OrdinalsプロトコルとBRC-20完全解説:ビットコインNFTとトークンが生まれた仕組みと市場への影響

2023年1月、「Ordinals」と呼ばれるプロトコルがビットコインメインネット上で動作を開始しました。Ordinalsは、ビットコインの最小単位であるsatoshi(サトシ)に番号を付与し、テキスト・画像・コード・音声などの任意データを「刻み込む(Inscribe)」ことを可能にします。これにより、ビットコイン上で事実上のNFT(Non-Fungible Token)が作成できるようになりました。

2023年3月以降にはBRC-20という代替可能トークン実験も登場し、ビットコインブロックチェーン上でのトークン発行・送受信が可能になりました。これらの動向はビットコインのブロックスペース需要を急増させ、手数料高騰という形で全ユーザーに影響を与えました。

本記事では、OrdinalsとBRC-20の技術的な仕組み・市場規模・ビットコインコミュニティへの影響・今後の展望を詳しく解説します。

1. Ordinalsプロトコルの基礎

1-1. satoshiへの番号付け(Ordinal Theory)

Ordinal Theoryは、Casey Rodarmor氏が2022年に提案した理論で、ビットコインのすべてのsatoshi(1 BTC = 100,000,000 satoshi)に0から始まる連番を付与するシステムです。

番号付けのルールは、マイニング順序と送金順序に基づいています。各ブロックで新しく生成されるcoinbase出力のsatoshiは、そのブロックの最初の番号から順に割り当てられます。送金時には「first in, first out」の原則で、インプットの最初のsatoshiがアウトプットの最初のsatoshiに対応するものとして追跡します。

例えばビットコインが誕生したブロック0の最初のsatoshiには番号0が割り当てられ、これはSatoshi Nakamotoがマイニングした最初のコインです。2024年の第4回半減期後では約2,100兆個のsatoshiが存在します。

1-2. Inscriptionの仕組み

Inscription(刻み込み)は、特定のsatoshiにデータを関連付けるプロセスです。技術的には、Tapscriptのwitnessデータとして任意のデータをトランザクションに含めることで実現されます。

Inscriptionトランザクションには「commit」と「reveal」の二段階があります。まずcommitトランザクションでInscriptionデータのハッシュをコミットし、次にrevealトランザクションでTapscriptのwitnessにデータ本体を含めて公開します。このrevealトランザクションのアウトプットに含まれる最初のsatoshiが、そのInscriptionを持つsatoshiとなります。

Inscriptionに含められるデータの種類に制限はなく、テキスト(JSON・HTML・SVG)・画像(PNG・JPEG・GIF・WEBP)・音声・動画・コードなど、実質的に任意のファイルをビットコインブロックチェーン上に永続保存できます。

2. Taproot witnessディスカウントとOrdinalsの関係

2-1. witnessデータの手数料計算

SegWit以降のビットコイントランザクションでは、witnessデータは1/4の重みで手数料計算されます(vbyte計算で4バイトが1vbyteに相当)。Taprootのscriptpath witnessも同様にディスカウントが適用されます。

OrdinalsのInscriptionはTapscriptのwitnessデータとして格納されるため、このディスカウントを最大限に活用しています。例えば100KBの画像データをInscribeする場合、withnessディスカウントにより実質25KBとして手数料計算されます。

2-2. ブロックサイズとInscriptionの上限

ビットコインのブロックサイズ上限は1MBですが、witnessデータを含めた「ブロックウェイト」上限は4MWU(Million Weight Units)です。witnessデータはウェイト1/4なので、理論上witnessデータのみで4MBのブロックが可能です。

実際にはbase transactionの最小サイズがあるため、Inscription専用ブロックの最大データ量は約3.9MBになります。2023年の「Taproot Wizard」という4MBに近いInscriptionはこの上限に挑戦するものとして注目を集めました。

