暗号資産の取引と聞くと、多くの方は取引所の板(オーダーブック)を通じた売買をイメージされるのではないでしょうか。しかし、大口の投資家や機関投資家の間では、取引所を介さずに売り手と買い手が直接交渉して売買を行う「OTC取引(Over-The-Counter / 相対取引)」が広く利用されています。
OTC取引は、伝統的な金融市場でも長い歴史を持つ取引形態であり、株式や債券、為替市場でも活発に行われています。暗号資産市場においては、2017年のICOブームの頃から本格的にOTC市場が形成され始め、2026年3月時点では、機関投資家向けの暗号資産OTC市場は年間数千億ドル規模に達していると推定されています。
なぜ大口投資家はOTC取引を選ぶのでしょうか。最大の理由は「マーケットインパクト」の回避です。例えば、1,000BTC(2026年3月時点で約750億円相当)を取引所で一度に売却しようとすると、板の流動性を超えてしまい、価格が大幅に下落する可能性があります。OTC取引であれば、事前に合意した価格で取引が成立するため、市場価格への影響を最小限に抑えることができるのです。
本記事では、暗号資産のOTC取引について、その仕組みから主要なOTCデスク、メリット・デメリット、リスク管理、そして個人投資家にとっての活用可能性まで、詳しく解説していきます。大口取引に関心のある方は、ぜひ参考にしていただければと思います。
目次
1. OTC取引(相対取引)の基本を理解しよう
1-1. OTC取引とは
OTC取引とは「Over-The-Counter(オーバー・ザ・カウンター)」の略で、日本語では「相対取引」や「店頭取引」と呼ばれます。取引所のオーダーブック(板)を介さずに、売り手と買い手が直接的に価格と数量を交渉して取引を成立させる方式です。
名前の由来は、かつて銀行や証券会社の「カウンター越し(Over The Counter)」に対面で取引を行っていたことにあります。現代では実際にカウンターで取引するわけではありませんが、取引所を経由しない直接取引という意味でこの呼称が定着しています。
伝統的な金融市場では、OTC取引は債券市場やデリバティブ市場で非常に一般的です。実は、世界の金融市場全体で見ると、取引所取引よりもOTC取引の方が取引量が大きいとも言われています。暗号資産市場でも、この伝統的な取引形態が取り入れられているわけです。
1-2. 取引所取引とOTC取引の違い
取引所取引とOTC取引の主な違いを整理してみましょう。
取引所取引の特徴:
- オーダーブック(板)を通じて売買が成立する
- 取引価格がリアルタイムで公開される(価格の透明性が高い)
- 注文は自動的にマッチングされる
- 取引手数料が明確に設定されている
- 取引履歴が公開される(オンチェーンまたは取引所内で確認可能)
- 少額から大口まで幅広い取引に対応
OTC取引の特徴:
- 売り手と買い手が直接交渉して価格を決定する
- 取引価格は当事者間でのみ共有される(非公開)
- 取引条件(価格、数量、決済方法など)を柔軟にカスタマイズできる
- 大口取引に適しており、マーケットインパクトを回避できる
- 取引相手のリスク(カウンターパーティリスク)が存在する
- 仲介業者(OTCデスク)が間に入ることが多い
1-3. 暗号資産OTC市場の規模
暗号資産のOTC市場は、正確な規模の把握が難しいという特徴があります。取引所取引と異なり、OTC取引は個別の当事者間で行われるため、包括的なデータが公開されていないためです。
しかし、業界関係者の推定によると、暗号資産OTC市場の取引量は取引所の取引量と同等、あるいはそれ以上の規模に達している可能性があるとされています。特に2024年のビットコインETF承認以降、機関投資家の暗号資産市場への参入が加速し、OTC市場の取引量も大幅に拡大したと考えられています。
OTC取引が特に活発なのは以下のような場面です。
- マイニング事業者が採掘したビットコインを売却する際
- ファンドやヘッジファンドが大口のポジションを構築・解消する際
- 初期のプロジェクト投資家がロック解除後のトークンを売却する際
- 国家規模のビットコイン準備金の取引が行われる際
2. なぜ暗号資産でOTC取引が利用されるのか
2-1. マーケットインパクトの回避
OTC取引が選ばれる最大の理由は、大口取引時のマーケットインパクトを回避できることです。マーケットインパクトとは、大量の注文が市場に投入されることで、価格が不利な方向に動く現象を指します。
具体的な例で考えてみましょう。あるファンドが500BTCを購入したい場合、取引所のオーダーブックで一度に成行注文を出すと、売り注文の板を次々と約定しながら価格が上昇していきます。最初の50BTCは市場価格で購入できたとしても、残りの450BTCはどんどん高い価格で約定することになり、平均購入価格が市場価格より大幅に高くなってしまいます。
