リード文
イーサリアムは2022年のThe Merge以降、数々の大型アップグレードを経て進化を続けてきました。2025年3月のPectraアップグレードを成功させたイーサリアムが次に見据えるのが、2026年後半に予定されている「Glamsterdam(グラムステルダム)」アップグレードです。このアップグレードでは、ブロックアクセスリストの導入による並列処理の実現、ガスリミットの大幅拡大、ブロック生成時間の短縮など、イーサリアムのスケーラビリティを根本的に変える改善が盛り込まれる見通しです。かつて「ガス代が高い」「処理が遅い」と批判されてきたイーサリアムが、ソラナのような高速チェーンにどこまで迫れるのか。本記事では、イーサリアムのアップグレード史を振り返りながら、Glamsterdamの技術的な中身と、投資家・開発者にとっての意味を詳しく解説していきます。L2エコシステムやその後のロードマップ「Strawmap」にも触れながら、イーサリアムの未来像を一緒に探っていきましょう。
目次
1. イーサリアムアップグレードの歴史を振り返る
Glamsterdamの意義を理解するためには、まずイーサリアムがどのような進化を遂げてきたのかを振り返る必要があります。ここでは、主要なアップグレードを時系列に沿って確認してみましょう。
1-1. The Merge(2022年9月)——コンセンサスの大転換
イーサリアムの歴史において最も大きな転換点の一つが、2022年9月15日に実施された「The Merge(ザ・マージ)」です。これは、イーサリアムのコンセンサスメカニズム(取引の合意方法)を、Proof of Work(PoW:仕事の証明)からProof of Stake(PoS:保有量の証明)へと切り替えた歴史的なアップグレードでした。
PoWでは大量の電力を消費するマイニング作業が必要でしたが、PoSではETHを一定量ステーキング(預け入れ)しているバリデーター(検証者)がブロックの生成と検証を行います。この移行により、イーサリアムのエネルギー消費量は約99.95%削減されたとされています。
The Mergeは技術的に非常に難易度が高く、「飛行中のエンジンを交換するようなもの」と形容されることもありました。しかし、開発チームの入念な準備とテストネットでの検証を経て、ダウンタイムなしでの移行に成功しました。PoS移行後のイーサリアムは、環境負荷に対する批判を大きく払拭し、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の観点からも評価されるようになりました。
1-2. Shanghai/Capella(2023年4月)——ステーキング引き出しの解禁
The Mergeでは、PoSへの移行は完了したものの、ステーキングしたETHを引き出す機能は実装されていませんでした。2023年4月12日に実施された「Shanghai/Capella(シャンハイ/カペラ)」アップグレード(通称「Shapella」)で、ようやくステーキングETHの引き出し(ウィズドロワル)が可能になりました。
このアップグレードにより、2020年12月のビーコンチェーン開始以来ロックされていた約1,800万ETH以上のステーキング資産が流動化の道を得ました。当初は「大量のETHが売却されるのでは」という懸念もありましたが、実際には引き出し後に再ステーキングする動きが多く見られ、ETH価格への悪影響は限定的でした。むしろ、引き出しリスクが解消されたことで新規のステーキング参加者が増加し、バリデーター数は着実に増え続けました。
1-3. Dencun(2024年3月)——Proto-Dankshardingとblobの導入
2024年3月13日に実施された「Dencun(デンクン)」アップグレードは、イーサリアムのスケーラビリティ戦略において極めて重要な一歩でした。最大の目玉は、EIP-4844(Proto-Danksharding)の導入です。
Proto-Dankshardingとは、将来的な完全なシャーディング(データの分割処理)に向けた第一段階として、「blob(ブロブ)」と呼ばれる新しいデータ領域を導入する仕組みです。blobはレイヤー2(L2)ロールアップがイーサリアムのメインチェーン(L1)にデータを投稿する際のコストを大幅に削減するために設計されました。
Dencun以前、L2がL1にデータを投稿するコスト(DA、Data Availabilityコスト)はcalldataとして処理されており、L2のトランザクション手数料の大部分を占めていました。blob導入後、このコストは劇的に低下し、Optimism、Arbitrum、Base、zkSyncなどの主要L2チェーンのトランザクション手数料は最大90%以上削減されたと報告されています。
