ビットコインのオンチェーンデータ分析入門|MVRV・SOPR・アクティブアドレスの読み方


リード文

ビットコインの価格を分析する手法には、チャートパターンを読むテクニカル分析や、プロジェクトの価値を評価するファンダメンタルズ分析などがあります。しかし近年、これらに加えて「オンチェーンデータ分析」という第三のアプローチが注目を集めていることをご存じでしょうか。オンチェーン分析とは、ブロックチェーン上に記録されたすべての取引データを直接読み解くことで、市場参加者の行動パターンや資金の動きを把握する手法です。MVRV(Market Value to Realized Value)やSOPR(Spent Output Profit Ratio)、アクティブアドレス数といった指標を活用すれば、価格チャートだけでは見えない市場の深層を読み取ることができるかもしれません。本記事では、オンチェーン分析の基本概念から主要指標の読み方、実際に使える無料ツール、そして現在の市場が示すシグナルまで、初心者の方にもわかりやすく解説していきます。データに基づいた投資判断を身につけたいと考えている方は、ぜひ最後まで読み進めてみてください。


目次

  • オンチェーン分析とは何か――テクニカル分析・ファンダメンタルズ分析との違い
  • MVRV(Market Value to Realized Value)の読み方
  • SOPR(Spent Output Profit Ratio)の読み方
  • アクティブアドレス数が示す市場の温度感
  • 取引所残高・HODLウェーブ・NVT Ratioの活用法
  • オンチェーン指標を使った売買シグナルの見極め方
  • 無料で使えるオンチェーン分析ツール
  • 現在のオンチェーンデータが示す市場の状態と注意点
  • まとめ
  • よくある質問(FAQ)
  • 免責事項

  • 1. オンチェーン分析とは何か――テクニカル分析・ファンダメンタルズ分析との違い

    1-1. オンチェーン分析の基本概念

    ビットコインのブロックチェーンは、2009年のジェネシスブロック(最初のブロック)以来、すべての取引記録を改ざん不可能な形で保存し続けています。この膨大な取引データを統計的に分析し、市場参加者の行動パターンやトレンドを読み解く手法が「オンチェーンデータ分析」です。

    「オンチェーン」とは文字どおり「チェーンの上」、つまりブロックチェーン上に記録されたデータを意味します。具体的には、各ウォレットの残高変動、送金額、送金頻度、未使用トランザクション(UTXO)の保有期間、マイナーの報酬受取状況など、ブロックチェーンに刻まれたあらゆる情報が分析対象となります。

    従来の金融市場では、投資家の行動を直接観察することは困難でした。しかしビットコインのブロックチェーンは誰でも閲覧可能なパブリックチェーンであるため、すべての取引を透明に確認できます。この特性こそが、オンチェーン分析を可能にしている最大の要因といえるでしょう。

    1-2. テクニカル分析との違い

    テクニカル分析は、価格チャートや出来高のパターンから将来の値動きを予測しようとする手法です。移動平均線、RSI(Relative Strength Index)、ボリンジャーバンド、MACDなど、数多くのインジケーターが使われています。

    テクニカル分析の特徴は、「価格にすべてが織り込まれている」という前提に立っている点です。過去の価格パターンが繰り返されるという仮定のもと、チャートの形状から売買タイミングを判断します。

    一方、オンチェーン分析は価格そのものではなく、「価格を動かしている人々の行動」に着目します。大口投資家(クジラ)がビットコインを取引所に移動させているのか、長期保有者がポジションを増やしているのか、マイナーが売却を始めているのかなど、市場参加者の具体的な行動を追跡できるのが大きな違いです。

    テクニカル分析が「結果(価格)」を見ているのに対し、オンチェーン分析は「原因(参加者の行動)」を見ているともいえます。両者を組み合わせることで、より立体的な市場理解が可能になるでしょう。

    1-3. ファンダメンタルズ分析との違い

    ファンダメンタルズ分析は、資産の本質的な価値を評価する手法です。株式であれば企業の売上高、利益率、PER(株価収益率)などが分析対象となります。ビットコインにおけるファンダメンタルズ分析では、ネットワークのハッシュレート、開発活動の活発さ、規制環境の変化、マクロ経済の動向などが重視されます。

    ファンダメンタルズ分析はどちらかというと定性的な要素が強く、分析者の主観が入りやすい面があります。たとえば「規制強化がビットコインにとってプラスかマイナスか」という判断は、分析者によって異なることが少なくありません。

    オンチェーン分析は、ブロックチェーン上の客観的なデータに基づいているため、定量的な分析が可能です。「長期保有者の保有比率が過去最高に達している」「取引所からの流出が加速している」といった事実ベースの情報は、解釈の余地は残るものの、データ自体には曖昧さがありません。

