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USDe(Ethena)の革新と課題:デルタニュートラル戦略・高利回りの仕組みと持続可能性

2024年初頭にローンチされたUSDeは、Ethena Labsが開発した新世代のステーブルコインです。従来の法定通貨担保型(USDT・USDC)や暗号資産担保型(DAI)とは根本的に異なる「デルタニュートラル戦略」を採用しており、登場からわずか1年あまりで50億ドルを超える発行残高を達成するという急速な成長を遂げました。

USDeが注目を集めた最大の理由は、その高い利回りにあります。ステーキングされたUSDeである「sUSDe」は、2024年の一時期には年率30%を超える利回りを記録し、多くの投資家やDeFiユーザーの関心を集めました。2025年時点では市場の変動に伴い利回りは10%前後に落ち着いていますが、それでも他のステーブルコインと比較して際立った水準を維持しています。

一方で、USDeには既存のステーブルコインとは異なる固有のリスクが存在します。本記事ではUSDeの仕組みを丁寧に解説しながら、その持続可能性・リスク・規制上の課題について詳しく見ていきます。

1. USDeの基本的な仕組み:デルタニュートラル戦略とは

1-1. デルタニュートラルの概念

「デルタニュートラル(Delta-Neutral)」とは、金融工学において、保有資産の価格変動リスクをゼロに近づける戦略です。具体的には、ある資産を「ロング(現物保有)」しながら、同等の価値の「ショートポジション(売りポジション)」をデリバティブ市場で持つことで、原資産の価格変動に対して中立な状態を作り出します。

USDeはこの概念をステーブルコイン発行に応用しています。具体的なメカニズムは以下のとおりです。

  1. ユーザーがイーサリアム(ETH)やリキッドステーキングトークン(stETH等)をEthenaプロトコルに預託します。
  2. Ethenaは預託された担保の市場価値に等しい量のETHショートポジションを、集中型取引所(Binance・Bybit・OKXなど)の永続先物(Perpetual Futures)市場で建てます。
  3. ETH価格が上昇した場合、現物(ロング)の価値増加とショートポジションの損失が相殺されます。
  4. ETH価格が下落した場合も同様に、現物の価値減少とショートポジションの利益が相殺されます。
  5. 結果として、預託資産の価値は常に米ドル換算で安定した状態が維持されます。

1-2. 利回りの発生メカニズム

USDeの高利回りは、2つの収益源から生まれています。

第一の収益源は「ファンディングレート収入」です。暗号資産の永続先物市場では、ロングポジション保有者がショートポジション保有者に定期的に「ファンディングレート」と呼ばれる手数料を支払います。強気相場が続く期間は買い圧力が強く、ロングポジションの数がショートを上回るため、ショート側(Ethenaプロトコル)はファンディングレートを受け取り続けます。

第二の収益源は「リキッドステーキング利回り」です。担保として預託されたstETH(ステーキングされたETH)は、Ethereumのバリデーター報酬として年率3〜4%の利回りを生み出します。この利回りもプロトコルの収益として蓄積されます。

これら2つの収益がsUSDe保有者に分配されることで、高利回りが実現しています。

2. USDeのリスク要因の詳細分析

2-1. ファンディングレート逆転リスク

USDeの最大のリスクは「ファンディングレートの逆転」です。市場が弱気に転じてショートポジションが優勢になると、ファンディングレートがマイナスになります。この状態ではEthenaプロトコルがファンディングレートを「支払う」側に回り、収益がマイナスになります。

2024年後半の特定期間にはこの状況が発生し、プロトコルが「保険基金(Insurance Fund)」を取り崩して損失を補填しました。保険基金の規模は2025年時点でおよそ4,500万ドルとされており、大規模な相場下落が長期間続いた場合には不十分となる可能性があります。

2-2. 集中型取引所(CEX)カウンターパーティーリスク

Ethenaのショートポジションは、Binance・Bybit・OKXなどの集中型取引所(CEX)上に置かれています。これらの取引所が経営破綻(2022年のFTX崩壊のような事態)に直面した場合、ポジションの消滅や資産の凍結が起きるリスクがあります。

