディアンの健全性と監査体制に依存します。カストディアンが破綻したり、不正を行ったりした場合、トークンの価値が毀損する可能性があります。

    「流動性リスク」は、トークンの二次流通市場が十分に成熟していない場合、売りたいときに適正な価格で売却できないリスクを指します。特にニッチなトークン化資産や、新興プラットフォーム上のトークンでは、流動性が薄い場合が少なくありません。

    「規制リスク」は、トークン化資産に関する法規制が変更されたり、既存のプロダクトが規制に抵触すると判断されたりするリスクです。各国の規制環境が流動的である現状では、規制変更によりプロダクトの運営が困難になるシナリオも考慮しておく必要があります。

    8-3. 今後注目すべきトレンド

    トークン化の分野で今後特に注目すべきトレンドをいくつか挙げておきます。

    第一に、「ステーブルコインとトークン化国債の融合」です。ステーブルコインの裏付け資産として米国債が広く使われている現状を踏まえれば、ステーブルコインとトークン化国債の境界線は今後さらに曖昧になっていく可能性があります。利回りを分配するステーブルコイン(いわゆるイールドベアリング・ステーブルコイン)は、実質的にトークン化マネーマーケットファンドと同義であり、この領域の成長が期待されます。

    第二に、「中央銀行デジタル通貨(CBDC)との連携」です。多くの国でCBDCの研究・実験が進んでいますが、CBDCとトークン化された証券を同じブロックチェーン上で「DvP(Delivery versus Payment=券銀同時決済)」できるようになれば、決済の効率性と安全性が飛躍的に向上します。

    第三に、「AIとトークン化の融合」です。AI技術の進展により、トークン化資産のリスク評価、価格設定、ポートフォリオ管理の自動化が進む可能性があります。また、AIエージェントが自律的にトークン化資産を取引する「AIエージェント×DeFi」の領域も、注目度が高まっています。


    まとめ

    トークン化された国債・株式をはじめとする金融商品のオンチェーン化は、2025年から2026年にかけて明確な加速期に入っています。BlackRockやFranklin Templetonといった世界最大級の資産運用会社が本格参入し、トークン化国債の市場規模は数十億ドル規模に成長しました。

    この動きを支えている構造的な要因としては、伝統的金融機関の参入による信頼性の向上、金利上昇環境によるオンチェーン利回りへの需要、そしてブロックチェーン技術インフラの成熟が挙げられます。株式・不動産・コモディティなど、対象資産のクラスも着実に広がりを見せています。

    一方で、規制環境の不透明さ、スマートコントラクトやカストディに関するリスク、相互運用性と標準化の課題など、解決すべきテーマは多く残されています。投資家としては、トークン化のメリットを過大評価せず、リスクを十分に理解した上で、この新しい金融の形態と向き合っていくことが重要です。

    トークン化は、金融の民主化・効率化に向けた大きな潮流であり、今後10年間の金融市場を変容させる力を持つテクノロジーとして、引き続き注視していく価値のあるテーマといえるでしょう。


    よくある質問(FAQ)

    Q1. トークン化された国債を個人投資家が購入することはできますか。

    プロダクトによって異なります。BlackRockのBUIDLは最低投資額が500万ドルであり、個人投資家が直接購入するのは現実的ではありません。一方、Ondo FinanceのUSDYやBacked FinanceのbIB01など、比較的小口から購入可能なプロダクトも存在します。ただし、多くのプロダクトでKYC(本人確認)が求められるほか、日本国内の居住者がアクセスできるかどうかは各プロダクトの対応状況によります。

    Q2. トークン化国債とステーブルコインはどう違うのですか。

    ステーブルコイン(USDCやUSDTなど)は米ドルの価値に連動するトークンですが、保有しているだけでは利回りは発生しません。トークン化国債は、米国債の利回りがトークン保有者に分配される仕組みとなっており、保有期間中に利回りを得られる点が大きな違いです。ただし、一部のステーブルコイン(sDAI、USDSなど)は利回りを分配する仕組みを持っており、両者の境界線は曖昧になりつつあります。

    Q3. トークン化された資産は、発行体が破綻した場合どうなりますか。

    トークン化された資産の裏付けとなる原資産は、通常、発行体とは独立したカストディアンやSPV(特別目的事業体)によって保管されています。発行体が破綻した場合でも、原資産が適切に分離管理されていれば、トークン保有者は原資産に対する権利を行使できる可能性があります。ただし、この保護がどの程度確実に機能するかは、法的な構造やカストディの仕組みによって異なるため、投資前にプロダクトの法的構造を確認することが重要です。

    Q4. 日本でトークン化証券(セキュリティトークン)に投資する方法はありますか。

    日本では、改正金融商品取引法に基づく「電子記録移転権利」として、セキュリティトークンの法的枠組みが整備されています。野村證券、大和証券、SBI証券などがセキュリティトークンの取り扱いを開始しており、不動産STOを中心にいくつかのプロダクトが提供されています。ただし、取り扱い銘柄や募集時期は限られており、海外のトークン化プロダクトと比較すると選択肢はまだ多くありません。

    Q5. トークン化は暗号資産市場全体にどのような影響を与えますか。

    トークン化による最大の影響は、ブロックチェーン上で管理される資産の総額が飛躍的に増加する可能性があるという点です。現実世界の資産がオンチェーンに流入することで、DeFiプロトコルの担保資産の質と量が向上し、ステーブルコインの裏付けが強化され、ブロックチェーンのユーティリティが高まります。これは間接的に、ETHやSOLなどのインフラトークンの需要を押し上げる要因にもなり得るでしょう。

    Q6. トークン化と NFT はどう違うのですか。

    NFT(Non-Fungible Token)は、一点物のデジタル資産を表現する代替不可能なトークンです。一方、トークン化された国債や株式は、同じファンドの持分が均一であるため、ERC-20のようなファンジブル(代替可能)なトークン規格が用いられます。ただし、不動産の特定の区画や美術品の所有権をトークン化する場合にはNFTが用いられることもあり、両者は対象資産の性質によって使い分けられています。


    免責事項

    本記事は、暗号資産やトークン化された金融商品に関する一般的な情報提供を目的として作成されたものであり、特定の金融商品の購入・売却を推奨するものではありません。暗号資産およびトークン化された資産への投資には、価格変動リスク、スマートコントラクトリスク、カストディリスク、規制リスク、流動性リスクを含む重大なリスクが伴います。投資判断はご自身の責任において、十分な調査と検討を行った上で行ってください。本記事の内容は、執筆時点(2026年3月)の情報に基づいており、最新の状況とは異なる場合があります。法律、税務、投資に関する具体的なアドバイスが必要な場合は、それぞれの専門家にご相談ください。

    Bitcoin Analyze 編集部

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