    もちろん、オンチェーン分析にも限界はあります。たとえば規制の変化や地政学的リスクなど、ブロックチェーン上には現れない外部要因を捉えることはできません。そのため、テクニカル分析やファンダメンタルズ分析と併用することが望ましいといえます。

    1-4. オンチェーン分析が注目される背景

    オンチェーン分析が急速に広まった背景には、いくつかの要因があります。

    まず、分析ツールの進化が挙げられます。GlassnodeやCryptoQuantといった専門プラットフォームが登場し、高度なデータ処理を行わなくても、誰でもオンチェーン指標を確認できるようになりました。

    次に、機関投資家の参入です。ビットコインETFの承認や大手企業によるビットコイン購入が進むなかで、より精緻な分析手法が求められるようになりました。オンチェーン分析は、従来の金融データでは得られない独自の視点を提供するため、プロの投資家にも重宝されています。

    さらに、過去のサイクルにおいてオンチェーン指標が有効なシグナルを発していた実績も、注目度の向上に一役買っています。たとえば2021年のバブル期には、複数のオンチェーン指標が過熱シグナルを示しており、その後の調整局面を事前に示唆していました。


    2. MVRV(Market Value to Realized Value)の読み方

    2-1. MVRVとは何か

    MVRV(Market Value to Realized Value)は、オンチェーン分析において最も重要な指標のひとつです。この指標は、ビットコインの「市場価値」と「実現価値」の比率を表しています。

    市場価値(Market Value / Market Cap) は、現在のビットコイン価格に流通量を掛け合わせたもので、一般的に「時価総額」と呼ばれています。これは多くの方にとって馴染みのある概念でしょう。

    実現価値(Realized Value / Realized Cap) は、オンチェーン分析特有の概念です。各ビットコイン(正確にはUTXO)が最後に移動した時点の価格で評価した総額を意味します。つまり、すべてのビットコインについて「最後に取引された価格 × 数量」を合計したものが実現価値です。

    MVRVの計算式は非常にシンプルです。

    MVRV = 市場価値(Market Cap) / 実現価値(Realized Cap)

    この比率が1より大きい場合、市場全体として含み益が出ている状態を示します。逆に1を下回ると、市場参加者の多くが含み損を抱えていることを意味します。

    2-2. 実現価値(Realized Cap)の意味を深く理解する

    MVRVを正しく読み解くには、実現価値の概念をもう少し掘り下げる必要があります。

    通常の時価総額は、直近の取引価格ですべてのコインを評価します。しかし実際には、何年も前に購入して一度も動かしていないビットコインも多数存在します。これらのコインは、購入時の価格と現在の価格で大きく乖離している可能性があります。

    実現価値は、こうした各コインの「コストベース(取得原価)」を反映した評価額といえます。言い換えると、市場参加者が実際にビットコインに投じた総額の近似値と考えることができるでしょう。

    このため、MVRVは「市場参加者全体の含み損益の度合い」を測る指標として機能します。MVRVが高いほど含み益が大きく、利確(利益確定売り)の圧力が高まりやすい状態にあると解釈されます。

    2-3. MVRVの読み方と過去のシグナル

    過去のビットコインサイクルを振り返ると、MVRVには明確な傾向が見られます。

    MVRVが3.5以上: 市場が過熱している可能性が高いとされます。過去のサイクルトップでは、MVRVが3.5~4.0の範囲に達することが多く、この水準では利確売りが増えやすい傾向がありました。2017年12月のバブル期には約4.0、2021年初頭のピーク時には約3.7を記録しています。

    MVRVが1.0付近: 市場参加者の含み損益がほぼゼロの状態です。ここから下がるか上がるかは、市場のセンチメント次第となります。

    MVRVが1.0未満: 市場参加者の多くが含み損を抱えている状態です。歴史的に見ると、MVRVが1.0を大きく下回る局面は、長期的な買い場となることが多かったといえます。2018年末や2020年3月のコロナショック時にはMVRVが1.0を下回り、その後大きく反発しました。

    ただし、MVRVが極端な数値を示したからといって、すぐに反転するわけではありません。あくまで「過熱感」や「底値圏」を示唆するシグナルであり、タイミングの精度には限界があることを認識しておく必要があります。

    2-4. MVRV Z-Scoreへの発展

    MVRVをさらに発展させた指標として「MVRV Z-Score」があります。これは、市場価値と実現価値の差を標準偏差で正規化したもので、より極端な乖離を検出するのに適しています。

