リード文
「もし自分に万が一のことがあったら、保有している暗号資産はどうなるのだろう」――そんな疑問を持たれたことはないでしょうか。ビットコインやイーサリアムなどの暗号資産は、銀行預金や株式と同様に「財産」として扱われます。つまり、保有者が亡くなった場合には相続の対象となり、相続税の課税対象にもなります。しかし、暗号資産には秘密鍵やウォレットの管理という固有の問題があり、従来の金融資産とは異なる難しさが存在します。また、生前に暗号資産を家族に譲渡する場合には贈与税の問題も発生します。本記事では、暗号資産の相続・贈与にまつわる税制の基本から、秘密鍵の引き継ぎ問題、生前に準備しておくべきこと、そして専門家への相談の重要性まで、網羅的に解説していきます。暗号資産を保有しているすべての方にとって、知っておいて損のない情報をお伝えしていきましょう。
目次
1. 暗号資産は相続財産に含まれるのか
1-1. 法律上の位置づけ
暗号資産は、2017年4月に施行された改正資金決済法(現在の「資金決済に関する法律」)において「暗号資産」として法的な定義がなされています。これにより、暗号資産は法律上の「財産的価値」を有するものとして位置づけられることになりました。
相続税法においては、被相続人(亡くなった方)が保有していた一切の財産が相続税の課税対象となります。ここでいう「財産」とは、金銭的価値のあるすべてのものを指しており、暗号資産もその例外ではありません。国税庁も公式に、暗号資産が相続税の課税対象となることを明確にしています。
つまり、ビットコイン、イーサリアム、その他のアルトコインを問わず、被相続人が保有していた暗号資産は、預金や株式と同じように相続財産に含まれるということになります。
1-2. 相続財産としての暗号資産の特殊性
ただし、暗号資産には従来の金融資産にはない特殊な性質があります。銀行預金であれば、金融機関に問い合わせることで残高を確認できますし、株式であれば証券会社を通じて保有状況を把握できます。しかし、暗号資産の場合は状況が大きく異なります。
まず、暗号資産は取引所(交換業者)に預けている場合と、自分のウォレットで管理している場合の2パターンがあります。取引所に預けている場合は、取引所に連絡すれば残高の確認が可能です。しかし、ハードウェアウォレットやソフトウェアウォレットで自己管理している場合、秘密鍵やリカバリーフレーズ(シードフレーズ)がなければ、たとえ相続人であってもアクセスすることができません。
この「秘密鍵がなければ財産にアクセスできない」という点が、暗号資産の相続における最大の課題といえるでしょう。
1-3. 海外取引所やDeFiで保有している場合
暗号資産を海外の取引所やDeFi(分散型金融)プロトコル上で保有している場合、状況はさらに複雑になります。海外取引所は日本の相続手続きに必ずしも対応していない場合がありますし、DeFiプロトコルに預け入れた資産は、ウォレットの秘密鍵がなければ引き出すことができません。
しかし、たとえ海外取引所やDeFiで保有していても、被相続人が日本の居住者である限り、その暗号資産は日本の相続税の課税対象となります。「海外にあるから日本では課税されない」ということにはならないため、注意が必要です。
2. 相続時の暗号資産の評価方法
2-1. 基本的な評価方法:死亡日の時価
暗号資産の相続税評価額は、原則として被相続人が亡くなった日(相続開始日)の時価で評価します。これは株式の評価方法と基本的に同じ考え方です。
国税庁が公表している「暗号資産に関する税務上の取扱いについて(情報)」(令和5年12月改訂版)では、暗号資産の相続税評価について以下のように示されています。
- 活発な市場が存在する暗号資産: 相続開始日における取引価格(時価)で評価
- 活発な市場が存在しない暗号資産: 売買実例価額、精通者意見価格等を参考にして評価
ビットコインやイーサリアムなど、主要な暗号資産は国内外の複数の取引所で活発に取引されていますので、「活発な市場が存在する暗号資産」に該当すると考えられます。
2-2. 取引価格の参照先
では、具体的にどの取引所の価格を参照すればよいのでしょうか。この点について、国税庁は特定の取引所を指定しているわけではありません。一般的には、被相続人が主に利用していた取引所の価格を参照するのが合理的と考えられています。
