ビットコインは「デジタルゴールド」として価値を保存するための資産——そんなイメージが定着していた暗号資産の世界に、2023年から大きな変化が起きています。Ordinals(オーディナルズ)という仕組みの登場によって、ビットコインのブロックチェーン上にNFT(非代替性トークン)を直接刻み込むことが可能になったのです。
さらにBRC-20というトークン規格も生まれ、ビットコインブロックチェーン上で独自のトークンを発行・取引するという、かつては想像もされなかった活用が広がっています。イーサリアムのERC-20やNFTの独壇場だった領域に、ビットコインが参入しつつあると言えるでしょう。
この記事では、Ordinalsの仕組みと誕生の背景から、BRC-20トークンの技術的な構造、実際のユースケース、賛否両論の議論、そして今後の展望まで、ビットコインブロックチェーンの新たな可能性について包括的に解説していきます。ビットコインは単なる「送金手段」や「価値の保存」を超えた存在になり得るのか——一緒に考えてみましょう。
目次
1. Ordinalsとは何か——ビットコインNFTの基本を理解する
1-1. Ordinals理論——サトシに「番号」をつける発想
Ordinals(オーディナルズ)は、ビットコインのブロックチェーン開発者であるCasey Rodarmor氏が2023年1月に発表した理論とプロトコルです。その核心にあるのは、ビットコインの最小単位である「サトシ(satoshi、1 BTC = 1億サトシ)」一つ一つに通し番号を割り当てるという、極めてシンプルなアイデアです。
通常、ビットコインのプロトコル上では個々のサトシを区別することはできません。1万円札に印刷された通し番号のように、ブロックチェーン上のサトシには固有の識別子が存在しないのです。
Ordinals理論は、ビットコインが採掘された順番に基づいてすべてのサトシに通し番号(序数、ordinal number)を割り当てるルールを定義しました。最初のブロック(ジェネシスブロック)で生成された最初のサトシが「0」、次のサトシが「1」というように番号が振られます。
この番号付けにより、個々のサトシを「ユニークな存在」として識別できるようになります。そして、特定の番号のサトシに対してデータ(画像、テキスト、動画など)を紐づける——これがOrdinalsによる「インスクリプション(inscription、刻印)」の仕組みです。
1-2. インスクリプション——ビットコインに「刻み込む」とは
インスクリプションとは、ビットコインのトランザクションに任意のデータを埋め込む行為です。画像ファイル、テキスト、HTML、SVG、動画、音楽など、原理的にはあらゆる種類のデジタルデータをビットコインブロックチェーン上に記録できます。
具体的には、ビットコインのトランザクションの「witness」フィールド(SegWitアップグレードで導入された署名データの格納領域)にデータをエンコードして書き込みます。1回のインスクリプションで書き込めるデータの上限は約4MB(1ブロックの最大サイズ)ですが、実用的には数十KB〜数百KB程度のデータが一般的です。
重要なのは、インスクリプションされたデータはビットコインブロックチェーン上に半永久的に記録されるという点です。イーサリアムのNFTでは、アートワークのデータ自体はIPFS(分散型ファイルストレージ)や外部サーバーに保存し、NFTにはそのリンク(URL)だけを記録するケースが多く見られます。一方、Ordinalsのインスクリプションではデータそのものがブロックチェーン上に存在するため、外部サーバーのダウンや消失によるデータ喪失のリスクがありません。
1-3. なぜ今ビットコインNFTが注目されるのか
ビットコインブロックチェーン上にデータを埋め込むこと自体は、以前から技術的に可能でした。Counterpartyプロジェクト(2014年)やOP_RETURNを使ったデータ記録など、先行事例は存在しています。
しかしOrdinalsが爆発的に普及した背景には、2021年11月に実施されたTaprootアップグレードの存在があります。Taprootによって、トランザクションに埋め込めるデータの容量が大幅に拡大し、より効率的にデータをエンコードできるようになりました。Rodarmor氏は、このTaprootの可能性に着目してOrdinals理論を実装したのです。