    Z-Scoreが7以上に達するとバブルの天井圏、0以下(マイナス圏)に入ると底値圏であるとされてきました。過去の主要なサイクルトップとボトムにおいて、MVRV Z-Scoreは比較的精度の高いシグナルを発してきた実績があります。

    初心者の方は、まず通常のMVRVの動きに慣れてから、Z-Scoreにステップアップするのがよいでしょう。


    3. SOPR(Spent Output Profit Ratio)の読み方

    3-1. SOPRとは何か

    SOPR(Spent Output Profit Ratio)は、ビットコインが移動(使用)された際の損益状況を表す指標です。名前からも想像できるように、「使用された出力(Spent Output)」の「利益比率(Profit Ratio)」を計算しています。

    具体的には、あるUTXO(未使用トランザクション出力)が使用された時点の価格を、そのUTXOが生成された時点の価格で割ったものがSOPRです。

    SOPR = 使用時の価格 / 取得時の価格

    この値が1より大きければ、その取引は利益が出ている状態で行われたことを意味します。1未満であれば損失が出ている状態で移動されたことになります。

    市場全体のSOPRは、一定期間内に移動されたすべてのUTXOのSOPRを集計したものです。つまり、市場全体として「利益確定」が行われているのか「損切り」が行われているのかを、この指標ひとつで把握できます。

    3-2. SOPRの基本的な解釈

    SOPRの読み方は、シンプルでありながら奥深いものがあります。

    SOPR > 1(利益確定売り優勢): 市場参加者が含み益のあるコインを移動させている状態です。上昇トレンド中にSOPRが1を大きく上回る場合、利益確定売りが活発化していることを示唆します。

    SOPR = 1(損益分岐点): 移動されたコインの平均取得価格と現在価格がほぼ同じ状態です。この水準は、トレンドの転換点として注目されることがあります。

    SOPR < 1(損切り売り優勢): 含み損を抱えたコインが移動されている状態です。投資家が損失を確定させてでも売却しようとしているわけですから、恐怖心が市場を支配していると解釈できます。

    3-3. SOPRとトレンドの関係

    SOPRの動きは、市場のトレンドと密接に関連しています。

    上昇トレンド中: SOPRは基本的に1以上を維持します。利益確定売りが出ても、それを上回る買い需要があるため価格は上がり続けます。SOPRが一時的に1に近づいた後に再び上昇する動きは、上昇トレンドの継続を示唆する「リセット」と呼ばれるパターンです。

    下降トレンド中: SOPRは1を下回ることが多くなります。投げ売り(パニックセル)が発生すると、SOPRは1を大きく下回ります。ただし、SOPRが1を大きく下回る状態が長期間続くと、売り手が枯渇し、セリングクライマックス(売りの最終局面)を迎えることがあります。

    トレンド転換の兆候: 下降トレンド中にSOPRが1を下回り続けた後、1を上回る動きが定着し始めると、トレンド転換の兆候として注目されます。反対に、上昇トレンド中にSOPRが1に何度もタッチしながら下回り始めると、上昇トレンドの終焉を示唆することがあります。

    3-4. 長期保有者SOPRと短期保有者SOPR

    SOPRには、保有期間によって分類したバリエーションも存在します。

    LTH-SOPR(Long-Term Holder SOPR): 155日以上保有されたコインのSOPRです。長期保有者の行動を反映するため、大きなトレンドの転換を示唆するシグナルとして重視されます。

    STH-SOPR(Short-Term Holder SOPR): 155日未満の保有コインのSOPRです。短期トレーダーの行動を反映し、市場の短期的なセンチメントを把握するのに適しています。

    長期保有者は通常、価格の上下に一喜一憂せず保有を続ける傾向があります。そのため、LTH-SOPRが大きく1を超える(つまり長期保有者が大規模な利益確定に動く)場合は、サイクルの天井圏に近づいている可能性があるとされます。


    4. アクティブアドレス数が示す市場の温度感

    4-1. アクティブアドレスとは

    アクティブアドレス数は、一定期間内にビットコインの送受信に使用されたユニークなアドレスの数を表す指標です。これはビットコインネットワークの「利用度」を測るもっとも基本的な指標のひとつといえます。

    株式市場で例えるなら、アクティブアドレス数は「取引参加者数」のような概念です。多くのアドレスが活発に動いているということは、それだけ多くの人がビットコインの送受信を行っていることを意味します。

    注意しておきたいのは、ひとりの人間が複数のアドレスを使い分けることができる点です。そのため、アクティブアドレス数がそのまま「利用者数」を表すわけではありません。しかし、ネットワーク全体の活発さを示す代理指標としては依然として有効です。

