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SECポール・アトキンス委員長体制の仮想通貨政策:ゲンスラー時代との決定的な違い

2025年4月、ポール・アトキンス氏が米国証券取引委員会(SEC)の新委員長に就任しました。前任のゲリー・ゲンスラー委員長が推し進めた強硬な仮想通貨規制とは一線を画し、アトキンス体制は「イノベーションを支援しながら投資家を守る」という新たなアプローチを掲げています。

アトキンス委員長はブッシュ政権下(2002〜2008年)でSECコミッショナーを務めた経験を持ち、規制の過剰な介入よりも市場原理を重視するリバタリアン的な思想を持つことで知られています。仮想通貨業界からの評価は高い一方、消費者保護の観点から懸念の声もあります。

本記事では、アトキンス新体制がこれまでに実施した政策変更の具体的な内容を整理し、仮想通貨業界と投資家にとっての意味を詳しく解説します。

1. ゲンスラー時代の負の遺産

1-1. 「暗号資産は99%が証券」という強硬論

ゲンスラー前委員長は就任早々から「ビットコインを除くほぼすべての仮想通貨は未登録証券である」という立場を明確にし、業界に衝撃を与えました。この見解はハウイーテスト(投資契約かどうかを判断する基準)を仮想通貨に厳格適用するもので、業界側は強く反発しました。

ゲンスラー委員長の在任期間中、SECは前例のないペースで仮想通貨関連の執行措置を取りました。コインベース、バイナンスUS、クラーケン、リップル、ポリゴン、カルダノ、ソラナなど、名前の挙がった企業・プロジェクトは数知れません。

執行件数は年間100件を超える年もあり、業界はビジネスよりも法的防衛に多大なリソースを割かざるを得ませんでした。米国市場から撤退する企業も相次ぎ、「規制の不確実性が米国の競争力を蝕んでいる」という批判が高まりました。

1-2. SAB 121とカストディ問題

ゲンスラー体制が出したSAB 121(スタッフ会計公報121号)は、仮想通貨のカストディ(保管)ビジネスに参入しようとする金融機関に大きな障壁を作りました。この会計指針は、仮想通貨を顧客のために保管する金融機関に対し、当該資産をバランスシートに計上することを求めるものでした。

通常の金融資産の保管ビジネスではこのような要件は存在せず、銀行が仮想通貨カストディに参入する際の資本規制上の負担を著しく増大させる効果がありました。議会ではSAB 121の廃止を求める決議が可決されましたが、バイデン大統領が拒否権を行使して阻まれるという経緯がありました。

アトキンス体制への移行後、SECはSAB 121を事実上廃止する方向で動き、大手銀行が仮想通貨カストディサービスに参入する道が開かれています。これは機関投資家の仮想通貨参入を促す重要な政策転換です。

2. アトキンス体制の政策的転換

2-1. 「クリアー・パスウェイ」の提供

アトキンス委員長が就任後に最も重視したのは、仮想通貨企業が合法的にビジネスを行うための明確な道筋(クリアー・パスウェイ)を示すことでした。従来の「訴訟で押さえつける」アプローチから「ルールを示してコンプライアンスを促す」アプローチへの転換です。

具体的には、仮想通貨取引所やブローカーが既存の証券法の枠組みの中でどのように事業登録・運営できるかを示すガイダンスの策定が進められました。業界が長年求めてきた「当社の取り扱い商品が証券かどうかを事前に確認できる仕組み」(ノーアクション・レター)の活用も拡大されています。

アトキンス体制では、新たな規則を一方的に押し付けるのではなく、業界との対話を重視したルールメイキングを採用しています。定期的な業界ラウンドテーブルの開催や、規制案に対する十分なパブリックコメント期間の確保などが実施されています。

2-2. ビットコインETFの拡大と現物ETF承認後の展開

バイデン政権末期の2024年1月、SECはビットコイン現物ETFを承認しました。これは業界の悲願であり、アトキンス体制ではこの流れをさらに加速させています。

現物ETFの承認後、運用資産総額は急速に拡大し、ブラックロックのiShares Bitcoin Trust(IBIT)は数百億ドル規模に成長しました。アトキンス体制ではイーサリアム現物ETFの承認も実現し、次のステーブルコインETFや特定のアルトコインETFについても検討が進んでいます。

