ビットコイン投資において、「今の価格は過熱しているのか、まだ割安なのか」を客観的に判断したいと考える方は多いでしょう。市場の雰囲気や価格チャートだけではなく、ブロックチェーンのデータから市場参加者全体の損益状態を推計する指標が注目されています。
その代表格が「MVRV(Market Value to Realized Value)」と「NUPL(Net Unrealized Profit/Loss)」です。どちらも市場全体の損益水準を示す指標であり、過去の天井・底値と高い相関が観察されています。本記事では、これらの指標の仕組みと実践的な活用法を解説します。
なお、本記事の内容は情報提供を目的としており、特定の売買タイミングを保証するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
1. MVRV比率の基本
1-1. MVRVの計算方法と意味
MVRV比率は「時価総額(Market Value)÷ 実現時価総額(Realized Value)」で計算されます。時価総額は現在の市場価格×流通量で求められますが、実現時価総額は各ビットコインが最後に移動した際の価格を使って計算します。
実現時価総額は、市場参加者が実際に「支払った価格」の合計に近い値と考えることができます。したがって、MVRV比率が高いほど、現在価格が参加者全体の取得コストを大幅に上回っており、多くの保有者が大きな含み益を持っている状態を示します。
1-2. 過去サイクルでのMVRV水準
過去のデータを参照すると、ビットコインの強気相場天井付近ではMVRV比率が3.5〜4.0以上を記録していることがありました。2017年末の天井局面では一時的に7〜8程度まで上昇したとされています。一方、底値圏ではMVRV比率が1.0を下回り、0.8前後まで低下したサイクルも観察されています。
ただし、サイクルを重ねるごとにMVRVの最高値は低下傾向にあるとする分析もあります。市場参加者が増えるとともに、過去ほどの極端な過熱が生じにくくなる可能性も指摘されています。閾値は固定のものではなく、トレンドを含めて解釈することが大切です。
2. NUPLの定義と読み方
2-1. NUPLとは何か
NUPL(Net Unrealized Profit/Loss)は「市場全体の未実現損益の合計が時価総額に占める割合」を示す指標です。計算式は「(時価総額 − 実現時価総額)÷ 時価総額」で求められます。結果は−1から1の範囲に収まり、プラスなら市場全体が含み益、マイナスなら含み損の状態であることを示します。
NUPLは一般に以下のフェーズに区分されることがあります。0.75以上が「Euphoria(陶酔)」、0.5〜0.75が「Belief(確信)」、0.25〜0.5が「Optimism(楽観)」、0〜0.25が「Hope(期待)」、0未満が「Fear/Capitulation(恐怖・投げ売り)」です。
2-2. Euphoriaフェーズの意味
NUPLがEuphoriaフェーズ(0.75以上)に達している局面は、市場全体の含み益が非常に高い水準にあることを示します。過去のサイクルでは、このフェーズが天井形成と重なることが多く観察されています。
もっとも、Euphoriaフェーズが続く期間には個人差があり、数週間〜数か月にわたることもあります。NUPLが0.75を超えたからといって、翌日に天井が来るとは限りません。傾向として参照しつつ、他の指標と組み合わせて判断することが重要です。
3. MVRVとNUPLの使い分け
3-1. 共通点と相違点
MVRVとNUPLはどちらも「Realized Value(実現時価総額)」を基に計算されるため、似た動きをすることが多いです。しかし、表現方法が異なります。MVRVは比率(例:3.5倍)、NUPLは割合(例:0.75)として表現されるため、直感的な解釈の容易さが異なります。
また、NUPLは市場全体の損益割合を示すため、「参加者の何割が含み益か」というイメージで理解しやすい面があります。MVRVはより絶対的な倍率で示されるため、過去との比較に使いやすい面があります。両方を確認することで、より立体的な市場理解が可能です。
3-2. どちらの指標が先に動くか
一般に、MVRVとNUPLは同期して動くことが多いですが、わずかな差が生じる場合もあります。これは計算時に使用するデータの更新タイミングや、プラットフォームごとの計算方法の違いによるものです。
重要なのは、特定の指標が先行するかどうかよりも、複数の指標が同時にシグナルを示しているかどうかを確認することです。2つの指標が同時に高水準を示す場合、より高い確度で過熱圏にあると判断できます。
4. MVRV Z-Scoreとは何か
4-1. Z-Scoreの計算方法
MVRV Z-Scoreは、通常のMVRVをさらに統計的に標準化した指標です。「(時価総額 − 実現時価総額)÷ 時価総額の標準偏差」で計算され、過去のデータとの比較において統計的な意味合いを持ちます。
過去のデータでは、MVRV Z-Scoreが7〜10以上の水準は天井圏、−0.5以下は底値圏に相当することが観察されています。標準偏差で正規化することで、サイクルごとの規模の違いを補正できるという利点があります。
4-2. LookIntoBitcoinでの確認方法
