仮想通貨(暗号資産)の贈与・相続をめぐるトラブルが増加しています。税務調査での申告漏れ指摘、秘密鍵の消失による資産へのアクセス不能、評価額の算定ミスによる税額不足など、仮想通貨特有の問題が多岐にわたって発生しています。
これらのトラブルは、事前の知識と準備があれば多くの場合は回避できます。しかし、仮想通貨の技術的な特性と税法が交差する問題であるため、対処法が難しいケースも少なくありません。
本記事では、仮想通貨の贈与・相続に関して実際に起こりやすいトラブルのパターンと、それぞれに対する具体的な事前対策について詳しく解説します。
1. 税務調査における仮想通貨の申告漏れ問題
1-1. 仮想通貨の税務調査の現状
国税庁は2017年頃から仮想通貨に関する税務調査を強化しています。2023年の国税庁の発表によれば、仮想通貨取引に関する所得の申告漏れ件数・金額は増加傾向にあり、1件あたりの追徴税額も高額化しています。
国内の取引所(コインチェック、GMOコイン、ビットフライヤーなど)は、税務当局からの照会に応じて利用者の取引データを提出することが義務づけられています。つまり、税務当局は国内取引所を通じた仮想通貨取引の概況を把握できる立場にあります。取引所を通じた利益の申告漏れは、税務調査で発覚するリスクが高いと言えます。
贈与税においても同様に、多額の資金移動や財産評価の急増が相続税申告の際に発覚するケースが報告されています。特に、相続税申告の際に過去の仮想通貨取引履歴が調査され、贈与税の申告漏れが指摘されるケースに注意が必要です。
1-2. 申告漏れが起きやすいケースと対策
贈与税の申告漏れが起きやすいケースとして、①110万円を少し超えた贈与に気づかず未申告、②仮想通貨の贈与を財産とは認識していなかった、③複数の贈与者からの合計額が非課税枠を超えていた、④過去の贈与が相続財産に加算されることを知らなかった、などが挙げられます。
申告漏れを防ぐ最も基本的な対策は、年間の受贈額を正確に把握することです。仮想通貨の評価額は日々変動するため、贈与日の時価を記録しておく習慣が重要です。取引所のレート一覧やチャートのスクリーンショットを贈与日ごとに保存しておくことをお勧めします。
また、確定申告の際に税理士に仮想通貨の保有・受贈状況を必ず申告することが重要です。仮想通貨に詳しくない税理士に依頼する場合は、専門家への相談や情報収集も合わせて行うことが安心につながります。
2. 評価額の算定をめぐるトラブル
2-1. 評価額の算定ミスによる過少申告
仮想通貨の贈与税・相続税の申告で最も多いトラブルのひとつが、評価額の算定ミスです。具体的には、①取引所の価格ではなく個人間取引の価格を使用した、②贈与日の価格を確認せず前後の日付の価格を使用した、③複数の仮想通貨の評価を合算せずにそれぞれ別々に判断した、などのミスが見られます。
評価額を低く算定した場合は過少申告となり、加算税(過少申告加算税10〜15%、重加算税35〜40%)と延滞税が課される可能性があります。逆に高く算定した場合は不必要に多くの税を払うことになります。
正確な評価額算定のために、①贈与日(または相続開始日)を明確に記録する、②主要な国内取引所(コインチェック、GMOコイン、ビットフライヤーなど)の公式価格データを参照する、③評価の根拠となる資料を保管する、という3点を実践してください。
2-2. マイナーな仮想通貨やNFTの評価問題
ビットコインやイーサリアムのように流動性の高い主要銘柄は評価が比較的容易ですが、マイナーなアルトコインやNFT(非代替性トークン)の評価は困難です。市場が薄い銘柄は価格が不安定で、「時価」の概念自体が曖昧になる場合があります。
NFTの場合、同一コレクションでも各トークンの価値が異なるため、一律の評価が難しいという問題があります。これらの資産の評価については、国税庁の統一的な基準が整備されていない部分も多く、個別の判断が求められます。
マイナー銘柄やNFTを保有している場合は、税理士に相談したうえで、評価方法の合理的な根拠を記録して申告することをお勧めします。評価方法について税務署に事前に確認(事前照会)することも有効な手段です。
3. 秘密鍵・ウォレット情報の消失問題
3-1. 秘密鍵消失による資産喪失リスク
仮想通貨の相続における最大のリスクのひとつが、秘密鍵(シードフレーズ)の消失です。プライベートウォレット(ハードウェアウォレット・ソフトウェアウォレット)に保管されている仮想通貨は、秘密鍵がなければ誰もアクセスできません。被相続人が秘密鍵を誰にも伝えずに亡くなった場合、その資産は事実上消失します。