この問題は「スリッページ」とも呼ばれ、取引量が大きくなるほど深刻になります。OTC取引であれば、事前に合意した固定価格で500BTC全量を購入できるため、こうした価格の不利な変動を回避することが可能です。
2-2. プライバシーと秘匿性
OTC取引のもう一つの重要な利点は、取引のプライバシーが保たれることです。取引所で大口の注文が検知されると、他のトレーダーがその情報を基に投機的な取引を行う可能性があります。
例えば、大量の買い注文が取引所に出されたことが市場に知れ渡ると、「大口投資家が買っている」という情報が広まり、他のトレーダーも追随して買い注文を出す可能性があります。結果として、本来の買い手がより高い価格で購入することになりかねません。
OTC取引では、取引の存在や条件が当事者間でのみ共有されるため、こうした情報漏洩による不利益を避けることができます。ただし、暗号資産の場合はブロックチェーン上で送金が記録されるため、取引が完了した後にオンチェーンの動きから推測されることはあり得ます。
2-3. 取引条件のカスタマイズ
OTC取引では、取引所取引では設定できないような柔軟な条件を設定することが可能です。
決済方法の選択: 暗号資産と暗号資産の交換、暗号資産と法定通貨の交換、銀行送金やステーブルコインでの決済など、多様な決済方法を選択できます。
分割決済: 大口取引を複数回に分けて決済する「トランシェ取引」も可能です。例えば、1,000BTCの取引を10回に分けて100BTCずつ決済するといった柔軟な設定ができます。
VWAP(出来高加重平均価格)連動: 取引価格を、特定の期間における取引所のVWAPに連動させるような条件設定も行われています。これにより、取引時点の一時的な価格変動リスクを軽減できます。
ロックアップ条件: トークンの売却に際して、購入者がすぐに市場で転売しないことを条件とする「ロックアップ」を設定することもあります。
3. 暗号資産OTC取引の仕組みと流れ
3-1. OTCデスクを介した取引
暗号資産のOTC取引で最も一般的な方法は、「OTCデスク」と呼ばれる仲介業者を介した取引です。OTCデスクは、売り手と買い手をマッチングし、取引のプロセスを仲介する役割を果たします。
OTCデスクを介した取引の一般的な流れは以下の通りです。
OTCデスクには、「プリンシパルデスク」と「エージェンシーデスク」の2種類があります。プリンシパルデスクは自社の在庫から暗号資産を売買するため、即座に取引を完了できるのが強みです。エージェンシーデスクは売り手と買い手のマッチングを行う仲介者として機能し、自社で在庫を持たない分、リスクが限定されています。
3-2. P2P(ピアツーピア)OTC取引
OTCデスクを介さずに、売り手と買い手が直接取引を行う「P2P OTC」も存在します。暗号資産コミュニティのフォーラムやSNS、専用のP2Pプラットフォームなどを通じて取引相手を見つけ、直接交渉を行います。
P2P OTCは仲介手数料がかからないメリットがありますが、取引相手の信頼性を自分で判断する必要があるため、詐欺のリスクが高くなります。エスクロー(第三者預託)サービスを利用してリスクを軽減する方法もありますが、完全にリスクを排除することは困難です。
P2P OTC取引で特に注意が必要なのは、取引相手の資金がマネーロンダリングなど違法な活動に関連している可能性です。こうした資金を受け取ると、意図せず犯罪に巻き込まれるリスクがあります。
3-3. 取引所のOTC機能
一部の大手暗号資産取引所は、自社のプラットフォーム内にOTC取引機能を備えています。これらは取引所の信頼性とセキュリティを活かしながら、大口取引のニーズに対応するサービスです。
取引所のOTC機能の利点は、以下の通りです。
- 既存の取引所アカウントをそのまま利用できる
- KYC/AML手続きが取引所の開設時に完了している
- 取引所が取引の清算と決済を保証する(カウンターパーティリスクが軽減される)
- 取引所の流動性を活用した競争力のある価格が提示される
一方で、取引所のOTC機能は通常、一定額以上の取引に限定されています。例えば、最低取引額が10万ドル(約1,500万円)以上に設定されていることが一般的です。
4. 主要な暗号資産OTCデスクを比較
4-1. 取引所系OTCデスク
大手暗号資産取引所は、多くの場合自社のOTCデスクを運営しています。
Coinbase Prime: Coinbaseの機関投資家向けプラットフォームで、OTC取引サービスを提供しています。規制遵守を重視しており、米国の機関投資家からの信頼が厚い傾向にあります。最低取引額は比較的高めに設定されていますが、深い流動性と安定した価格提示が特徴です。