MVRV Z-Scoreは、LookIntoBitcoinというウェブサービスで無料で確認できます。カラーバンドで過熱圏(赤)・適温圏(緑)・底値圏(青)が視覚的に表示されており、直感的に理解しやすいインターフェースです。
定期的にこのチャートを確認し、現在の水準を過去のサイクルと比較することで、長期的な相場位置の把握に役立てることができます。ただし、確認する際には「現在の水準が過去とどの程度近いか」に加えて、「トレンドの方向性」も合わせて確認することをお勧めします。
5. Pi Cycle Top指標との組み合わせ
5-1. Pi Cycle Top指標とは何か
Pi Cycle Top指標は、111日移動平均線(111DMA)と350日移動平均線×2(350DMA×2)のクロスを利用した天井予測指標です。過去のサイクルで、111DMAが350DMA×2を上抜けした際に天井が近かったという観察に基づいています。
2013年・2017年・2021年の各天井において、このクロスシグナルが発生したことで注目を集めています。ただし、シグナルの発生後に即座に天井を付けるとは限らず、数日〜数週間の誤差が生じることもあります。
5-2. MVRVとPi Cycle Topの組み合わせ
MVRVが高水準にある局面でPi Cycle Topシグナルが発生した場合、複数の指標が同時に天井圏シグナルを示していることになります。このような状況は、単一指標のみの場合よりも高い確度でリスクが高まっていると判断する根拠の一つになり得ます。
一方で、いずれの指標もあくまで参考情報であり、絶対的な予測精度を持つものではありません。「複数のシグナルが揃ったとき」にリスク管理を強化する、という姿勢が現実的です。
6. 底値圏でのMVRV・NUPLの活用
6-1. 蓄積フェーズを見極める
MVRVとNUPLは天井判断だけでなく、底値圏での買い増し判断にも活用できます。NUPLがFear/Capitulationフェーズ(0未満)にある局面は、市場全体が含み損を抱えているため、弱気な投資家が撤退しやすい局面です。
過去のデータでは、このフェーズが続く期間は数か月〜1年以上に及ぶこともあり、「底値を完璧に当てる」ことは困難です。しかし、NUPLがマイナス圏にある局面での分割積立を継続することは、長期的な平均取得コストを引き下げる一つの戦略として考えられます。
6-2. 長期投資家にとっての活用シーン
長期投資家にとって、MVRVとNUPLは「現在の市場ステージがどこにあるか」を把握するためのコンパスとして機能します。天井圏では積み立て速度を落とし利確を意識する、底値圏では積み立てを加速するといった、サイクルに応じたポジション調整の参考にすることができます。
重要なのは、これらの指標を参照しながらも、自身の資産状況・リスク許容度・投資期間に合った意思決定を行うことです。指標はあくまでツールであり、最終的な判断は投資家自身が行うものです。
7. データへのアクセスと注意事項
7-1. 主要なデータプラットフォーム
MVRV・NUPLの主要な提供元はGlassnodeです。基本的な指標は無料プランで確認できますが、詳細なデータや高頻度更新は有料プランが必要です。LookIntoBitcoinはいくつかの主要指標を無料で提供しており、初めてオンチェーン指標を確認する方に適しています。
また、各プラットフォームでは計算方法やデータソースが若干異なる場合があります。複数のプラットフォームで同じ指標を確認し、おおよその水準感を把握することをお勧めします。
7-2. 指標の解釈における注意事項
過去の天井・底値と指標の水準を対応させる際には、「生存者バイアス」に注意が必要です。過去にシグナルが出て天井だったケースは記憶に残りやすいですが、シグナルが出ても天井にならなかったケースも存在します。
また、市場の成熟度・参加者構成の変化・マクロ経済環境の影響により、過去の閾値がそのまま将来に適用できない場合があります。指標を参考にしながらも、柔軟な解釈を心がけることが重要です。
まとめ
MVRV比率とNUPLは、ビットコイン市場の過熱・底値を客観的なデータから判断するうえで有用な指標です。天井圏ではMVRVが高水準・NUPLがEuphoriaフェーズに達していることが多く、底値圏ではMVRVが1付近・NUPLがマイナスに低下することが観察されています。複数指標との組み合わせと、自身のルール設計によって、より合理的な投資判断に活用することができます。
よくある質問
Q1. MVRVとNUPLはどちらが信頼性が高いですか?
どちらも同じ基礎データ(Realized Value)から計算されるため、本質的な信頼性に大きな差はありません。MVRVは絶対的な倍率、NUPLは割合として表現されるため、用途に応じて使い分けるのが効果的です。
Q2. MVRV Z-Scoreはどの水準から危険圏ですか?
過去のデータでは7〜10以上の水準が天井圏と重なることが多く観察されています。ただし、あくまで過去の傾向であり、将来に同じ水準が適用されるとは限りません。
Q3. 指標だけで売買判断をしてよいですか?
オンチェーン指標は参考情報の一つです。テクニカル分析・マクロ経済動向・自身のリスク許容度と組み合わせて、総合的に判断することをお勧めします。
※本記事は情報提供を目的としており、投資を推奨するものではありません。暗号資産への投資は元本割れのリスクがあります。投資判断はご自身の責任で行ってください。