推計によれば、流通するビットコインの10〜20%程度がアクセス不能なウォレットに眠っているとも言われています。秘密鍵の紛失は個人の資産喪失だけでなく、通貨供給量の実質的な減少にもつながる問題です。
相続対策として、秘密鍵やシードフレーズを安全に保管・継承する方法を生前から準備しておくことが不可欠です。ただし、この情報が第三者に漏れると資産を盗まれるリスクがあるため、保管方法には細心の注意が必要です。
3-2. 安全な秘密鍵の継承方法
秘密鍵を安全に相続人に継承するための方法として、いくつかのアプローチが考えられます。第一に「公証人役場への封印保管」です。秘密鍵やシードフレーズを封筒に入れて公証人役場に「秘密証書遺言」または単純な保管として預けることで、第三者への漏洩リスクを抑えながら法的証拠を確保できます。
第二に「シャミア秘密分散(Shamir’s Secret Sharing)」の活用です。秘密鍵を複数の断片に分割し、それぞれを異なる信頼できる人物や場所に保管する方法です。一定数の断片が集まらなければ完全な秘密鍵が復元できないため、単一の断片が漏洩しても安全性が保たれます。
第三に「デジタル資産信託サービス」の利用です。専門の会社がデジタル資産の継承をサポートするサービスが登場しています。費用はかかりますが、技術的な知識が少ない相続人でも安全に資産を引き継げるメリットがあります。
4. 取引所アカウントをめぐるトラブル
4-1. 死亡後の取引所アカウントへのアクセス問題
国内主要取引所では、利用者の死亡後にアカウントが凍結される場合があります。生前に取引所でのアカウント情報(ユーザーIDや登録メールアドレス)を記録しておかないと、相続人が相続手続きを進めるにあたって基本情報すら分からないという事態が生じます。
各取引所は相続手続きの方法を公式ウェブサイトに掲載していますが、手続きに必要な書類や手順は取引所によって異なります。主要取引所(コインチェック、GMOコイン、ビットフライヤー、ビットバンクなど)の相続手続きページを確認し、必要書類のリストをエンディングノートに記載しておくことをお勧めします。
海外取引所(Binance、Coinbase、Krakenなど)の場合は、相続手続きが英語対応のみとなることが多く、書類の認証・翻訳が必要になる場合もあります。海外取引所の利用状況もエンディングノートに記録しておくことが重要です。
4-2. アカウントの名義変更と税務
取引所アカウントの名義変更または相続移管に際しては、取引所の規約に従って手続きを進めます。一般的には、仮想通貨を相続人の口座に移管するか、売却して現金で払い出す形で相続が完了します。
アカウントが移管される際の仮想通貨の時価が相続税の評価額となります。この時点の価格データを正確に記録しておくことが、相続税申告の根拠として重要です。
また、被相続人がステーキングや流動性提供(DeFi)などで未受領の報酬がある場合は、それらも相続財産に含まれる可能性があります。取引所やプロトコルに問い合わせて、すべての財産を漏れなく把握することが重要です。
5. 贈与の証明と税務調査への備え
5-1. 税務調査で指摘されやすいポイント
仮想通貨の贈与が税務調査で問題となりやすいケースとして、以下が挙げられます。第一に「名義財産」の問題です。受贈者名義の取引所口座なのに、実質的な管理・運用はすべて贈与者が行っているケースは、贈与として認められず、相続財産として扱われる可能性があります。
第二に「定期贈与」のリスクです。毎年同じ金額を同じ時期に同じ相手に贈与している場合、定期金の贈与とみなされることがあります。前述のとおり、金額・時期・方法を毎年変えることが対策となります。
第三に「形式的な贈与」の問題です。贈与契約書はあるが、実際には資産の移転が行われていない(親が子の口座を実質管理している)ケースは、贈与が否認される場合があります。贈与の実質(資産の実際の移転と受贈者による管理)が伴っていることが重要です。
5-2. 証拠書類の作成・保管方法
税務調査に備えた証拠書類の作成・保管として、以下の点を実践することをお勧めします。まず、毎年の贈与ごとに贈与契約書を作成し、贈与者・受贈者双方が署名・押印します。次に、贈与日の仮想通貨の取引所レートをスクリーンショットや公式データとして保存します。さらに、取引所での送金履歴(トランザクション記録)を保管します。
