PlanBのストック・トゥ・フローモデルとは?ビットコイン価格予測の仕組みと限界

ビットコインの価格予測モデルの中で、最も広く知られているものの一つが「ストック・トゥ・フロー(S2F)モデル」です。オランダ在住の匿名アナリスト「PlanB」が2019年に発表したこのモデルは、ビットコインの希少性を数値化し、将来の価格水準を統計的に予測しようとする試みとして、仮想通貨コミュニティで大きな注目を集めました。

S2Fモデルは、金や銀などの貴金属の価格分析に用いられていた手法をビットコインに応用したものです。「ストック」とは現在の流通供給量、「フロー」とは年間の新規供給量を指し、この比率が高いほど希少性が高く、価格も上昇するという理論的枠組みを持っています。

本記事では、S2Fモデルの数理的な仕組みから実際の予測精度、専門家による批判、そして2026年現在での有効性まで、多角的な視点から詳しく解説していきます。

1. ストック・トゥ・フローモデルの基本概念

1-1. ストックとフローの定義

ストック・トゥ・フロー(SF)比率は、資産の希少性を測る指標として古くから用いられてきました。計算式は非常にシンプルで、SF = ストック ÷ フロー、つまり「現在の総保有量を年間の新規供給量で割った値」です。

金を例に挙げると、2024年時点での地上在庫(ストック)は約20万トン、年間の採掘量(フロー)は約3,500トンとされています。SF比率はおよそ57となり、現在の採掘量だけで既存の供給量を完全に代替するには57年かかることを意味します。銀の場合はSF比率が約25であり、金の方が相対的に希少性が高いことが数値で示されます。

ビットコインは最大発行枚数が2,100万BTCに固定されており、約4年ごとに新規発行量が半減する「半減期」という仕組みを持っています。これにより時間の経過とともにSF比率が上昇し続けるという特性があります。

1-2. PlanBによるモデルの導出

PlanBは2019年3月に「Modeling Bitcoin’s Value with Scarcity」と題した記事をMediumに発表しました。この論文では、ビットコインのSF比率と市場時価総額の関係を対数回帰分析によって検証し、両者の間に統計的に有意な相関(R²≒0.95)があることを示しました。

具体的には、SF比率が2倍になるごとに市場時価総額が約10倍に増加するという関係式を導出しています。この回帰式を用いて将来の半減期後のSF比率を計算し、対応する期待価格を算出することができます。

2020年の半減期後、ビットコインのSF比率は約56に達し、金と同水準になりました。この時点でのモデル予測価格は1BTCあたり約55,000ドルとされており、実際に2020年後半から2021年にかけてビットコインは大幅な価格上昇を見せたことから、モデルの有効性を支持する声が高まりました。

2. S2Fモデルの歴史的な予測精度

2-1. 過去の半減期との整合性

PlanBのS2Fモデルが注目を集めた最大の理由は、過去のビットコイン価格推移との高い整合性です。モデルは2009年から2019年までの価格データを用いて構築されていますが、その期間中の各半減期後の価格上昇をおおむね説明することができました。

2012年の第1回半減期では、SF比率が約7から約14に上昇し、その後1年以内にビットコインは数十倍の価格上昇を経験しました。2016年の第2回半減期では、SF比率が約14から約28に上昇し、2017年末にかけての大規模な強気相場が発生しました。これらの事例はS2Fモデルの想定と概ね一致するものとして評価されました。

2020年の第3回半減期後も同様のパターンが観察され、2021年11月にビットコインは約69,000ドルという過去最高値を記録しました。この価格水準はS2Fモデルの予測レンジと重なっており、モデルの予測力を支持する論拠として広く引用されました。

2-2. S2FXモデルへの発展

PlanBは2020年4月、オリジナルのS2Fモデルをさらに発展させた「S2FX(クロスアセット)モデル」を発表しました。S2FXモデルは、ビットコインが「コレクタブル」「非通貨金融資産」「SoV(価値の保存手段)」「通貨」という4つの異なる相を経て発展してきたと考え、各相を個別にクラスター分析したものです。

S2FXモデルの特徴は、連続的な回帰ではなく相変換(フェーズトランジション)という概念を用いている点です。S2FXによれば、2024年の半減期後のビットコインは「通貨」フェーズに移行し、SF比率約120に対応する市場時価総額は数百兆円に達するという予測が示されました。ただしこの予測は非常に強気な仮定に基づいており、実際の市場動向との乖離が生じたことで批判も受けています。

