ブロックチェーンのパフォーマンスは、実用的なDAppsを構築するうえで欠かせない要素です。SuiとAptosはどちらも「毎秒10万トランザクション以上」という高いTPS目標を掲げており、既存のL1ブロックチェーンを大きく凌駕するスケーラビリティを標榜しています。
しかし、同じ目標を掲げながらも、両者が採用するコンセンサスメカニズムとアーキテクチャは大きく異なります。本記事では、SuiとAptosそれぞれのコンセンサス設計を詳しく解説し、TPS・ファイナリティ・並列実行という3つの観点から比較します。
投資判断の材料というよりは、技術的な理解を深めるための参考資料として本記事をご活用ください。
コンセンサスメカニズムの基礎——BFTとPoSの概念
Byzantine Fault Toleranceとは
ビザンチン障害耐性(BFT: Byzantine Fault Tolerance)とは、分散システムにおいて、一部のノードが悪意を持った行動をとったり、障害によって不正なデータを送信したりしても、システム全体として正しい合意に達できる性質を指します。
SuiもAptosもBFTベースのコンセンサスを採用しています。BFTは「3f+1台以上のノードが存在すれば、f台の故障・悪意あるノードに対してシステムが正常に動作する」という理論的保証を持ちます。この保証がブロックチェーンの安全性の基盤となっています。
Proof of Stakeによるバリデーター選出
SuiもAptosも、バリデーター(検証者)の選出にProof of Stake(PoS)を採用しています。バリデーターはネイティブトークン(SUIまたはAPT)をステークすることでネットワーク検証に参加する資格を得ます。不正行為を行ったバリデーターはステークしたトークンを没収(スラッシング)されるリスクがあるため、経済的インセンティブが正直な行動を促します。
PoSはビットコインのProof of Work(PoW)と比較してエネルギー消費が極めて少なく、現在のL1ブロックチェーンの主流となっています。
Suiのコンセンサスアーキテクチャ——Narwhal・Bullshark・Mysticeti
Narwhalによる高スループットのDAGベース設計
Suiの当初のコンセンサス設計の中核を担ったのが「Narwhal」です。NarwhalはDAG(有向非巡回グラフ)ベースのメモリプール(Mempool)設計を採用しており、データの伝播とコンセンサスを分離することで高いスループットを実現しています。
従来のビザンチンフォールトトレラントプロトコルでは、ブロック提案と合意形成が密結合していましたが、Narwhalはこれを切り離しました。バリデーターはコンセンサスの順番を待たずにデータを伝播できるため、ネットワーク帯域を効率的に活用できます。
Mysticeti——低遅延を実現する最新プロトコル
SuiはNarwhal/Bullsharkの後継として「Mysticeti」というコンセンサスプロトコルを開発・採用しました。MysticetiはDAGベースの設計を継承しながら、さらなる低遅延化を実現しています。
Mysticetiの特徴は「楽観的コミット(optimistic commit)」です。2/3以上のバリデーターが同意した時点で即座にファイナリティを確認できる仕組みにより、理論上サブ秒(1秒未満)でのファイナリティが可能とされています。Suiの公式発表では390ミリ秒程度のファイナリティを達成したとされており、ユーザー体験の向上に大きく貢献しています。
AptosのコンセンサスアーキテクチャAptosBFTとJolteon
DiemBFTからAptosBFTへの進化
AptosのコンセンサスプロトコルはDiemBFTを起源としています。DiemBFTはホットスタッフ(HotStuff)というBFTプロトコルを改良したもので、Meta(旧Facebook)のDiemプロジェクトで開発されました。Aptosはこれをさらに改良し、AptosBFTとして採用しています。
AptosBFTはリーダーベースの設計を採用しており、各ラウンドでリーダーバリデーターがブロックを提案します。リーダーが遅延・障害を起こした場合は速やかにリーダー交代が行われるよう改善されており、安定したスループットを維持できます。
Jolteonによる高速化
Aptosは「Jolteon」というコンセンサス改善も組み込んでいます。JolteonはHotStuffの変種であり、DAGベースのメモリプールを活用することでスループットを向上させています。名前は「Hotstuff + DAG」という組み合わせのユーモラスな命名です(ポケモンのJolteonから着想を得たとされています)。
Aptosは理論的に16万TPSを超えることができるとしており、現在も性能改善のアップデートが継続的に行われています。
並列実行エンジンの比較——SuiのオブジェクトモデルとBlock-STM
Suiの並列処理——オブジェクトの独立性を活用
Suiが高い並列処理性能を実現できる最大の理由は、オブジェクトモデルにあります。Suiではトランザクションが操作するオブジェクトが事前に明示されます。異なるオブジェクトを操作するトランザクションは互いに依存関係がないため、同時に並列処理することができます。
特に「所有されたオブジェクト」のみを操作するトランザクションは、コンセンサスプロセスを完全にバイパスして処理できます。これを「ファストパス」と呼び、NFTの転送や単純なトークン送金など多くのユースケースで適用できます。コンセンサスが不要なためレイテンシが大幅に削減されます。