Kraken OTC: Krakenが提供するOTCサービスで、幅広い暗号資産ペアに対応しています。24時間365日対応のトレーディングデスクが運営されており、電話やチャットでの問い合わせが可能です。
Binance OTC: 世界最大規模の取引所であるBinanceのOTCサービスです。BinanceのOTCポータルでは、主要な暗号資産のリアルタイム見積もりを確認し、即座に取引を実行することができます。
4-2. 独立系OTCデスク
取引所に属さない独立系のOTCデスクも多数存在します。
Cumberland(カンバーランド): DRW(シカゴの大手トレーディングファーム)の暗号資産部門で、業界で最も歴史のあるOTCデスクの一つです。機関投資家向けに深い流動性を提供しており、大口取引での信頼性が高いとされています。
Galaxy Digital Trading: 暗号資産投資会社Galaxy Digitalのトレーディング部門で、OTC取引サービスを提供しています。ビットコインやイーサリアムだけでなく、幅広いアルトコインの大口取引に対応しています。
Circle Trade: ステーブルコインUSDCの発行体であるCircleのOTCデスクです。USDC建ての取引に強みがあり、ステーブルコインを活用した決済ソリューションとOTC取引を組み合わせたサービスを提供しています。
4-3. OTCデスクの選び方
OTCデスクを選ぶ際に確認すべきポイントは以下の通りです。
規制遵守: 適切なライセンスや登録を取得しているか、KYC/AMLの手続きが整備されているかを確認することが重要です。規制に準拠したOTCデスクを選ぶことで、法的なリスクを軽減できます。
流動性と価格: 提示される価格のスプレッド(買値と売値の差)が小さいほど、取引コストを抑えることができます。複数のOTCデスクから見積もりを取得し、比較検討することをおすすめします。
対応する暗号資産: 取引したい暗号資産に対応しているかどうかは基本的な確認事項です。ビットコインやイーサリアムであればほとんどのOTCデスクが対応していますが、アルトコインの場合は対応状況が異なります。
決済方法と速度: 法定通貨での決済に対応しているか、銀行送金の対応国・通貨はどうか、決済にかかる時間はどの程度かといった点も確認しておきましょう。
5. OTC取引の価格はどう決まるのか
5-1. 基準価格とスプレッド
OTC取引の価格は、取引所の市場価格を基準として設定されるのが一般的です。OTCデスクは複数の取引所の価格を参照し、そこにスプレッド(マークアップまたはマークダウン)を加えた価格を顧客に提示します。
スプレッドの大きさは、以下の要因によって変動します。
- 取引金額: 取引額が大きいほどスプレッドが縮小する傾向にあります
- 暗号資産の種類: ビットコインやイーサリアムなど流動性の高い通貨はスプレッドが狭く、マイナーなアルトコインは広くなります
- 市場のボラティリティ: 市場が大きく変動している時期はスプレッドが拡大しやすくなります
- 取引の方向: 売りと買いでスプレッドが異なる場合があります
- 取引先との関係: 継続的な取引がある顧客にはより有利なスプレッドが提示されることがあります
一般的に、ビットコインの大口OTC取引のスプレッドは0.1%〜0.5%程度とされていますが、市場環境や取引規模によって大きく異なります。
5-2. RFQ(Request for Quote)方式
多くのOTCデスクでは、RFQ(Request for Quote / 見積もり依頼)方式で取引が行われます。これは、顧客が取引したい通貨ペアと数量をOTCデスクに伝え、OTCデスクが価格を提示するプロセスです。
RFQのフローは以下のように進みます。
近年では、電子RFQプラットフォームが普及しており、チャットや電話ではなく、専用のダッシュボード上でリアルタイムに見積もりを取得・比較することも可能になっています。
5-3. TWAP・VWAP注文
大口のOTC取引では、市場の平均的な価格を基準とした注文方式が利用されることもあります。
TWAP(Time-Weighted Average Price / 時間加重平均価格): 指定した期間中の時間加重平均価格で取引を行う方式です。例えば「24時間のTWAPで500BTCを購入する」という注文では、24時間にわたって均等に分割された購入注文が自動的に実行され、その期間の平均価格で取引が完了します。
VWAP(Volume-Weighted Average Price / 出来高加重平均価格): 指定した期間中の出来高加重平均価格で取引を行う方式です。TWAPと似ていますが、出来高の多い時間帯により多くの注文が執行されるため、市場の実勢価格により近い価格での取引が期待できます。