    4-2. アクティブアドレス数と価格の相関

    アクティブアドレス数とビットコイン価格には、中長期的に見ると正の相関関係が認められます。つまり、アクティブアドレス数が増加するとビットコイン価格も上昇し、減少すると価格も下落する傾向があるということです。

    これは直感的にも理解しやすい関係でしょう。ネットワークの利用者が増えるということは、ビットコインに対する需要が高まっていることを示唆します。逆に、利用者が減少しているのに価格だけが上がっている場合、その上昇は持続性に疑問が残ります。

    過去のサイクルでは、アクティブアドレス数のピークが価格のピークとおおむね一致する傾向が見られました。2017年のバブル期にはアクティブアドレス数が1日あたり100万を超え、2021年のバブル期にも同様の高水準に達しています。

    4-3. アクティブアドレス数の読み方のコツ

    アクティブアドレス数を読み解く際には、いくつかのポイントを意識すると良いでしょう。

    トレンドの方向に注目する: 日次のアクティブアドレス数は変動が大きいため、7日移動平均や30日移動平均などで平滑化して観察するのが一般的です。移動平均が上昇トレンドにあるかどうかが重要なポイントとなります。

    価格との乖離(ダイバージェンス)を探す: 価格は上昇しているのにアクティブアドレス数が減少している場合、「ベアリッシュ・ダイバージェンス」と呼ばれるネガティブなシグナルとなります。逆に、価格は低迷しているのにアクティブアドレス数が増加している場合は、「ブリッシュ・ダイバージェンス」として将来の価格上昇を示唆する可能性があります。

    新規アドレスとの併用: アクティブアドレスとともに「新規アドレス数」(初めてトランザクションに参加したアドレスの数)も確認すると、新規参入者の増減を把握できます。新規アドレス数の急増は、新たな投資家がビットコイン市場に流入していることを示す場合があります。

    4-4. アクティブアドレス数の限界

    アクティブアドレス数には、いくつかの構造的な限界があることも理解しておきましょう。

    まず、取引所やカストディサービスの普及により、多くのユーザーが自分専用のウォレットアドレスを持たずにビットコインを売買するようになっています。この場合、取引所内部の取引はオンチェーンには記録されないため、アクティブアドレス数に反映されません。

    また、ライトニングネットワーク(レイヤー2)での取引が増えると、メインチェーン上のアクティブアドレス数だけではネットワーク全体の利用状況を正確に把握できなくなる可能性があります。

    さらに、バッチ処理(複数の送金をひとつのトランザクションにまとめる技術)の普及により、トランザクション数やアクティブアドレス数が実際の利用度よりも少なく見える場合もあります。


    5. 取引所残高・HODLウェーブ・NVT Ratioの活用法

    5-1. 取引所残高(Exchange Balance)

    取引所残高は、主要な暗号資産取引所が保有するビットコインの総量を追跡する指標です。この指標はシンプルでありながら、市場のセンチメントを読み取るうえで非常に有用です。

    取引所残高が減少している場合: 投資家がビットコインを取引所から自分のウォレットに引き出していると考えられます。これは「売るつもりがない」という意思表示と解釈されることが多く、一般的にはブリッシュ(強気)なシグナルとされます。

    取引所残高が増加している場合: 投資家がビットコインを取引所に入金しているため、売却の準備をしている可能性があります。これはベアリッシュ(弱気)なシグナルと見なされることがあります。

    2020年以降、ビットコインの取引所残高は長期的な減少トレンドにあります。これは機関投資家や長期保有者が、自己管理のコールドウォレットにビットコインを移す動きを反映していると考えられています。

    ただし、取引所残高の増減だけで売買を判断するのは危険です。取引所内部でのウォレット整理や、新しいカストディサービスへの移管など、売買以外の理由で残高が変動することもあるためです。

    5-2. HODLウェーブ(HODL Waves)

    HODLウェーブは、ビットコインのUTXOを「最後に移動してからの経過時間」で分類し、その保有期間別の分布を視覚化した指標です。名前の「HODL」は、暗号資産コミュニティで使われる「Hold(保有する)」のスラングに由来します。

    HODLウェーブでは、ビットコインの供給量を以下のような期間帯に分類します。

    • 24時間未満
    • 1日~1週間
    • 1週間~1か月
    • 1か月~3か月
    • 3か月~6か月
    • 6か月~1年
    • 1年~2年
    • 2年~3年
    • 3年~5年
    • 5年以上

    これらの帯が波のように変動するため「ウェーブ」と呼ばれています。

    HODLウェーブの読み方のポイントは、長期保有帯(1年以上)の割合の変化に注目することです。

    長期保有帯の割合が増加しているということは、多くのコインが動かされずに保管されていることを意味します。これは市場参加者が将来の価格上昇を見込んでいる表れと解釈できます。歴史的に見ると、長期保有帯の割合がピークに達するのは、価格の底値圏であることが多いとされています。