たとえば、被相続人がコインチェック(Coincheck)で暗号資産を保有していた場合は、コインチェックにおける相続開始日の取引価格を参照することになるでしょう。複数の取引所で保有していた場合は、それぞれの取引所における価格を参照するのが望ましいと考えられます。
ここで注意が必要なのは、暗号資産は24時間365日取引されているという点です。株式であれば「終値」という明確な基準がありますが、暗号資産にはそれがありません。一般的には、相続開始日における最終の取引価格、もしくは日本時間0時時点の価格などを基準とすることが多いようですが、明確な規定はないため、税理士に相談のうえ合理的な方法で算定することが重要です。
2-3. 価格変動リスクへの対応
暗号資産の価格は、株式や不動産と比較しても非常に大きく変動する傾向があります。相続開始日にビットコインが1BTC=1,500万円であったとしても、相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10か月以内)までに大幅に下落している可能性もあります。
この点について、上場株式の相続税評価では「相続開始日の終値」「相続開始月の月平均」「前月の月平均」「前々月の月平均」のうち最も低い価格で評価できるという特例があります。しかし、2026年3月時点において、暗号資産にこの特例が適用されるかどうかについては明確な規定がありません。
暗号資産の価格変動リスクを踏まえると、相続が発生した場合には早期に税理士に相談し、適切な評価方法を検討することが重要といえるでしょう。
2-4. 評価が困難なケース
一方で、マイナーなアルトコインやNFT(非代替性トークン)など、市場での流動性が極めて低い暗号資産の評価は容易ではありません。取引量が少なく、適正な時価を把握することが困難な場合もあります。
このようなケースでは、類似する暗号資産の取引価格や、プロジェクトの時価総額(マーケットキャップ)、発行元の財務状況など、複数の要素を総合的に勘案して評価することになると考えられます。いずれにしても、専門的な判断が求められる領域ですので、暗号資産に精通した税理士に相談されることをおすすめします。
3. 暗号資産にかかる相続税の計算
3-1. 相続税の基本的な計算の流れ
暗号資産を含む相続税の計算は、一般的な相続税の計算方法と同じです。まず、全体の流れを確認してみましょう。
ステップ1: 課税遺産総額の算出
被相続人のすべての財産(暗号資産を含む)の相続税評価額を合計し、そこから債務(借入金や未払金など)や葬式費用を差し引きます。さらに、基礎控除額を差し引いた金額が「課税遺産総額」となります。
ステップ2: 基礎控除額の計算
基礎控除額は以下の計算式で求められます。
基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
たとえば、法定相続人が配偶者と子ども2人の計3人であれば、基礎控除額は3,000万円 + 600万円 × 3 = 4,800万円となります。つまり、遺産総額が4,800万円以下であれば、相続税は発生しないことになります。
ステップ3: 相続税の総額の計算
課税遺産総額を法定相続分で按分し、それぞれに税率を適用して相続税の総額を計算します。
ステップ4: 各人の納付税額の確定
相続税の総額を、実際の遺産分割に応じて各相続人に配分し、各種の税額控除(配偶者控除など)を適用して、各人の納付税額を確定します。
3-2. 相続税の税率
相続税の税率は、超過累進税率が採用されています。2026年3月時点での税率表は以下の通りです。
| 法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 1,000万円以下 | 10% | なし |
| 1,000万円超〜3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
| 3,000万円超〜5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
