イーサリアムが2022年9月にプルーフ・オブ・ステーク(PoS)へ移行して以来、ステーキングはブロックチェーンエコシステムにおいて最も重要な仕組みの一つとなりました。ETHをステークすることでネットワークのセキュリティに貢献し、その見返りとしてステーキング報酬を受け取る。シンプルな仕組みではありますが、従来のステーキングには大きな課題がありました。ステークしたETHがロックされ、自由に動かせなくなるという「流動性の喪失」です。
この課題を解決するために生まれたのが「リキッドステーキング」です。そして2024年以降、リキッドステーキングをさらに発展させた「リステーキング」という新しい概念が注目を集めています。EigenLayerを筆頭とするリステーキングプロトコルは、ステーキングされた資産の価値を複数のサービスで再利用するという画期的な仕組みを提案し、DeFiの新たなフロンティアを切り開いています。
本記事では、リキッドステーキングの基礎からリステーキングの仕組み、EigenLayerの詳細、リキッドリステーキングトークン(LRT)の台頭、そしてこの領域に潜むリスクまで、体系的に解説していきます。ステーキング関連の最新トレンドを理解したい方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
1. ステーキングの基礎知識
1-1. プルーフ・オブ・ステーク(PoS)の仕組み
プルーフ・オブ・ステーク(PoS)は、ブロックチェーンネットワークのコンセンサスメカニズム(合意形成の仕組み)の一つです。ビットコインが採用するプルーフ・オブ・ワーク(PoW)では、膨大な計算能力を投じてマイニングを行うことでブロックを生成しますが、PoSでは暗号資産をステーク(預け入れ)することでバリデーター(検証者)としてブロック生成に参加します。
イーサリアムの場合、バリデーターになるためには最低32ETHをデポジットコントラクトにステークする必要があります。バリデーターはブロックの提案や検証を行い、その見返りとしてステーキング報酬(新規発行ETHとトランザクション手数料の一部)を受け取ります。
PoSの利点として、PoWと比較してエネルギー消費が格段に少ないこと、ハードウェア投資の必要性が低いこと、そしてステーキングを通じてより多くの参加者がネットワークのセキュリティに貢献できることなどが挙げられます。イーサリアムのPoS移行(The Merge)は、ネットワークのエネルギー消費を約99.95%削減したとされています。
1-2. ネイティブステーキングの課題
イーサリアムのネイティブステーキング(直接的なステーキング)には、いくつかの課題があります。
最低ステーク量のハードル: バリデーターになるためには32ETH(2026年3月時点で約1,000万円前後)が必要です。この金額は一般的な個人投資家にとっては高いハードルと言えるでしょう。
流動性のロック: ステークしたETHは、ステーキング期間中はロックされ、自由に引き出したり他の用途に使用したりすることができません。2023年4月のShapellaアップグレード以降、ステーキングの引き出しが可能になりましたが、引き出しにはキュー(待ち行列)があり、即時の流動性確保は保証されません。
技術的なハードル: バリデーターを運用するためには、24時間365日稼働するサーバーの管理、ソフトウェアのアップデート、セキュリティ対策など、相当の技術的知識が求められます。バリデーターが不適切な行動(二重署名、長時間のオフラインなど)を行った場合、ステークしたETHの一部が没収されるスラッシング(Slashing)のリスクもあります。
1-3. ステーキングの現状データ
2026年3月時点で、イーサリアムのステーキング比率(全ETH供給量に対するステーク量の割合)は約28〜30%程度とされています。これはSolana(約65〜70%)やCardano(約60〜65%)と比較すると低い水準ですが、ETHの時価総額を考えると、ステークされている資産の絶対額は非常に大きいものです。
ステーキングされたETHのうち、リキッドステーキングプロトコルを通じてステークされている割合は約30〜35%とされ、特にLido Finance(後述)のシェアが突出して高い状況です。この「ステーキングの寡占」は、ネットワークの分散化の観点から議論の的となっています。