3. アナリストによるS2Fモデル批判

3-1. 統計手法上の問題点

S2Fモデルに対しては、発表当初から統計学・計量経済学の観点からいくつかの批判が提起されています。最も根本的な批判の一つは、「見かけの回帰(spurious regression)」の問題です。

ビットコインの時価総額とSF比率はどちらも時間とともに上昇トレンドを持つ非定常な時系列データであり、こうしたデータを単純に回帰分析すると、実際には無関係な変数間でも高い相関係数が得られてしまう可能性があります。計量経済学者のDr. Philipp Bianchiら複数の研究者がこの問題を指摘し、S2Fモデルの統計的な信頼性に疑問を呈しました。

また、ビットコインの価格形成には供給面だけでなく、需要面の変化(機関投資家の参入、規制環境の変化、マクロ経済動向など)も大きく影響するにもかかわらず、S2Fモデルは供給側の指標のみを用いているという批判もあります。

3-2. 2022〜2024年の価格乖離

S2Fモデルへの信頼が大きく揺らいだのは、2022年の仮想通貨市場の大幅な下落局面です。S2FXモデルは2021〜2022年のビットコイン価格が1BTC=100,000ドル以上になると予測していましたが、実際には2022年末にかけてビットコインは約16,000ドルまで下落し、予測と現実の乖離が顕著となりました。

この乖離の背景には、FTXの経営破綻による仮想通貨市場全体への信頼喪失、米連邦準備制度理事会(FRB)による急速な金利引き上げによるリスク資産全般の売り圧力など、S2Fモデルが考慮していない外生的な要因が重なったことが指摘されています。

PlanB自身はモデルの有効性を維持しつつも、価格が一時的にモデル予測を下回ることはあり得ると説明しましたが、多くのアナリストは実際の価格との大きな乖離を受けてモデルの予測精度に対する見方を慎重化させました。

4. 半減期サイクルとモデルの相互作用

4-1. 2024年第4回半減期の影響

2024年4月に実施された第4回半減期では、ビットコインのブロック報酬が6.25BTCから3.125BTCへと半減しました。これによりSF比率は理論上100を超える水準に達し、金(SF≒57)を大幅に上回る希少性指標となりました。

半減期前後の価格推移を見ると、ビットコインは2024年3月に1BTC≒73,000ドルという当時の最高値を記録し、その後一時的に調整を経て2024年後半に再び上昇基調に転じました。S2Fモデルの観点からは、高いSF比率が維持される状況下では中長期的な価格上昇圧力が継続すると解釈されます。

一方、マイナーの採掘収益が半減することで一部の非効率なマイナーが撤退し、ネットワークのハッシュレートが一時的に低下する可能性も指摘されています。ただし2024年の半減期後もハッシュレートは高水準を維持しており、ネットワークの安定性に大きな影響は見られませんでした。

4-2. 次の半減期(2028年)に向けた展望

次の第5回半減期は2028年頃に予想されており、その時点でのブロック報酬は1.5625BTCとなる見込みです。SF比率はさらに上昇し、200を超える水準に達すると試算されています。

S2Fモデルの理論に従えば、SF比率の上昇は価格上昇圧力につながると考えられますが、同時に採掘報酬の減少がマイナーの経済的持続可能性に与える影響や、手数料収入への依存度の高まりによるネットワーク動態の変化なども、2028年以降のビットコインエコシステムにとって重要な考慮事項となります。

なお、S2Fモデルはあくまで過去の統計的関係に基づく理論的枠組みであり、将来の価格を確実に予測するものではありません。市場環境の変化や新たな外生的ショックによって、モデルと実際の価格が大きく乖離する可能性は常に存在することを念頭に置く必要があります。

5. S2Fモデルの代替・補完指標

5-1. MVRV比率との組み合わせ

S2Fモデルの限界を補完するために、実際の市場分析ではMVRV(Market Value to Realized Value)比率などのオンチェーン指標との組み合わせが有効とされています。MVRV比率は市場価格をビットコインの「実現価格」(各コインが最後に移動した際の価格の加重平均)で割った値で、現在の市場が過熱しているか割安かを判断する指標として広く用いられています。

歴史的に、MVRV比率が3.5〜4.0を超えると市場の過熱を示すシグナルとなる傾向があり、0.8〜1.0を下回ると底打ちのサインとして解釈されることがあります。S2FモデルによるマクロトレンドとMVRVによる短中期のポジショニング判断を組み合わせることで、より多角的な市場分析が可能となります。