ETFの拡大は機関投資家の仮想通貨市場への参入ルートを大きく広げており、市場の流動性・安定性向上に寄与しています。一方、ETFを通じた投資が増加することで、仮想通貨市場が伝統的な金融市場との連動性を高める可能性も指摘されています。

3. 具体的な政策変更の内容

3-1. 証券判定の明確化

アトキンス体制のSECは、どのようなデジタル資産が証券に該当するかの判断基準を明確化する作業を進めています。従来の曖昧なアプローチに代わり、判断基準の詳細なガイダンス文書が策定されました。

基本的な考え方として、十分に分散されており中央集権的な管理者が存在しない仮想通貨ネットワークのトークンは、証券ではなく商品(コモディティ)として扱われる可能性が高いとされています。一方、プロジェクトチームが依然として管理権を持ち、投資家が開発チームの努力に利益を期待しているケースは証券に該当しやすいとされます。

この明確化により、多くのプロジェクトが自社トークンの法的地位を把握しやすくなり、コンプライアンスコストの削減と事業計画の立案が容易になっています。

3-2. 仮想通貨ブローカー・ディーラー規制の整備

仮想通貨を取り扱うブローカーやディーラーが証券法のもとでどのように登録・運営すべきかについても、アトキンス体制は具体的なルールの整備を進めています。

従来は既存の証券業者向けルールをそのまま仮想通貨に適用することが求められており、技術的な性質の違いから実務的に不可能な要件も多数含まれていました。アトキンス体制では仮想通貨の技術的特性を考慮した「フィット・フォー・パーパス」なルール設計が進められています。

例えば、分散型取引所(DEX)やカストディ技術に関するルールは、中央集権的な証券取引所を前提とした従来のルールをそのまま適用するのではなく、分散型技術の特性に応じた新たな枠組みが検討されています。

4. 業界への実際の影響

4-1. 米国企業の「帰国」と新規参入の増加

ゲンスラー時代の厳しい規制環境を避けて海外(シンガポール、UAE、スイスなど)に移転した仮想通貨企業が、アトキンス体制への移行後に米国への回帰を検討・実施するケースが増えています。

規制の明確化と訴訟リスクの低下は、スタートアップ企業にとって米国での創業・事業展開を現実的な選択肢にしています。ベンチャーキャピタルからの仮想通貨スタートアップへの投資も回復傾向にあり、米国の仮想通貨エコシステムが活性化の兆しを見せています。

コインベースのような既存の大手企業にとっても、法的リスクの低下は株価や事業展開に直接プラスの効果をもたらしています。コインベース株は訴訟取り下げ後に大きく上昇しました。

4-2. 投資家保護の観点からの懸念

規制緩和が進む一方、投資家保護が後退するリスクを指摘する声も無視できません。FTX破綻(2022年)ではSBFが投資家から数十億ドルを詐取したわけですが、こうした事件の再発防止には一定の規制が不可欠です。

アトキンス委員長自身も「投資家保護はSECの根本的使命であり、これを妥協することはない」と明言しています。ただし、その手段として個別訴訟ではなく、明確なルールの設定と業界のコンプライアンス醸成を重視するというスタンスです。

実際のところ、詐欺的なプロジェクトや無登録での証券募集に対してはアトキンス体制でも執行措置は取られています。変わったのはアプローチの仕方であり、「善意のプレイヤーに対するルールの明確化」と「悪意のある行為者への厳正対処」を分けて考える姿勢が鮮明になっています。

5. 議会との連携と立法プロセス

5-1. 包括的な仮想通貨市場構造法案の進展

SEC単独での規制改革には限界があるため、議会との連携による立法が不可欠です。アトキンス体制のSECは、議会の仮想通貨関連委員会との密接な協力関係を構築しています。

「FIT for the 21st Century Act(21世紀のためのデジタル商品消費者保護法)」などの包括的な市場構造法案は、SECとCFTCの管轄境界を明確化し、各機関の権限と責任を法律レベルで規定することを目指しています。

この立法が成立すれば、SECが単独で変えられない部分(管轄権の問題など)も解決され、より包括的な規制の明確性が得られます。業界団体はこの立法を最優先課題の一つとして強力にロビー活動を進めています。

5-2. 超党派合意の可能性と障壁

仮想通貨規制法案の成立には民主党の協力も必要です。共和党が上院・下院で多数を占める状況でも、フィリバスターを避けるために一定数の民主党議員の賛同が必要なケースがあります。