2. リキッドステーキングとは
2-1. リキッドステーキングの基本概念
リキッドステーキング(Liquid Staking)とは、暗号資産をステークしながら、その預けた資産の「代替トークン」(リキッドステーキングトークン、LST)を受け取ることで、ステーキング報酬を得つつ流動性も維持できる仕組みです。
具体的な流れは以下の通りです。
この仕組みにより、ユーザーは「ステーキング報酬を受け取りつつ、資産の流動性も確保する」という、従来のステーキングでは両立できなかった2つのメリットを同時に享受できるのです。
2-2. リキッドステーキングトークン(LST)の仕組み
リキッドステーキングトークン(LST)には、大きく分けて2つのモデルがあります。
リベースモデル: LidoのstETHが代表例です。ステーキング報酬が蓄積されるにつれて、ユーザーのウォレット内のstETHの残高が自動的に増加します。つまり、100stETHを保有している場合、ステーキング報酬によって翌日には100.01stETHに増えるといった仕組みです。1stETH ≒ 1ETHのペッグ(連動)を維持しやすいのが特徴です。
バリューアクルーアルモデル: Rocket PoolのrETHが代表例です。rETHの供給量は変わらず、代わりにrETHとETHの交換レートがステーキング報酬に応じて上昇していきます。たとえば、1rETH = 1.05ETHから始まり、時間の経過とともに1rETH = 1.06ETH、1.07ETH…と価値が増加していきます。
どちらのモデルも、最終的にユーザーが受け取るステーキング報酬の総額に大きな差はありません。ただし、税務処理の観点では、リベースモデルはトークン残高が変動するたびに課税イベントが発生する可能性があるなど、取り扱いが異なる場合があるため注意が必要です。
2-3. LSTのDeFi活用
リキッドステーキングトークンの最大のメリットは、DeFiエコシステムの中で自由に活用できる点です。主な活用方法としては以下が挙げられます。
レンディングプロトコルでの担保利用: AaveやCompoundなどのレンディングプロトコルに、stETHやrETHを担保として預け入れ、他の暗号資産を借り入れることができます。これにより、ステーキング報酬を受け取りながら、追加の資金を調達してさらなる投資に回すことが可能になります。
DEXでの流動性提供: UniswapやCurveなどのDEXにstETH/ETHのペアで流動性を提供し、取引手数料を獲得することもできます。特にCurveのstETH/ETHプールは、大量の流動性が集まるプールの一つとして知られています。
ループ戦略: stETHを担保にETHを借り入れ、そのETHをさらにLidoに預けてstETHを取得し、再度担保にする…という「ループ」を繰り返すことで、レバレッジ効果を得る戦略も存在します。ただし、この戦略はstETH/ETHのペッグが崩れた場合に清算リスクが急上昇するため、上級者向けの手法と言えるでしょう。
3. 主要なリキッドステーキングプロトコル
3-1. Lido Finance
Lido Finance(リド・ファイナンス)は、リキッドステーキング市場で圧倒的なシェアを持つプロトコルです。2020年12月にローンチされ、イーサリアムのPoS移行に先駆けてリキッドステーキングのコンセプトを実現しました。
2026年3月時点で、Lidoはイーサリアムのステーキング総量の約28〜30%を占めるとされ、DeFi全体でもTVL(Total Value Locked)トップクラスのプロトコルです。Lidoが発行するstETHは、DeFiエコシステムにおいて最も流動性の高いLSTであり、事実上のLST標準トークンとしての地位を確立しています。
Lidoの特徴として、プロフェッショナルなノードオペレーターによるバリデーション、stETHの高い流動性、そしてLidoDAOによるガバナンスが挙げられます。手数料はステーキング報酬の10%で、そのうち5%がノードオペレーター、5%がLidoDAOのトレジャリーに配分されます。
ただし、Lidoの市場支配力がイーサリアムの分散化を脅かしているという批判もあります。特定のプロトコルがステーキング量の30%以上を占めることは、ネットワークの検閲耐性や分散化の観点から望ましくないとの議論があり、Lido自身もこの課題に対処するための取り組みを進めています。
