2024年以降、世界の大手金融機関が競うように参入しているのが「トークン化米国国債」の市場です。ブラックロック・フランクリン・テンプルトン・Ondo Financeといった著名なプレイヤーが、米国国債や短期金融商品をブロックチェーン上でトークン化したプロダクトを提供しており、RWA(リアルワールドアセット)市場の中でも最も急成長しているセグメントのひとつとなっています。
本記事では、トークン化米国国債の市場全体の動向を俯瞰しながら、主要プレイヤーの特徴・利回り・投資家へのアクセス条件・リスクを比較検討します。
米ドル建て利回り資産をブロックチェーン上で保有・運用したいと考える投資家にとって、有益な判断材料を提供できれば幸いです。なお、本記事は特定の商品を推奨するものではなく、情報提供を目的としています。
1. トークン化米国国債市場の概要
1-1. 市場規模と成長背景
トークン化米国国債(Tokenized U.S. Treasuries)市場は、2023年初頭にはほぼ存在しなかったものが、2024年末には総残高が約40〜50億ドル規模に達したと推計されています(RWA.xyz等のデータ)。この急成長の背景には、2022〜2024年にかけてFRBが利上げを続けた結果、米国国債の利回りが4〜5%台に上昇したことが大きく寄与しています。ステーブルコインや低利回りのDeFiプロトコルに資金を眠らせていた機関投資家・個人投資家が、より高利回りかつ比較的低リスクなトークン化国債に資金を移す動きが加速しました。
1-2. なぜ米国国債がRWAトークンの主流になったのか
RWAトークンの中でも米国国債が特に人気を集める理由は以下の通りです。第一に、米国国債はデフォルトリスクが極めて低く、金融市場で最も信頼性の高い資産クラスのひとつとされています。第二に、利回りが市場金利に連動するため、高金利環境下では魅力的なリターンを提供します。第三に、既存の法的枠組み(証券法)の中で扱われるため、規制上の明確性が相対的に高いといえます。これらの要因が重なり、トークン化米国国債は機関投資家にとっても個人投資家にとっても入りやすい「DeFiへの入り口」として機能しています。
2. ブラックロック BUIDL ファンド
2-1. BUIDLの概要と特徴
ブラックロックが2024年3月にイーサリアム上で立ち上げたBUIDL(BlackRock USD Institutional Digital Liquidity Fund)は、トークン化米国国債市場において象徴的な存在です。世界最大の資産運用会社による参入は、機関投資家の間でRWAトークンへの信頼性を大きく向上させました。BUIDLはイーサリアムのERC-20トークンとして発行され、ブラックロックが米国国債・国債レポ・現金で運用します。Securitize(証券トークン発行プラットフォーム)がトランスファーエージェントを務め、KYC審査を経た機関投資家・認定投資家のみが参加できます。
2-2. BUIDLの運用・配当・流動性
BUIDLは毎日配当を蓄積する方式を採用しており、月次でUSDC(ステーブルコイン)として投資家に分配されます。サークルとの連携により、BUIDLトークンをUSDCに即時交換できる「BUIDL Liquidity Facility」も提供されており、流動性の確保が図られています。最低投資額は500万ドル(2024年時点)と高額であるため、主に大手機関投資家向けのプロダクトです。その規模は2024年末時点で30億ドルを超えたとの報告があり、個別トークン化国債ファンドとして最大規模を誇っています。
3. フランクリン・テンプルトン FOBXX
3-1. FOBXXの先駆的な位置づけ
フランクリン・テンプルトンの「FOBXX(Franklin OnChain U.S. Government Money Fund)」は、SECに登録されたトークン化マネーマーケットファンドとして最も早期から展開されたプロダクトのひとつです。ステラブロックチェーンおよびポリゴン上で運用されており、BENJIトークンとしてオンチェーンに記録されます。注目すべき点は、ファンドの受益権記録がオンチェーンで管理されるという点であり、従来の証券の記録管理を部分的にブロックチェーンに置き換えた点が革新的です。
3-2. FOBXXの利回りと対象投資家
FOBXXの利回りは米国マネーマーケットファンドの実勢利回りに連動しており、2024年時点では年率4〜5%程度が提供されていました(金利環境によって変動)。投資対象は米国在住の個人投資家も含まれており、最低投資金額はBUIDLより低い水準に設定されています。ただし、KYC審査は必要であり、米国外の投資家(日本を含む)については利用制限が設けられている場合があります。
4. Ondo Finance USDY・OUSG
4-1. USDYとOUSGの位置づけ
Ondo FinanceはDeFiネイティブな投資家向けに最適化されたRWAプロダクトを提供しています。USDYは米国短期国債を裏付けとする個人向けの利回りトークンであり、マルチチェーン(イーサリアム・ソラナ・Mantle等)で展開されています。OUSGは主にブラックロックBUIDLを裏付けとする機関向けファンドトークンであり、Flux Finance(OndoのDeFiレンディングプロトコル)での担保利用が可能です。Ondoの最大の特徴は、DeFiプロトコルとの統合の深さにあり、RWAをDeFiエコシステムの流動性として活用しようという設計思想が根底にあります。