3. BRC-20トークンの仕組みと限界

3-1. BRC-20の動作原理

BRC-20はDomo氏が2023年3月に提案した実験的なトークン規格で、ビットコインのOrdinals Inscriptionを使ってトークンの発行・送受信を実現します。BRC-20はJSON形式のテキストInscriptionを約束事として解釈するオフチェーンインデクサーシステムです。

例えば「ORDI」というトークンの発行にはdeployオペレーションのJSONをInscribeし、mintオペレーションでトークンを発行します。転送時はtransferオペレーションのInscriptionを作成した後、そのInscriptionを持つsatoshiを受取人に送付する二段階の操作が必要です。

3-2. BRC-20の根本的な限界

BRC-20にはいくつかの重要な制限があります。まず、ビットコインのコンセンサスレイヤーにはBRC-20の存在が認識されていないため、残高の正確性はオフチェーンインデクサーの実装に完全に依存します。インデクサーによって残高が異なる可能性があり、これがBRC-20の信頼性の根本的な問題です。

次に、転送ごとにInscriptionが必要なため、ERC-20のような単純なアドレス間送金ができません。各転送トランザクションは最低でも二つのトランザクション(Inscribeと送付)が必要で、コストと速度の面で非効率です。

さらにスマートコントラクト機能がないため、DEX・レンディング・流動性提供といったDeFiユースケースへの直接的な対応が困難です。これらの点から、BRC-20は「実験的なミームトークン」という性格が強く、Ethereumのような本格的なトークンエコシステムとは本質的に異なります。

4. Ordinals・BRC-20の市場規模と主要コレクション

4-1. 市場の爆発的成長

2023年2〜3月にかけてOrdinalsとBRC-20が急速に普及し、ビットコインの1日あたりInscription数は数万件から数十万件に増加しました。2023年5月には1日あたり40万件以上のInscriptionが行われ、mempool(未承認トランザクション待機列)が溢れる事態となりました。

BRC-20トークンの中でも最初に発行された「ORDI」は市場価格が付き、2023年末には時価総額が数億ドル規模に達しました。その後も多数のBRC-20トークンが発行されていますが、大半は価値がゼロになっています。

4-2. 主要なOrdinalsコレクション

NFTとしての主要なOrdinalsコレクションには以下のようなものがあります。

  • Bitcoin Frogs:ピクセルアートのカエルキャラクター1万体。Ordinals草創期の代表的コレクション
  • Nodemonkes:モノクロのモンキーピクセルアート1万体
  • Taproot Wizards:大容量のウィザードイラストで技術的挑戦として注目
  • Bitcoin Puppets:2024年に急成長したコレクション

Ordinals NFTの流通はMagicEden(ビットコイン対応)などのNFTマーケットプレイスで行われており、取引高は時期によって数百万ドルに達することもあります。

5. ビットコインコミュニティの論争

5-1. Ordinals支持派の主張

Ordinals・BRC-20を支持する立場からは以下の点が主張されています。まず、マイナーの収益向上です。ビットコインはブロック報酬が4年ごとに半減するよう設計されており、長期的にはトランザクション手数料がマイナーの主な収益源になります。OrdinalsによってInscription手数料が増加し、マイナーが採算を維持しやすくなったという点は実際にプラスの影響として認められています。

次に、ビットコインのプログラマビリティの実証です。Ordinals/BRC-20はビットコインのスクリプト機能を創造的に活用した実例であり、新たなユースケースの可能性を示したと評価する声もあります。

5-2. Ordinals批判派の主張

一方、批判的な立場からの主張も根強くあります。ブロックスペースの圧迫については、2023年5月のピーク時に通常の送金トランザクションの手数料が100〜500satoshi/vbyteに高騰しました。これはビットコインを本来の目的(価値移転)で使うユーザーへの実害として批判されています。

また、「ビットコインはデジタルゴールドであり、ミームトークンや画像格納は本来の用途ではない」というビットコイン最大主義的な批判もあります。Luke Dashjr氏のような開発者は、OrdinalsはBitcoin Coreのデフォルト設定で除外されるべきと主張しています。