2023年1月のローンチ以降、Ordinalsのインスクリプション数は爆発的に増加しました。2023年12月時点で累計のインスクリプション数は5,000万件を超え、2024年にはさらに増加のペースが加速しています。
2. Ordinalsを支える技術的基盤——Taproot・SegWit・サトシの番号付け
2-1. SegWitアップグレード(2017年)の役割
Ordinalsの技術的基盤を理解するためには、2017年に実施されたSegWit(Segregated Witness)アップグレードまで遡る必要があります。
SegWitは、ビットコインのトランザクションデータから署名データ(witness)を分離することで、ブロックの実効的な容量を拡大するアップグレードでした。SegWit導入前は1ブロックの上限が1MBでしたが、SegWit導入後は「ブロックウェイト」という新しい単位が導入され、理論上の最大容量が約4MBに拡大しました。
重要なのは、witnessデータの容量が通常のトランザクションデータよりも「割引」されてカウントされる点です。この仕組みにより、witnessフィールドにデータを埋め込むコストが相対的に安くなりました。Ordinalsは、このwiness割引を巧みに活用してインスクリプションのデータを格納しています。
2-2. Taprootアップグレード(2021年)が開いた扉
Taproot(BIP340/341/342)は、2021年11月に有効化されたビットコインの大型アップグレードです。主にプライバシーの向上とスマートコントラクトの効率化を目的としていましたが、結果的にOrdinalsの誕生を可能にする技術的基盤を提供することになりました。
Taprootの核心的な要素の一つが「Tapscript」です。Tapscriptにより、witnessフィールドに格納できるスクリプト(プログラム)のサイズ制限が事実上撤廃されました。以前はスクリプトサイズに厳しい制限がありましたが、Taprootではwintessデータ全体のサイズ(約4MB)まで使用可能になったのです。
Ordinalsのインスクリプションは、このTapscriptのスペースにデータをエンコードして格納しています。技術的に言えば、インスクリプションは「実行されないスクリプト」としてwitnessフィールドに書き込まれ、ブロックチェーン上に永続的に記録されます。
2-3. Ordinal Number(序数)の割り当てルール
サトシへの序数割り当てルールは、実は非常にシンプルです。
この番号付けにより、すべてのサトシは「いつ、どのブロックで生成されたか」を追跡できるようになります。そして、特定のイベント(半減期の最初のブロック、特定のブロック高など)に対応するサトシは「レアサトシ」として珍重されることがあります。
Rodarmor氏は、サトシの「レア度」を以下のように分類しています。
- Common: 最初の1サトシ以外のすべて(最も一般的)
- Uncommon: 各ブロックの最初のサトシ
- Rare: 難易度調整期間の最初のブロックの最初のサトシ
- Epic: 半減期ブロックの最初のサトシ
- Legendary: サイクル(6回の半減期ごと)の最初のサトシ
- Mythic: ジェネシスブロックの最初のサトシ(唯一無二)
3. BRC-20トークンとは——ビットコイン上のトークン規格
3-1. BRC-20の仕組み——JSONベースのトークン規格
BRC-20は、2023年3月に匿名の開発者「domo」氏によって提案された、ビットコインブロックチェーン上のトークン規格です。名称はイーサリアムのERC-20トークン規格にちなんでいますが、技術的な仕組みは大きく異なります。
BRC-20トークンは、Ordinalsのインスクリプション機能を利用して、JSON(JavaScript Object Notation)形式のテキストデータをビットコインブロックチェーン上に刻み込むことで機能します。
例えば、新しいBRC-20トークンを「デプロイ(発行)」する際のインスクリプションは、以下のようなJSON形式になります。
{
"p": "brc-20",
"op": "deploy",
"tick": "ordi",
"max": "21000000",
"lim": "1000"
}
<p>この例では、「ordi」というティッカー名で最大供給量2,100万枚のトークンを発行し、1回のミントで最大1,000枚まで取得できるという設定です。</p>
