「理論はわかった。でも実際のデータでどのくらい損失が出るの?」
非永続的損失の計算式を理解しても、実際のプールで「どの程度の損失になるのか」をリアルなデータで見なければ、判断はできません。この記事では、UniswapやCurve Financeなどの主要DeFiプールにおける実例データをもとに、非永続的損失と手数料収益の収支バランスを具体的に比較します。
また、どのような条件のプールが「参加する価値がある」かの判断基準も解説します。DeFiの流動性提供を真剣に検討している方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
- 実例データを読む前の前提知識
- Uniswap v2:ETH/USDCプールの実績分析
- Uniswap v3:集中流動性での収益性変化
- Curve Finance:ステーブルプールの安定収益例
- 高ボラティリティペア(アルトコイン)の危険事例
- 流動性マイニング込みでの収益計算例
- データから見えてくるプール選択の基準
- まとめ
- よくある質問(FAQ)
1. 実例データを読む前の前提知識
データ取得ツール
DeFiプールの実績データを確認するには、以下のツールが便利です。
- DeFiLlama(defillama.com):TVL・APR・ボリュームをプロトコル横断で確認
- Uniswap Analytics(info.uniswap.org):Uniswapの各プール詳細データ
- Revert Finance(revert.finance):Uniswap v3の個別ポジション収益分析
- Apy.vision(apy.vision):LP収益の詳細トラッキング
収益計算の構成要素
流動性提供の実質収益を計算する際は以下の要素を考慮します。
- 手数料収益(取引量 × 手数料率 × 自分のシェア)
- 非永続的損失(価格変動によって発生)
- 流動性マイニング報酬(あれば加算)
- ガス代(参加・引き出し時のコスト)
実質収益 = 手数料収益 + インセンティブ報酬 − 非永続的損失 − ガス代
2. Uniswap v2:ETH/USDCプールの実績分析
2021年強気相場時の試算
2021年1月〜2021年11月のETH価格は約13万円から約58万円まで約4.5倍上昇しました。この間にETH/USDCプールに参加していた場合の試算を行います。
価格が4.5倍になった場合のIL:
IL = 2√4.5 / (1+4.5) − 1 = 2×2.121 / 5.5 − 1 ≈ −0.229(約22.9%)
一方、この時期のUniswap v2 ETH/USDCプールの年率手数料収益は概ね5〜30%程度(時期・取引量により変動)と推定されます。約10ヶ月の保有期間で手数料収益が約5〜25%程度得られたとしても、22.9%のILをカバーするには難しいケースもあったことがわかります。
2022年弱気相場時の試算
2021年11月〜2022年11月、ETH価格は約58万円から約14万円へ約75%下落しました(0.25倍)。
IL = 2√0.25 / (1+0.25) − 1 = 2×0.5 / 1.25 − 1 = −0.2(約20%)
下落局面でも同様に20%程度のILが発生します。ただし下落相場では取引量も増える傾向があり、手数料収益もある程度増加するケースがあります。
3. Uniswap v3:集中流動性での収益性変化
集中流動性の資本効率
Uniswap v3では、LP が価格レンジを指定することで流動性を集中させ、同じ資金量でv2の数倍〜数十倍の手数料収益を得ることが可能です。ただし、価格がレンジ外に出ると流動性提供が停止され、手数料が発生しなくなります。
集中流動性のILとの関係
集中流動性ではレンジの設定によってILの発生パターンも変わります。狭いレンジを設定するほど手数料効率は上がりますが、価格がレンジを外れると片方の資産に偏るリスクがあります。
例えば、ETHが現在価格の±10%のレンジを設定した場合:
- 価格がレンジ内に留まる間は高い手数料収益を得られる
- 価格がレンジを上抜けるとETHがほぼゼロになりUSDCだけが残る状態になる
- 逆にレンジを下抜けるとUSDCがほぼゼロになりETHだけが残る状態になる
アクティブ管理の重要性
研究によれば、Uniswap v3の多くのLPは、v2よりも手数料効率が高い一方で、積極的なレンジ管理をしないとILの影響でトータルリターンがHODLを下回るケースも多いと報告されています。適切なレンジ調整(リバランス)が収益化の鍵です。
4. Curve Finance:ステーブルプールの安定収益例
3pool(USDC/USDT/DAI)の実績
Curveの3pool(USDC・USDT・DAIを1:1:1の比率で提供)は、全てドルペッグのステーブルコインで構成されるため、価格変動による非永続的損失がほぼ発生しません。
実績ベースの年率収益(概算):
- 手数料APR:0.1〜2%程度(市況によって変動)
- CRVインセンティブ:0〜10%程度(時期によって大きく変動)
- IL:ほぼ0%
リスクを抑えながら安定した収益を求めるLPにとって、ステーブルプールは有力な選択肢です。