AptosのBlock-STM——楽観的並行実行
AptosはBlock-STMというオリジナルの並列実行エンジンを開発しました。Block-STMは「ソフトウェアトランザクショナルメモリ(STM)」の概念をブロックチェーンに適用したものです。
Block-STMの動作原理はシンプルです。まずすべてのトランザクションを楽観的に並列実行します。実行後、依存関係(同じデータへのアクセス)の衝突を検出し、衝突したトランザクションのみを再実行します。衝突が少ないワークロードでは高いスループットを発揮しますが、同一リソースへのアクセスが集中するような状況(人気DeFiプロトコルへの集中アクセスなど)では再実行が増加し、スループットが低下する可能性があります。
ベンチマークと実測値——どちらが速いのか
公式発表のTPSと実測値の乖離
SuiとAptosはどちらも自社のベンチマーク環境で高いTPSを達成したと発表しています。しかし、公式が発表するTPS値は制御された理想的な条件下での測定であることが多く、実際のメインネットの負荷状況とは乖離があります。
実際のメインネットを観測すると、通常時のTPSは数百〜数千程度であることがほとんどです。これはまだエコシステムが成熟しておらず、ネットワークに高い負荷がかかるほどのトランザクション量が発生していないためです。高負荷時のパフォーマンスはネットワークの成長とともに実証されていく段階にあります。
ファイナリティの実測比較
ファイナリティ(トランザクションの確定)に要する時間は、ユーザー体験を左右する重要な指標です。Suiは前述のMysticetiにより、平均400ミリ秒以下のファイナリティを目指しており、実際のネットワーク観測でもサブ秒のファイナリティが報告されています。
AptosもAptosBFTの改善により、平均1〜2秒のファイナリティを実現しています。イーサリアムのPOS後のファイナリティ(12秒以上)と比較するとどちらも大幅に高速であり、ユーザー体験の観点では両者とも実用的な水準に達していると評価できます。
スケーラビリティの将来展望——シャーディングと将来的な拡張
Suiのシャーディング検討
Suiのオブジェクトモデルはシャーディング(ネットワークの分割による並列化)との親和性が高いと考えられています。オブジェクト単位でシャードを分割できれば、理論的にはノード数に比例したスケーラビリティが実現できます。現時点でSuiはシャーディングを実装していませんが、将来的な拡張オプションとして研究が続いています。
Aptosの将来的な性能改善計画
Aptosは継続的なプロトコル改善によるパフォーマンス向上を進めています。Block-STMのさらなる最適化に加え、ネットワーク伝播の改善も取り組みの一つです。Aptosはモジュール的なアーキテクチャを採用しており、コンセンサスレイヤーを比較的柔軟に更新できる設計になっています。
まとめ
SuiとAptosのコンセンサスとパフォーマンスを比較すると、アプローチの違いが鮮明です。SuiはオブジェクトモデルとMysticetiにより、特定のユースケースでサブ秒ファイナリティを実現する超低遅延を強みとしています。AptosはBlock-STMによる楽観的並列実行とAptosBFTの安定性を組み合わせ、高スループットと信頼性を両立しています。
どちらが「速い」かはユースケースによって異なります。NFTやゲームなどオブジェクト操作中心であればSuiが優位、DeFiや複雑なコントラクト間連携であればAptosの安定性が活きる場面もあります。技術の進化は今も続いており、最新の測定値は各チェーンの公式サイトや独立したリサーチ機関のレポートを参照することをお勧めします。
よくある質問
SuiとAptosのTPSはイーサリアムと比べてどのくらい速いですか?
イーサリアムのL1レイヤーは現在15〜30TPS程度です。SuiとAptosはベンチマーク環境でそれぞれ数万〜数十万TPSを達成したと発表していますが、実際のメインネットでは現時点でその上限に達するほどの需要はまだありません。ただし設計上のスループット余裕は大きく、エコシステムの成長に対応できる拡張性を持っています。
コンセンサスメカニズムはセキュリティにどう影響しますか?
BFTベースのコンセンサスは、バリデーターの1/3未満が悪意あるノードである限りシステムの安全性が保たれます。PoSによりバリデーターは経済的インセンティブで正直な行動を取るよう設計されています。ただし、バリデーターの分散度合いや実際のステーク分布も重要な安全性の指標です。各チェーンのバリデーターセットは公式エクスプローラーで確認できます。
「ファイナリティ」とは何ですか?確定した後に覆ることはありますか?
ファイナリティとは、トランザクションが取り消し不可能な状態に確定することを指します。BFTベースのコンセンサスでは、2/3以上のバリデーターが合意した時点でファイナリティが確定するため、理論上は覆りません。PoWのビットコインのような「確率的ファイナリティ」とは異なり、BFTは「確定的ファイナリティ」を提供します。ただし、バリデーターの大多数が共謀するような極端なシナリオは理論的なリスクとして存在します。
※本記事は情報提供を目的としており、投資を推奨するものではありません。暗号資産への投資は元本割れのリスクがあります。投資判断はご自身の責任で行ってください。