3-2. Rocket Pool
Rocket Pool(ロケット・プール)は、Lidoとは異なるアプローチで分散化を重視したリキッドステーキングプロトコルです。Rocket Poolでは、誰でもバリデーター(「ミニプール」と呼ばれる)を運営することができ、バリデーターの参入障壁を下げています。
Rocket Poolのミニプールを運営するには、8ETH(通常の32ETHの4分の1)と一定量のRPLトークン(Rocket Poolのガバナンストークン)をデポジットする必要があります。残りの24ETHは、リキッドステーキング参加者から供給されます。この仕組みにより、バリデーターの数を増やし、ネットワークの分散化に貢献しているのです。
Rocket Poolが発行するrETHは、前述のバリューアクルーアルモデルを採用しており、rETHとETHの交換レートが時間の経過とともに上昇します。ステーキング報酬は日々のリベースではなく、rETHの価値増加として反映されるため、税務処理がシンプルになるとの見方もあります。
3-3. その他のLSTプロトコル
Lido、Rocket Pool以外にも、リキッドステーキング市場には複数のプロトコルが存在します。
Coinbase cbETH: 米国最大の暗号資産取引所Coinbaseが提供するリキッドステーキングトークンです。Coinbaseのプラットフォーム上で簡単にETHをステークしてcbETHを取得できるため、DeFiに不慣れなユーザーにとって手軽な選択肢となっています。
Frax Ether(sfrxETH): Frax Financeが提供するリキッドステーキングサービスです。sfrxETH(バリューアクルーアルモデル)とfrxETH(リベースモデル)の二層構造を採用しており、ユーザーの好みに応じて選択できます。
Mantle Staked ETH(mETH): Mantleネットワークが提供するLSTで、Mantleエコシステム内でのDeFi活用に特化しています。
Swell swETH: 分散化を重視したリキッドステーキングプロトコルで、後述するリステーキングとの統合も進めています。
これらのプロトコルは、手数料、分散化の程度、DeFi統合の充実度、ガバナンスの仕組みなどで差別化を図っています。ユーザーとしては、セキュリティ実績や監査状況を確認した上で、自分のニーズに合ったプロトコルを選択することが重要でしょう。
4. リステーキングとは何か
4-1. リステーキングの基本概念
リステーキング(Restaking)とは、すでにステークされた資産(ETHまたはLST)を、イーサリアム以外のプロトコルやサービスのセキュリティ確保にも再利用する仕組みです。この概念を最初に提案し実装したのが、EigenLayer(アイゲンレイヤー)です。
イーサリアムのステーキングでは、約3,000万ETH以上の莫大な経済的セキュリティがネットワークを守っています。リステーキングの発想は、「この膨大なセキュリティ基盤を、イーサリアム以外のサービスにも共有できないか」というものです。
たとえば、新しいオラクルネットワーク、データ可用性レイヤー、ブリッジプロトコルなどを構築する場合、独自のステーキングメカニズムをゼロから立ち上げるには、膨大な資本と時間が必要です。リステーキングを利用すれば、イーサリアムのバリデーターのセキュリティを「借りる」ことができ、新しいサービスを迅速かつ安全に立ち上げることが可能になるのです。
4-2. 「セキュリティの共有」という革新
リステーキングの革新性を、もう少し具体的に考えてみましょう。
従来、新しいブロックチェーンやプロトコルを立ち上げる際には、独自のバリデーターセットを構築する必要がありました。これには、独自トークンの発行、バリデーターの募集、十分な量のトークンのステーキング確保など、いわゆる「コールドスタート問題」が存在します。新しいプロトコルのトークンは時価総額が小さいため、攻撃コストも低く、セキュリティが脆弱になりがちでした。
リステーキングは、この問題を根本的に解決する可能性を持っています。イーサリアムのバリデーターが自分のステーク(32ETH以上)を、EigenLayer上の追加サービスにもリステークすることで、新しいプロトコルはイーサリアムの経済的セキュリティを「継承」できるのです。
