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EIP-7691解説:ブロブ増量でLayer2コストはどう変わるか?Danksharding前夜の技術動向

イーサリアムのスケーリング戦略の中心にある「ロールアップ中心のロードマップ」において、Layer2(L2)がメインネットにデータをアンカーするコストは非常に重要な指標です。このコストが下がるほどL2上のトランザクション手数料が安くなり、ユーザーがより多くの用途でイーサリアムエコシステムを利用できるようになります。

2024年のCancun/Denebアップグレード(EIP-4844)でブロブ取引が導入され、L2のデータコストは劇的に削減されました。そしてPectraアップグレードのEIP-7691は、このブロブの容量をさらに増やすことで次の段階へと踏み込みます。

本記事ではEIP-7691の変更内容と技術的背景を解説し、OptimismやArbitrumなど主要L2への影響、さらにPeerDASおよびDankshardingとの関係についても詳しく整理します。

1. EIP-4844(ブロブ取引)の振り返り

1-1. ブロブとは何か

「ブロブ(Blob)」はBinary Large OBjectの略で、EIP-4844が導入した新しいデータ格納形式です。通常のイーサリアムトランザクションはcalldataにデータを格納しますが、このデータはEVMで処理される際にガスコストが高くなります。ブロブは「短期間だけ保存すればよいデータ」専用の安価な格納スペースとして設計されました。

ブロブに格納されたデータはEVMからは直接読めませんが、コンテンツハッシュ(KZGコミットメント)を通じて「このデータが確かに存在した」という証明をオンチェーンで得ることができます。L2はロールアップのバッチデータをこのブロブに格納することで、低コストなデータ可用性を実現しています。

1-2. EIP-4844導入後のL2コスト変化

EIP-4844導入後、主要なOptimistic RollupおよびZK RollupのL2手数料は大幅に削減されました。Optimismでは手数料が導入前比で90%以上削減されたという報告もあります。一方でL2の利用者数と取引量が増加するにつれ、ブロブ容量が逼迫する場面も観察されるようになりました。

2. EIP-7691の変更内容

2-1. ブロブ数の上限変更

EIP-4844では1ブロックあたりのブロブ数として「ターゲット3・最大6」が設定されていました。EIP-7691はこれを「ターゲット6・最大9」に引き上げます。つまりブロック1つに含められるブロブデータの量が約1.5〜2倍になります。

ブロブ1つのサイズは128 KBです。最大9ブロブで1152 KB(約1.1 MB)がブロックあたりのブロブ容量の上限となります。これはL2各社が1ブロックに投入できるデータ量の拡大を意味します。

2-2. ブロブのベースフィー計算への影響

ブロブのガス価格はEIP-1559と同様のベースフィー+EIP形式で決まります。ターゲット値が3から6に引き上げられたことで、需要がターゲット以下であればベースフィーが下がるメカニズムが働きます。需要が変わらないと仮定すれば、単純計算でブロブのコストは低下する方向です。

ただし容量拡大がL2の利用増加を誘導し、需要も同時に増えればコスト削減効果は一部相殺される可能性もあります。長期的にはDankshardingの完成により供給を大幅に増やすことが根本的な解決策とされています。

3. EIP-7840:ブロブスケジュール管理の改善

3-1. 設定ファイルへの移行

EIP-7691とセットで重要なのがEIP-7840です。Pectra以前はブロブのターゲット数・最大数がプロトコル仕様にハードコードされていました。EIP-7840はこれをクライアントの設定ファイルで管理できる形式に変更します。

これによりブロブのパラメータ変更が将来的に容易になります。今後のアップグレードでブロブ容量をさらに増やす際にも、コアプロトコルの大規模変更なしに調整できる柔軟性が生まれます。

3-2. 段階的なスケーリングへの対応

EIP-7840はブロブ容量の段階的な増量を計画的に進めるためのインフラ整備ともいえます。クライアントチームが設定値を共同で更新することで、Pectraの次のFusakaや将来のアップグレードでも円滑にブロブ拡張を実施できます。

4. 主要Layer2への影響

4-1. Optimism・Baseへの影響

Optimism(およびBase、WorldchainなどのOP Stackチェーン)はEIP-4844のブロブを積極的に活用しています。EIP-7691によるブロブ容量増加により、OP Stackチェーンはより多くのトランザクションバッチを効率的にL1にポストできます。特にBaseはCoinbaseが運営する高トラフィックのL2であり、ブロブ容量の拡大は直接的な手数料低下効果が期待されます。