<p>トークンのミント(鋳造)は、以下のようなインスクリプションで行います。</p>
<p>json
{
"p": "brc-20",
"op": "mint",
"tick": "ordi",
"amt": "1000"
}
3-2. BRC-20の限界——イーサリアムERC-20との技術的な違い
BRC-20はイーサリアムのERC-20に名前を借りていますが、技術的な能力には大きな差があります。
ERC-20(イーサリアム): スマートコントラクトとして実装されており、トークンの送受信、残高照会、承認など、プログラマブルな操作が可能。他のスマートコントラクトとの連携(コンポーザビリティ)も容易。
BRC-20(ビットコイン): JSONテキストをブロックチェーン上に刻み込むだけの仕組みであり、ビットコインのプロトコルレベルでのトークン機能は一切持っていません。トークンの残高管理や取引の検証は、オフチェーンのインデクサー(BRC-20データを読み取り解釈するソフトウェア)が行います。
この違いは重要です。BRC-20トークンの「残高」は、ブロックチェーン上のインスクリプションを特定のルールで解釈した結果に過ぎず、ビットコインのコンセンサスメカニズムによって検証されているわけではありません。異なるインデクサーが異なる解釈をすれば、残高が食い違う可能性もあります。
3-3. BRC-20の主要トークン——ORDI、SATS、その他
2023年〜2024年にかけて、数多くのBRC-20トークンが発行されました。主要なものをいくつか紹介します。
ORDI: BRC-20トークンの最初の成功例であり、2023年11月にはBinanceに上場するなど、大手取引所での取り扱いが始まりました。最大供給量は2,100万枚で、ビットコインの発行上限を模しています。
SATS: ビットコインの最小単位「サトシ」にちなんだ名前のBRC-20トークン。最大供給量は2,100兆枚と、ORDIとは対照的に大量発行タイプです。
RATS、CATS: ミーム的な要素の強いBRC-20トークン。トークン自体に明確なユーティリティ(使い道)がないケースも多く、投機的な取引が中心となっています。
BRC-20市場全体の時価総額は、2024年のピーク時には数十億ドル規模に達しましたが、その後は縮小と拡大を繰り返しています。多くのBRC-20トークンは実質的な価値がゼロに近づいており、投資対象としてのリスクは非常に高いと言わざるを得ません。
4. Ordinals・BRC-20のエコシステム——主要プロジェクトと市場規模
4-1. Ordinalsの主要NFTコレクション
Ordinals上で注目を集めたNFTコレクションには、以下のようなものがあります。
Bitcoin Punks: CryptoPunks(イーサリアム上の代表的NFTコレクション)をビットコインブロックチェーン上に刻み込んだコレクション。10,000点の画像がインスクリプションされています。
Ordinal Punks: Ordinals初期(最初の650番目までのインスクリプション)に作成されたジェネラティブアートコレクション。初期のインスクリプション番号(inscription number)自体が希少性を持つとされています。
Bitcoin Frogs: カエルをモチーフにしたコレクション。Ordinals市場で最も取引量の多いコレクションの一つとなりました。
Taproot Wizards: ビットコインの「魔法使い」をテーマにしたコレクション。約4MBのインスクリプションを含むなど、Ordinalsの技術的な限界に挑戦するプロジェクトとしても注目されました。
4-2. マーケットプレイスとインフラ
Ordinals・BRC-20のエコシステムを支えるインフラも急速に整備されています。
Magic Eden: もともとソラナのNFTマーケットプレイスとして知られていましたが、Ordinals市場にも対応し、最大規模のOrdinalsマーケットプレイスの一つとなっています。
UniSat Wallet: BRC-20トークンの管理に特化したウォレット。BRC-20の送受信やミントが可能で、エコシステムの重要なインフラとなっています。
OKX Web3 Wallet: 大手取引所OKXが提供するWeb3ウォレット。Ordinals・BRC-20のほか、後述するRunesにも対応しています。