| 5,000万円超〜1億円以下 | 30% | 700万円 |
| 1億円超〜2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
| 2億円超〜3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
| 3億円超〜6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
| 6億円超 | 55% | 7,200万円 |
3-3. 暗号資産を含む相続税のシミュレーション
具体的な例で計算してみましょう。
【前提条件】
- 被相続人: 父(死亡)
- 相続人: 母(配偶者)、子ども2人
- 遺産内容: 預金3,000万円、不動産(評価額)4,000万円、暗号資産(ビットコイン)3,000万円
- 債務・葬式費用: 500万円
【計算】
– 配偶者: 4,700万円 × 1/2 = 2,350万円 → 2,350万円 × 15% – 50万円 = 302.5万円
– 子A: 4,700万円 × 1/4 = 1,175万円 → 1,175万円 × 15% – 50万円 = 126.25万円
– 子B: 4,700万円 × 1/4 = 1,175万円 → 1,175万円 × 15% – 50万円 = 126.25万円
このケースでは、暗号資産3,000万円分が加わることで基礎控除額を超え、合計555万円の相続税が発生する計算となります。なお、配偶者には「配偶者の税額軽減」があり、法定相続分(または1億6,000万円のいずれか大きい方)までは税額が軽減されるため、実際の納付額はさらに少なくなる可能性があります。
3-4. 暗号資産を売却して納税資金を確保する場合
相続税は原則として現金での一括納付が求められます。暗号資産そのもので納税することはできないため、納税資金が不足している場合は、相続した暗号資産を売却して現金化する必要があります。
ここで注意が必要なのは、暗号資産を売却した際に利益が出た場合、所得税(雑所得)が別途発生するという点です。具体的には、相続時の評価額(取得価額を引き継ぐ場合はその取得価額)と売却価額の差額が課税対象となります。
相続税の納付期限は、相続開始を知った日の翌日から10か月以内です。暗号資産の価格変動を考慮しつつ、計画的に売却のタイミングを検討することが重要といえるでしょう。
4. 暗号資産の贈与税との関係
4-1. 暗号資産の贈与にも税金がかかる
暗号資産を生前に家族や第三者に無償で譲渡(贈与)した場合、その時点の時価に基づいて贈与税が課税されます。暗号資産を他者のウォレットに送金した場合や、取引所のアカウント間で移動させた場合であっても、それが無償の譲渡であれば贈与に該当します。
贈与税には年間110万円の基礎控除があります。つまり、1年間(1月1日から12月31日まで)に贈与を受けた財産の合計が110万円以下であれば、贈与税は発生しません。この基礎控除は、贈与を受ける側(受贈者)ごとに適用されます。
4-2. 贈与税の税率
贈与税の税率は、相続税よりも高く設定されています。これは、生前贈与によって相続税の課税を回避することを防ぐためです。
贈与税には「一般贈与財産用」と「特例贈与財産用」の2つの税率表があります。「特例贈与財産用」は、直系尊属(父母・祖父母など)から18歳以上の子・孫への贈与に適用される、やや低い税率です。
一般贈与財産の税率(一部抜粋)
| 基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 200万円以下 | 10% | なし |
| 200万円超〜300万円以下 | 15% | 10万円 |
| 300万円超〜400万円以下 | 20% | 25万円 |
| 400万円超〜600万円以下 | 30% | 65万円 |
| 600万円超〜1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
| 1,000万円超〜1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