4-2. Arbitrum・Starknet・zkSyncへの影響

ZK Rollup系のStarknetやzkSync Eraも同様にブロブを利用しています。ZK RollupはOptimistic Rollupより生成するL1データが少ない傾向にありますが、利用者増加に伴いブロブ需要は高まっています。EIP-7691の容量拡大はZK系L2のコスト効率改善にも貢献します。

4-3. L2競争環境への影響

L2の手数料はユーザー獲得競争の重要な要素です。EIP-7691によるコスト低下は、Ethereum L2全体のユーザー体験を底上げし、L2間競争を促進します。低手数料を訴求する新興L2にとってもこの変更は追い風となり、エコシステム全体の多様化が進む可能性があります。

5. PeerDAS(EIP-7594)とその先のDanksharding

5-1. PeerDASとは何か

EIP-7594(PeerDAS: Peer Data Availability Sampling)はPectraの次のフォーク「Fusaka」で導入が予定されているデータ可用性強化技術です。現在のブロブデータはすべてのノードが完全なコピーを保持しています。PeerDASではノードがブロブ全体ではなくランダムなサンプルだけを保持することで、ネットワーク全体としてより多くのブロブデータを分散して保持できるようになります。

これにより各ノードの帯域とストレージ要件を大幅に増やさずにブロブ容量を拡大できます。Pectraのブロブ増量(最大9ブロブ)はPeerDASの準備段階でもあり、PeerDAS導入後にはさらに数十ブロブ規模への拡大が視野に入ります。

5-2. 完全Dankshardingとイーサリアムの最終形

Danksharding(ダンクシャーディング)はイーサリアムの長期スケーリングビジョンの中核です。完全実装時にはブロックあたり最大で数百MB以上のブロブデータを扱えるようになるとされており、L2がメインネットに依存するデータコストが実質的に無視できる水準まで低下することが目標です。

EIP-7691はこの壮大なロードマップの中間ステップに位置し、PeerDAS→Full Dankshardingへの移行を支える地盤を固める役割を担っています。

6. ブロブ市場の動向と投資家視点

6-1. ブロブのガス費用推移

EIP-4844導入直後はブロブの需要が少なく、コストはほぼゼロに近い水準でした。しかし2024年後半からL2の利用が急増するにつれ、ブロブのベースフィーが一時的に急騰する場面も見られるようになりました。EIP-7691によるターゲット増加でこの圧力は緩和されますが、L2の成長スピードによっては再び上昇するリスクも否定できません。

6-2. ETHのユーティリティとバーン量への影響

ブロブのガス代はEIP-1559のバーンメカニズムにより一部がETHとしてバーンされます。ブロブ利用量が増えるほどETHのバーン量も増加し、供給の希薄化が抑制されます。ただしEIP-7691でブロブのベースフィーが低下する方向に作用するため、短期的にはブロブ由来のバーン量が減少する可能性もあります。長期的にはL2エコシステムの成長によるブロブ需要増がバーン量を押し上げると考えられます。

まとめ

EIP-7691はブロブの最大数を6→9に引き上げ、Layer2のデータコストをさらに削減します。EIP-7840と組み合わせることで将来的な容量調整も柔軟に行えます。PeerDAS・Dankshardingへと続くスケーリングロードマップの重要なステップであり、OptimismやArbitrumなどのL2エコシステム全体に恩恵をもたらします。

L2の手数料と使い勝手の改善はイーサリアムエコシステムの普及を後押しする要因の一つです。今後の動向を注視していきましょう。

よくある質問

Q. EIP-7691はL2を使うユーザーに直接何かメリットがありますか?

A. 直接の操作は不要ですが、L2の手数料低下という形で恩恵を受けられる可能性があります。実際の効果はL2各社の実装と需要動向によります。

Q. ブロブとcalldataはどう違いますか?

A. calldataはEVMで処理・永続保存されるデータですが、ブロブはEVMで直接読めず短期間だけ保存される安価な形式です。L2がL1にバッチデータを送る目的に適しています。

Q. Dankshardingはいつ実装されますか?

A. 具体的な時期は未定ですが、PeerDAS(Fusaka想定)→完全Dankshardingという段階的なロードマップが示されています。数年単位の長期計画です。

※本記事は情報提供を目的としており、投資を推奨するものではありません。暗号資産への投資は元本割れのリスクがあります。投資判断はご自身の責任で行ってください。

Bitcoin Analyze 編集部

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