Hiro Wallet: Stacks(ビットコインのレイヤー2)エコシステムのウォレットですが、Ordinals・BRC-20にも対応しています。
4-3. 市場規模の推移と取引データ
Ordinalsのインスクリプション数は、2023年1月のローンチから急速に増加しました。2023年2月に100万件、2023年5月に1,000万件、2023年12月に5,000万件を突破し、2024年末時点では累計7,000万件を超えたとされています。
Ordinalsに関連するマイナー手数料(インスクリプション時に支払われる取引手数料)も相当な規模に達しています。2023年5月のピーク時には、1日のOrdinals関連手数料だけで10BTC(当時のレートで約4,000万円)を超える日もありました。2023年12月にはBRC-20ブームの再燃により、ビットコインの取引手数料が一時的に急騰し、通常のBTC送金にも影響が及ぶ事態となりました。
5. ビットコインNFTとイーサリアムNFTの比較
5-1. データの保存場所——オンチェーン vs オフチェーン
ビットコインOrdinalsとイーサリアムNFTの最も本質的な違いは、NFTに紐づくデータ(アートワーク等)の保存場所です。
Ordinals(ビットコイン): データ(画像等)はビットコインブロックチェーン上のwitnessフィールドに直接格納されます。ブロックチェーンが存続する限り、データは消滅しません。
ERC-721(イーサリアム): NFTのメタデータにはデータの「参照先」(URLやIPFSハッシュ)が記録されるケースが一般的です。データ本体は外部のストレージ(IPFS、Arweave、中央集権型サーバーなど)に保存されており、参照先のサーバーやサービスが停止すると、NFTが「中身のない空箱」になるリスクがあります。
ただし、Ordinalsの「フルオンチェーン」にもデメリットがあります。すべてのデータがブロックチェーン上に記録されるため、ブロックチェーンのデータサイズが急速に膨張し、フルノードの運用コストが上昇する懸念が指摘されています。
5-2. プログラマビリティ(プログラム可能性)の違い
イーサリアムNFTの大きな強みは、スマートコントラクトによるプログラマビリティです。
イーサリアム上のNFTは、ロイヤリティの自動分配(二次販売時にクリエイターへ自動で収益を還元)、条件付きの移転(特定の条件が満たされた場合のみ移転を許可)、他のスマートコントラクトとの連携(NFTをDeFiプロトコルの担保として利用するなど)といった高度な機能を実装できます。
一方、Ordinalsのインスクリプションにはこうしたプログラマビリティはありません。データはブロックチェーン上に「刻み込まれている」だけであり、自動的に何かを実行する機能は持っていません。ロイヤリティの自動分配なども、プロトコルレベルでは実装されていないため、マーケットプレイスの仕様に依存することになります。
5-3. コミュニティと文化の違い
ビットコインNFTとイーサリアムNFTでは、コミュニティの文化や価値観にも違いが見られます。
イーサリアムのNFTコミュニティは、PFP(プロフィール画像)コレクション、ジェネラティブアート、メタバース、GameFiなど、多様なジャンルにまたがっています。クリエイターエコノミーやデジタルアートの文脈で語られることが多く、アートとしての価値やコミュニティのアイデンティティが重視される傾向があります。
一方、Ordinalsのコミュニティは、ビットコインの「正統派」としてのアイデンティティを重視する傾向が見られます。「ビットコインブロックチェーン上にあること」自体が価値の源泉であるという考え方が強く、最も安全で分散化されたブロックチェーンであるビットコインの上に永続的にデータが存在するという点に、大きな意味を見出しています。
6. Ordinalsをめぐる議論——賛成派と反対派の論点
6-1. 賛成派の主張——ビットコインの新たな可能性
Ordinalsを支持する陣営は、以下のような論拠を挙げています。
マイナーの収益源の多様化: ビットコインの半減期が繰り返されるなか、マイニング報酬は減少の一途をたどっています。Ordinalsのインスクリプションによる取引手数料は、マイナーにとって新たな収益源となり、ビットコインネットワークのセキュリティ(ハッシュレート)の維持に貢献し得ると考えられます。