stETH/ETHプールの実績
Curveのsteth/ethプールは、ETHとstETH(Lidoのステーキング版ETH)を組み合わせたプールです。両者の価格はほぼ連動するため、ILはごく小さいです。
LSD(Liquid Staking Derivatives)人気の高まった2022〜2024年には、CRVインセンティブとステーキング利回りを合算して年率5〜15%程度の収益が得られる時期もありました。
5. 高ボラティリティペア(アルトコイン)の危険事例
LUNA/USTの壊滅的事例(2022年)
2022年5月のTerraネットワーク崩壊では、LUNAトークンが数日間でほぼゼロに暴落しました。LUNA/USDCなどのプールに参加していたLPは、ILどころか資産のほぼ全額を失うという極端な損失を経験しました。
これは流動性プール参加における「最悪のシナリオ」の代表例です。プロジェクトそのものが崩壊するリスクはILの計算式を超えます。
小型アルトコインペアの一般的リスク
時価総額が小さく、取引量も少ない小型アルトコインのプールは:
- 価格変動(ボラティリティ)が極端に高い → IL大
- 取引量が少ない → 手数料収益が少ない
- プロジェクト失敗による価値ゼロリスクがある
高い表示APRに惹かれてリスクを見過ごすことは、DeFiでの典型的な失敗パターンのひとつです。
6. 流動性マイニング込みでの収益計算例
インセンティブ報酬の効果
多くのDeFiプロトコルはLPへの参加インセンティブとして独自のガバナンストークンを配布します(流動性マイニング)。このインセンティブを加算すると実質APRが大幅に向上するケースがあります。
計算例:ETH/USDCプール(ILあり)
仮定:ETHが1.5倍に上昇(IL:約2%)、手数料APR:15%、インセンティブ:20%、ガス代:0.5%(全体の)、保有期間:1年
実質収益 = 15% + 20% − 2% − 0.5% = 約32.5%
この場合、ILを大きく上回るインセンティブが得られています。ただし、ガバナンストークンの価値下落リスク、価格変動が想定以上になるリスクを常に考慮する必要があります。
7. データから見えてくるプール選択の基準
チェックリスト
流動性プールへの参加判断に使えるチェックリストを紹介します。
- 過去30日間の平均APRが十分か(IL試算値を上回るか)
- プールのTVL(総預け入れ量)が安定しているか
- 資産ペアのボラティリティ(過去30日・90日)を確認したか
- スマートコントラクトの監査実績を確認したか
- インセンティブトークンの価格リスクを加味したか
- 長期保有を前提にしているか(短期は手数料の回収ができないリスク大)
参加を避けるべきプールの特徴
- TVLが急増中で、突然減少しそうなプール(ラグプルリスク)
- 監査未実施・アノニマスチームのプロトコル
- 表示APRが異常に高い(年率1000%以上など)プール
- 資産の一方が価値ゼロになるリスクのある小型アルトコイン
まとめ
実例データから見えてきた重要ポイントをまとめます。
- ETH/USDCのような主要ペアでも、価格が4〜5倍動くと20%超のILが発生する
- 集中流動性(v3)は高効率だが、アクティブ管理なしでは損失が出やすい
- ステーブルコインペア(Curve等)はILリスクが低く安定収益を狙いやすい
- LUNA崩壊のような極端なケースでは計算式を超えた全損リスクもある
- 流動性マイニングの報酬込みでも、ガバナンストークンの価値下落リスクを忘れてはいけない
- APR・ボラティリティ・TVL・監査状況を総合的に判断して参加を決める
流動性プールへの参加は「リスクを正しく理解したうえでのアクティブな意思決定」が求められます。データを活用し、自分のリスク許容度に合ったプールを選ぶことが大切です。
よくある質問(FAQ)
Q1. DeFiの収益データはどこで確認できますか?
DeFiLlama(defillama.com)が最も包括的なデータを無料で提供しています。プロトコル別のTVL・手数料・APRを横断的に比較できます。Uniswapの詳細はinfo.uniswap.org、個別ポジションの収益分析はRevert Financeが便利です。
Q2. 流動性マイニングの報酬トークンはすぐに売るべきですか?
受け取ったトークンをすぐに売却(ダンプ)すれば収益を確定できますが、プロジェクトへの信頼がある場合は一部保有するという選択もあります。ただし、保有し続けるとトークン価格下落により報酬価値が目減りするリスクがあることは常に念頭に置いてください。
Q3. Uniswap v2とv3はどちらが初心者向けですか?
v2は設定が単純(フルレンジで預けるだけ)で管理が楽ですが、資本効率が低いです。v3は設定の自由度が高い分、理解と管理が必要です。DeFi初心者はv2またはステーブルプールから始め、慣れてからv3の集中流動性を試すことをおすすめします。
※本記事は情報提供を目的としており、投資を推奨するものではありません。暗号資産への投資は元本割れのリスクがあります。投資判断はご自身の責任で行ってください。価格データ・統計は過去の実績であり、将来の結果を保証するものではありません。