このアップグレードは、イーサリアムの「ロールアップ中心のロードマップ」を具現化した重要なマイルストーンとなりました。
1-4. Pectra(2025年3月)——アカウント抽象化と大型統合アップグレード
2025年3月に実施された「Pectra(ペクトラ)」アップグレードは、Prague(プラハ)とElectra(エレクトラ)を統合した大型アップグレードです。Pectraではイーサリアム改善提案(EIP)が11件含まれ、以下のような改善が行われました。
EIP-7702により、外部所有アカウント(EOA、通常のウォレットアドレス)にスマートコントラクトの機能を付与する「アカウント抽象化」が本格的に導入されました。これにより、トランザクションのバッチ処理(複数操作の一括実行)、ガス代の第三者による代払い(スポンサードトランザクション)、ソーシャルリカバリー(秘密鍵を紛失した際の復旧)などが実現可能になりました。
また、EIP-7251により、バリデーターの最大有効残高が32ETHから2,048ETHに引き上げられました。これにより、大量のETHをステーキングしているノードオペレーターは、複数のバリデーターを統合して効率的に運用できるようになりました。さらに、blobの数も1ブロックあたり3個から6個に増加し、L2のスループットが向上しています。

2. Glamsterdamアップグレードとは何か
2-1. 名前の由来と位置づけ
「Glamsterdam(グラムステルダム)」という名前は、イーサリアムの実行レイヤー(EL)アップグレードの都市名命名規則に従ったものです。コンセンサスレイヤー(CL)側は「Gloas(グロアス)」と呼ばれ、両者を合わせた正式名称は「Glamsterdam/Gloas」となりますが、一般的にはGlamsterdamの呼称が広く使われています。
イーサリアムのアップグレード名は、実行レイヤーには世界の都市名(Berlin、London、Shanghai、Prague)、コンセンサスレイヤーには星の名前(Altair、Bellatrix、Capella、Electra)が使われる慣例があります。Glamsterdamは「Amsterdam(アムステルダム)」をもじった造語であり、オランダの首都へのオマージュとなっています。
Glamsterdamは2026年後半の実施が見込まれており、Pectraに続くイーサリアムの次期メジャーアップグレードとして位置づけられています。イーサリアム財団の開発ロードマップにおいて、このアップグレードは「The Surge(サージ)」フェーズの重要な構成要素とされています。The Surgeとは、イーサリアムのスケーラビリティを飛躍的に向上させることを目指すフェーズです。
2-2. Glamsterdamに含まれる主要EIP
Glamsterdamには複数のEIP(Ethereum Improvement Proposal:イーサリアム改善提案)が含まれる予定です。2026年3月時点で議論・検討されている主要なEIPを整理してみましょう。
まず、EIP-7928(ブロックレベルウォームアップ/ブロックアクセスリスト)は、トランザクションの並列処理を可能にするための基盤技術です。これについては次章で詳しく解説します。
次に、ガスリミットの引き上げが検討されています。Pectraの時点で3,600万だったガスリミットを段階的に拡大し、最終的に最大3億まで引き上げることが議論されています。
ブロック生成時間についても、現行の12秒から6秒への短縮が検討されています。これにより、トランザクションの確認速度が大幅に改善されることが期待されます。
さらに、バリデーターの効率化に関するEIPも含まれており、ステーキングプロトコルの最適化やネットワーク通信の改善が計画されています。
2-3. 開発の現状とテストネットスケジュール
Glamsterdamの開発は2025年後半から本格化しており、複数のクライアントチーム(Geth、Nethermind、Besu、Erigonなど)が実装を進めています。テストネットへの展開は2026年の中頃が見込まれており、その後メインネットへの適用が予定されています。
イーサリアムの開発プロセスでは、まずSepolia(セポリア)やHolesky(ホレスキー)といったテストネットでアップグレードを適用し、問題がないことを確認してからメインネットに展開します。Pectraアップグレードの際にも、テストネットでいくつかの問題が発見され修正されたことがあり、このプロセスの重要性が再確認されています。
3. ブロックアクセスリストと並列処理の仕組み
3-1. なぜ並列処理が重要なのか
現在のイーサリアムでは、すべてのトランザクションが「逐次処理」されています。つまり、ブロックに含まれるトランザクションは1つずつ順番に実行され、前のトランザクションが完了するまで次のトランザクションは処理されません。