ビットコインのユースケース拡大: 「デジタルゴールド」としての価値保存だけでなく、NFTやトークンのプラットフォームとしてもビットコインが機能し始めることで、新たなユーザー層やデベロッパー層を呼び込める可能性があります。
オンチェーンデータの永続性: ビットコインは最も長い歴史を持ち、最も高いハッシュレート(計算力)に支えられたブロックチェーンです。そのビットコインブロックチェーン上にデータを記録することの永続性・堅牢性は、他のブロックチェーンには真似できない強みと言えます。
6-2. 反対派の主張——ビットコインの本質からの逸脱
一方、Ordinalsに反対するビットコインの「マキシマリスト(原理主義者)」からは、以下のような批判が寄せられています。
ブロックスペースの浪費: Ordinalsのインスクリプション、特に画像などの大容量データは、本来BTC送金のために使われるべきブロックスペースを「浪費」しているという批判があります。実際に、Ordinalsブームの際にはBTC送金の手数料が急騰し、少額送金が事実上困難になる局面もありました。
ブロックチェーンの肥大化: すべてのインスクリプションデータがブロックチェーン上に永続的に保存されるため、フルノードのデータサイズが急速に増加します。これはビットコインの分散性(誰でもフルノードを運用できること)を損なう可能性があるという懸念です。
本来のビジョンからの逸脱: ビットコインは「ピアツーピアの電子キャッシュシステム」として設計されたものであり、JPEGの保存場所として使われることはサトシ・ナカモトの意図に反するという根本的な批判もあります。
6-3. 技術的な議論——フィルタリングの可否
Ordinals反対派の一部は、マイナーやノード運営者がインスクリプション付きのトランザクションを拒否(フィルタリング)すべきだと主張しています。
しかし技術的には、Ordinalsのインスクリプションは有効なビットコイントランザクションの一部であり、プロトコルレベルで禁止することは困難です。witnessデータに任意のデータを含めること自体は、SegWitとTaprootのアップグレードで明示的に許可された仕様であり、これを禁止するにはハードフォーク(互換性のないプロトコル変更)が必要になります。
ルーク・ダッシュジュニア氏(ビットコインコアの開発者の一人)は、インスクリプションをスパムとみなすパッチを提案しましたが、ビットコインコア開発者の多数派はこの提案を支持していません。ビットコインの「検閲耐性」という根本原理に抵触するためです。
7. Runes・Atomicals——Ordinals以降の新規格たち
7-1. Runes(ルーンズ)——BRC-20の改良版
Runes(ルーンズ)は、Ordinals の開発者であるCasey Rodarmor氏自身が2024年4月(第4回半減期と同日)にローンチした、ビットコイン上のトークン規格です。BRC-20の問題点を解決する「より効率的なトークン規格」として設計されています。
BRC-20の最大の問題は、トークンの送受信に複数のトランザクションが必要で、ブロックスペースを大量に消費する点でした。Runesはこの問題に対処するために、OP_RETURN(ビットコイントランザクション内のデータ格納用フィールド)を活用した効率的な設計を採用しています。
Runesの主な特徴は以下のとおりです。
- トークンの送受信が1つのトランザクションで完結する
- UTXOモデル(ビットコインのネイティブな会計モデル)に準拠している
- ブロックチェーンへの負荷がBRC-20よりも大幅に軽い
- インデクサーへの依存度がBRC-20よりも低い
7-2. Atomicals Protocol——より分散化されたアプローチ
Atomicals(アトミカルズ)は、2023年後半に登場した別のアプローチのプロトコルです。Ordinalsとは異なり、ビットコインのPoW(Proof of Work)の仕組みをトークンの発行にも適用するという独自のコンセプトを持っています。
Atomicalsの「ARC-20」トークン規格では、トークンの発行に一定量のマイニング(計算作業)が必要です。これにより、トークンの発行にコストが伴うため、スパム的な大量発行が抑制されるとされています。
また、Atomicalsには「Realm」という分散型ドメインネーム・システムの機能もあり、「+myname」のような形式でビットコインブロックチェーン上にドメイン(名前空間)を登録できます。