Ethenaはこのリスクへのヘッジとして、複数の取引所へのポジション分散と、「オフエクスチェンジカストディ」(Copper・Cobo等のカストディ事業者を通じた資産保管)を採用しています。ただし、これらの対策が完全なリスク除去に至っているとは言えず、FTXのような大手取引所の突然の崩壊に対しては脆弱性が残ります。

2-3. 担保資産の清算リスク

ETH価格が急落した場合、ショートポジションの担保が不足する「マージンコール」や「清算(Liquidation)」のリスクがあります。Ethenaは清算ラインを十分に余裕を持って設定しているとされていますが、2020年3月や2022年5月のような急激な価格崩壊時には、担保比率が急速に低下する可能性があります。

3. sUSDe(ステーキングUSDe)の仕組みと利回りの持続性

3-1. sUSDeの基本的な使い方

USDeを「sUSDe」にステーキングすることで、プロトコルが生み出す収益の分配を受け取ることができます。ステーキングはEthenaのウェブアプリを通じて行い、sUSDeはリベース(残高自動増加)型ではなく、「リウォードベアリングトークン」として機能します。つまり、保有量は変化せず、sUSDeの価値(1 sUSDe = X USDE)が時間とともに上昇していく形式です。

sUSDeはDeFiプロトコルでの担保や流動性提供にも使用できます。Aave・Pendle・MorphoなどのプロトコルではsUSDeを担保として借入を行う機能が提供されており、「利回り付きの担保」としての活用が広がっています。

3-2. 利回りの歴史的推移と将来見通し

USDeの年率利回りの推移は以下のとおりです。

  • 2024年2月(ローンチ直後):年率27%前後
  • 2024年3月〜4月(ビットコイン新高値更新時):年率35%超(一時)
  • 2024年後半(相場調整期):年率5%〜8%に低下、一時マイナス
  • 2025年前半(相場回復後):年率12%〜18%程度
  • 2025年末:年率9%〜12%程度で安定

利回りは市場環境(特にBTC・ETHの永続先物ファンディングレート)に大きく依存するため、強気相場では高く、弱気相場では著しく低下する特性があります。長期保有を前提にした場合、平均的な利回りが他のDeFiプロトコルを上回り続けるかどうかは不確実であることを認識しておく必要があります。

4. 規制上の位置づけと各国当局の見方

4-1. GENIUS法における「合成型」の定義問題

米国のGENIUS法草案では、ステーブルコインを「法定通貨担保型」「暗号資産担保型」「アルゴリズム型」に分類していますが、USDeのようなデルタニュートラル型(合成型)に明確に対応するカテゴリが存在しません。

法案の解釈によっては、USDeは「暗号資産担保型」の一形態として扱われる可能性があります。その場合、担保比率の維持要件・準備資産の開示義務・発行体ライセンスの取得が求められることになります。Ethena Labsは規制当局との対話を継続しており、法案成立後の対応計画を準備しているとされています。

4-2. 欧州MiCAの適用可能性

欧州のMiCA規制は、USDeのような合成型ステーブルコインについても「資産参照型トークン(ART)」としての規制対象となる可能性を示唆しています。ARTに分類された場合、EU内での発行にはライセンス取得が必要となり、準備資産の維持要件や情報開示義務が課されます。

2025年時点では、EUにおけるUSDeの具体的な規制上の位置づけはまだ確定していませんが、MiCA施行後の運用実態を踏まえた当局の判断が注目されています。

5. Ethena ENA(ガバナンストークン)とエコシステム

5-1. ENAトークンとガバナンス

ENAはEthenaプロトコルのガバナンストークンであり、プロトコルのパラメーター変更(担保比率・保険基金配分・対応取引所の追加・削除等)を決定するためのガバナンス投票に使用されます。2024年4月にエアドロップが実施され、早期ユーザーに対してENAが配布されました。