これは、セキュリティの「プーリング(共有)」とも表現できます。各プロトコルが個別にセキュリティを構築するのではなく、イーサリアムの巨大なセキュリティプールを共有することで、全体としてより効率的かつ安全なエコシステムを構築できるという考え方です。
4-3. Actively Validated Services(AVS)
EigenLayerの文脈で頻繁に登場する用語が「AVS」(Actively Validated Services)です。AVSとは、イーサリアムのリステーキングによって提供されるセキュリティを利用するサービスやプロトコルのことを指します。
AVSの具体例としては以下のようなものがあります。
- データ可用性レイヤー: EigenDA(EigenLayerが開発するデータ可用性サービス)
- オラクルネットワーク: 価格データなどを提供する分散型オラクル
- シーケンサー: ロールアップ(L2)のトランザクション順序を決定するサービス
- ブリッジ: クロスチェーンブリッジのバリデーション
- コプロセッサー: オフチェーン計算の検証
AVSは、EigenLayerにリステークされたETHやLSTを経済的担保として利用し、バリデーターに対して報酬を支払います。バリデーターがAVSに対して不正な行動を取った場合、リステークされた資産の一部がスラッシングされるリスクがあります。
5. EigenLayerの仕組みと特徴
5-1. EigenLayerのアーキテクチャ
EigenLayer(アイゲンレイヤー)は、2023年にメインネットのα版がローンチされ、2024年にかけて本格的なサービス開始が進められたリステーキングプロトコルです。イーサリアム上に構築されたスマートコントラクトのセットとして機能し、バリデーターとAVSの間を仲介する役割を果たしています。
EigenLayerのアーキテクチャは、主に以下のコンポーネントで構成されています。
Strategy Manager: ユーザーがETHやLSTをリステークするためのコントラクト。デポジットや引き出しの管理を行います。
Delegation Manager: リステーカー(ETHを預けるユーザー)とオペレーター(実際にバリデーションを行うノード運営者)の間のデリゲーション(委任)を管理します。
Slasher: AVSに対する不正行動が検出された場合に、リステークされた資産のスラッシングを実行するコントラクトです。
AVS Directory: 登録されたAVSの一覧と、各AVSに割り当てられたオペレーターやステーク量を管理します。
5-2. EigenLayerの成長と資金規模
EigenLayerのTVL(Total Value Locked)は、2024年のメインネットローンチ以降急速に成長しました。ポイントプログラム(リステーキングに対してポイントを付与し、将来のトークンエアドロップを示唆する仕組み)が大きな推進力となり、数十億ドル規模のTVLを記録するまでに成長しています。
2024年後半にはEIGENトークンが正式にローンチされ、ガバナンスやステーキング報酬の分配に使用されるようになりました。EIGENトークンのローンチは、EigenLayerのエコシステムにおける重要なマイルストーンとなりました。
EigenLayerのエコシステムには、2026年3月時点で多数のAVSが稼働または開発中とされています。EigenDA(データ可用性レイヤー)は最も注目されるAVSの一つで、L2ロールアップのデータ可用性コストを大幅に削減することを目指しています。
5-3. オペレーターとデリゲーション
EigenLayerでは、すべてのリステーカーが自分でバリデーションを行う必要はありません。リステーカーは、自分のステークを信頼できる「オペレーター」にデリゲート(委任)することで、技術的な負担なくリステーキングに参加できます。
オペレーターは、EigenLayer上の一つまたは複数のAVSのバリデーションを実行する事業者です。大手のステーキングサービスプロバイダーやインフラ企業がオペレーターとして活動しており、リステーカーから委任されたステークを用いてAVSのセキュリティに貢献しています。
リステーカーがオペレーターを選択する際は、オペレーターの実績、参加しているAVSの種類、スラッシングの履歴、報酬の分配方針などを確認することが重要です。信頼性の低いオペレーターにデリゲートした場合、スラッシングにより預けた資産の一部を失うリスクがあるためです。