| 1,500万円超〜3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
| 3,000万円超 | 55% | 400万円 |
たとえば、1,000万円相当のビットコインを贈与した場合、基礎控除110万円を差し引いた890万円に対して税率が適用されます。一般贈与であれば890万円 × 40% – 125万円 = 231万円の贈与税が発生する計算です。
4-3. 暦年贈与を活用した相続税対策
暗号資産の相続税負担を軽減する方法として、「暦年贈与」の活用が考えられます。これは、毎年110万円の基礎控除の範囲内で少しずつ暗号資産を贈与していく方法です。
たとえば、3,000万円相当の暗号資産を一度に相続するのではなく、毎年110万円ずつ贈与していけば、贈与税を発生させずに資産を移転できる計算になります(ただし、3,000万円を移転するには約27年かかります)。
ただし、暦年贈与にはいくつかの注意点があります。
- 定期贈与とみなされるリスク: 「毎年同じ時期に同じ金額を贈与する」というパターンが繰り返されると、税務署から「最初から総額を贈与する意思があった」(定期贈与)とみなされ、総額に対して贈与税が課税される可能性があります。
- 暗号資産の価格変動: 110万円相当として贈与した暗号資産が、贈与後に大幅に値上がりする可能性があります。逆に、値下がりすることもあります。
- 相続開始前7年以内の贈与加算: 2024年1月1日以降の贈与については、相続開始前7年以内の贈与は相続財産に加算されます(従来は3年以内でしたが、段階的に延長されています)。
4-4. 相続時精算課税制度の活用
2024年1月1日以降、相続時精算課税制度に年間110万円の基礎控除が新設されました。この制度を選択すると、累計2,500万円までの贈与について贈与税がかからず(2,500万円を超えた部分は一律20%の贈与税)、贈与者が亡くなった際に相続財産に加算して精算する仕組みとなっています。
暗号資産の贈与においても、この制度を活用することが考えられます。ただし、一度選択すると暦年贈与に戻れないため、慎重な判断が必要です。どちらが有利かは、贈与する資産の規模や相続人の状況によって異なりますので、税理士に相談のうえ判断されることをおすすめします。
5. 秘密鍵・ウォレットの引き継ぎ問題
5-1. 秘密鍵がなければ暗号資産は取り出せない
暗号資産の相続において、税制面と並んで大きな課題となるのが「秘密鍵の引き継ぎ」です。暗号資産はブロックチェーン上に記録されていますが、その資産を移動させるためには秘密鍵(プライベートキー)が必要不可欠です。
秘密鍵は、いわば暗号資産にアクセスするための「唯一の鍵」です。この鍵を紛失した場合、たとえブロックチェーン上に資産が存在していても、誰もそれを取り出すことができません。ブロックチェーンには「パスワードを忘れた方はこちら」のような救済措置は存在しないのです。
実際に、保有者の死亡により秘密鍵が失われ、多額の暗号資産が永遠にアクセス不能になったという事例は世界各地で報告されています。カナダの暗号資産取引所QuadrigaCXでは、2019年に創業者が急死し、コールドウォレットの秘密鍵が失われたことで、約2億ドル(当時のレートで約220億円)相当の暗号資産にアクセスできなくなったとされています。
5-2. 取引所保管とセルフカストディの違い
暗号資産の保管方法によって、相続時の手続きは大きく異なります。
取引所(交換業者)に預けている場合
国内の暗号資産取引所で保管している場合は、相続手続きが比較的スムーズに進みます。多くの取引所では、相続が発生した場合の手続きフローが整備されており、必要書類(戸籍謄本、遺産分割協議書など)を提出することで、相続人への資産の移転が可能です。
主要な国内取引所の相続手続きの一般的な流れは以下の通りです。
セルフカストディ(自己管理)の場合
ハードウェアウォレット(Ledger、Trezorなど)やソフトウェアウォレット(MetaMaskなど)で自己管理している場合は、秘密鍵またはリカバリーフレーズ(12語や24語の英単語の組み合わせ)がなければ、資産にアクセスすることができません。