    逆に、短期保有帯(特に1か月未満)の割合が急増する場合は、古いコインが動き始めていることを示唆します。長期保有者が利益確定に動いていると考えられ、サイクルの天井圏で見られる傾向です。

    5-3. NVT Ratio(Network Value to Transactions Ratio)

    NVT Ratio は、ビットコインの「PER(株価収益率)」に相当するオンチェーン指標として知られています。ビットコインの時価総額を、ネットワーク上で移動される1日あたりの取引量(金額)で割って算出します。

    NVT Ratio = 時価総額 / 日次オンチェーン取引量(USD換算)

    NVTの考え方は、ビットコインネットワークの価値を、そのネットワークが実際に処理している経済活動の規模と比較するというものです。

    NVT Ratioが高い場合: ネットワークの利用度に比べて時価総額が過大評価されている可能性があります。つまり、投機的な資金が流入して価格だけが上がっている状態かもしれません。

    NVT Ratioが低い場合: ネットワーク上で活発な取引が行われているにもかかわらず、時価総額がそれに見合っていない可能性があります。割安な状態と解釈されることがあります。

    過去のデータでは、NVT Ratioが90~100以上に達するとバブル圏域、50以下では割安圏域とされる傾向がありましたが、市場の成熟に伴い、この基準値は変化しつつあります。

    NVTの改良版として「NVT Signal」があります。これは取引量の代わりに90日移動平均を使うことで、日次の変動を平滑化し、より安定したシグナルを提供します。

    5-4. 複数指標の組み合わせが重要

    ここまで紹介した指標は、それぞれ異なる角度から市場を分析するものです。しかし、単一の指標だけで投資判断を下すのはリスクが高いといわざるを得ません。

    たとえば、MVRVが過熱圏を示していても、取引所残高が減少し続けており、HODLウェーブでも長期保有帯が増加している場合、売り圧力はそれほど強くない可能性があります。逆に、SOPRが1を超えている一方でアクティブアドレス数が減少している場合は、上昇の持続性に疑問が残ります。

    複数のオンチェーン指標が同じ方向のシグナルを示している場合に注目し、単一の指標のシグナルには慎重に対応するという姿勢が、オンチェーン分析を実践するうえでの基本となるでしょう。


    6. オンチェーン指標を使った売買シグナルの見極め方

    6-1. 強気シグナルのパターン

    オンチェーン指標が示す強気シグナルには、いくつかの典型的なパターンがあります。

    パターン1: MVRVの底値圏からの反転
    MVRVが1.0付近またはそれ以下に低下した後、徐々に上昇し始めるパターンです。市場参加者の含み損が解消されつつあり、新たな上昇サイクルの始まりを示唆する可能性があります。過去のサイクルでは、MVRVが1.0を大きく下回る水準から反転した際に、中長期的な買い場であったケースが複数確認されています。

    パターン2: 取引所残高の持続的減少
    ビットコインが取引所から流出し続けるパターンです。特に、価格が横ばいまたは下落しているにもかかわらず取引所残高が減少している場合、投資家が安値で買い増してコールドウォレットに移管していると解釈できます。

    パターン3: SOPRのリセット後の反発
    上昇トレンド中にSOPRが一時的に1に近づいた後、再び1を上回るパターンです。短期的な利確売りが吸収され、上昇トレンドが継続するシグナルと見なされます。

    パターン4: アクティブアドレス数の底打ち
    アクティブアドレス数が長期間減少した後、底打ちして増加に転じるパターンです。ネットワークの利用が再び活発化しており、新たな資金流入の兆候と解釈されます。

    6-2. 弱気シグナルのパターン

    一方で、以下のようなパターンは警戒シグナルとして認識されます。

    パターン1: MVRVの過熱圏到達
    MVRVが3.5以上に達すると、過去のサイクルでは天井圏であった可能性が高まります。特にMVRV Z-Scoreが7以上に達した場合は、歴史的に見て極めて過熱した状態です。

    パターン2: LTH-SOPRの急上昇
    長期保有者のSOPRが大幅に1を超えて推移する場合、長期保有者が大規模な利益確定に動いていることを意味します。スマートマネーと呼ばれる長期保有者の売却は、サイクルの後半で加速する傾向があります。

    パターン3: 取引所残高の急増
    短期間で取引所残高が大幅に増加する場合、大口投資家が売却準備をしている可能性があります。特にクジラ(大口アドレス)からの取引所への入金が増えている場合は注意が必要です。