6. リキッドリステーキングトークン(LRT)の台頭
6-1. LRTの基本概念
リキッドリステーキングトークン(Liquid Restaking Token、LRT)は、EigenLayer等のリステーキングプロトコルに預けた資産の「流動性バージョン」です。リキッドステーキングトークン(LST)がステーキングされた資産の流動性を確保するのと同様に、LRTはリステーキングされた資産の流動性を確保します。
つまり、LRTを利用すれば、以下のような「多層的な報酬獲得」が可能になるのです。
この多層構造により、同じETHから複数のリターンソースを得ることが理論的に可能になります。ただし、各層にはそれぞれのリスクが伴うことを忘れてはなりません。
6-2. 主要なLRTプロトコル
2024年以降、多数のLRTプロトコルが登場し、リステーキング市場の成長をけん引しています。
ether.fi(eETH): ether.fiは、最大規模のLRTプロトコルの一つです。ユーザーはETHを預けてeETHを受け取り、EigenLayerのリステーキング報酬とDeFiでの運用益を同時に得ることができます。ether.fiの特徴として、「ノンカストディアル(非管理型)」を重視している点が挙げられ、ユーザーの秘密鍵がプロトコルに渡ることはない設計になっています。
Kelp(rsETH): Kelp DAOが運営するLRTプロトコルで、複数のLSTを受け入れてリステーキングし、rsETHを発行します。stETH、ETHx、sfrxETHなど、多様なLSTに対応していることが特徴です。
Puffer Finance(pufETH): Puffer Financeは、バリデーターの分散化を重視したリキッドリステーキングプロトコルです。「Anti-Slashing Technology」と呼ばれる独自のスラッシング防止メカニズムを実装しており、バリデーターのリスクを軽減しています。
Renzo(ezETH): RenzoはEigenLayerとのインテグレーションに特化したLRTプロトコルで、ユーザーのリステーキングポートフォリオを自動的に最適化する機能を提供しています。
6-3. LRTとDeFiの相互作用
LRTトークンは、DeFiエコシステム内で活発に利用されるようになっています。Aave、Pendle、Curveなど主要なDeFiプロトコルがLRTトークンを統合しており、新たな利回り戦略の構築が可能になっています。
特にPendleは、LRTの利回りを「元本」と「利回り」に分離して取引できるプラットフォームとして、LRTエコシステムと深い関係を構築しています。ユーザーはLRTの将来の利回りを売買することで、固定利回りの確保やレバレッジドな利回り戦略の実行が可能です。
また、LRTを担保としたステーブルコインの発行や、LRTを活用したストラクチャード・プロダクト(仕組商品)の開発など、金融商品の多様化も進んでいます。これらの発展は、DeFiの資本効率を高める一方で、レバレッジの積み重ねによるシステミックリスクの懸念も生んでいます。
7. リステーキングのリスクと課題
7-1. スラッシングリスクの増大
リステーキングの最も重要なリスクは、スラッシングリスクの増大です。通常のイーサリアムステーキングでは、スラッシングが発生する条件は限定的(二重署名や不正なブロック提案など)ですが、リステーキングでは複数のAVSに対してスラッシング条件が追加されることになります。
たとえば、あるバリデーターが3つのAVSに同時にリステークしている場合、各AVSのスラッシング条件をすべて遵守する必要があります。1つのAVSのバグや、予期しないスラッシング条件の発動により、他のAVSとは無関係にステークが没収される可能性もあるのです。
このリスクは「カスケード・スラッシング」と呼ばれることがあり、1つのAVSでの問題が連鎖的にリステーキングエコシステム全体に波及する可能性を示唆しています。EigenLayer自身もこのリスクを認識しており、スラッシングメカニズムの慎重な設計と段階的な導入を進めています。
7-2. レバレッジとシステミックリスク
リキッドステーキングとリステーキングの組み合わせは、実質的にレバレッジ(てこ)を効かせることと同じ構造を持っています。