この場合、被相続人が秘密鍵やリカバリーフレーズを何らかの形で残しているかどうかが、資産を引き継げるかどうかの分かれ目となります。
5-3. 秘密鍵管理のジレンマ
秘密鍵の管理には、セキュリティと相続のバランスという難しいジレンマがあります。
セキュリティの観点からは、秘密鍵は自分だけが知る状態に保つことが理想です。他者に知られれば、不正アクセスによる資産の流出リスクが高まります。しかし、相続の観点からは、自分以外の誰かが秘密鍵にアクセスできる仕組みを構築しておく必要があります。
この両立は容易ではありませんが、いくつかの方法が考えられます。
- 信頼できる家族にリカバリーフレーズを伝えておく: もっともシンプルな方法ですが、生前に資産を勝手に移動されるリスクがあります。
- リカバリーフレーズを分割して保管する: たとえば24語のリカバリーフレーズを3つに分割し、それぞれ別の場所や人に預ける方法です。Shamir’s Secret Sharing(シャミアの秘密分散法)を利用した方法もあります。
- 公証役場で秘密鍵を記載した遺言書を作成する: 公正証書遺言として残す方法です。ただし、公証役場のセキュリティに対する信頼の問題があります。
- 暗号資産の相続に対応した専門サービスを利用する: 近年、暗号資産の相続をサポートするサービスが登場しつつあります。
5-4. マルチシグの活用
マルチシグ(マルチシグネチャ)とは、暗号資産の送金に複数の秘密鍵による承認を必要とする仕組みです。たとえば「3つの鍵のうち2つ」で署名すれば送金できる「2-of-3マルチシグ」を設定しておけば、1つの鍵を紛失しても残りの2つで資産にアクセスすることが可能です。
相続対策としてマルチシグを活用する場合、以下のような構成が考えられます。
- 鍵1: 被相続人が保管
- 鍵2: 信頼できる家族が保管
- 鍵3: 弁護士や信託会社など第三者が保管
通常の取引は被相続人が鍵1と鍵2(または鍵3)で行い、相続発生時には鍵2と鍵3で資産を移動させるという運用が可能です。ただし、マルチシグの設定にはある程度の技術的知識が必要であり、すべてのウォレットや暗号資産が対応しているわけではない点には留意が必要です。
6. 生前にやっておくべき準備
6-1. 暗号資産の棚卸し(資産一覧の作成)
相続対策の第一歩は、自分が保有している暗号資産の全体像を把握し、一覧表を作成しておくことです。以下の情報を整理しておきましょう。
- 保有している暗号資産の種類と数量: ビットコイン○BTC、イーサリアム○ETH、など
- 保管場所: どの取引所に、どのウォレットに保管しているか
- 取得価額(購入価格): 相続税の計算や、相続後の売却時に必要となります
- 取引所のアカウント情報: 利用している取引所名、登録メールアドレス
- ウォレットの種類: ハードウェアウォレットの場合は製品名と保管場所
- DeFiやステーキングの利用状況: ステーキング中の資産、流動性プールに預け入れている資産など
この一覧表は定期的に更新し、最新の状態を維持することが大切です。暗号資産は取引頻度が高い方も多いため、少なくとも年に1回は棚卸しを行うことをおすすめします。
6-2. エンディングノートの作成
エンディングノートとは、万が一に備えて自分の資産や意思を記録しておくノートのことです。法的な拘束力はありませんが、遺族が手続きを進めるうえで非常に有用な情報源となります。
暗号資産に関しては、以下の内容をエンディングノートに記載しておくとよいでしょう。
- 暗号資産を保有していること自体の記載: そもそも暗号資産を持っていることを家族が知らない場合、相続の対象から漏れてしまう可能性があります
- 取引所のアカウント情報: 取引所名、登録メールアドレス(パスワードの直接記載はセキュリティリスクがあるため、パスワードマネージャーの存在を伝える方法もあります)
- ウォレット情報: ハードウェアウォレットの保管場所、リカバリーフレーズの保管場所(リカバリーフレーズそのものを記載するかどうかは、セキュリティとのバランスを考慮して判断してください)
- 暗号資産に詳しい知人や専門家の連絡先: 遺族が暗号資産に不慣れな場合、相談先があると心強いです