5-2. NVT比率・SOPR指標

NVT(Network Value to Transactions)比率は、ビットコインの市場時価総額をオンチェーンの取引量で割った値で、「ビットコインのPER(株価収益率)」とも呼ばれます。NVT比率が高い場合は、ネットワークの実際の利用に対して市場価格が割高である可能性を示し、低い場合はその逆を示唆します。

SOPR(Spent Output Profit Ratio)は、移動されたビットコインが平均的に利益状態にあるか損失状態にあるかを示す指標です。SOPR>1は保有者が平均的に利益確定売りを行えるポジションにあることを、SOPR<1は損失確定となっていることを示します。弱気相場の底付近ではSOPRが1を下回ることが多く、強気相場では1を上回って推移する傾向があります。

6. 2026年現在のS2Fモデルの位置づけ

6-1. 機関投資家の視点

2024年以降、ビットコインETFの米国での承認を機に機関投資家のビットコイン市場への参入が加速しています。BlackRock、Fidelityなどの大手資産運用会社がビットコインETFを提供し、年金基金や国家主権ファンドなどの伝統的な大口投資家の参入も見られるようになりました。

機関投資家は一般に、S2Fモデルのような単一指標よりも多角的なフレームワークを用いた投資判断を行います。マクロ経済環境、法規制リスク、流動性リスク、相関分析など複合的な要素を総合的に評価する傾向があります。その意味でS2Fモデルは、機関投資家にとっては「参考指標の一つ」という位置づけに留まる場合が多いと考えられます。

6-2. S2Fモデルの現在の評価

2026年現在、S2Fモデルは仮想通貨コミュニティにおいて「過去の価格トレンドを説明するフレームワーク」として参照されながらも、精密な価格予測ツールとしての信頼性には一定の留保が付けられるようになっています。

PlanB本人も、S2Fモデルはビットコインの長期的な価値の上限や下限を示す大まかなガイドラインであり、短期的な価格変動を予測するものではないという見解を示しています。研究者・アナリストの間では、モデルの統計的な問題点を指摘しながらも、ビットコインの希少性という本質的な特性を定量化しようとした先駆的な試みとして評価する声も根強く残っています。

まとめ

PlanBのS2Fモデルは、ビットコインの供給面の希少性(SF比率)と市場価格の関係を統計的に分析した画期的なフレームワークです。過去の半減期サイクルとの高い整合性から注目を集めた一方、2022年の大幅な価格乖離を経て、モデルの限界も明らかになりました。

S2Fモデルを正しく活用するためには、以下の点を理解しておくことが重要です。

  • モデルは供給面の希少性のみを考慮しており、需要面の変動は考慮していない
  • 統計的な手法には「見かけの回帰」の可能性という批判がある
  • マクロ経済や規制環境などの外生的要因がモデルの予測を大きく左右する場合がある
  • MVRV・SOPR・NVTなど他の指標と組み合わせることでより多角的な分析が可能

ビットコインの長期的な価値評価の一つの視点として参照しながら、投資判断においては複数の視点を組み合わせた総合的な判断を心がけることが大切です。

よくある質問

Q. S2Fモデルはビットコイン以外の仮想通貨にも適用できますか?

A. 理論上は発行上限が固定されている仮想通貨にも適用可能ですが、ビットコインほどの長期的な価格データが存在しないため、統計的な信頼性は限られます。また、イーサリアムのように供給量が変動する設計の通貨にはそのままでは適用できません。

Q. S2Fモデルは将来の価格を確実に予測できますか?

A. S2Fモデルを含むいかなる価格予測モデルも、将来の価格を確実に予測することはできません。過去のデータに基づく統計的な傾向を示すものであり、あくまで参考の一つとして扱うことが適切です。

Q. PlanBとは何者ですか?

A. PlanBはオランダ在住の匿名のビットコイン研究者・アナリストで、金融機関でのリスク管理の経験を持つとされています。2019年のS2Fモデル発表以降、仮想通貨コミュニティで最も影響力のある独立系アナリストの一人として知られています。Twitterでは数百万人のフォロワーを持ちます。

免責事項:本記事の情報は執筆時点のものであり、最新情報と異なる場合があります。※本記事は情報提供を目的としており、投資を推奨するものではありません。暗号資産への投資は元本割れのリスクがあります。投資判断はご自身の責任で行ってください。

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