7-3. 規格間の競争と共存
ビットコインブロックチェーン上のトークン・NFT規格は、Ordinals、BRC-20、Runes、Atomicalsなど複数が並立する状況にあります。この競争はまだ決着がついておらず、どの規格が主流になるかは不透明です。
ただし、2024年4月のRunesローンチ以降は、BRC-20からRunesへの移行が進みつつあるように見えます。ビットコインの取引手数料に占めるRunes関連トランザクションの割合が増加しており、効率性の面でRunesが優位に立っている可能性が示唆されています。
一方で、これらの規格はいずれも「ビットコインのプロトコルレベルでは認識されていない」という根本的な限界を共有しています。ビットコインのコンセンサスルールは送金機能のみを保証しており、NFTやトークンの機能はあくまで「上位レイヤーの解釈」に過ぎません。
8. ビットコインのプログラマビリティの未来
8-1. ビットコインレイヤー2の発展——Stacks・Liquid・Lightning
Ordinalsの登場は、ビットコインのプログラマビリティ(プログラム可能性)への関心を再燃させました。ビットコインのベースレイヤー(レイヤー1)自体のプログラマビリティは限定的ですが、レイヤー2(ビットコインの上に構築された追加プロトコル)では、より高度な機能を実装する試みが進んでいます。
Stacks(STX): ビットコインのセキュリティを活用しつつ、スマートコントラクトを実行するレイヤー2。Clarity言語でスマートコントラクトを記述でき、DeFiやNFTのアプリケーションが構築されています。2024年の「Nakamotoアップグレード」により、ビットコインのファイナリティ(取引確定性)と直結する設計に改良されました。
Liquid Network: Blockstream社が開発したビットコインのサイドチェーン。機関投資家やトレーダー向けの高速・秘匿性の高い取引を可能にします。Liquidでは独自のNFTも発行可能です。
Lightning Network: ビットコインの少額・高速決済を実現するレイヤー2。Ordinalsとは直接関係しませんが、ビットコインのユースケース拡大という文脈では重要な存在です。
8-2. BitVM——ビットコイン上の汎用計算
2023年10月にRobin Linus氏が発表したBitVMは、ビットコインブロックチェーン上で任意の計算を検証可能にするフレームワークです。ビットコインのScript言語の制約の中で、チューリング完全(あらゆる計算を実行可能)な計算を実現しようとする野心的なプロジェクトです。
BitVMの仕組みは、不正証明(fraud proof)に基づいています。計算そのものはオフチェーンで行い、その結果が正しいかどうかをオンチェーン(ビットコインブロックチェーン上)で検証するという構造です。不正な計算結果が提出された場合にのみオンチェーンでの検証が必要になるため、通常のケースではブロックチェーンへの負荷は最小限に抑えられます。
BitVMが実用化されれば、ビットコインブロックチェーンの安全性を活用しつつ、イーサリアムに近いレベルのスマートコントラクト機能を実現できる可能性があります。ただし、現時点ではまだ研究・開発段階であり、実用化までには時間がかかると考えられます。
8-3. ビットコインの「変わらない」価値と「変わる」使い方
Ordinalsをめぐる議論は、ビットコインコミュニティの根本的な価値観の対立を浮き彫りにしています。
ビットコインの「保守的」な側面——プロトコルの安定性、分散性、検閲耐性——を重視する立場からすれば、Ordinalsのような新しい使い方は不要であり、むしろ有害であるという見方になります。
一方、ビットコインの「革新的」な側面——最も安全なブロックチェーンの上に新たなユースケースを構築する可能性——を重視する立場からすれば、Ordinalsはビットコインの長期的な存続と繁栄に不可欠なイノベーションだと映ります。
この議論に「正解」はありませんが、少なくとも言えるのは、Ordinalsの登場がビットコインの使い方の幅を大きく広げたという事実です。ビットコインは「デジタルゴールド」という一つの物語から、「プログラマブルなデジタル資産のプラットフォーム」という新たな物語を獲得しつつあります。その物語がどこまで広がるのかは、今後の技術的な発展とコミュニティの選択にかかっていると言えるでしょう。