エンディングノートの保管場所は、信頼できる家族に伝えておくか、遺言書の中で言及しておくことが望ましいでしょう。
6-3. 遺言書の作成
エンディングノートには法的拘束力がないため、暗号資産の相続先を確実に指定したい場合は、遺言書を作成しておくことをおすすめします。
遺言書には主に以下の3種類があります。
- 自筆証書遺言: 全文を自分で手書きする遺言書。費用がかからない反面、形式不備で無効になるリスクがあります。法務局での保管制度を利用すれば、紛失や改ざんのリスクを軽減できます。
- 公正証書遺言: 公証人が作成する遺言書。費用はかかりますが、形式不備のリスクがなく、原本が公証役場に保管されるため安全性が高いです。
- 秘密証書遺言: 内容を秘密にしたまま、遺言書の存在だけを公証人に証明してもらう方法です。実務上はあまり利用されていません。
暗号資産の相続において遺言書を作成する場合、以下の点に注意が必要です。
- 暗号資産は価格が大きく変動するため、「ビットコインを子Aに相続させる」のように銘柄で指定するか、「暗号資産の50%を子Aに相続させる」のように割合で指定するかを慎重に検討する必要があります
- 秘密鍵やリカバリーフレーズの取り扱い方法についても記載しておくと、相続手続きがスムーズに進みます
6-4. 取引履歴の整理
暗号資産の相続では、被相続人の取引履歴が重要な役割を果たします。取得価額(いくらで購入したか)は、相続後に暗号資産を売却する際の所得計算に必要となるためです。
多くの取引所では、取引履歴のCSVダウンロード機能が提供されています。定期的に取引履歴をダウンロードし、安全な場所に保管しておきましょう。特に、取引所がサービスを停止した場合には過去の取引履歴を取得できなくなるリスクがあるため、早めのバックアップが重要です。
また、DeFiでの取引やウォレット間の送金履歴は、ブロックチェーンエクスプローラー(Etherscanなど)で確認できますが、どのウォレットアドレスが自分のものかを記録しておかなければ、追跡が困難になります。自分のウォレットアドレスの一覧も、資産情報と合わせて記録しておくことをおすすめします。
6-5. 家族への情報共有
暗号資産は「デジタル資産」であるがゆえに、その存在自体が遺族に認識されないリスクがあります。銀行の通帳や不動産の登記簿と違い、目に見える形で存在しないためです。
少なくとも以下の情報は、信頼できる家族に共有しておくことが望ましいでしょう。
- 暗号資産を保有しているという事実
- 大まかな資産規模
- 保管場所(取引所名やウォレットの種類)
- 万が一の際に連絡すべき専門家(税理士など)の連絡先
秘密鍵やパスワードそのものを共有する必要はありませんが、それらの情報がどこに保管されているかは伝えておくべきです。「金庫の中にリカバリーフレーズを記した紙がある」「パスワードマネージャーのマスターパスワードは弁護士に預けてある」といった情報があるだけで、相続手続きは格段にスムーズになります。
7. 専門家(税理士)への相談のすすめ
7-1. なぜ暗号資産の相続に税理士が必要なのか
暗号資産の相続は、通常の相続手続きと比較しても複雑な要素が多く含まれています。税制面では、暗号資産の評価方法、取得価額の引き継ぎ、売却時の所得税計算など、専門的な知識が求められます。また、暗号資産に関する税務上の取扱いは年々変化しており、最新の情報を把握していなければ適切な申告ができない可能性があります。
特に以下のようなケースでは、税理士への相談が強く推奨されます。
- 暗号資産の評価額が高額(数百万円以上)である場合
- DeFiやステーキングなど複雑な取引を行っていた場合
- 海外取引所で暗号資産を保有している場合
- 暗号資産以外にも多額の相続財産がある場合
- 生前贈与を計画している場合
7-2. 暗号資産に強い税理士の選び方
暗号資産の税務は比較的新しい分野であり、すべての税理士が十分な知識を持っているわけではありません。暗号資産の相続について相談する場合は、以下のポイントを参考に税理士を選ばれるとよいでしょう。
- 暗号資産の税務実績があるかどうか: ウェブサイトや問い合わせで確認しましょう。暗号資産の確定申告サポートを行っている税理士であれば、相続についても知見がある可能性が高いです。