    パターン4: NVT Ratioの急上昇
    取引量の伴わない価格上昇は、投機的な過熱を示唆します。NVT Ratioが歴史的な高水準に達した場合、価格が実態に見合わない水準まで上昇している可能性を考慮すべきでしょう。

    6-3. シグナルの信頼性を高めるための心構え

    オンチェーン指標の売買シグナルを活用する際に、忘れてはならない点がいくつかあります。

    タイムラグの存在: オンチェーン指標が極端な値を示してから、実際に価格が反転するまでに数週間から数か月のタイムラグが生じることがあります。「シグナルが出たからすぐに売買」というアプローチは、必ずしもうまくいきません。

    サイクルごとの基準値の変化: 市場が成熟するにつれ、各指標の「過熱圏」や「底値圏」の基準値が変わる可能性があります。過去のサイクルで有効だった水準が、次のサイクルでもそのまま当てはまるとは限りません。

    確認バイアスへの注意: 自分の投資判断を裏付ける指標だけを見て、反対のシグナルを無視してしまう心理的な傾向に注意しましょう。強気の指標と弱気の指標の両方を客観的に確認することが重要です。


    7. 無料で使えるオンチェーン分析ツール

    7-1. Glassnode(グラスノード)

    Glassnodeは、オンチェーン分析プラットフォームの先駆者として知られるサービスです。ビットコインをはじめ、イーサリアムなど主要な暗号資産のオンチェーンデータを提供しています。

    無料プランで利用できる機能:

    • 主要指標の基本的なチャート閲覧
    • MVRV、SOPR、アクティブアドレス数などの主要メトリクス
    • 週次のオンチェーンレポート「The Week On-chain」

    有料プランの特徴:

    • リアルタイムデータへのアクセス
    • 高度な指標やカスタムダッシュボード
    • APIアクセスによるデータ取得
    • アラート機能

    Glassnodeの無料プランでも十分に有用な情報が得られますが、リアルタイムデータへのアクセスには制限があり、一部の指標はティア2やティア3の有料プランでのみ利用可能です。初心者の方はまず無料プランで基本的な指標に慣れ、必要に応じてアップグレードを検討するとよいでしょう。

    7-2. CryptoQuant(クリプトクアント)

    CryptoQuantは、韓国発のオンチェーン分析プラットフォームです。取引所関連のデータに特に強みを持っており、取引所への入出金データやマイナーのフローデータなどを詳細に提供しています。

    CryptoQuantの特徴:

    • 取引所フローデータの充実(入金・出金の内訳)
    • マイナー関連指標(マイナーの収益、ハッシュレート関連)
    • アラート機能(指定した条件でメール通知)
    • コミュニティによる分析レポートの共有

    無料プランでも多くの基本的な指標を確認できるため、Glassnodeと併用して利用する方が多いようです。特に取引所残高の変動を追跡したい場合には、CryptoQuantのデータが役立つでしょう。

    7-3. Blockchain.com(ブロックチェーン・ドット・コム)

    Blockchain.comは、老舗のブロックチェーンエクスプローラーであり、基本的なオンチェーンデータを無料で提供しています。

    確認できる主なデータ:

    • トランザクション数
    • ハッシュレート
    • ブロックサイズ
    • マイニング難易度
    • メモリプール(未確認トランザクション)のサイズ

    MVRVやSOPRといった高度なオンチェーン指標は提供されていませんが、ネットワークの基本的な健全性を確認するには十分です。オンチェーン分析の第一歩として、まずBlockchain.comでビットコインネットワークの基本データに触れてみるのもよいかもしれません。

    7-4. その他のツールとリソース

    Lookintobitcoin.com: ビットコインに特化した無料のチャートサイトです。Stock-to-Flowモデル、レインボーチャート、PuellマルチプルなどのビットコインValoation指標を無料で閲覧できます。

    Woobull Charts(Willy Woo氏): ビットコインのオンチェーン分析で著名なWilly Woo氏が運営するチャートサイトです。NVT RatioやNVT Signalなどの指標を無料で確認できます。

    Santiment: ソーシャルメディアのセンチメント分析とオンチェーンデータを組み合わせた分析プラットフォームです。無料プランでも一部の指標を利用可能です。

    Coinglass: デリバティブ(先物・オプション)のデータに特化していますが、ファンディングレートやオープンインタレストなど、オンチェーンデータと組み合わせて分析すると有用なデータを提供しています。

