イーサリアム - ETH

レイヤー2コスト削減の実態:EIP-4844導入後のOptimism・Arbitrum・Base手数料比較

EIP-4844(Proto-Danksharding)の実装は、イーサリアムのレイヤー2(L2)エコシステムに劇的な変化をもたらしました。2024年3月のDencunアップグレード以降、OptimismやArbitrum、BaseなどのOptimistic Rollupと、zkSync EraやStarknetなどのZK-Rollupの両方で、ユーザーが支払うトランザクション手数料が大幅に低下しています。

本記事では、EIP-4844導入前後のL2手数料の実際の変化を数値とともに検証し、それぞれのL2がどのように費用構造を最適化したのかを解説します。また、手数料低下が実際のユーザー体験やDeFi活用にどのような影響を与えているかについても考察します。

なお、本記事に記載する手数料の数値は参考値であり、実際の手数料はネットワーク状況や時期によって大きく異なります。投資判断はご自身の責任でお願いします。

EIP-4844以前のL2手数料構造

L2手数料の内訳:L1データコストとL2実行コスト

L2の手数料は大きく2つの要素から構成されています。第一の要素は「L1データコスト」であり、L2トランザクションのデータをL1スマートコントラクトに投稿するためのガス代です。第二の要素は「L2実行コスト」であり、L2内でトランザクションを処理するための計算コストです。

EIP-4844以前は、L1データコストがL2全体の手数料の70〜80%を占めていることが多く、これが手数料低下の主な障壁となっていました。L2実行コスト自体は元々低廉でしたが、L1データコストに引きずられる形でユーザーの負担が大きくなっていました。

calldataコストの高さと2021〜2023年の手数料動向

2021年のDeFiブームとNFTブームによってイーサリアムのガス代が高騰した際、L2のトランザクション手数料もつられて上昇しました。当時、Arbitrumでも比較的単純なスワップ操作に0.5〜2ドル程度かかるケースがありました。これはL1(イーサリアムメインネット)の数分の一ではありますが、日常的な小額取引には高すぎる水準でした。

2022〜2023年にかけてガス代が落ち着いた時期でも、L2のトランザクション手数料は0.1〜0.5ドル程度が標準的でした。この水準ではマイクロペイメントや高頻度の小額DeFi取引には不向きで、ゲームやソーシャルアプリケーションへの活用も限られていました。

Dencunアップグレード後の劇的変化

アップグレード直後のL2手数料の急落

2024年3月13日のDencunアップグレード直後、主要L2の手数料は急激に低下しました。各L2プロジェクトがブロブ対応のバッチ投稿に切り替えると、L1データコストが従来比で約80〜95%削減されたと報告されています。

参考として、アップグレード直後に各L2で報告されたトランザクション手数料の変化は以下の通りです。

  • Optimism:通常のスワップで0.3〜0.5ドル → 0.01〜0.05ドル程度
  • Arbitrum:通常のスワップで0.2〜0.4ドル → 0.01〜0.05ドル程度
  • Base:通常のスワップで0.2〜0.4ドル → 0.005〜0.02ドル程度
  • zkSync Era:通常のスワップで0.1〜0.3ドル → 0.01〜0.03ドル程度

これらの数値は2024年3月のスナップショットであり、現在は異なる可能性があります。また、ETH価格の変動やネットワーク混雑によっても大きく変わります。

各L2の費用構造における変化の詳細

手数料低下の背景にある費用構造の変化を見ると、各L2でL1データコストの割合が大幅に低下しています。ブロブへの移行前はL1データコストが全体の70〜80%だったものが、移行後は20〜30%程度にまで低下したとされています。

一方、L2実行コスト自体は大きく変わっていないため、全体的な費用構造のバランスが変わりました。今後、L2側の最適化(シーケンサーの効率改善など)が進めば、実行コストのさらなる削減も期待できます。

Optimism(OP Mainnet)の詳細分析

OP Stackとブロブの統合

OptimismはEIP-4844の早期採用者の一つであり、Dencunアップグレード直後にブロブへの移行を完了しました。OP Stackと呼ばれるOptimismのモジュラーなスタックアーキテクチャは、BaseやZoraなど多数のL2が採用しており、OP Stackベースの全てのチェーンがブロブの恩恵を受けています。

Optimismのデータによると、ブロブ移行後のL1データコストは移行前比で約90%削減されました。これにより、OP Mainnetのシーケンサー収益のうちL1コストへの支出が大幅に減少し、プロトコルの持続可能性が向上したとされています。

Superchainビジョンとブロブの位置づけ

OptimismはOP Stackを使った複数のL2が相互接続する「Superchain」というビジョンを掲げています。ブロブによるコスト削減は、Superchainを構成する各チェーン(Base、Zora、Modeなど)のコスト低減にも直結しています。

将来的に完全なDankshardingが実装され、ブロブ数が増加するとSuperchain全体でさらなるコスト削減が見込まれますが、実装時期は未確定であることに留意が必要です。