これらの注文方式は、大口の取引を市場に分散させることでマーケットインパクトを軽減する効果がありますが、執行期間中に大きな価格変動があった場合はリスクとなる可能性もあります。
6. OTC取引のメリットとデメリット
6-1. メリット
暗号資産のOTC取引には、以下のようなメリットがあります。
マーケットインパクトの回避: 前述の通り、大口取引を市場価格に影響を与えずに実行できる点が最大のメリットです。数百BTC、数千BTCといった規模の取引では、取引所取引との差が顕著になります。
プライバシーの確保: 取引の存在や条件が非公開のため、競合他社や市場参加者に取引情報が知られるリスクを軽減できます。特にファンドやマイニング事業者にとって、取引戦略の秘匿性は重要な要素です。
柔軟な決済条件: 法定通貨、ステーブルコイン、他の暗号資産など、多様な決済手段を選択できます。銀行送金の場合も、複数の通貨や送金経路に対応していることが多くなっています。
専任のトレーダーによるサポート: OTCデスクには経験豊富なトレーダーが在籍しており、市場動向の情報提供や最適な取引戦略の提案を受けることができます。特に暗号資産市場に不慣れな機関投資家にとって、こうした専門的なサポートは大きな価値があるでしょう。
6-2. デメリット
一方で、OTC取引には以下のようなデメリットや課題もあります。
最低取引額のハードル: 多くのOTCデスクでは最低取引額が設定されており、10万ドル(約1,500万円)以上のことが一般的です。そのため、少額の取引には適していません。
価格の透明性が低い: 取引所のように市場価格がリアルタイムで公開されているわけではないため、提示された価格が適正かどうかを判断しにくい場合があります。複数のOTCデスクから見積もりを取得して比較することが重要です。
カウンターパーティリスク: 取引相手が約束通りに暗号資産や対価を引き渡さないリスクが存在します。信頼性の高いOTCデスクを利用することでこのリスクは軽減されますが、完全に排除することはできません。
決済の遅延リスク: 銀行送金を利用する場合、送金が完了するまでに時間がかかる場合があります。その間に暗号資産の価格が変動するリスクがあり、特に法定通貨と暗号資産の交換取引では注意が必要です。
6-3. どのような場面でOTC取引を選ぶべきか
OTC取引は、以下のような場面で特に有効です。
- 100BTC以上(またはそれに相当する暗号資産)の大口取引を行う場合
- 市場価格への影響を最小限に抑えたい場合
- 取引の秘匿性を確保したい場合
- 法定通貨での決済が必要な場合
- カスタマイズされた取引条件(分割決済、VWAP連動など)が必要な場合
一方で、少額の取引や即座に取引を完了させたい場合は、通常の取引所取引の方が適していると言えるでしょう。
7. OTC取引のリスクと対策
7-1. カウンターパーティリスクとその管理
OTC取引における最大のリスクは、カウンターパーティリスク(取引相手の信用リスク)です。取引所取引では取引所が清算機関として機能するため、取引相手が債務不履行を起こしても取引所が保証してくれますが、OTC取引ではこうした保証がない場合があります。
カウンターパーティリスクを管理するための対策としては、以下が挙げられます。
信頼性の高いOTCデスクの利用: 規制を遵守し、実績のあるOTCデスクを利用することで、カウンターパーティリスクを大幅に軽減できます。
エスクローサービスの活用: 第三者のエスクロー(預託)サービスを利用し、双方が条件を満たすまで資産を預かってもらう方法があります。
DVP(Delivery versus Payment)方式: 暗号資産の引き渡しと対価の支払いを同時に行う仕組みを利用することで、一方が先に資産を渡してしまうリスクを回避できます。
少額からの取引開始: 新しいOTCデスクとの取引は、少額から始めて信頼関係を構築した後に取引規模を拡大するのが一般的です。
7-2. 規制・コンプライアンスリスク
暗号資産のOTC取引においては、規制やコンプライアンスに関するリスクも重要な考慮事項です。
まず、KYC/AMLの手続きが不十分なOTCデスクを利用した場合、取引相手の資金が違法な活動に関連している可能性があります。こうした資金を受け取ると、法的な問題に巻き込まれるリスクがあります。
また、国や地域によって暗号資産の取引に関する規制が異なるため、自国の法規制に準拠したOTCデスクを利用することが重要です。日本の場合、暗号資産交換業の登録を受けた事業者を通じて取引を行うことが、法的なリスクを軽減するための基本的な対策と言えるでしょう。
さらに、OTC取引で得た利益に対する税務上の取り扱いも確認しておく必要があります。取引の記録を適切に保管し、確定申告時に正しく申告することが求められます。