まとめ
Ordinals・BRC-20は、ビットコインブロックチェーンの新たな活用方法として2023年に登場し、暗号資産市場に大きなインパクトを与えました。
ここまでの内容を振り返ると、以下のようになります。
- Ordinalsは「サトシに番号をつけてデータを刻む」仕組み: SegWitとTaprootのアップグレードが技術的な基盤を提供し、ビットコイン上でのNFT(フルオンチェーン)が実現した
- BRC-20はJSONベースのシンプルなトークン規格: 技術的にはイーサリアムのERC-20よりも原始的だが、ビットコインブロックチェーン上でトークンを発行する道を開いた
- Runesなどの後続規格が登場: BRC-20の非効率性を改善する新規格が競合しており、エコシステムは進化の途上にある
- コミュニティでは賛否が分かれる: ブロックスペースの浪費やブロックチェーン肥大化への懸念がある一方、マイナー収益の多様化やユースケース拡大を歓迎する声もある
- ビットコインのプログラマビリティは拡大傾向: レイヤー2やBitVMなどの技術により、ビットコインの機能は今後さらに拡張される可能性がある
Ordinals・BRC-20関連のトークンやNFTへの投資を検討される場合は、この分野が非常に新しく、技術的にも市場的にもリスクが高い領域であることを十分にご認識ください。プロジェクトの消滅や規格の廃止などのリスクも考慮した上で、慎重に判断されることをおすすめします。
よくある質問(FAQ)
Q1. Ordinalsのインスクリプションは誰でも作成できますか?
はい、技術的にはビットコインとインスクリプション用のツール(ord CLI、UniSat Walletなど)があれば誰でも作成できます。ただし、インスクリプションの作成にはビットコインの取引手数料が必要です。ファイルサイズが大きいほど手数料も高くなり、ネットワーク混雑時には数万円以上のコストがかかることもあります。
Q2. BRC-20トークンは安全ですか?投資しても大丈夫ですか?
BRC-20トークンは技術的に未成熟な段階にあり、プロトコルレベルでの安全性の保証もありません。多くのBRC-20トークンには実質的なユーティリティ(使い道)がなく、投機的な取引が中心です。投資する場合は、全額を失うリスクを覚悟した上で、余裕資金の範囲内で行うべきでしょう。
Q3. ビットコインNFTの価格はイーサリアムNFTより安いですか?
一概には言えません。インスクリプションの作成コストはビットコインの取引手数料に依存し、ネットワーク混雑時には高額になります。NFT自体の取引価格はプロジェクトの人気によって大きく異なります。総じて、イーサリアムのトップコレクション(CryptoPunks、BAYCなど)に比べると、Ordinalsのコレクションはまだ価格帯が低い傾向にありますが、一部のコレクションでは高額な取引も報告されています。
Q4. Ordinalsはビットコインの送金を遅くしますか?
Ordinalsのインスクリプションがブロックスペースを消費することで、通常のBTC送金のための空きスペースが減り、結果的に取引手数料が上昇し、処理待ちのトランザクションが増えることがあります。2023年のOrdinalsブーム時には、実際に送金の遅延や手数料の急騰が報告されています。
Q5. RunesとBRC-20のどちらが将来の主流になりますか?
2026年現在の傾向を見ると、技術的な効率性の面ではRunesが優位に立っているように見えます。ただし、BRC-20にはすでに構築されたエコシステムとコミュニティがあり、簡単には消えないと考えられます。最終的にどちらが主流になるかは、開発者やユーザーの選択次第であり、現時点で断定することは困難です。
Q6. Ordinalsはビットコインの価格にどう影響しますか?
直接的な因果関係は明確ではありませんが、間接的にはプラスの影響があると考えられます。Ordinalsがビットコインへの関心を高め、新規ユーザーを呼び込む効果があること、マイナーの手数料収入を増加させネットワークのセキュリティを高める効果があることなどが挙げられます。一方で、ブロックチェーンの肥大化や分散性への懸念がネガティブに作用する可能性も否定できません。
※本記事は情報提供を目的としており、投資を推奨するものではありません。暗号資産への投資は元本割れのリスクがあります。投資判断はご自身の責任で行ってください。