これは、安全性の観点からは非常に合理的な設計です。トランザクションAが変更したステート(状態)をトランザクションBが参照する可能性がある場合、順番を入れ替えると結果が変わってしまいます。しかし、実際のトランザクションの多くは互いに無関係なアカウントやコントラクトを操作しており、理論的には同時に処理しても問題ないケースが大半です。
逐次処理のデメリットは明白です。CPUのマルチコア化が進んだ現代のハードウェアにおいて、1つのコアだけでトランザクションを処理するのは非効率極まりない状態です。ソラナやMonad(モナド)といった新興チェーンが並列処理を標準搭載していることを考えると、イーサリアムが競争力を維持するためにはこの制約を解消する必要がありました。
3-2. ブロックアクセスリスト(EIP-7928)の仕組み
EIP-7928は、ブロックレベルのアクセスリスト(Block-Level Access List)を導入することで、並列処理を可能にする提案です。その仕組みを、なるべく平易に説明してみましょう。
ブロックアクセスリストとは、各トランザクションが「どのアカウントやストレージスロットにアクセスするか」をあらかじめ宣言するリストのことです。ブロック提案者(ブロックを生成するバリデーター)は、ブロックに含めるトランザクションのアクセスリストを事前に分析し、「このトランザクションとこのトランザクションは互いに干渉しないから同時実行できる」と判断できるようになります。
具体的なイメージとしては、スーパーマーケットのレジを思い浮かべてみてください。従来のイーサリアムはレジが1台しかない状態で、全員が1列に並んで順番を待っていました。ブロックアクセスリストの導入後は、商品の種類ごとに複数のレジが開設され、「この人は野菜コーナーの商品だけだから、肉コーナーの人と同時に会計できる」という判断が可能になるのです。
3-3. 並列処理がもたらす性能向上
ブロックアクセスリストによる並列処理が実現すると、イーサリアムのトランザクション処理能力は理論上大幅に向上します。
現在のイーサリアムのL1は、1秒あたり約15〜30トランザクション(TPS)程度の処理能力にとどまっています。並列処理の導入により、同じブロック時間内により多くのトランザクションを処理できるようになるため、実効TPSの向上が期待されます。
ただし、並列処理の効果は「トランザクションの独立性」に依存します。DeFi(分散型金融)のスワップ取引のように、同じ流動性プールにアクセスするトランザクションが多い場合は、並列化の恩恵が限定的になる可能性もあります。一方で、異なるNFTのミント、異なるアカウント間のETH送金、異なるトークンの操作などは高い並列性が期待できます。
イーサリアムの共同創設者であるヴィタリック・ブテリン氏は、ブロックアクセスリストの導入について「イーサリアムの実行レイヤーを現代的なマルチコアアーキテクチャに適合させる重要な一歩」と評価しています。完全な並列処理の実現には複数のアップグレードにわたる段階的な改善が必要ですが、Glamsterdamはその最初の基盤を築くものとなります。
4. ガスリミット拡大とブロック生成時間の短縮
4-1. ガスリミットの段階的拡大——3,600万から3億へ
イーサリアムの「ガス」とは、トランザクションの処理に必要な計算量の単位です。各ブロックには「ガスリミット」と呼ばれる上限があり、1ブロックに含められるトランザクションの総計算量が制限されています。
2025年初頭の時点で、イーサリアムのガスリミットは約3,600万に設定されていました。Pectraアップグレードでblobの増加などに伴いガスリミットの引き上げが行われましたが、Glamsterdamではさらに大胆な拡大が計画されています。
具体的には、段階的にガスリミットを引き上げ、最終的には最大3億(約8.3倍)まで拡大することが議論されています。この大幅な引き上げが実現すれば、1ブロックに含められるトランザクション数が飛躍的に増加し、ネットワーク全体のスループット向上につながります。
ただし、ガスリミットの拡大にはリスクも伴います。ブロックサイズが大きくなると、ノードの同期に時間がかかり、小規模なノードオペレーターが参加しづらくなる可能性があります。これは、イーサリアムが重視する「分散化」の価値と相反するため、慎重なバランスが求められます。この点について、イーサリアムのコア開発者たちは「ステートレスクライアント」の技術(Verkle Tree など)との組み合わせにより、ノードの負担増加を最小限に抑えられると説明しています。

4-2. ブロック生成時間の短縮——12秒から6秒へ
The Merge以降、イーサリアムのブロック生成時間は12秒に設定されています。Glamsterdamでは、これを6秒に短縮することが検討されています。