7-3. 決済リスクと価格変動リスク
OTC取引では、取引の合意から決済完了までにタイムラグが生じることがあります。特に法定通貨での決済の場合、銀行送金に1〜3営業日程度かかることがあり、その間の価格変動が決済リスクとなります。
このリスクを軽減する方法としては、以下が考えられます。
- ステーブルコイン(USDT、USDCなど)での決済を利用し、決済のスピードを上げる
- 部分的な前払い(デポジット)を設定し、決済不履行のリスクを軽減する
- 価格変動に対するヘッジ(先物やオプションを活用)を行う
- 信頼性の高い決済インフラ(即時送金対応の銀行など)を利用する
8. 個人投資家にとってのOTC取引
8-1. 個人投資家がOTC取引を利用できるか
OTC取引は主に機関投資家や大口の個人投資家向けのサービスですが、個人投資家が全くアクセスできないわけではありません。
一部のOTCデスクでは、最低取引額を比較的低めに設定しているところもあります。例えば、1万ドル(約150万円)程度から対応しているデスクも存在します。ただし、こうした少額のOTC取引ではスプレッドが広めに設定されていることが多く、取引所取引と比べてコスト面でのメリットは薄い場合があります。
日本国内では、一部の暗号資産取引所(bitFlyerのbitFlyer Lightning OTC、GMOコインの大口OTC取引など)が、比較的少額からOTC取引に対応しているサービスを提供しています。国内の取引所を利用する場合は、日本語でのサポートや日本の規制に準拠した取引が行える点がメリットです。
8-2. P2P取引プラットフォーム
個人投資家がOTC的な取引を行う手段として、P2P取引プラットフォームがあります。これらのプラットフォームでは、個人間で暗号資産の売買を行うことができ、OTC取引に近い体験を得ることが可能です。
代表的なP2Pプラットフォームとしては、以下が挙げられます。
- Paxful: 個人間でビットコインなどの売買を行うプラットフォーム
- LocalBitcoins(現在はサービス終了): かつて最も有名なP2Pビットコイン取引所でしたが、2023年にサービスを終了しています
- Binance P2P: Binanceが提供するP2P取引機能
P2Pプラットフォームを利用する際は、取引相手の評価やフィードバックを確認し、エスクロー機能があるプラットフォームを選ぶことをおすすめします。
8-3. 個人投資家がOTC取引を利用するメリット
個人投資家がOTC取引を利用するメリットは限定的ですが、以下のような場面では有用な可能性があります。
まとまった金額の取引: 退職金や不動産の売却益など、まとまった金額で暗号資産を購入したい場合、取引所で複数回に分けて注文するよりも、OTCデスクで一括して取引した方がスムーズな場合があります。
法定通貨での大口出金: 暗号資産を法定通貨に換金して出金する際、取引所の出金限度額に制約がある場合、OTCデスクを通じた方がスムーズに処理できることがあります。
取引所に上場されていないトークン: 一部のOTCデスクでは、取引所に上場されていないプロジェクトのトークン(プレセール段階のトークンなど)の取引を取り扱っていることがあります。ただし、こうしたトークンの取引は非常にリスクが高いため、慎重な判断が必要です。
まとめ
本記事では、暗号資産のOTC取引について、基本的な仕組みから主要なOTCデスク、価格の決まり方、メリット・デメリット、リスク管理、そして個人投資家にとっての活用可能性まで、幅広く解説してきました。
ポイントを振り返ってみましょう。
- OTC取引は、取引所のオーダーブックを介さずに売り手と買い手が直接取引する方式です
- 大口取引時のマーケットインパクト回避とプライバシーの確保が最大のメリットです
- OTCデスク(Coinbase Prime、Cumberland、Galaxy Digitalなど)が取引の仲介を行うのが一般的です
- 取引価格は市場価格にスプレッドを加えたRFQ方式で決定されることが多くなっています
- カウンターパーティリスク、規制リスク、決済リスクなどの注意点があります
- 個人投資家でも一部のOTCサービスやP2Pプラットフォームを通じて利用可能です
- 日本国内では一部の暗号資産取引所がOTC的なサービスを提供しています
OTC取引は、暗号資産市場の重要なインフラであり、特に機関投資家の市場参入を支える基盤的な役割を果たしています。個人投資家にとっては利用する場面が限定されるかもしれませんが、暗号資産市場の仕組みを理解する上で、OTC取引の存在を知っておくことは有意義ではないでしょうか。
よくある質問(FAQ)
Q1. OTC取引の最低取引額はいくらですか?
OTCデスクによって異なりますが、一般的には10万ドル(約1,500万円)以上が最低取引額とされています。一部のOTCデスクでは5万ドルや1万ドルから対応している場合もありますが、少額の取引ではスプレッドが広くなる傾向にあります。日本国内の取引所のOTC機能の場合は、さらに低い金額から利用できるケースもあります。
Q2. OTC取引の手数料はどの程度ですか?
OTC取引の手数料はスプレッドとして価格に含まれているのが一般的です。ビットコインの大口取引(100万ドル以上)の場合、スプレッドは0.1%〜0.5%程度とされています。取引額が小さい場合やマイナーなアルトコインの場合は、スプレッドが1%以上になることもあります。
Q3. OTC取引はどのようにすれば始められますか?
まず、信頼性の高いOTCデスクを選定し、アカウント開設の申し込みを行います。KYC/AML手続きとして、身分証明書や法人の場合は登記書類の提出が求められます。手続きが完了したら、OTCデスクのトレーダーに連絡して取引を開始できます。日本国内であれば、暗号資産取引所のOTC機能を利用する方法が最も手軽です。
Q4. OTC取引で詐欺に遭わないためにはどうすれば良いですか?
信頼性の高いOTCデスクを利用することが最も重要です。規制当局に登録されているか、実績があるか、業界内での評判はどうかなどを確認してください。P2P取引の場合は、エスクロー機能のあるプラットフォームを利用し、取引相手の評価を必ず確認しましょう。SNSやメッセージアプリで知らない相手からのOTC取引の勧誘には応じないことをおすすめします。
Q5. 日本の税法上、OTC取引はどのように扱われますか?
日本の税法上、OTC取引で得た利益も通常の暗号資産取引と同様に課税対象となります。暗号資産の売却益は原則として「雑所得」に分類され、総合課税が適用されます。OTC取引の記録(取引日時、数量、価格、取引相手など)を適切に保管し、確定申告時に正しく申告することが必要です。取引金額が大きい場合は、税理士に相談されることをおすすめします。
Q6. OTC取引と取引所取引のどちらが有利ですか?
取引金額と目的によって異なります。少額の取引(数百万円以下)であれば、取引所の方が手数料面で有利になる傾向にあります。一方、大口の取引(数千万円以上)では、OTC取引の方がマーケットインパクトの回避やプライバシーの確保といったメリットが大きくなります。具体的な取引条件に応じて最適な方法を選択することが大切です。
Q7. ステーブルコインでのOTC取引は可能ですか?
はい、多くのOTCデスクではステーブルコイン(USDT、USDC、DAIなど)での決済に対応しています。ステーブルコインでの決済は、銀行送金と比べて決済スピードが速く、24時間対応可能というメリットがあります。特にクロスボーダー取引では、銀行送金に伴う手数料や時間を節約できるため、ステーブルコインでの決済が好まれる傾向にあります。
※本記事は情報提供を目的としており、特定のOTCデスクの利用や暗号資産への投資を推奨するものではありません。OTC取引にはカウンターパーティリスク、価格変動リスク、規制リスクなどが伴います。暗号資産への投資は元本割れのリスクがあり、投資判断はご自身の責任で行ってください。本記事の情報は2026年3月時点のものであり、最新の状況とは異なる場合があります。