    これらのツールはそれぞれ得意分野が異なるため、複数を併用しながら自分に合った分析スタイルを見つけていくことをおすすめします。


    8. 現在のオンチェーンデータが示す市場の状態と注意点

    8-1. 2024年~2025年のオンチェーン環境

    2024年1月にビットコイン現物ETFが米国で承認されて以降、ビットコイン市場の構造は大きく変化しました。ETFを通じた機関投資家の資金流入が継続的に発生しており、従来のオンチェーンデータだけでは市場の全体像を把握しづらくなっている面があります。

    ETFが保有するビットコインは、カストディアン(保管業者)のウォレットに集約されるため、取引所残高の減少として現れます。しかしこれは、個人投資家がセルフカストディ(自己管理)に移行しているのとは本質的に異なる動きです。この点を区別して分析する必要があるでしょう。

    また、2024年4月にはビットコインの4度目の半減期を迎え、マイナー報酬が6.25BTCから3.125BTCに半減しました。半減期後はマイナーの売り圧力が構造的に変化するため、マイナー関連のオンチェーン指標を読む際にはこの文脈を考慮に入れることが大切です。

    8-2. 主要指標の現在の傾向

    2025年初頭の時点では、オンチェーンデータからいくつかの注目すべき傾向が読み取れます。

    長期保有者の行動: HODLウェーブで見ると、1年以上保有されているビットコインの割合は依然として高水準を維持しています。ただし、価格が上昇する過程で一部の長期保有者が利益確定に動いており、短期保有帯への移転が見られる局面もあります。

    取引所残高: 長期的な減少トレンドは継続しているものの、これはETFカストディアンへの移管を含んでいるため、純粋な個人投資家の動向を読み取るには追加の分析が必要です。

    アクティブアドレス: ビットコインネットワークのアクティブアドレス数は、ライトニングネットワークの普及もあり、メインチェーン上だけの数字では評価しにくくなっています。

    これらの傾向はあくまで執筆時点の観察であり、市場環境は日々変化しています。最新のデータは前述のツールを使って直接確認されることをおすすめします。

    8-3. オンチェーン分析の限界と注意点

    オンチェーン分析は強力なツールですが、万能ではありません。以下の限界を理解しておくことが、この分析手法を有効に活用するための前提条件となります。

    限界1: オフチェーン取引の増加
    取引所内部での売買、ライトニングネットワーク上の取引、先物・オプションなどのデリバティブ取引はオンチェーンには記録されません。市場全体の取引のうち、オンチェーンで捕捉できる割合は年々低下している可能性があります。

    限界2: アドレスと個人の紐づけの困難さ
    ひとつの個人が多数のアドレスを使用したり、逆にひとつのアドレスを複数人で共有したりすることがあります。「クジラの動向」として報じられる大口アドレスの動きも、取引所のウォレット整理である場合が少なくありません。

    限界3: 因果関係と相関関係の混同
    オンチェーン指標が特定の値を示した後に価格が動いたとしても、それが因果関係なのか偶然の相関なのかを判断するのは困難です。過去の実績が将来の結果を保証するものではないという原則は、オンチェーン分析にも当てはまります。

    限界4: 市場構造の変化
    ビットコインETFの登場、ステーブルコインの普及、規制環境の変化など、市場構造が大きく変わるたびに、過去のオンチェーンデータに基づく分析の有効性が薄れる可能性があります。常に最新の市場環境を踏まえた解釈が求められます。

    限界5: データの解釈は分析者次第
    同じデータを見ても、強気と解釈する分析者もいれば弱気と解釈する分析者もいます。オンチェーンデータは客観的ですが、その解釈は主観的にならざるを得ない面があることを忘れないようにしましょう。

    8-4. オンチェーン分析を学び続けるために

    オンチェーン分析は日進月歩の分野です。新しい指標やモデルが次々と開発されており、既存の指標の解釈も市場環境に応じて更新されています。

    学び続けるための方法としては、Glassnodeの週次レポート「The Week On-chain」を定期的に読むことをおすすめします。プロのアナリストがどのように指標を解釈しているかを学ぶことができます。

    また、X(旧Twitter)ではWilly Woo氏(@woonomic)、Checkmate氏(@Checkmatey)、Ki Young Ju氏(@ki_young_ju / CryptoQuant CEO)などのオンチェーンアナリストが日常的に分析を公開しています。こうしたアナリストの投稿をフォローし、彼らの思考プロセスを追体験することで、指標の読み方に対する理解が深まるでしょう。


    まとめ

    オンチェーン分析は、ブロックチェーン上に記録された取引データを直接読み解くことで、市場参加者の行動パターンを把握する分析手法です。テクニカル分析やファンダメンタルズ分析とは異なる独自の視点を提供してくれるため、これらと組み合わせることでより立体的な市場分析が可能になります。

    主要指標の特徴をあらためて整理すると、以下のようになります。

    • MVRV: 市場全体の含み損益の度合いを測る。3.5以上で過熱圏、1.0以下で底値圏の可能性
    • SOPR: 移動されたコインの損益状況を表す。1以上で利確優勢、1以下で損切り優勢
    • アクティブアドレス数: ネットワークの利用度を示す。価格との乖離に注目
    • 取引所残高: 売り圧力の増減を示唆。減少はブリッシュ、増加はベアリッシュの傾向
    • HODLウェーブ: 保有期間別の分布を視覚化。長期保有帯の増減でサイクルの位置を推測
    • NVT Ratio: ネットワーク利用度に対する時価総額の妥当性を評価

    これらの指標は単独で使うのではなく、複数を組み合わせてシグナルの方向性を確認することが重要です。また、オンチェーン分析にはオフチェーン取引の非捕捉や市場構造の変化といった限界があることも忘れてはなりません。

    まずは無料ツールを使って、日常的にオンチェーンデータに触れることから始めてみてはいかがでしょうか。データの動きを観察し続けることで、市場の「温度」を肌で感じられるようになるはずです。


    よくある質問(FAQ)

    Q1. オンチェーン分析は初心者でも活用できますか?

    はい、初心者の方でも十分に活用できます。GlassnodeやCryptoQuantなどの分析プラットフォームは、専門的なプログラミング知識がなくても、ブラウザ上でチャートを確認するだけで主要指標を閲覧できるようになっています。まずはMVRVとSOPRの2つの指標からスタートし、これらの動きと実際の価格変動がどう関連しているかを観察してみるとよいでしょう。データに触れる習慣をつけることが、オンチェーン分析を使いこなすための第一歩です。

    Q2. オンチェーン分析だけで投資判断をしてもよいですか?

    オンチェーン分析だけで投資判断を行うことはおすすめしません。オンチェーンデータはブロックチェーン上の情報に限定されるため、規制の変化、マクロ経済の動向、地政学的リスクなど、外部要因を捉えることはできません。テクニカル分析でエントリーポイントを精緻化し、ファンダメンタルズ分析で大局観を持ち、そのうえでオンチェーン分析のシグナルを参照するという、複合的なアプローチが望ましいでしょう。

    Q3. MVRVやSOPRの数値はどこで確認できますか?

    Glassnode(glassnode.com)のStudioページ、またはCryptoQuant(cryptoquant.com)のダッシュボードで確認できます。いずれも無料アカウントを作成すれば基本的な指標を閲覧可能です。Glassnodeでは「Metric」の検索窓にMVRVやSOPRと入力するだけで該当チャートが表示されます。また、Lookintobitcoin.comでも一部のオンチェーン指標を完全無料で閲覧できるため、アカウント作成に抵抗がある方はこちらから始めてみるのもひとつの方法です。

    Q4. HODLウェーブで「長期保有者が売り始めた」と判断する目安は?

    HODLウェーブにおいて、1年以上保有されているコインの割合が明確に減少し始め、同時に1か月未満や3か月未満の短期保有帯が増加しているパターンが確認された場合、長期保有者が利確に動いている可能性があります。ただし、割合の変動が数パーセント程度であれば通常の範囲内である場合もあるため、数週間から数か月にわたるトレンドとして確認することが重要です。また、LTH-SOPR(長期保有者SOPR)を併用し、長期保有者が利益確定しているかどうかをクロスチェックするとより信頼性が高まります。

    Q5. ビットコインETF登場後もオンチェーン分析は有効ですか?

    有効性は維持されていますが、一部の指標の解釈に注意が必要です。ETFを通じた売買はオンチェーンに直接反映されないため、取引所残高やアクティブアドレス数などの指標は、ETF以前のデータと単純比較できなくなっている面があります。一方で、MVRV・SOPR・HODLウェーブといったUTXOベースの指標は、コインの移動と保有期間を追跡するため、ETFの影響を受けにくいと考えられます。今後はETFフローデータ(ETFへの資金流入・流出)とオンチェーンデータを組み合わせた分析が主流になっていく可能性があるでしょう。


    免責事項

    本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の暗号資産の売買を推奨するものではありません。オンチェーンデータの分析結果や各指標のシグナルは、将来の価格変動を保証するものではなく、過去のパターンが今後も同様に機能するとは限りません。暗号資産への投資は元本割れのリスクを伴います。投資判断はご自身の責任において行い、必要に応じて専門家にご相談ください。本記事の内容に基づいて生じたいかなる損害についても、当サイト(btc-analyze.com)は一切の責任を負いかねます。

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