ブロック生成時間の短縮は、ユーザー体験の改善に直結します。現在のイーサリアムでは、トランザクションを送信してから最初のブロックに含まれるまで平均6秒(最大12秒)の待ち時間が発生します。ブロック時間が6秒になれば、最大待ち時間も6秒に短縮され、より迅速なトランザクション確認が可能になります。
さらに、ブロック時間の短縮はMEV(Maximal Extractable Value:最大抽出可能価値)の問題にも影響を与えます。MEVとは、ブロック提案者がトランザクションの順序を操作することで得られる利益のことで、ユーザーにとっては「見えないコスト」となっている問題です。ブロック時間が短くなることで、MEVの機会が細分化され、ユーザーへの悪影響が軽減される可能性があります。
一方で、ブロック時間の短縮により、ノードの処理負荷が増大するという懸念もあります。6秒以内にブロックの検証と伝播を完了させる必要があるため、ネットワーク帯域幅やハードウェアの要件が厳しくなる可能性があります。この点については、先述のブロックアクセスリストによる並列処理や、ステートレスクライアントの導入が補完的に機能すると考えられています。
4-3. バリデーターの効率化
Glamsterdamでは、バリデーターの運用効率を高めるための改善も含まれています。
Pectraで導入された最大有効残高の引き上げ(32ETH→2,048ETH)に加え、Glamsterdamではバリデーターの証明(attestation)プロセスの最適化が検討されています。現在、イーサリアムには約100万以上のアクティブバリデーターが存在しており、これらのバリデーターが生成する証明メッセージのネットワーク負荷は無視できない水準に達しています。
具体的な改善策としては、証明の集約方法の改良や、バリデーターのローテーション方式の最適化などが議論されています。これにより、ネットワーク帯域幅の効率的な利用と、コンセンサスのファイナリティ(確定性)の迅速化が期待されます。
5. ソラナとの性能比較——イーサリアムはどこまで追いつけるのか
5-1. ソラナの現在の性能と特徴
ソラナ(Solana)は、高速処理と低コストを最大の売りにするレイヤー1ブロックチェーンです。2026年3月時点での主要スペックを確認してみましょう。
ソラナの理論上のTPSは約65,000以上とされ、実効TPSでも約4,000〜5,000程度を安定的に処理しています。ブロック生成時間は約400ミリ秒(0.4秒)と非常に短く、トランザクション手数料は平均0.00025ドル程度(1円未満)と極めて低コストです。
ソラナがこの高速処理を実現しているのは、Proof of History(PoH:歴史の証明)というユニークなコンセンサスメカニズムと、Sealevel(シーレベル)と呼ばれるランタイムによる並列処理の組み合わせによるものです。ソラナのSealevelは、トランザクションが使用するアカウントの情報をもとに、衝突のないトランザクションを自動的に並列実行します。
ただし、ソラナにも課題はあります。過去にはネットワークの停止(ダウンタイム)が複数回発生しており、安定性については懸念が残ります。また、バリデーターのハードウェア要件が高く、イーサリアムほどの分散性は実現できていないという指摘もあります。
5-2. Glamsterdam後のイーサリアムL1とソラナの比較
Glamsterdamアップグレード後のイーサリアムL1とソラナを比較してみましょう。
トランザクション処理速度については、Glamsterdam後のイーサリアムL1は、ガスリミット拡大と並列処理、ブロック時間短縮の組み合わせにより、実効TPSが大幅に向上する見込みです。ただし、L1単体でソラナの実効TPSに匹敵する水準に達するのは難しいと考えられます。イーサリアムの目標TPS(L1+L2の合計)は10万TPS以上ですが、これはL2を含めた数値です。
手数料については、ガスリミットの拡大によりL1のガス代は低下する見込みです。ただし、ソラナの1円未満の手数料水準に達するのは困難で、イーサリアムの低コストなトランザクションはL2が担う構造は変わらないでしょう。
ブロック生成時間については、12秒から6秒への短縮は大きな改善ですが、ソラナの0.4秒と比較するとまだ差があります。
一方で、イーサリアムはソラナに対して明確な優位性も持っています。分散化の度合い(バリデーター数約100万以上 vs ソラナの約1,800)、エコシステムの成熟度(TVL、DeFiプロトコル数、開発者数)、セキュリティの実績(メインネット停止なし)などは、イーサリアムの強みとして引き続き評価されるでしょう。
5-3. 「速さだけではない」——イーサリアムの設計思想
ここで重要なのは、イーサリアムとソラナは設計思想そのものが異なるという点です。
イーサリアムは「分散化とセキュリティを最優先し、スケーラビリティはL2で実現する」というロールアップ中心のアプローチを採用しています。Glamsterdamの改善はL1の性能を向上させるものですが、最終的にはL2との組み合わせで大規模なスケーラビリティを目指す方針に変わりはありません。
対するソラナは「L1で可能な限り高速に処理する」というモノリシック(一体型)なアプローチを採っています。両者の優劣は一概には言えず、用途やユースケースによって最適な選択は異なります。
投資家の方々にとっては、この設計思想の違いを理解した上で、それぞれのエコシステムの成長性を評価することが重要ではないでしょうか。
6. L2エコシステムへの影響
6-1. L2のコスト構造はどう変わるのか
Glamsterdamアップグレードは、L2(レイヤー2)エコシステムにも大きな影響を与えます。L2のコスト構造がどのように変わるのかを見ていきましょう。
L2のオペレーティングコストの大部分は、L1へのデータ投稿費用(DA:Data Availabilityコスト)です。Dencunでblobが導入されて以来、このコストは劇的に低下していますが、Glamsterdamではさらなる改善が期待されます。
ガスリミットの拡大により、blobの容量や数が増える可能性があり、L2がL1に投稿できるデータ量が増加します。また、ブロック時間の短縮により、L2がL1にデータを投稿するインターバルも短縮され、L2上のトランザクションのファイナリティ(確定性)が早まる効果が見込まれます。
これは、L2のユーザーにとっては手数料のさらなる低下と、トランザクション確認の高速化として実感できるでしょう。2026年時点で主要L2のトランザクション手数料は0.01ドル以下(約1〜2円)まで低下していますが、Glamsterdam後はこれがさらに低下し、ソラナの手数料水準に近づく可能性もあります。
6-2. 主要L2プロジェクトへの影響
Glamsterdamの恩恵を最も直接的に受けるのは、Optimistic Rollup系のL2(Optimism、Arbitrum、Base)とZK Rollup系のL2(zkSync、Starknet、Scroll、Linea)です。
Optimistic Rollup系のL2にとっては、ブロック時間の短縮が特に重要です。Optimistic Rollupは、不正証明(fraud proof)の仕組み上、トランザクションの最終確定まで約7日間のチャレンジ期間を要します。L1のブロック時間が短縮されることで、チャレンジ期間中のブロック数が増え、より細粒度の不正検知が可能になると考えられます。
ZK Rollup系のL2にとっては、ガスリミットの拡大が重要な意味を持ちます。ZK Rollupは、ZK証明(ゼロ知識証明)の検証をL1で行いますが、この検証には一定のガスが必要です。ガスリミットの拡大により、より多くのZK証明をブロックに含めることが可能となり、証明の投稿コストが低下する効果が期待されます。
また、Coinbase(コインベース)が運営するBaseチェーンや、旧Facebook(Meta)のチームが開発に関わるLineaなど、大手企業が関わるL2にとっても、イーサリアムL1の改善はエコシステム全体の魅力向上につながる好材料です。
6-3. L2断片化問題とクロスチェーン相互運用性
Glamsterdamと並行して、イーサリアムエコシステムでは「L2の断片化」という課題の解決にも取り組んでいます。
現在、イーサリアム上には数十のL2チェーンが存在しており、それぞれが独立した流動性とユーザーベースを持っています。ユーザーの視点では、「どのL2を使えばいいのかわからない」「L2間の資産移動が面倒」といった問題が生じています。
この課題に対して、イーサリアムコミュニティでは「チェーン抽象化(Chain Abstraction)」や「共有シーケンサー(Shared Sequencer)」などのソリューションが開発されています。ユーザーがどのL2を使っているかを意識することなく、シームレスにトランザクションを実行できる世界を目指す取り組みです。
Glamsterdamの改善(特にブロック時間短縮)は、L2間のメッセージパッシング(相互通信)の遅延を短縮する効果もあり、クロスチェーンの相互運用性向上にも間接的に寄与すると考えられます。
7. 後続アップグレード「Hegota」とStrawmapロードマップ
7-1. Glamsterdamの次に来る「Hegota」
Glamsterdamに続くイーサリアムの次期アップグレードとして、「Hegota(ヘゴタ)」が計画されています。Hegotaは2027年以降の実施が見込まれており、Glamsterdamで導入された技術をさらに発展させる位置づけです。
