ビットコインのブロックチェーンは公開台帳であり、全ての取引履歴が誰でも確認できる仕組みになっています。この特性を活用して市場の状態を定量的に分析する手法が「オンチェーン分析」です。テクニカル分析が価格チャートを見るのに対して、オンチェーン分析はブロックチェーン上の実際の資金動向・保有者行動・損益状態などを直接観察します。
本記事では、オンチェーン分析の代表的な指標であるMVRV・SOPR・NUPLの3つを中心に、その定義・計算方法・過去の活用実績・読み方を詳しく解説します。半減期2028年に向けたサイクル分析の実践ツールとして、ぜひ活用してみてください。
1. オンチェーン分析とは何か
1-1. オンチェーン分析の特徴と優位性
従来のテクニカル分析(移動平均・RSI・MACDなど)は価格と出来高のデータを分析対象とします。一方、オンチェーン分析はブロックチェーンに記録された実際の取引データを元に、市場全体の保有者の損益状態・資金の動き・長期保有者と短期保有者の行動の違いなどを分析します。
ビットコインのブロックチェーンでは、各コインが最後に動いた価格(「実現価格」と呼ばれる)を推定することができます。これにより、現在の価格が実現価格に対して割高か割安かを判断する指標を算出できます。
1-2. 主要なオンチェーン分析プラットフォーム
オンチェーン指標を閲覧・分析できる代表的なプラットフォームとして以下が挙げられます。
- Glassnode: 最も包括的なオンチェーンデータを提供。無料プランでも基本指標が利用可能。
- LookIntoBitcoin: 視覚的に分かりやすい形式でサイクル指標を提供。無料で利用可能。
- CryptoQuant: 取引所への資金フロー・マイナーデータに強み。
- Whalemap: 大口保有者(クジラ)の動向分析に特化。
2. MVRV(Market Value to Realized Value)
2-1. MVRVの定義と計算方法
MVRVは「時価総額(Market Value)」を「実現時価総額(Realized Value)」で割った比率です。実現時価総額とは、全てのビットコインを「最後に動いた時の価格」で評価した合計額のことです。
例えば、あるコインが100万円の時に購入され、その後動かしていない場合、そのコインの実現価格は100万円として計算されます。これを全ビットコインで集計したものが実現時価総額です。
MVRVが1.0を超えると市場全体が平均的に含み益の状態、1.0を下回ると市場全体が平均的に含み損の状態を示します。
2-2. MVRVを使ったサイクル判断
過去のデータでは、MVRV-Z Scoreという派生指標(MVRVを標準偏差で正規化したもの)が底値圏と天井圏の検知に活用されてきました。具体的には、MVRV-Z Scoreがプラス7以上に達した時期が過去の天井圏に、マイナス0.1以下に達した時期が過去の底値圏に対応する傾向が観察されています(LookIntoBitcoinで確認可能)。
2021年11月の天井前後ではMVRV-Z Scoreが7を超えており、その後の大幅下落(2022年の弱気相場)と一致しています。2022年末の底値圏ではMVRV-Z Scoreがマイナス圏に入り、その後の回復と一致しました。
3. SOPR(Spent Output Profit Ratio)
3-1. SOPRの定義と意味
SOPRは「支出済みアウトプットの利益率」を表す指標です。ブロックチェーン上でコインが動く(取引される)たびに、そのコインが最後に動いた時の価格と現在の価格を比較し、利益率として計算します。
SOPRが1.0を超えると、その日に動いたコインが平均的に利益確定されたことを示します。1.0を下回ると、損失確定されたことを示します。市場全体の平均的な損益状態をリアルタイムで観察できる指標です。
3-2. SOPRの実践的な読み方
上昇相場では、SOPRが一時的に1.0を下回った後すぐに反発するパターンが見られます。これは「一時的な調整」として市場参加者が押し目買いを行っている状態を示します。一方、下落相場では、SOPRが1.0を回復できずに1.0付近で頭打ちになるパターンが見られます。これは「戻り売り」が発生している状態を示します。
また、短期保有者(STH)のSOPR(STH-SOPR)は、過熱感や底値圏の検知に特に有用とされています。STH-SOPRが極端に低い値を示す時期(短期保有者が大幅に損失確定している時期)が、過去の底値圏に近いことが多く観察されています。
4. NUPL(Net Unrealized Profit/Loss)
4-1. NUPLの定義と計算
NUPLは「純未実現損益」を表す指標で、市場全体の含み益・含み損の合計をビットコインの時価総額に対する比率として示します。全参加者の平均的な損益状態を一つの数値で把握できるため、市場の過熱感と悲観感を測るのに適した指標です。
NUPLは通常、以下のゾーンに色分けされて表示されます(LookIntoBitcoinでカラーコード確認可能)。
- Capitulation(マイナス): 市場全体が含み損。過去の底値圏に対応。
- Hope(0〜0.25): わずかに含み益。回復初期フェーズ。
- Optimism(0.25〜0.5): 含み益が増加。上昇トレンド中期。
- Belief(0.5〜0.75): 強い含み益。強気相場の中盤から後半。
- Euphoria(0.75以上): 市場全体が大きな含み益。過去の天井圏に対応。
4-2. NUPLを使ったサイクル管理
NUPLが「Euphoria」ゾーン(0.75以上)に入ったタイミングは、過去の天井(2013年・2017年・2021年)に近い時期と重なっています。逆に、「Capitulation」ゾーン(マイナス圏)に入った時期が底値圏と重なることが多く観察されています。
これらのゾーン変化を長期積立投資の強弱スイッチとして活用することができます。ただし、ゾーンに入ったからといって即座に天井・底値が確定するわけではなく、あくまで統計的な傾向として捉えることが重要です。
5. 長期保有者(LTH)と短期保有者(STH)の指標
5-1. LTH・STHの定義と重要性
オンチェーン分析では、最後にコインが動いてから155日以上経過したコインを「長期保有者(LTH: Long-Term Holder)」、155日未満を「短期保有者(STH: Short-Term Holder)」として区別することが一般的です。
長期保有者は相場の浮き沈みを経験した「信念を持った投資家」として市場の安定勢力とみなされます。一方、短期保有者は価格感応度が高く、強い下落時に売り圧力の主体になりやすい傾向があります。
5-2. LTH保有量と市場サイクル
長期保有者の保有量は、強気相場の天井圏で減少(利益確定売り)し、弱気相場の底値圏で増加(安値での積み増し)するパターンを示すことが多いです。LTH保有量が過去最高水準を更新している時期は、信念を持った長期投資家がコインを保有し続けている状態を示し、次の上昇サイクルへの基盤形成期として解釈されることがあります。
6. オンチェーン指標の組み合わせ活用法
6-1. 複数指標のクロス分析
単一の指標だけで市場サイクルを判断するのではなく、複数の指標を組み合わせた「コンフルエンス(合流)分析」が推奨されます。例えば、MVRV-Z Scoreが底値圏・NUPLがCapitulationゾーン・LTH保有量が増加傾向・STH-SOPRが極端に低い値、これらが同時に条件を満たす時期が過去の底値圏と強く対応しています。
6-2. 指標の更新と継続的なモニタリング
オンチェーン指標は市場環境の変化によって時代とともにその有効性が変わることがあります。機関投資家の参入・ETFの出現・マイニング業界の変化などが、これまでのパターンに変化をもたらす可能性もあります。定期的に最新の研究・分析レポートを確認し、指標の解釈を更新していく継続的な学習姿勢が重要です。
7. オンチェーン分析の限界と注意点
7-1. ETFと取引所の影響
ビットコイン現物ETFの台頭により、ETF運用会社が保有するビットコインは単一のウォレットに集約されることがあります。これにより、従来のオンチェーン分析で使われていた「長期保有者フラグ」の判定が正確さを失う可能性があります。大量のBTCが取引所外のカストディアンに移動されると、オンチェーン上では「保有中」に見えても実際はETFを通じて多数の投資家に分散保有されているケースがあります。
7-2. 分析の不確実性を常に意識する
オンチェーン指標は有力な参考情報ですが、確実な予測ツールではありません。過去の傾向が将来に繰り返されるとは限らず、外部要因(マクロ経済・規制・技術的問題)が指標のシグナルを覆すことがあります。投資判断を下す際は、オンチェーン分析だけに依存せず、他の分析手法や情報と組み合わせることが大切です。
まとめ
MVRV・SOPR・NUPLは、ビットコインのオンチェーン分析における代表的な指標であり、市場サイクルの位置を客観的に把握するための重要なツールです。これらを単独で活用するより、複数の指標を組み合わせたコンフルエンス分析を行うことで、より信頼性の高い状況判断が可能になります。
2028年の半減期サイクルに向けて、今から定期的にこれらの指標を観察する習慣をつけておくことで、サイクルの転換点に気づきやすくなるでしょう。ぜひ継続的な学習と実践的な観察を続けてみてください。
よくある質問
Q1. MVRVとNUPLはどちらが重要ですか?
どちらも重要な指標ですが、異なる視点を提供します。MVRVは市場全体の割安・割高感を測るのに適し、NUPLは保有者全体の損益状態を把握するのに向いています。両者を組み合わせて使うことが推奨されます。
Q2. オンチェーン分析ツールはどれを使えばいいですか?
入門にはLookIntoBitcoin(無料・日本語でも情報多数)がお勧めです。より詳細な分析にはGlassnode(一部有料)、CryptoQuantが有用です。
Q3. オンチェーン指標が「天井圏」を示したら即座に売るべきですか?
即座の行動は推奨されません。指標は傾向を示すものであり、過熱圏を示してから数週間から数ヵ月高値が続いた事例もあります。段階的な利益確定戦略を事前に計画し、感情的でない行動を取ることが重要です。
※本記事は情報提供を目的としており、投資を推奨するものではありません。暗号資産への投資は元本割れのリスクがあります。投資判断はご自身の責任で行ってください。