民主党内では、進歩派(ウォーレン議員ら)が強硬な反対を維持している一方、穏健派や一部の若手議員の間では現実的なアプローチを求める声が出ています。2024年の選挙で仮想通貨業界が民主党の一部候補に多額の資金を提供したことも、民主党内の対応の変化を促す要因となっています。

ステーブルコイン規制については比較的超党派の合意が形成されやすい分野であり、GENIUS法の成立が先行する可能性があります。一方、より複雑な市場構造の全体像を規定する法案については、詳細を詰める作業に時間がかかることが予想されます。

6. 国際的な規制協調への影響

6-1. EU・MiCA規制との比較と連携

欧州連合(EU)では2024年から「暗号資産市場規制(MiCA)」が本格施行され、欧州全体で統一された仮想通貨規制が整備されました。MiCAはステーブルコイン発行者や仮想通貨サービス事業者(CASP)に対する包括的なルールを定めており、欧州市場では一定の明確性が確立されています。

米国がアトキンス体制のもとで規制の明確化を進めることで、EU・MiCAとの国際的な調和(ハーモナイゼーション)の可能性が生まれます。双方向でビジネスを行うグローバル企業にとって、異なる規制体系への対応コストが削減されることは大きなメリットです。

ただし、規制の哲学や具体的な要件には依然として多くの違いがあり、真の意味での国際的な統一規制が実現するまでにはまだ長い道のりがあります。G20や金融安定理事会(FSB)などの国際フォーラムでの議論も継続されています。

6-2. アジア・日本市場への示唆

米国のSEC規制緩和は、アジア各国の規制論議にも影響を与えています。シンガポール、香港、日本は仮想通貨のアジアハブとして競い合っており、米国の動向を参照しながら自国の規制を調整しています。

日本では金融庁が暗号資産規制の継続的な整備を進めており、米国の規制明確化の動きは一定の参考になります。特にステーブルコインや仮想通貨ETF、機関投資家向けサービスに関しては、米国の先例が日本の制度設計にも影響を与える可能性があります。

日本の個人投資家にとっては、米国規制の安定化が仮想通貨市場全体のリスクプレミアムを低下させ、長期的な市場成熟化に寄与することが期待されます。

まとめ

アトキンス委員長率いる新体制のSECは、「訴訟による支配」から「ルールの明確化による育成」へという明確な路線転換を実行しています。SAB 121の廃止、主要訴訟の取り下げ、仮想通貨ETFの拡大、証券判定基準の明確化など、具体的な政策変更が積み重なってきています。

こうした変化は仮想通貨業界の発展にとってポジティブな条件整備となりますが、同時に投資家保護の観点からのバランスも求められます。規制緩和が必ずしも「何でもあり」を意味するわけではなく、明確なルールのもとでの健全な市場育成を目指すものです。

今後の焦点は、議会での包括的立法の成否にあります。SECの行政的対応だけでなく、法律レベルでの規制の明確化が実現するかどうかが、米国仮想通貨市場の中長期的な方向性を決める鍵となるでしょう。

よくある質問

Q. アトキンス委員長はSECの仮想通貨規制を全廃しようとしているのですか?

そうではありません。アトキンス委員長は「規制の廃止」ではなく「規制の明確化と合理化」を目指しています。投資家保護というSECの基本使命は維持しつつ、業界が予測可能な形でコンプライアンスを行える環境を整えることが目標です。

Q. SAB 121の廃止で何が変わるのですか?

SAB 121が廃止されることで、銀行などの金融機関が仮想通貨のカストディ(保管)サービスを提供する際の資本規制上の障壁が大幅に低下します。これにより機関投資家が安心して仮想通貨資産を保有・運用できる環境が整います。

Q. アトキンス体制でも詐欺的なプロジェクトへの規制は行われますか?

はい、引き続き行われます。アトキンス体制が変えているのは合法的なビジネスへのアプローチ方法であり、詐欺・横領・無登録証券募集などの違法行為に対する執行措置は依然として実施されています。

免責事項:※本記事は情報提供を目的としており、投資を推奨するものではありません。暗号資産への投資は元本割れのリスクがあります。投資判断はご自身の責任で行ってください。

Bitcoin Analyze 編集部

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