Hegotaで期待される主な改善点としては、Verkle Tree(ヴァークルツリー)の本格導入が挙げられます。Verkle Treeとは、イーサリアムのステートデータを管理するためのより効率的なデータ構造で、現在使用されているMerkle Patricia Trie(マークルパトリシアトライ)に代わるものです。
Verkle Treeが導入されると、ステートレスクライアント(ブロックチェーンの全履歴データを保持しなくても検証に参加できるクライアント)の実現が可能になります。これにより、ノードの参加ハードルが大幅に下がり、より多くの人がバリデーターとして参加できるようになることが期待されます。
また、完全なシャーディング(Danksharding)の導入もHegota以降のロードマップに含まれています。Proto-Dankshardingで導入されたblobを大幅に拡張し、L2のデータ可用性をさらに向上させるものです。
7-2. Strawmap——2029年までのイーサリアム長期ロードマップ
イーサリアム財団は「Strawmap」と呼ばれる長期ロードマップを公開しています。このStrawmapは、2029年までのイーサリアムの進化を5つのフェーズに整理したものです。
1つ目のフェーズは「The Merge(マージ)」です。PoSへの移行は2022年に完了しましたが、シングルスロットファイナリティ(SSF:1ブロックでの最終確定)の実現など、コンセンサスメカニズムのさらなる改善が計画されています。
2つ目は「The Surge(サージ)」で、スケーラビリティの大幅向上を目指すフェーズです。Glamsterdamはこのフェーズの一部であり、L1の性能向上とL2のスケーラビリティ拡大が並行して進められます。目標は、L1+L2の合計で10万TPS以上の処理能力を実現することです。
3つ目は「The Scourge(スカージ)」で、MEVの問題に対処し、検閲耐性を確保するフェーズです。ブロック提案者とブロックビルダーの分離(PBS:Proposer-Builder Separation)などが含まれます。
4つ目は「The Verge(ヴァージ)」で、Verkle Treeの導入によるステートレスクライアントの実現を目指すフェーズです。ノード運用のハードルを下げ、分散化をさらに推進します。
5つ目は「The Purge(パージ)」で、不要な過去データを整理し、ノードのストレージ要件を削減するフェーズです。
6つ目は「The Splurge(スプラージ)」で、上記に分類されないその他の重要な改善をまとめたフェーズです。アカウント抽象化の拡張やEVM(Ethereum Virtual Machine)の改善などが含まれます。
7-3. ロードマップ実現の課題
これらの壮大なロードマップを実現する上で、いくつかの課題も認識しておく必要があります。
まず、開発リソースの問題です。イーサリアムはオープンソースプロジェクトであり、複数の独立したクライアントチームが並行して開発を進めています。各チームの開発速度やリソース配分が一致しないことがあり、アップグレードのスケジュールが遅延するリスクは常に存在します。実際、Pectraアップグレードも当初の予定より数ヶ月遅れて実施されました。
次に、セキュリティとスケーラビリティのトレードオフです。ガスリミットの拡大やブロック時間の短縮は、分散化やセキュリティに対するリスクを伴います。イーサリアムコミュニティは「分散化を犠牲にしてまでスケーラビリティを追求しない」という原則を重視しており、各改善策は慎重に議論された上で実装されます。
また、外部環境の変化も考慮する必要があります。規制環境の変化、競合チェーンの台頭、マクロ経済の動向などが、ロードマップの優先順位や実施時期に影響を与える可能性があります。
8. 投資家・開発者への影響と今後の展望
8-1. ETH保有者・投資家への影響
Glamsterdamアップグレードは、ETH保有者や暗号資産投資家にとってどのような意味を持つのでしょうか。
まず、ネットワーク性能の向上は、イーサリアムの「利用価値」を高めます。より多くのトランザクションを低コストで高速に処理できるようになれば、DeFi、NFT、ゲーム、決済など、さまざまなユースケースでイーサリアムの採用が進む可能性があります。利用量の増加はETHの需要増加につながり、長期的にはETHの価値に対してプラスの影響を与えると考えられます。
EIP-1559(2021年のLondonアップグレードで導入)により、イーサリアムのトランザクション手数料の一部はバーン(焼却)されるメカニズムが導入されています。ネットワーク利用量が増加すれば、バーンされるETHの量も増え、ETHの供給量が減少する「デフレーショナリー(供給減少型)」な効果が強まる可能性があります。
