ストック・トゥ・フロー(S2F)モデルの有効性と限界:2028年半減期への視点で徹底検証

「ストック・トゥ・フロー(S2F)モデル」は、ビットコインの希少性を定量化し、長期的な価格水準を予測しようとするモデルです。2019年にPlanBというハンドル名の匿名の分析家によって発表され、一時はビットコインコミュニティで非常に高い注目を集めました。

本記事では、S2Fモデルの定義・計算方法・過去の予測精度、そして2028年の半減期に向けた現在の評価と限界について詳しく分析します。モデルに対する批判的な視点も含め、客観的な評価を試みます。

1. ストック・トゥ・フロー(S2F)とは何か

1-1. S2Fモデルの定義

ストック・トゥ・フロー比率(S2F)は、金・銀などの貴金属市場で使われていた希少性の指標をビットコインに応用したものです。計算式は以下の通りです。

S2F = 現在の総流通量(Stock)÷ 年間新規発行量(Flow)

例えば、第4回半減期(2024年)後のビットコインは年間約16万4千BTC程度が新規発行されます(3.125BTC × 6ブロック/時 × 24時間 × 365日の概算)。この新規発行量が半減するたびに、S2F比率が上昇し、希少性が高まります。

PlanBのモデルでは、S2F比率と時価総額の間に統計的に有意な正の相関(対数回帰)があるとし、S2Fの変化から将来の価格水準を予測できると主張しました。

1-2. 半減期ごとのS2F比率の変化

各半減期前後のS2F比率の推移は以下の通りです(概算値)。

  • 第1回半減期前(2012年): S2F ≒ 11
  • 第1回半減期後(2012年): S2F ≒ 22
  • 第2回半減期後(2016年): S2F ≒ 45
  • 第3回半減期後(2020年): S2F ≒ 56
  • 第4回半減期後(2024年): S2F ≒ 120
  • 第5回半減期後(2028年予定): S2F ≒ 240(推定)

比較として、金のS2F比率はおよそ60前後とされており、2024年時点でビットコインはS2Fの観点で金の約2倍の「希少性」を持つ計算になります。

2. S2Fモデルによる価格予測

2-1. モデルの予測ロジック

PlanBのS2Fモデルは、S2F比率の対数と時価総額の対数の間に線形関係があるという仮定に基づいています。このモデルを使うと、各半減期後のS2F比率から「モデル価格」(理論上の均衡価格)を算出することができます。

モデル発表当初(2019年)は、2020年の半減期後に10万ドルから28万8千ドルという予測が示され、実際に2021年に6万9千ドルという高値を達成したことで「モデルの有効性が確認された」と評価する声が多くありました。

2-2. S2F Cross-Asset(S2FX)モデルへの発展

PlanBはその後、金・銀・ビットコインなど複数の資産クラスを含む「S2FX(Cross-Asset)モデル」を発表しました。このモデルでは、ビットコインが半減期ごとに「フェーズ移行」を経ることを主張し、第3回半減期後のフェーズで28万ドルから100万ドル規模の時価総額を予測しました。

ただし、このS2FXモデルの2021〜2022年予測は実際の価格と大きく乖離し、モデルの信頼性に疑問を呈する声が高まりました。

3. S2Fモデルへの批判と限界

3-1. 統計的手法への批判

S2Fモデルに対する最も根本的な批判は、「見せかけの回帰(Spurious Regression)」である可能性です。非定常な時系列データ(長期的に一定の方向に動くデータ)同士を単純に回帰分析すると、実際には因果関係がなくても高い相関係数が得られてしまうことがあります。

経済学者のAlex Krugerらは、S2Fの回帰分析が統計的に適切でなく、モデルの予測力が見かけ上のものである可能性を指摘しています。ビットコインの希少性が価格上昇を「引き起こす」という因果関係が証明されているわけではなく、単なる相関関係を基にした予測に過ぎないという見解です。

3-2. 需要側の変数が考慮されていない

S2Fモデルは供給サイドの変化(発行量の減少)だけに着目しており、需要サイドの変化(機関投資家参入・ETF・規制環境・マクロ経済)を一切考慮していません。価格は需要と供給の両方で決まるため、供給側だけを根拠とした価格予測には構造的な限界があります。