ETHをステーキングしてstETHを取得 → stETHをリステーキングしてLRTを取得 → LRTを担保にETHを借入 → 借りたETHをさらにステーキング…という連鎖が理論的に可能であり、これは2022年のTerra/LUNAの崩壊や、伝統的金融における過度なレバレッジの問題を想起させます。
Ethereum財団の研究者であるヴィタリック・ブテリンも、リステーキングのリスクについて警鐘を鳴らしています。特に、リステーキングがイーサリアムのコンセンサスメカニズム自体に負の影響を与える可能性(いわゆる「オーバーローディング」問題)について、コミュニティ内で議論が続いています。
7-3. スマートコントラクトリスクと中央集権化
リステーキングエコシステムは、複数のスマートコントラクト層で構成されています。EigenLayerのコントラクト、LRTプロトコルのコントラクト、さらにその上でDeFiプロトコルのコントラクトが稼働しており、各層のスマートコントラクトにバグや脆弱性が存在するリスクがあります。
特にLRTプロトコルは比較的新しいプロジェクトが多く、十分な監査やバトルテスト(実戦での検証)を経ていないものも含まれています。新しいプロトコルに大量のETHを預ける際は、監査レポートの確認、チームの信頼性、コードのオープンソース化状況などを慎重にチェックすることが重要です。
また、リステーキング市場においても、一部のプロトコルやオペレーターへの集中が懸念されています。少数の大手オペレーターがリステーキングの大半を占めている場合、それらのオペレーターのトラブルがエコシステム全体に波及するリスクがあるでしょう。
8. ビットコインのステーキング動向
8-1. Babylonプロトコル
リステーキングの概念はイーサリアムだけでなく、ビットコインにも広がりつつあります。Babylon(バビロン)は、ビットコインのセキュリティを他のPoSチェーンに提供するプロトコルとして注目を集めています。
Babylonの特徴は、ビットコインをブリッジやラップ(wBTCなど)することなく、ビットコインのネイティブチェーン上でステーキングを行える点です。ビットコインのスクリプト(Script)を活用してタイムロックをかけ、PoSチェーンのセキュリティに貢献する仕組みを実現しています。
ビットコインはPoWチェーンであるため、イーサリアムのような従来のステーキングメカニズムは存在しません。Babylonが提案するのは、ビットコインの莫大な時価総額を経済的セキュリティとして活用し、新興のPoSチェーンに「貸し出す」という革新的なアプローチなのです。
8-2. BTC-LSTの可能性
ビットコインのリキッドステーキングトークン(BTC-LST)についても、複数のプロジェクトが開発を進めています。Lombard(LBTC)、Solv Protocol(SolvBTC)、Bedrock(uniBTC)などが、Babylonを利用したビットコインのリキッドステーキングサービスを提供・開発しています。
BTC-LSTの登場は、ビットコインのDeFi活用(通称「BTCFi」)を大きく促進する可能性があります。従来、ビットコインをDeFiで利用するにはwBTC(ラップドBTC)に変換する必要がありましたが、BTC-LSTを通じてより直接的にDeFiプロトコルと連携できるようになるかもしれません。
ただし、BTC-LSTはまだ初期段階のプロジェクトが多く、セキュリティリスクや技術的な不確実性が存在します。ビットコインのシンプルさ(限定的なスクリプト機能)が、複雑なステーキングメカニズムの実装を難しくしている面もあり、慎重な評価が必要でしょう。
8-3. マルチチェーンリステーキングの未来
EigenLayerに代表されるリステーキングの概念は、イーサリアムやビットコインだけでなく、複数のチェーンにまたがるマルチチェーン環境へと拡大する可能性があります。
Cosmos(コスモス)エコシステムでは、ICS(Interchain Security)やMesh Securityといったセキュリティ共有の仕組みがすでに実装されており、リステーキングと概念的に近いアプローチが採用されています。Solanaでも、Jitoなどのリキッドステーキングプロトコルが成長しており、リステーキング機能の統合が検討されています。