Arbitrumのブロブ活用戦略

Nitroアーキテクチャとブロブの統合方法

ArbitrumはNitroと呼ばれるアーキテクチャを採用しており、ブロブへの移行はNitroのバッチ投稿モジュールのアップデートによって実現されました。Arbitrumは複数のチェーン(Arbitrum One、Arbitrum Nova、Arbitrum Orbit)を展開しており、それぞれのチェーンで異なるデータ可用性(DA)設定が使われています。

Arbitrum OneはイーサリアムメインネットをDAとして使用しており、ブロブへの移行の恩恵を最も直接的に受けています。Arbitrum NovaはAnyTrustと呼ばれる独自のDA仕組みを使っており、ブロブとの関係がやや異なります。

Arbitrum Stylusとコスト効率の組み合わせ

2023年に導入されたArbitrum Stylusは、Rust・C・C++などの言語でスマートコントラクトを書けるようにする機能拡張です。StylusコントラクトはEVMコントラクトと比べて計算コストを大幅に削減できるとされており、ブロブによるデータコスト削減と組み合わせることで、Arbitrum上でのdApps運用コストがさらに低下します。

Baseのブロブ活用と急成長

CoinbaseによるBaseチェーンとEIP-4844の相乗効果

BaseはCoinbaseが開発したOP Stackベースのチェーンであり、2023年8月のローンチ以来急成長を遂げています。EIP-4844の恩恵を受けて、Baseのトランザクション手数料は大幅に低下し、2024年以降は多くのユーザーがL2として利用する主要チェーンの一つとなっています。

Dencunアップグレード後、Baseではトランザクション手数料が平均で0.01ドル以下になるケースが増加し、ソーシャルアプリ(Friend.tech、Farcasterなど)やゲーム系dAppsの活用が活発になっています。手数料水準は日によって異なりますが、EIP-4844以前と比べると明確に改善されています。

Base上のDeFiエコシステムの変化

手数料低下の恩恵を最も受けたのは、頻繁な小額取引が必要なDeFiユーザーです。Base上でのDEX(分散型取引所)取引量は、Dencunアップグレード後に増加傾向が見られました。低手数料によって、従来はコスト的に難しかったアービトラージや流動性提供などの戦略が、より現実的な選択肢になっています。

ZK-RollupにおけるEIP-4844の影響

zkSync Eraのブロブ活用状況

zkSync EraはZK-Rollupの一種であり、ゼロ知識証明を使ってトランザクションの正確性をL1上で即座に証明します。EIP-4844の導入により、zkSync Eraもブロブを使ったデータ投稿に移行し、L1データコストの削減を実現しています。

ZK-Rollupの場合、証明の生成コストが別途発生するため、Optimistic Rollupと比べると手数料構造が若干複雑です。しかし、ブロブによるデータコスト削減の効果はZK-Rollupにも及んでおり、Dencunアップグレード後のzkSync Eraでもトランザクション手数料の低下が確認されています。

Starknetとブロブの統合

StarknetもEIP-4844対応のアップグレードを実施し、ブロブを使ったデータ投稿に移行しています。Starknetは独自のSTARKという証明方式を使っており、証明サイズが大きい代わりに信頼できるセットアップが不要という特性を持ちます。ブロブによるコスト削減により、Starknetのスマートコントラクト実行コストも低下しています。

まとめ

EIP-4844の実装は、L2エコシステム全体に明確な手数料低下をもたらしました。Optimism、Arbitrum、Base、zkSync Era、Starknetなどの主要L2では、L1データコストが大幅に削減され、ユーザーが支払うトランザクション手数料が従来比で大幅に低下しています。

この手数料低下は、単なるコスト削減にとどまらず、マイクロペイメントの実用化やDeFiの利用ハードルの低下、ゲーム・ソーシャルアプリへの応用拡大など、イーサリアムエコシステム全体の可能性を広げるものです。将来的にDankshardingが完全実装されれば、さらなるコスト削減が見込まれます。

よくある質問

L2手数料が「無料」になることはありますか?

理論的には限りなくゼロに近づけることは可能ですが、完全に無料にはなりません。L2の運営にはL1へのデータ投稿コスト、シーケンサーの運用コスト、ゼロ知識証明の生成コストなどが発生するため、何らかの形でユーザーから回収する必要があります。ただし、将来的には非常に低い手数料(1セント未満)が常態化する可能性はあると考えられています。

ブロブの需要が増えると手数料は上がりますか?

はい、ブロブガスの価格はブロブの需要に応じてダイナミックに変動します。現在の最大6ブロブ/ブロックという制限に対して需要が増加すると、ブロブガス価格が上昇し、L2のL1データコストが増加します。これがL2手数料の上昇につながる可能性があります。この問題の根本的解決は、完全なDankshardingによるブロブ数の大幅増加に委ねられています。

各L2の手数料をリアルタイムで比較できるサービスはありますか?

L2Fees.info(l2fees.info)というサービスでは、各L2のリアルタイム手数料を比較することができます。ETH送金やERC20トークン転送、Uniswapでのスワップなど、代表的なトランザクション種別ごとのコストが確認できます。ただし、手数料はネットワーク状況によって随時変動するため、参考程度にご利用ください。


※本記事は情報提供を目的としており、投資を推奨するものではありません。暗号資産への投資は元本割れのリスクがあります。投資判断はご自身の責任で行ってください。

Bitcoin Analyze 編集部

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