加えて、受贈者が実際に仮想通貨を管理・運用していることを示す記録(ログイン履歴、売買記録など)も有効な証拠となります。これらの記録は少なくとも7年間(相続税の除斥期間に対応するため)保管することが安全です。
特に高額の贈与を行う場合や、相続税対策として計画的に贈与を進める場合は、税理士に依頼して正式な記録管理を行うことを強く推奨します。専門家のサポートのもとで進めることで、将来の税務調査リスクを大幅に軽減できます。
6. 仮想通貨相続のトラブルを防ぐ事前準備
6-1. エンディングノートへの仮想通貨情報の記載
仮想通貨の相続トラブルの多くは、被相続人が生前に十分な情報を残していなかったことが原因です。エンディングノートや遺言書に仮想通貨の保有状況を記載することは、相続人の負担を大幅に軽減します。
記載すべき内容として、保有している仮想通貨の銘柄・おおよその数量、保管場所(取引所名・ウォレットの種類)、各取引所の登録メールアドレス・ユーザーID、ハードウェアウォレットの保管場所(秘密鍵・シードフレーズの保管場所への案内)が挙げられます。なお、秘密鍵・シードフレーズ自体は別途安全な方法で管理し、エンディングノートには「どこに保管しているか」という案内のみを記載することを推奨します。
エンディングノートは法的効力を持たないため、特に高額の資産については公正証書遺言を活用することをお勧めします。公正証書遺言は公証役場で作成し、公証人が内容を証明するため、偽造・紛失のリスクが低く、法的証拠能力も高いです。
6-2. デジタル資産の定期的な棚卸しと情報更新
仮想通貨市場は変化が激しく、新しい取引所の利用、ウォレットの変更、新たな銘柄への投資などが随時発生します。一度エンディングノートに記載しても、情報が古くなっていては役に立ちません。半年に一度程度、保有状況を棚卸しして記録を更新することをお勧めします。
また、ステーキング、DeFi、NFTなど、仮想通貨のエコシステムは日々進化しています。新しい形態の資産を保有し始めた際には、その保管場所やアクセス方法を速やかに記録に追加してください。
家族に対して「仮想通貨を保有していること」「エンディングノートや遺言書に情報を記載していること」を伝えておくことも重要です。存在を知らなければ相続手続きの対象にもなりません。信頼できる家族や専門家(税理士・弁護士)と情報を共有しておくことが、最終的なトラブル防止につながります。
まとめ
仮想通貨の贈与・相続をめぐるトラブルは、事前の知識と準備によって多くの場合を回避できます。税務調査への対応としては正確な評価額の算定と記録管理、秘密鍵問題への対応としては安全な継承方法の事前整備、取引所アカウントの問題への対応としてはエンディングノートへの情報記載が主要な対策となります。
仮想通貨の技術的な複雑さと税法の交錯により、個人での対応が難しいケースも多くあります。仮想通貨と相続税の両方に精通した税理士への相談を、早期から積極的に行うことをお勧めします。資産の保全と円滑な承継のために、今日から準備を始めることが最善の選択です。
よくある質問
Q1. 秘密鍵が見つからない仮想通貨も相続財産として申告が必要ですか?
原則として、被相続人が保有していたと認められる仮想通貨はすべて相続財産に含まれます。ただし、秘密鍵が消失してアクセス不能な状態の仮想通貨については、財産的価値が実質的に失われているとして評価ゼロまたは低評価を主張できる余地があります。具体的な対応については税理士への相談が必要です。
Q2. 仮想通貨の贈与で税務調査を受けた場合、どう対応すればよいですか?
税務調査の連絡を受けた場合は、自己判断で対応せず、まず税理士に相談してください。贈与契約書、取引履歴、評価額の根拠資料など、事前に準備した書類を整理しておくことが重要です。誠実かつ正確に事実を説明することが基本対応となります。
Q3. 海外取引所に保管している仮想通貨の相続はどのように進めればよいですか?
海外取引所では各社の相続手続きページを確認し、英語で必要書類を準備します。書類の翻訳や公証が必要な場合もあります。手続きが複雑な場合は、国際的な案件に対応できる税理士や弁護士への依頼をご検討ください。また、日本の相続税申告においては、海外に保管されている仮想通貨も申告義務があることを忘れずに対応してください。
※本記事は情報提供を目的としており、投資を推奨するものではありません。暗号資産への投資は元本割れのリスクがあります。投資判断はご自身の責任で行ってください。