ただし、ガスリミットの拡大によってガス代が低下すると、1トランザクションあたりのバーン量は減少します。利用量の増加とガス代の低下のどちらの影響が大きいかは、実際のネットワーク利用状況によって異なります。
ステーキング報酬についても注目する必要があります。バリデーターの効率化が進むことで、ステーキングの運用コストが低下し、ステーキング報酬の実質利回りが向上する可能性があります。これは、ETHのステーキングをさらに魅力的なものにする要因となるでしょう。
8-2. 開発者への影響
Glamsterdamは、イーサリアム上でアプリケーションを開発する開発者にとっても重要な変化をもたらします。
並列処理の導入により、スマートコントラクトの設計パターンが変わる可能性があります。ブロックアクセスリストを意識した設計を行うことで、より効率的な(ガスコストの低い)コントラクトを作成できるようになります。一方で、既存のコントラクトとの互換性を維持しつつ新機能を活用するためには、開発者側の学習コストも発生します。
ガスリミットの拡大は、これまでガス制約のためにL1での実行が困難だった複雑な計算やデータ処理を可能にします。たとえば、より高度なオンチェーンゲームロジックや、複雑なDeFiプロトコル、大規模なデータストレージなどがL1上で実現可能になるかもしれません。
ブロック時間の短縮は、ユーザーインターフェースの設計にも影響します。トランザクション確認の待ち時間が短くなることで、よりレスポンシブなdApp(分散型アプリケーション)の構築が可能になります。Web2アプリケーションに近いユーザー体験を提供できるようになるかもしれません。
8-3. 市場への中長期的な影響
最後に、Glamsterdamが暗号資産市場全体に与える中長期的な影響について考えてみましょう。
イーサリアムは、暗号資産市場においてビットコインに次ぐ時価総額第2位の地位を占めています。2026年3月時点のETH価格は約2,500〜3,000ドル前後で推移していますが、Glamsterdamのような大型アップグレードは、市場参加者の期待形成に大きな影響を与えます。
過去のアップグレード前後の価格動向を見ると、アップグレードの発表や実施に先立ってETH価格が上昇する傾向が見られます。ただし、「噂で買って、事実で売る」というマーケットの格言どおり、アップグレード実施後に価格が調整されるケースも少なくありません。
また、イーサリアムの改善は、L2トークン(OP、ARB、STRKなど)やイーサリアムエコシステム全体のプロジェクトにも波及効果をもたらします。L1の性能向上は、エコシステム全体の価値を底上げする可能性があります。
投資判断においては、アップグレードの技術的な内容だけでなく、マクロ経済環境、規制動向、競合チェーンの動き、そしてイーサリアムETFへの資金流入状況なども総合的に考慮することが重要です。特定の時期やイベントに過度に依存した投資判断にはリスクが伴いますので、ご自身の投資方針に基づいた慎重な判断を心がけてください。
9. まとめ
本記事では、イーサリアムの次期メジャーアップグレード「Glamsterdam」について詳しく解説してきました。ここで要点を整理してみましょう。
イーサリアムはThe Merge(2022年)以降、Shanghai/Capella、Dencun、Pectraと段階的にアップグレードを重ね、着実に進化を遂げてきました。そして、2026年後半に予定されているGlamsterdamは、イーサリアムの実行レイヤーに根本的な変革をもたらすアップグレードとなる見通しです。
ブロックアクセスリスト(EIP-7928)による並列処理の実現は、現在の逐次処理というボトルネックを解消し、マルチコアプロセッサの性能を活かしたトランザクション処理を可能にします。ガスリミットの最大3億への拡大は、1ブロックに含められるトランザクション量を飛躍的に増やし、ネットワークのスループットを向上させます。ブロック生成時間の12秒から6秒への短縮は、ユーザー体験を大きく改善し、L2のファイナリティ向上にも寄与します。
ソラナとの比較では、L1単体の処理速度で追いつくことは難しいものの、L2との組み合わせにより総合的なスケーラビリティでは十分に競争力を持つ見通しです。何より、分散化とセキュリティを犠牲にしないというイーサリアムの設計思想は、長期的な信頼性の面で大きな強みとなるでしょう。
後続アップグレード「Hegota」や2029年までのロードマップ「Strawmap」を踏まえると、イーサリアムの進化はGlamsterdamで完結するものではなく、継続的な改善が計画されていることがわかります。
投資家・開発者の方々にとっては、これらのアップグレードがもたらす技術的変化を理解した上で、エコシステムの成長性を評価していくことが重要ではないでしょうか。
10. よくある質問(FAQ)
Q1. Glamsterdamアップグレードはいつ実施されますか?