実際に、2022年の下落相場ではS2Fモデルが示すモデル価格を大幅に下回る局面が続き、「モデルはすでに機能していない」という批判が強まりました。

4. 2028年半減期におけるS2Fの位置づけ

4-1. 参考指標としての活用

現在、S2Fモデルを「唯一の価格予測ツール」として信頼する市場参加者は少なくなっています。しかし、ビットコインの希少性を定量的に示す概念ツールとして、また供給側の変化が持つ長期的な意味合いを理解するための参考情報として、S2Fの考え方自体は依然として有用です。

2028年の半減期ではS2F比率が約240に達する見込みであり、新規発行量がさらに減少します。この供給側の変化が価格にどの程度影響するかは、需要側の変化(機関投資家・規制・グローバル経済)との相互作用で決まるため、S2F単独での予測には限界があります。

4-2. オンチェーン指標との組み合わせ

S2Fモデルの限界を補完する方法として、前述のMVRV・NUPL・SOPRなどのオンチェーン指標と組み合わせた分析が有効です。供給の希少性(S2F)と市場参加者の損益状態(MVRV・NUPL)・資金フロー(SOPR)を総合的に観察することで、単一のモデルよりも多角的な市場評価が可能になります。

5. S2Fを超えた長期価値評価モデル

5-1. 実現時価総額(Realized Cap)ベースの評価

実現時価総額(Realized Cap)は、各ビットコインを最後に動いた時の価格で評価した時価総額であり、市場参加者が実際に払ったコストの合計に近い値です。通常の時価総額(市場価格×流通量)と比べて投機的な過熱感の影響を受けにくく、「市場の真の価値基盤」を示すと言われています。

実現時価総額は半減期サイクルを経るごとに増加傾向にあり、市場の参加者層が拡大していることを示しています。この実現時価総額の推移を観察することで、市場全体のコスト基盤の変化を把握できます。

5-2. Thermocap Ratioと他の代替指標

Thermocap(サーモキャップ)はマイナーが累積で受け取った報酬の合計を示す指標です。Thermocap Ratioは現在の時価総額をThermocapで割ったものであり、この比率が高いほど市場が過熱していることを示すとされています。

また、ビットコインの生産コスト(採掘コスト)と市場価格の比較もS2Fに代わる価値評価手法の一つとして議論されています。採掘コストを下回る価格は長期的には維持困難であり、下値抵抗線として機能しやすいと考える分析家もいます。

6. S2Fモデルから学べること

6-1. ビットコインの希少性という本質

S2Fモデルの予測精度への批判が高まる中でも、このモデルが提示した核心的な考え方は依然として重要です。それは「ビットコインには発行上限(2100万BTC)があり、半減期によって新規発行量が定期的に減少する設計になっている」という事実です。

この希少性という特性は、法定通貨の無制限な発行による価値希薄化に対するヘッジとしてビットコインを評価する投資家・機関にとって、基本的な価値根拠となっています。

6-2. モデルへの過信が招くリスク

S2Fモデルが「予言」として広く信じられた時期には、多くの個人投資家がモデル価格を根拠に過度なレバレッジや集中投資を行い、2022年の下落で大きな損失を被りました。どんなに精巧なモデルも、不確実な将来を確実に予測する能力は持っていません。モデルはあくまで「一つの仮説の枠組み」として活用するにとどめ、ポジションサイズ管理とリスク管理を怠らないことが最も重要です。

まとめ

ストック・トゥ・フローモデルはビットコインの希少性を定量化する有力な概念フレームワークですが、統計的手法の問題・需要側変数の欠如・2022年の予測乖離などから、予測ツールとして過度に依存することは危険です。

2028年の半減期では、S2F比率がさらに上昇することは確実ですが、それが直接どの程度の価格上昇につながるかは、需要側の変化と外部環境によって大きく異なります。S2Fをオンチェーン分析の一つの視点として活用しながら、多角的な情報を組み合わせた投資判断を心がけてください。

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