ライトニングネットワークのL2決済技術:サブマリンスワップとスプライシングを解説

ライトニングネットワークの普及に伴い、オフチェーン決済の利便性と柔軟性を高める技術が次々と開発されています。特に注目すべきが「サブマリンスワップ(Submarine Swap)」と「スプライシング(Splicing)」という2つの技術です。サブマリンスワップはオンチェーンとオフチェーンを原子的に交換する仕組みであり、スプライシングはチャネルをクローズせずに容量を変更する技術です。これらの技術はライトニングノードの流動性管理を大幅に効率化し、ユーザーエクスペリエンスの向上に貢献しています。本記事ではそれぞれの仕組みを詳しく解説するとともに、実際のサービスでの活用例や今後の展望についても触れます。

サブマリンスワップとは何か

サブマリンスワップは、ビットコインのオンチェーントランザクションとライトニングネットワーク上のオフチェーン決済を「アトミックスワップ(原子的交換)」の形で交換する技術です。「サブマリン」という名称は、水面下(オフチェーン)と水面上(オンチェーン)を橋渡しするという意味合いを持っています。この技術により、ライトニングウォレットを持たないユーザーとのやり取りや、オンチェーン・オフチェーン間での資金移動がトラストレスに行えます。

アトミックスワップの原理

サブマリンスワップの核心は、HTLCを使った原子的交換にあります。送金者がオンチェーンでHTLCにビットコインをロックし、受取人がそのプリイメージをライトニングインボイスの形で提示することで、双方の取引が同時に完結します。どちらか一方の取引が失敗した場合、タイムロックにより資金は送金者に返還されます。この仕組みにより、中間者を信頼することなくオンチェーンとオフチェーンの資産交換が可能になります。

Loop OutとLoop Inの違い

Lightning Labsが提供するLoopサービスには「Loop Out」と「Loop In」の2種類があります。Loop Outはライトニングチャネル内の資金をオンチェーンウォレットに引き出す操作で、チャネルの受け取り容量(インバウンド流動性)を補充する際に使用します。Loop Inはオンチェーンの資金をライトニングチャネルに注入する操作で、送金容量(アウトバウンド流動性)を補充します。いずれの場合もサービス手数料(約0.1〜0.5%程度)が発生しますが、チャネルをクローズせずに流動性を調整できる利点があります。

分散型サブマリンスワップサービス

中央集権的なLoopに対して、分散型・非カストディアルなサブマリンスワップサービスも複数登場しています。これらのサービスはユーザーの資産を一時的にも預かることなく、プロトコルレベルでスワップを完結させます。

BoltzとDEXベースのスワップ

Boltz(boltz.exchange)は非カストディアルなサブマリンスワップサービスの代表例です。ウェブインターフェースまたはAPIを通じて、ライトニングとオンチェーンビットコインの交換、さらにはLiquidネットワークとの交換も可能です。Boltzのサービスはオープンソースであり、自分でインスタンスを立てることもできます。また、SideSwap、WizardSwap、DiamondHandsなどの類似サービスも利用可能です。

インバウンド流動性マーケットプレイス

Lightning LabsのPool(pool.lightning.engineering)はチャネル流動性をリースする分散型マーケットプレイスです。流動性を提供したいノードが一定期間のインバウンド流動性をオークション形式で販売し、流動性を必要とするノードが購入できます。これにより、ノードの受け取り容量を市場価格で調達できるようになり、ルーティングビジネスの効率化に貢献しています。

スプライシングの仕組みと利点

スプライシングは、ライトニングチャネルをクローズせずに容量を追加(Splice In)または削除(Splice Out)する技術です。従来は流動性を調整するたびにチャネルをクローズして新たに開設し直す必要があり、2回分のオンチェーン手数料と待ち時間が発生していました。スプライシングによりこのコストを大幅に削減できます。

Splice InとSplice Outの動作

Splice Inではオンチェーンのビットコインをチャネルに追加します。新しいファンディングトランザクションが作成されますが、既存のチャネルのHTLC(進行中の支払い)を引き継ぐため、スプライス中もチャネルは引き続き使用可能です。Splice Outではチャネル内の資金の一部をオンチェーンに引き出します。いずれの操作もチャネルパートナーとの協調が必要ですが、1回のオンチェーントランザクションで完結するため効率的です。

Core LightningのSplicing実装状況

スプライシングはCore Lightningで先行実装が進んでおり、2024年以降に実験的機能から本番機能として統合されつつあります。LNDでも実装が計画されており、普及が進めばライトニングノードの流動性管理が大幅に簡素化される見込みです。スプライシングが標準化されると、チャネルの開設・クローズの頻度が減り、オンチェーン手数料の節約にも繋がります。

BOLT12(Offers)と次世代決済プロトコル

BOLT12は現行のBOLT11インボイスの課題を解決するために提案されたライトニング決済プロトコルの新規格です。BOLT11では1回の支払いごとにインボイスを生成する必要がありましたが、BOLT12では静的な「Offer(オファー)」コードを発行することで、繰り返しの支払いや定期購読にも対応できます。