4-2. Ondoのマルチチェーン戦略
OndoはONDO Chain(機関向けブロックチェーンインフラ)の開発を進めながら、既存の主要チェーン(イーサリアム・ソラナ・アービトラム等)でのプロダクト展開を並行して行っています。これにより、異なるエコシステムの投資家がそれぞれ使い慣れたチェーンでRWAトークンへアクセスできる環境を整備しています。ソラナエコシステムとの統合は特に注目されており、ソラナ上のDeFiプロトコルとのUSDYの組み合わせが新たな運用戦略を生み出しています。
5. その他の主要プレイヤー
5-1. Superstate(OpenTrade)
Superstateは米国国債および機関向け短期金融商品をトークン化するプロトコルです。Robert Leshner氏(Compound Financeの創業者)が設立したことで注目を集めており、DeFiとTradFiの橋渡しを目指しています。USTB(Superstate Short Duration U.S. Government Securities Fund)はイーサリアム上で展開されており、KYC審査を経た機関・個人投資家向けに提供されています。
5-2. Matrixdock・OpenEden・Maple Finance
Matrixdock(シンガポール・Matrixport傘下)はSBTBとして米国短期国債をトークン化しており、アジア圏の機関投資家を中心に展開しています。OpenEdenはシンガポールを拠点に、コンプライアンス重視のT-Bills Vaultを提供しています。Maple Financeは機関向けプライベートクレジットのオンチェーン化に特化しており、国債ではなくより高利回りのプライベートローンをRWAとして提供しています。これらは米国国債トークン以外のRWAセグメントとして、異なるリスク・リターンプロファイルを投資家に提供しています。
6. 主要プレイヤーの比較まとめ
6-1. 各プロダクトの特徴比較
主要トークン化国債プロダクトの特徴を整理すると以下のようになります。
- BUIDL(ブラックロック):機関向け・最低500万ドル・最高信頼性・BUIDLからUSDC即時交換可能
- FOBXX(フランクリン・テンプルトン):SEC登録済み・個人も参加可能・最も歴史が長い・ステラ/ポリゴン
- USDY(Ondo):個人向け・マルチチェーン・DeFi統合・利回りは国債連動
- OUSG(Ondo):機関向け・BUIDL裏付け・Flux Financeでの担保利用可
- USTB(Superstate):DeFi志向・機関向け・Compound創業者の信頼性
6-2. 選択のポイント
投資家がどのプロダクトを選択するかは、投資家属性(機関か個人か)・居住地域・利用目的(単純な利回り獲得かDeFiでの担保利用か)・チェーン環境の好みによって異なります。いずれのプロダクトも固有のリスク(スマートコントラクト・流動性・規制リスク等)を持つため、投資前に各プロダクトの公式ドキュメントを十分に確認することが重要です。また、利回りは市場金利環境の変化によって変動するため、将来の利回りを保証するものではない点に注意が必要です。
まとめ
トークン化米国国債市場は、ブラックロック・フランクリン・テンプルトン・Ondoなど大手プレイヤーの参入により急速に拡大しています。各プロダクトは対象投資家・最低投資額・チェーン・DeFi統合度において異なる特徴を持ち、投資家は自分のニーズに合ったプロダクトを選択することが求められます。市場の成熟とともに競争が激化し、サービスの多様化・利便性向上が進むことが期待されますが、同時に規制・技術リスクへの注意も必要です。
よくある質問
- Q1. トークン化米国国債の利回りはステーブルコインより高いですか?
- 一般的に、トークン化米国国債の利回りはUSDCやUSDT等のステーブルコイン(単体保有)よりも高くなります。ただし、利回りはFRBの政策金利に連動して変動し、金利低下局面では利回りが低下する点に注意が必要です。また、流動性・最低投資額・対象地域の制限があるため、ステーブルコインと単純に比較することはできません。
- Q2. ブラックロックのBUIDLは個人でも投資できますか?
- BUIDLは機関投資家・認定投資家向けのプロダクトであり、最低投資額が500万ドル(2024年時点)と非常に高額です。一般個人投資家が直接投資することは現実的ではありません。一方、OUSG(Ondo)はBUIDLを裏付けとしていますが、こちらも適格投資家向けです。個人投資家がアクセスしやすいのはUSDYやFOBXXといったプロダクトですが、居住地域制限があることを確認してください。
- Q3. トークン化米国国債の課税はどうなりますか?
- 日本居住者がトークン化米国国債から得た利益(利息相当分・売却益)の税務上の扱いは、2026年時点でも明確なガイダンスが存在しない場合があります。雑所得または配当所得等として課税される可能性がありますが、具体的な判断は税理士等の専門家に相談することを強く推奨します。
免責事項:本記事で言及した各プロダクト(BUIDL・FOBXX・USDY・OUSG等)は、特定の地域・投資家属性に対して利用制限が設けられている場合があります。投資前に最新の公式情報を確認の上、自己責任において判断してください。※本記事は情報提供を目的としており、投資を推奨するものではありません。暗号資産への投資は元本割れのリスクがあります。投資判断はご自身の責任で行ってください。