- 最新の税制動向を把握しているかどうか: 暗号資産に関する税制は毎年のように改正が検討されています。最新の動向に精通している税理士を選ぶことが重要です。
- 暗号資産の仕組み自体を理解しているかどうか: ブロックチェーン、ウォレット、DeFiなどの基本的な仕組みを理解している税理士であれば、より的確なアドバイスが期待できます。
近年では、暗号資産の税務に特化した税理士事務所や、暗号資産の損益計算サービスと提携している税理士も増えてきています。インターネットで「暗号資産 相続 税理士」などのキーワードで検索すると、対応可能な事務所を見つけやすいのではないでしょうか。
7-3. 弁護士・司法書士との連携
暗号資産の相続においては、税理士だけでなく、弁護士や司法書士との連携が必要になるケースもあります。
- 弁護士: 遺産分割で争いがある場合や、遺言書の作成・検認が必要な場合、海外の法律が絡む場合などは、弁護士の関与が必要です。
- 司法書士: 不動産の相続登記が必要な場合は、司法書士が手続きを代行します。暗号資産と不動産の両方を相続するケースでは、税理士と司法書士が連携して手続きを進めることになるでしょう。
暗号資産の相続に関しては、まだ確立された実務慣行が十分に形成されているとはいえない状況です。そのため、複数の専門家が連携してサポートする体制が整っているかどうかも、専門家選びの重要なポイントとなります。
7-4. 相談のタイミング
暗号資産の相続について専門家に相談するタイミングとしては、以下の2つが考えられます。
生前(元気なうちに)
理想的なのは、相続が発生する前の段階で専門家に相談しておくことです。生前に相続税のシミュレーションを行い、必要に応じて暦年贈与や相続時精算課税制度の活用を検討することで、相続税の負担を軽減できる可能性があります。また、秘密鍵の管理方法や遺言書の作成についてもアドバイスを受けることができます。
相続発生後
相続が発生してからでも、早期に専門家に相談することが重要です。相続税の申告期限は相続開始を知った日の翌日から10か月以内ですが、暗号資産の評価や取引履歴の整理には時間がかかることが多いため、できるだけ早い段階で相談を始めることをおすすめします。
まとめ
暗号資産の相続・贈与について、本記事のポイントを整理してみましょう。
- 暗号資産は相続財産に含まれます: ビットコインやイーサリアムなどの暗号資産は、法律上の「財産的価値」として認められており、相続税の課税対象となります。海外取引所やDeFiで保有している場合も同様です。
- 相続時の評価は死亡日の時価が原則です: 相続開始日における取引価格で評価しますが、参照する取引所や時点の選択には注意が必要です。価格変動リスクも考慮に入れておきましょう。
- 相続税の計算は通常の相続と同じです: 基礎控除(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人数)を超える部分に対して、超過累進税率が適用されます。
- 生前贈与には贈与税がかかります: 暦年贈与の110万円基礎控除や相続時精算課税制度の活用が考えられますが、それぞれメリット・デメリットがあるため、専門家への相談が推奨されます。
- 秘密鍵の引き継ぎが最大の課題です: 秘密鍵やリカバリーフレーズを紛失すると、暗号資産は永遠にアクセス不能になります。セキュリティとのバランスを考慮しつつ、引き継ぎの仕組みを構築しておくことが重要です。
- 生前の準備が何よりも大切です: 資産一覧の作成、エンディングノートや遺言書の作成、取引履歴の整理、家族への情報共有など、元気なうちにできることは少なくありません。
- 専門家への相談を検討しましょう: 暗号資産の相続は専門性が高い領域です。暗号資産に精通した税理士に相談することで、適切な申告と税負担の最適化が期待できます。
暗号資産は比較的新しい資産クラスであり、相続や贈与に関する税制や実務はまだ発展途上にあります。今後の制度改正にも注目しつつ、早めの対策を心がけていただければと思います。
よくある質問(FAQ)
Q1. 暗号資産を保有していることを家族に知られたくないのですが、相続対策はできますか?