Glamsterdamは2026年後半の実施が見込まれていますが、正確な日程は開発の進捗やテストネットでの検証結果によって変動する可能性があります。イーサリアムの開発チームは「安全性を最優先にスケジュールを決定する」としており、問題が発見された場合には延期されることもあります。テストネット(SepoliaやHolesky)での展開が先行して行われ、その結果を踏まえてメインネットへの適用日が決定されます。
Q2. Glamsterdam後、ETHの価格はどうなりますか?
アップグレードそのものが直接的にETH価格を決定するわけではありません。過去のアップグレード前後にはETH価格が上昇する傾向が見られましたが、それが今回も再現される保証はありません。ETH価格は、マクロ経済環境、規制動向、機関投資家の動き、市場全体のセンチメントなど、複数の要因によって決定されます。アップグレードによるネットワーク性能の向上は、長期的にはETHの利用価値を高める要因となり得ますが、短期的な価格予測は困難です。
Q3. 一般ユーザーはGlamsterdamに備えて何かする必要がありますか?
基本的に、一般ユーザーが特別な準備をする必要はありません。ウォレット(MetaMaskなど)やdApp側が自動的にアップグレードに対応するためです。ただし、アップグレード前後にはネットワークの一時的な混雑や、一部サービスのメンテナンスが発生する可能性があるため、重要なトランザクション(大口送金など)はアップグレード前後を避けることが推奨されます。ステーキングをしている方は、使用しているクライアントソフトウェアを最新バージョンに更新する必要があります。
Q4. イーサリアムの並列処理はソラナの並列処理と同じ仕組みですか?
異なる仕組みです。ソラナのSealevelは、トランザクションが使用するアカウントの情報をランタイムレベルで分析し、衝突のないトランザクションを自動的に並列実行します。一方、イーサリアムのブロックアクセスリスト(EIP-7928)は、ブロック提案者がブロックレベルでアクセスパターンを宣言し、バリデーターがそれをもとに並列検証を行う仕組みです。アプローチは異なりますが、どちらも「互いに干渉しないトランザクションを同時に処理する」という目標は共通しています。
Q5. L2を使っている場合、Glamsterdamの恩恵は受けられますか?
はい、L2ユーザーもGlamsterdamの恩恵を間接的に受けます。ガスリミットの拡大やブロック時間の短縮により、L2がL1にデータを投稿するコストが低下し、L2のトランザクション手数料がさらに低くなる可能性があります。また、ブロック時間の短縮により、L2上のトランザクションのファイナリティ(最終確定)にかかる時間も短縮される効果が期待されます。
Q6. Glamsterdamでイーサリアムはソラナを超えられますか?
L1単体の処理速度という観点では、GlamsterdamをもってしてもソラナのTPSに匹敵する水準に達することは難しいと考えられます。しかし、L1+L2の総合的なスケーラビリティでは、イーサリアムはすでにソラナを上回る処理能力を持っているとも言えます。また、分散化、セキュリティ、エコシステムの成熟度、開発者コミュニティの規模など、性能以外の要素ではイーサリアムが優位な点が多くあります。「超える」「超えない」という単純な比較よりも、両チェーンの設計思想や用途の違いを理解することが重要です。
Q7. ブロック生成時間が6秒になると、何が具体的に変わりますか?
最も実感しやすい変化は、トランザクションの確認速度が約2倍になることです。現在の12秒ブロックでは最大12秒待つ必要がありますが、6秒ブロックでは最大6秒に短縮されます。DEX(分散型取引所)での取引、NFTのミント、DeFiでのレンディングなど、あらゆる操作のレスポンスが改善されます。また、L2のファイナリティ速度にも好影響があり、L2上の取引がL1で最終確定されるまでの時間が短くなることが期待されます。
免責事項
※本記事は情報提供を目的としており、投資を推奨するものではありません。暗号資産への投資は元本割れのリスクがあります。投資判断はご自身の責任で行ってください。
本記事に記載されている情報は、2026年3月時点で公開されている情報に基づいています。イーサリアムのアップグレードスケジュールや技術仕様は、開発の進捗に応じて変更される可能性があります。最新の情報は、イーサリアム財団の公式サイトや開発者ブログでご確認ください。