ENAはステーキングによって追加的な収益を得ることもでき、プロトコルへの参加度を高めるインセンティブ設計となっています。ただし、ガバナンストークンはプロトコルリスクと直結しており、プロトコル自体の信頼性低下時には価値が急落するリスクがあります。

5-2. USDtb:規制準拠型の新戦略

Ethena Labsは2024年末に「USDtb」という新たなステーブルコインも展開しました。USDtbはBlackRockが運用するBUIDLファンド(米国財務省証券ベースのトークン化ファンド)を準備資産として使用する、より従来型の法定通貨担保型ステーブルコインです。

USDeとUSDtbを並行展開することで、規制環境の変化に対して柔軟に対応できる体制を整えているとみられます。特にファンディングレートがマイナスになる局面では、担保の一部をUSDeからUSDtbに移すことでリスクを分散させる仕組みが実装されています。

6. USDeの活用法と注意点

6-1. DeFiでの活用シナリオ

USDeおよびsUSDeをDeFiで活用する主なシナリオは以下のとおりです。

  • sUSDeの単純保有:最もシンプルな利回り獲得方法。Ethenaプロトコルに直接ステーキングするだけで収益が発生します。
  • Pendleでの利回りトレード:PendleはDeFiプロトコルで、将来の利回りを固定レートで取引できる仕組みを提供しています。sUSDeの将来利回りを固定受け取りにするか、変動受け取りにするかを選択できます。
  • Aaveでの担保利用:sUSDeをAaveに担保として供給し、USDCやEthereumを借り入れる形で追加的なレバレッジをかける戦略。ただしリスクが増大するため、上級者向けです。

6-2. 初心者が注意すべきリスク

USDeはその革新的な仕組みゆえに、従来のステーブルコインにはない固有のリスクを持ちます。スマートコントラクトリスク(プロトコルへの攻撃・バグ)、ファンディングレート逆転による収益悪化、CEXカウンターパーティーリスク、そして規制リスクなど、複数のリスクが重なっていることを認識した上で利用することが重要です。

高利回りには必ず相応のリスクが存在します。USDeをポートフォリオに組み入れる場合は、全資産の一部に留め、損失が発生しても影響が限定的な範囲での利用を検討することをお勧めします。

まとめ

USDeは従来のステーブルコインの常識を覆す革新的な仕組みを持ち、急速な成長を遂げています。デルタニュートラル戦略による価格安定と、ファンディングレート+ステーキング利回りによる高利率の組み合わせは、DeFi市場での存在感を大きく高めています。

しかし、その仕組みは複雑であり、ファンディングレート逆転・CEXカウンターパーティーリスク・規制上の不確実性など、従来のステーブルコインにはない固有のリスクを抱えています。革新性とリスクの両面を正しく理解した上で、自身のリスク許容度に合わせた活用方法を検討してみましょう。

よくある質問

Q1. USDeとUSDCの大きな違いは何ですか?

最大の違いは発行の仕組みです。USDCは銀行に預けたドルを裏付けとして発行されますが、USDeはETHの現物とショートポジションを組み合わせた「デルタニュートラル戦略」で価値を安定させています。また、USDCには利回りがありませんが、USDeはステーキングによる高利回りを得られる点も大きな違いです。

Q2. USDeのペッグはいつ壊れる可能性がありますか?

ファンディングレートが長期にわたってマイナス状態となり、保険基金が枯渇した場合、または利用している集中型取引所が破綻した場合などに、ペッグが外れるリスクがあります。2024年の弱気局面では一時的にペッグが0.995ドル付近まで外れた事例があります。

Q3. sUSDeの利回りは課税対象になりますか?

日本の現行税制では、暗号資産の収益は原則として雑所得として課税対象になります。sUSDeから得られる利回りも、日本円換算での評価増が発生した時点で課税対象となる可能性があります。具体的な税務処理については税理士等の専門家にご確認ください。

※本記事は情報提供を目的としており、投資を推奨するものではありません。暗号資産への投資は元本割れのリスクがあります。投資判断はご自身の責任で行ってください。

Bitcoin Analyze 編集部

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