暗号資産を保有していること自体を家族に伝えなくても、相続対策を行う方法はあります。たとえば、公正証書遺言に暗号資産の存在と引き継ぎ方法を記載しておく方法や、信頼できる弁護士に秘密鍵の情報を預けておく方法が考えられます。ただし、相続発生時にスムーズに手続きを進めるためには、少なくとも「デジタル資産が存在すること」「それに関する情報がどこに保管されているか」は、何らかの形で伝達可能な状態にしておくことが望ましいでしょう。完全に秘匿したまま亡くなった場合、暗号資産の存在が発見されず、結果として財産が失われてしまうリスクがある点にはご注意ください。
Q2. 秘密鍵を紛失した暗号資産にも相続税はかかりますか?
税務上、秘密鍵を紛失してアクセスできなくなった暗号資産であっても、ブロックチェーン上に残高が存在する以上、相続税の課税対象となる可能性があります。ただし、実質的に換金不能な資産に対して相続税を課すことの妥当性については議論の余地があり、個別の事情に応じた判断が必要です。このようなケースでは、税理士に相談のうえ、税務署との交渉を含めた対応を検討されることをおすすめします。なお、将来的に技術の進歩により秘密鍵の復元が可能になる可能性もゼロではないため、完全に「価値がない」と断言することは難しい面もあります。
Q3. 海外取引所で保有している暗号資産の相続手続きはどうすればよいですか?
海外取引所で保有している暗号資産も、被相続人が日本の居住者であれば日本の相続税の課税対象となります。手続きとしては、まず海外取引所に被相続人の死亡を通知し、相続手続きを依頼することになりますが、取引所によって対応は異なります。英語での手続きが必要になる場合が多く、日本の戸籍謄本の翻訳(翻訳証明付き)が求められるケースもあります。海外取引所との手続きに不慣れな場合は、国際相続に対応した弁護士や税理士に相談されることをおすすめします。また、海外に5,000万円を超える財産がある場合は「国外財産調書」の提出義務がある点にもご注意ください。
Q4. 暗号資産の取得価額(購入価格)が不明な場合、相続税の計算はどうなりますか?
被相続人がいつ・いくらで暗号資産を購入したかが不明な場合、相続税の評価自体は相続開始日の時価で行うため、取得価額が不明でも相続税の計算には直接影響しません。ただし、問題となるのは相続した暗号資産を売却する際です。取得価額が不明な場合、売却価額の5%を取得価額とみなす「概算取得費」が適用される可能性があり、売却益が実際よりも大きく計算され、所得税が過大になるリスクがあります。こうした事態を避けるためにも、生前に取引履歴を整理し、取得価額を記録しておくことが非常に重要です。
Q5. 暗号資産の相続に関する税制は今後変わる可能性がありますか?
暗号資産に関する税制は、今後変更される可能性は十分にあります。日本では、暗号資産の売却益に対する課税方式の見直し(雑所得から申告分離課税への変更)が継続的に議論されており、この変更が実現した場合、相続後の売却時の税負担にも影響が生じます。また、暗号資産の相続税評価方法についても、株式と同様の特例(複数時点の価格から最も低い価格を選択できる制度)の導入が検討される可能性があります。税制改正の動向は毎年の税制改正大綱で確認できますので、暗号資産を保有している方は定期的にチェックされることをおすすめします。
免責事項
※本記事は2026年3月時点の情報に基づいて作成されたものであり、情報提供を目的としています。投資や税務に関する具体的な判断は、ご自身の状況に応じて、税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。暗号資産への投資は元本割れのリスクがあります。また、税制や法律は改正される可能性があるため、最新の情報をご確認のうえ、投資判断および税務申告はご自身の責任で行ってください。本記事の内容に基づいて生じたいかなる損害についても、当サイトは一切の責任を負いかねます。