Offerの仕組みと静的コード

Offerは一度発行すれば何度でも使い回せる支払いコードです。送金者がOfferをデコードして支払い意思を伝えると、受取人側で新しいインボイスが動的に生成されます。これによりQRコードを都度生成する手間が省け、チップ、定期購読、寄付など多様なユースケースに対応できます。Offerにはブラインドパス(Blinded Path)と組み合わせることで、受取人のノードIDを秘匿するプライバシー機能も備わっています。

非同期支払いとトランポリンルーティング

ライトニングネットワークは原則として受取人がオンラインである必要がありますが、非同期支払い(Async Payments)の実装によりオフライン受取が可能になる取り組みが進んでいます。また、トランポリンルーティング(Trampoline Routing)は経路計算を中継ノードに委任する技術で、モバイルウォレットなどリソースが限られた環境でも高品質なルーティングを実現します。これらの技術が普及することで、ライトニングのユーザーエクスペリエンスがさらに向上する見込みです。

Taproot AssetとライトニングでのUSD決済

Lightning LabsはTaproot Assetという技術を開発しており、ビットコインのTaprootスクリプトを活用してビットコイン以外のアセット(例えばステーブルコイン)をライトニングネットワーク上で扱えるようにする仕組みです。これにより、USDTやUSDCのようなステーブルコインをライトニングネットワークで送受信できるようになります。

Taproot Assetの技術構造

Taproot AssetはTaprootのスクリプト拡張性を活用してアセットの発行と移転を記録します。アセット発行者はオンチェーントランザクションを通じてアセットを発行し、受取人はそのアセットをライトニングチャネルで転送できます。ライトニングネットワーク上の中継ノードはアセットを意識することなくBTC建てで手数料を受け取り、送受信端末でアセット変換が行われます。

Stablesatsとドル建て決済の展望

現実的なユースケースとして注目されているのが、ドル建て決済のためのステーブルコイン活用です。BTCの価格変動を嫌うユーザーがドル建てで受け取り、ルーティング中はBTC建てで中継される仕組みにより、価格リスクなしにグローバルな即時決済が可能になります。Strike(strike.me)などのサービスではすでにこのような仕組みを活用したドル建て国際送金サービスを提供しています。

Liquidネットワークとライトニングの比較

ビットコインのL2ソリューションとしてLiquidネットワーク(Blockstream社が開発したフェデレーテッドサイドチェーン)もライトニングネットワークと並んで使われています。両者の特徴を理解することで、用途に応じた選択が可能になります。

Liquidネットワークの特徴

Liquidはフェデレーション形式のコンセンサスを採用しており、約1分での決済確定が特徴です。Confidential Transactionsにより金額が秘匿されており、大口取引のプライバシー保護に優れます。主に取引所間の資金移動や機関投資家向けのユースケースで使われています。ライトニングと異なりチャネルの開設は不要で、LiquidアドレスへのBTC入金のみで利用できます。

ライトニングとLiquidの使い分け

ライトニングネットワークは少額のマイクロペイメントや個人間の日常的な決済に優れており、Liquidは大口取引や取引所間の迅速な資金移動に適しています。サブマリンスワップを通じて両者を橋渡しするサービス(Boltzなど)も存在し、実務的にはこれらを組み合わせて活用することが増えています。

まとめ

サブマリンスワップとスプライシングは、ライトニングネットワークの流動性管理を効率化する重要な技術です。サブマリンスワップはオンチェーンとオフチェーン間の原子的交換を実現し、スプライシングはチャネルをクローズせずに容量調整を可能にします。加えてBOLT12やTaproot Assetといった次世代技術の普及により、ライトニングネットワークは決済インフラとしての完成度をさらに高めていくでしょう。これらの技術を理解することで、ビットコインのL2エコシステムをより深く活用できます。

よくある質問

Q1. サブマリンスワップの利用に必要なものは何ですか?

Loopを使う場合はLNDノードとloop CLIツールが必要です。Boltzのウェブサービスを使う場合はライトニングウォレット(インボイス生成が可能なもの)とオンチェーンウォレットがあれば利用できます。いずれもトラストレスな仕組みのため、資産を預ける必要はありませんが、手数料分のBTCを余裕を持って用意してください。

Q2. スプライシングはいつ一般的に使えるようになりますか?

Core LightningではすでにSplice In/Outの実装が進んでおり、対応バージョン以降で利用可能です。LNDでも開発が進められており、2025〜2026年にかけて主要実装での本番利用が広がる見込みです。各ノード実装のリリースノートで最新の対応状況を確認することをお勧めします。

Q3. Taproot AssetでのUSDT送金は安全ですか?

Taproot Assetは技術的にはビットコインのセキュリティ保証の上に構築されていますが、アセット発行者(例:USDT発行体のTether)に対する信頼は引き続き必要です。また、まだ新しい技術であり、バグや仕様変更のリスクがあります。大きな金額での利用には十分な検証と理解が必要です。

※本記事は情報提供を目的としており、投資を推奨するものではありません。暗号資産への投資は元本割れのリスクがあります。投資判断はご自身の責任で行ってください。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする