DeFiの世界では、EthereumやArbitrum、Optimism、BNB Chain、Avalanche、Polygonなど、多数のブロックチェーンが並立しています。各チェーンに分散した流動性を効率よく活用するには、チェーン間のブリッジと各チェーン内のDEXを組み合わせる必要があります。しかしその操作は複雑で、利用者にとって大きな負担となっていました。
この課題を解決するために登場したのがLiFi(Li.Fi)です。LiFiは複数のクロスチェーンブリッジとDEXアグリゲーターを一括で接続し、ユーザーが目的のトークンスワップを最もコスト効率よく実行できるルートを自動で見つけ出すプロトコルです。
本記事では、LiFiの基本的な仕組みから技術的な特徴、実際の利用方法、そしてリスクと注意点まで詳しく解説します。クロスチェーンDeFiを活用したい方にとって、LiFiは欠かせない存在となっています。
1. LiFiとは何か:概要と誕生の背景
1-1. クロスチェーンアグリゲーターとしての位置づけ
LiFiはドイツ発のWeb3スタートアップが開発したクロスチェーン流動性アグリゲーターです。2021年に設立され、その後急速に成長しました。LiFiは単体のブリッジやDEXではなく、既存のブリッジ(Stargate、Across、Hop、Synapse等)やDEXアグリゲーター(1inch、Paraswap等)を統合するインフラレイヤーとして機能します。
従来、クロスチェーンスワップを行うには「チェーンAでDEXによるスワップ→ブリッジでチェーンBに移動→チェーンBでDEXによるスワップ」という複数の手順が必要でした。LiFiはこれらを一つのトランザクション体験にまとめ、ユーザーが最良のルートを手動で探す必要をなくします。
1-2. 対応チェーンとブリッジの広がり
2025年時点でLiFiは20以上のブロックチェーンと30以上のブリッジプロトコル、複数のDEXアグリゲーターに対応しています。主な対応チェーンにはEthereum、Arbitrum、Optimism、Base、Polygon、BNB Chain、Avalanche、Solana、Fantomなどが含まれます。
対応ブリッジにはStargate、Across、Hop Protocol、Synapse、Connext、Hyphen、cBridgeなど主要なものが網羅されています。これにより、特定のブリッジが一時的に利用できない場合や流動性が不足している場合でも、代替ルートを自動的に選択することができます。
2. LiFiの技術的な仕組み
2-1. ルーティングエンジンの動作原理
LiFiのコアとなるのはルーティングエンジンです。ユーザーが「チェーンAのトークンXをチェーンBのトークンYに交換したい」というリクエストを送ると、エンジンは利用可能な全ルートを計算し、ガス代、ブリッジ手数料、スリッページ、所要時間などを総合的に評価した上で最適なルートを提示します。
ルートの計算は複数段階に分かれます。まず送信元チェーンでのスワップを考慮し、次にブリッジオプションを評価し、最後に受信先チェーンでのスワップを計算します。これらを組み合わせた全パターンを比較することで、ユーザーが最も多くの目的トークンを受け取れるルートを特定します。
2-2. LiFiスマートコントラクトの構造
LiFiはダイアモンドプロキシパターン(EIP-2535)を採用したスマートコントラクトアーキテクチャを使用しています。このパターンにより、コントラクトの機能をファセットと呼ばれる小さなモジュールに分割して管理でき、新しいブリッジやDEXへの対応をアップグレードとして追加できます。
各ブリッジとDEXは「ファセット」として実装されており、LiFiコントラクトはユーザーのリクエストを受け取り、適切なファセットに処理を委譲します。ユーザーはLiFiのコントラクトのみを承認(Approve)すれば、統合されたすべてのブリッジ・DEXを利用できます。
3. LiFiの主な機能と特徴
3-1. ガス代の最適化
クロスチェーン操作においてガス代は大きなコスト要因です。LiFiはルート計算時にガス代を最小化するオプションを提供しており、高額なガス代が発生するルートを避けることができます。また、一部のケースでは受信先チェーンのガス代を送信元チェーンのトークンで支払う「ガス抽象化」機能もサポートしています。
ガス抽象化は特に、受信先チェーンのネイティブトークン(ガス代支払い用)を持っていないユーザーにとって非常に便利です。たとえば、Ethereumしか持っていないユーザーが初めてArbitrumを使う場合でも、ETHだけでArbitrumへの移動が完了します。
3-2. APIとSDKによる開発者向け機能
LiFiはエンドユーザー向けのフロントエンドだけでなく、開発者向けのAPIとSDKも提供しています。これにより、他のDeFiプロトコルやウォレットがLiFiのクロスチェーン機能を組み込んで利用することができます。実際に、MetaMaskのスワップ機能やJumper.exchangeなど、LiFiのAPIを活用しているサービスは多数あります。
JavaScript/TypeScript SDK(@lifi/sdk)はReactやNext.jsなどのフロントエンドフレームワークに統合しやすく設計されており、数行のコードでクロスチェーンスワップ機能を実装できます。ウォレットアプリやDeFiダッシュボードへの組み込みを検討している開発者にとって、有力な選択肢です。
4. LiFiの実際の使い方
4-1. Jumper.exchangeからの利用
LiFiの技術を使った最も代表的なフロントエンドがJumper.exchange(旧Li.Fi Widget)です。Jumper.exchangeにアクセスし、ウォレットを接続した後、送信元チェーン・送信元トークン・受信先チェーン・受信先トークンを選択するだけで、自動的に最適なルートが表示されます。
ルートには推定受取量、ガス代、所要時間が明示されており、複数のルート候補から選択することも可能です。「最大受取量優先」「最速優先」「最低ガス代優先」といった最適化の軸を切り替えることで、ユーザーのニーズに合ったルートを見つけやすくなっています。
4-2. ウォレット接続と承認操作の注意点
LiFiを利用する際は、LiFiのスマートコントラクトアドレスにトークンのApproveを行う必要があります。Approveは送信元トークンを指定し、LiFiコントラクトへのアクセス権を付与する操作です。セキュリティ面では、Approveの上限額を送りたい金額のみに設定する「正確な金額承認」が推奨されます。
また、利用するたびに一回一回のトランザクションを確認する習慣をつけることが大切です。特に、受信先チェーンのアドレスを間違えると資産が別のウォレットに送られてしまうリスクがあるため、操作前に十分に確認しましょう。
5. LiFiのセキュリティとリスク
5-1. セキュリティ監査の状況
LiFiのスマートコントラクトは複数の独立したセキュリティ監査機関によって審査されています。Certora、Dedaub、Spearbitなどの著名な監査会社がLiFiのコードレビューを実施しており、発見された脆弱性は修正済みであることが公式ドキュメントで確認できます。
ただし、監査はあくまでも特定時点のコードを対象とするものであり、その後のアップグレードや新しいファセットの追加によって新たな脆弱性が生じる可能性もあります。監査済みであることはセキュリティの参考情報にはなりますが、絶対的な安全保証ではない点を理解しておく必要があります。
5-2. 2024年のインシデントと教訓
2024年7月、LiFiのスマートコントラクトに存在した脆弱性が攻撃者に悪用され、約1,000万ドル相当の資産が盗まれる事件が発生しました。具体的には、特定のファセットにあった無限Approve(Infinite Approval)を悪用した攻撃でした。このインシデントは、クロスチェーンインフラのリスクを示す教訓として業界で広く共有されています。
このインシデントを受け、LiFiは影響を受けたユーザーへの補償を検討するとともに、Approveの設計を見直しました。利用者としては、無限Approveを避け、使用するたびに必要な金額だけApproveする習慣が重要です。
6. LiFiと競合プロトコルの比較
6-1. Socket(旧Bungee)との比較
SocketはLiFiと同様のクロスチェーンブリッジアグリゲーターです。Bungee.exchangeというフロントエンドを持ち、複数のブリッジから最適なルートを選択します。LiFiとSocketはほぼ同様のサービスを提供していますが、対応ブリッジや手数料体系、APIの使いやすさなどで若干の差異があります。開発者向けAPIの成熟度や対応チェーンの広さにおいては、LiFiが比較的リードしていると評価されることが多いです。
6-2. Squid RouterとのDEX集約機能の違い
Squid RouterはAxelarネットワークを基盤としたクロスチェーンスワップサービスで、LiFiと同様にエンドツーエンドのスワップを提供します。Squidの特徴はAxelarの汎用メッセージングを活かした高い汎用性にありますが、LiFiの方が対応ブリッジの選択肢が多く、ルーティングの柔軟性が高い点が差別化要因の一つとなっています。利用目的や対象チェーンによって使い分けることも有効です。
まとめ
LiFiはクロスチェーンブリッジとDEXを統合するアグリゲーターとして、DeFiユーザーと開発者の双方に高い価値を提供しています。複数のブリッジを自動比較して最適なルートを選択する機能は、クロスチェーン操作の複雑さを大幅に軽減します。
一方で、2024年のセキュリティインシデントが示すように、クロスチェーンアグリゲーターにも固有のリスクが存在します。利用の際は正確な金額のApproveを徹底し、公式サイト(li.fi)以外のサービスを利用しないよう注意しましょう。
クロスチェーンDeFiの進化はまだ続いており、LiFiも継続的なアップグレードを重ねています。最新情報を公式ドキュメントやコミュニティで確認しながら、安全に活用していきましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1. LiFiを使うのに専用のトークンは必要ですか?
A. 基本的な利用にLiFi専用のトークンは必要ありません。送信元チェーンのガス代と、移動したいトークンがあれば利用できます。ただし、一部の機能や手数料割引に関連するトークンが将来的に導入される可能性はあります。最新情報は公式サイトでご確認ください。
Q2. LiFiはどのウォレットに対応していますか?
A. MetaMask、Rabby、WalletConnect対応ウォレット(Rainbow、Trust Wallet等)など、主要なEVM対応ウォレットに対応しています。また、Solanaのウォレット(Phantom等)にも対応が進んでいます。Jumper.exchangeのウォレット接続画面で確認できます。
Q3. LiFiで失敗したトランザクションはどうなりますか?
A. ブリッジやスワップのトランザクションが途中で失敗した場合、LiFiは一般的に自動リカバリー機能を持っており、資産がロックされないよう設計されています。ただし、ブリッジプロトコル側の問題など、状況によっては手動でのリカバリーが必要になる場合があります。問題が発生した場合はLiFiの公式Discord等でサポートに問い合わせることを推奨します。
※本記事は情報提供を目的としており、投資を推奨するものではありません。暗号資産への投資は元本割れのリスクがあります。投資判断はご自身の責任で行ってください。