6. Runes:BRC-20に代わるビットコインネイティブトークン規格

6-1. RunesプロトコルとOP_RETURN

OrdinalsのCasey Rodarmor氏は2024年4月のビットコイン第4回半減期と同時に「Runes」プロトコルをローンチしました。Runesは、BRC-20の問題点(UTXOの無駄な肥大化・インデクサー依存)を解消するために設計された代替トークン規格です。

RunesはOP_RETURN(80バイトのメタデータをトランザクションに埋め込む標準機能)を使用してトークンデータを記録します。各Runeは一つのUTXOに関連付けられ、送金は通常のビットコイン送金と同様にUTXOを使用します。これにより、BRC-20の二段階トランザクション問題が解消されました。

6-2. Runesの市場とBRC-20との比較

Runesローンチ直後の2024年4月20日(半減期直後)には、RunesのMintトランザクションがビットコインブロックの過半数を占め、手数料が再び高騰しました。その後は落ち着き、Runesはビットコインネイティブトークン規格として一定の地位を確立しています。

BRC-20と比較してRunesはビットコインのUTXOモデルとの親和性が高く、「より正統なビットコインのデータ活用」として評価する声があります。ただしBRC-20の既存コミュニティ・流動性は依然として大きく、完全な置き換えには至っていません。

7. Ordinals・BRC-20の将来展望

7-1. 長期的な手数料市場への影響

Ordinalsのブロックスペース需要は、ビットコインの長期的な安全保障モデルに貢献する可能性があります。半減期を経るごとにブロック補助金が減少するビットコインにとって、手数料ベースの経済モデルへの移行は不可避です。Inscriptionトランザクションは手数料を支払う意欲のあるユーザーを引き付け、マイナー収益の底上げに貢献します。

7-2. ビットコインDeFiとの接続

OrdinalsとRunesはスタンドアロンのトークンとして機能しますが、Lightning NetworkやArk・RGBなどのBitcoin Layer2との組み合わせで、オフチェーンでのトークン取引・DeFi機能との接続が模索されています。ビットコイン上のNFT・トークンエコシステムが本格的なDeFi機能を持つには、まだ技術的課題が残りますが、開発は進んでいます。

まとめ

OrdinalsとBRC-20は、Taprootが可能にしたウィットネスデータの大容量化を活用して生まれた全く新しいビットコインの使われ方です。NFT・トークン発行という側面でビットコインエコシステムを拡張した一方で、ブロックスペース競合と手数料高騰という実害もありました。Runesというより洗練された後継規格も登場し、ビットコイン上のトークンエコシステムは進化を続けています。

よくある質問

Q1. Ordinals NFTはどこで購入できますか?

主要なマーケットプレイスとしてMagicEden(bitcoin対応)・Gamma・Ordinalswalletなどがあります。ビットコインのTaprootアドレス(bc1pで始まるアドレス)に対応したウォレット(Xverse・Leather等)が必要です。国内取引所からの直接購入はできないため、ビットコインをウォレットに引き出してから取引する必要があります。

Q2. BRC-20トークンは今でも作れますか?

技術的には引き続き作成可能です。ただし、新規のBRC-20トークンの大半はミームトークンであり、価値の大部分はゼロになっています。投資目的での参加には極めて高いリスクが伴います。インデクサー依存という構造的問題も解消されていないため、長期的な信頼性には疑問が残ります。

Q3. OrdinalsはビットコインETFに影響しますか?

現在承認されているビットコイン現物ETFはビットコイン(BTC)自体への投資商品であり、Ordinals NFTやBRC-20トークンへの直接投資ではありません。ただし、Ordinalsによるブロックスペース需要増加がマイナー収益を改善し、ネットワーク安全性に貢献するという間接的な観点から、長期的なビットコインの価値基盤に影響する可能性は否定できません。


※本記事は情報提供を目的としており、投資を推奨するものではありません。暗号資産への投資は元本割れのリスクがあります。投資判断はご自身の責任で行ってください。

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