将来的には、イーサリアムのETH、ビットコインのBTC、SolanaのSOLなど、複数チェーンの暗号資産をリステーキングして、クロスチェーンのセキュリティプールを構築するというビジョンが実現するかもしれません。しかし、その実現には技術的・経済的な課題が多く残されていることも確かです。
まとめ
リキッドステーキングとリステーキングは、ブロックチェーンにおける資本効率とセキュリティの在り方を根本的に変えようとしている技術です。
リキッドステーキングは、「ステーキングと流動性の両立」という課題を解決し、stETHやrETHといったLSTはDeFiエコシステムの重要な構成要素となりました。そしてリステーキングは、「セキュリティの共有と再利用」という新しい概念を提案し、EigenLayerを中心とするエコシステムが急速に成長しています。
一方で、レバレッジの積み重ねによるシステミックリスク、スラッシングリスクの増大、スマートコントラクトの脆弱性など、看過できないリスクも存在します。特に、多層的な構造を持つリステーキングエコシステムでは、一つの障害が連鎖的に波及する可能性があることを理解しておく必要があるでしょう。
ステーキング、リキッドステーキング、リステーキングと、技術の進化とともに資本効率は向上していますが、リスクもそれに比例して複雑化しています。この領域に参加する際は、仕組みとリスクを十分に理解した上で、自身のリスク許容度に見合った範囲で関与されることをおすすめします。
よくある質問(FAQ)
Q1. リキッドステーキングは安全ですか?
LidoやRocket Poolなどの大手プロトコルは、複数回のセキュリティ監査を受けており、数年間の運用実績もあります。しかし、スマートコントラクトのリスクはゼロではなく、また、LST(stETHなど)のETHに対するペッグが一時的に崩れる可能性もあります。リスクがゼロではないことを理解した上で、預ける金額を検討することが重要です。
Q2. リステーキングとステーキングの報酬はどう違いますか?
通常のステーキング報酬はイーサリアムネットワークから得られる報酬(年利3〜5%程度)です。リステーキングでは、これに加えてAVSからの報酬が上乗せされます。ただし、AVS報酬の金額や支払い方法はAVSごとに異なり、報酬がトークンで支払われる場合はそのトークンの価格変動リスクも考慮する必要があります。
Q3. EigenLayerへのリステーキングで資産を失うことはありますか?
理論的にはあり得ます。リステークしたオペレーターがAVSに対して不正な行動をとった場合、スラッシングによりリステークされた資産の一部が没収される可能性があります。ただし、2026年3月時点ではスラッシングメカニズムは段階的に導入されている途中であり、大規模なスラッシングが発生した事例はまだ報告されていません。
Q4. LRTとLSTの違いは何ですか?
LSTはステーキングされた資産のトークン化、LRTはリステーキングされた資産のトークン化です。LSTはステーキング報酬のみを反映しますが、LRTはステーキング報酬とAVS報酬の両方を反映します。LRTはLSTの上に構築されたさらなる抽象化レイヤーであり、より複雑な構造を持っています。
Q5. ビットコインもリキッドステーキングできますか?
Babylonプロトコルを利用したビットコインのステーキングが開発されており、BTC-LST(LBTCやSolvBTCなど)も登場しています。ただし、ビットコインはPoWチェーンであるため、イーサリアムとは異なるメカニズムでステーキングが実現されています。この分野はまだ初期段階であり、セキュリティや技術的な成熟度を慎重に評価する必要があるでしょう。
Q6. リステーキングの税務処理はどうなりますか?
リステーキングで得られるAVS報酬は、受け取った時点で所得(日本では雑所得)として課税される可能性が高いとされています。ただし、リステーキングやLRTに関する明確な税務ガイダンスはまだ多くの国で整備されていない状況です。確定申告の際は、暗号資産に精通した税理士に相談されることをおすすめします。
※本記事は情報提供を目的としており、特定のプロトコルや暗号資産への投資を推奨するものではありません。リキッドステーキング、リステーキング、LRTにはスマートコントラクトリスク、スラッシングリスク、市場リスクなど多様なリスクが存在します。暗号資産への投資は元本割れのリスクがあります。投資判断はご自身の責任で行ってください。